日本海の隣県2つが猛バトル…「ラーメン好き日本一」をかけて絶対負けられない闘いをする納得の歴史的背景
プレジデントオンライン / 2023年5月10日 11時15分
■日本全国地域によって全く異なる食の嗜好マップ
ギョーザ日本一をめぐる宇都宮、浜松、宮崎の競い合いなど、家計調査の地域データに基づいた話題がメディアやネットを騒がせることが多い。しかし、家計調査データの加工の工夫によっては、食べもの単品の消費が多いか少ないかというよりは、もう少し大局的な日本人の地域的な食の好みの傾向を明らかにできる。
そこで、今回は、最近の家計調査データを使って、肉か魚か、あるいはコメかパンか麺かといった食品間の嗜好の違いを地域別にあきらかにした全国分布マップを見ていただこう。
われわれの食の好みに関する分類として、肉好きか魚好きか野菜好きかという区分があるだろう。最初に、地域ごとに、いずれの好みが優先的かを家計調査の生鮮肉、生鮮魚介、生鮮野菜の支出額データから探ってみよう。
家計調査によると年間支出金額(2020~22年平均)は、全国平均で、生鮮肉が7万8000円、生鮮魚介が4万2000円、生鮮野菜が7万2000円となっている。
従っていずれの金額が多いかで地域を区分すると魚好きの地域は少なくなってしまう。そこでここでの地域区分は、それぞれの品目の支出額の都道府県ランキングを算出し、最も順位の高い品目で各都道府県を区分するという方法を採った。なお、家計調査では県庁所在都市の値しか得られないので、それを都道府県の値と仮定している。
何らかの理由による単年の変動の影響を避けるため2020年~22年に3カ年平均の値を対象とし、以上のように区分した結果で色分けした分布図を図表1に掲げた。参考のため支出額の多いトップ10地域の表も付加しておいた。
描いた統計地図を見ると、基本的に、西日本は「肉好き」、東日本は「野菜好き」、東京、大阪という東西2大都市と半島的あるいは外洋に面するような漁業の盛んな地域は「魚好き」という地域傾向が明らかとなっている。
地域区分は、ほぼ、ひとかたまり、すなわち連坦しているが、隣接地域と異なる飛び地的な分布としては、山形の肉好き、東京、大阪の魚好き、島根、沖縄の野菜好きが目立っている。
山形は生鮮肉と生鮮野菜が同順なのでそれほどの肉好きでないが、豚肉好きが主流の東北の中では例外的に牛肉好きでもある点が影響し、肉好きに区分される結果となっている。
東京、大阪については、東西の首都ならではの高級品嗜好が影響していると想像される。
また、島根が野菜好き地域に区分されるのは、方言などで指摘されることが多い山陰と東北の類似性のためとも考えられる。沖縄は低い所得水準の影響もあって肉や魚の支出額がそう多くないせいであろう。
■肉、魚、野菜…47都道府県で一番消費額が多いのは?
消費支出額上位3位の地域を掲げると以下の通りである。
生鮮魚介:①富山、②東京、③大阪
生鮮野菜:①神奈川、②東京、③新潟
●肉
生鮮肉については、西日本の中でも、京都、奈良という日本を代表する古都とその周辺がトップ地域である点が目立っている。肉好きについて、肉食など食の洋風化をもっともはやく取り入れた神戸や横浜、あるいは東京ではなく、むしろ、全国の中でも最も伝統を引き継いでいるとされる古都がリードしているという事実は、案外であり、きわめて興味深い。京都はパンやコーヒーの消費が多いことでも知られており(消費金額でパンが1位、コーヒーが3位)、わが国最大の伝統都市は、かえって、伝統食にこだわることなくもっとも洋風化が進んだ都市なのである。
●魚
生鮮魚介については、富山などもともと魚介類の豊富な地域に次いで、東京、大阪という東西首都が登場している。これは上記の通り中心都市ならではの高級品嗜好が影響している。家計調査では消費金額だけでなく消費数量を調べているが、数量ベースでは生鮮魚介のトップ3は、①青森、②鳥取、③富山となっており、金額2位の東京はなんと27位、金額3位の大阪は15位とかなり下位に位置していることからもそれがうかがわれる。同じ魚種でも値段が高いものを買っているのに加えて、アジ、サバといったいわゆる大衆魚というより、マグロ、エビなど単価の高い魚介類を多く食しているからと考えられる。
●野菜
生鮮野菜について神奈川、東京が上位2位を占めているのは、この2地域が東日本に位置することに加え、やはり、健康志向を優先するトレンディーな県民が多いせいであろう。生鮮魚介と異なり、数量ベースでも神奈川は金額ベースと同じ1位、東京も5位と上位である点からもそうした点がうかがわれるのである。
なお、東京は生鮮魚介でも生鮮野菜でも全国2位であるが、同順の場合は肉、魚、野菜の順で優先させるというきまりで図表1では魚に区分している。
■好きな炭水化物:コメ? パン? 麺?
以上は、おかずの好みであった。それでは、主たるカロリー源である炭水化物の好みの地域分布はどうであろうか。家計調査を使い、同じような手法で描いた分布図を図表2に掲げた。支出額の多いトップ10地域の表も同じように付加しておいた。
![【図表】米好き、パン好き、麺好きの地域分布](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/4/1200wm/img_3481906d870623933dd322190e1864b3499597.jpg)
われわれが食べる炭水化物の3大食品は「米」と「パン」と「麺」である。家計調査によると穀類の年間支出金額(2019~21年平均)は、米が2万3000円、パンが3万2000円、麺が1万9000円と、合計で穀類全体8万円の93%を占めており、まさしく3大炭水化物というべき存在である(残りは、小麦粉やもちなどの製品である)。
描かれた統計地図を見ると、基本的には、東日本(北海道を除く)では「麺」、東京大都市圏と西日本では「パン」を好んでいるという地域分布が明確である。米どころとして知られる東北や新潟がむしろ麺好き地帯であるのは意外である。
一方、「米」は、北海道、沖縄という日本列島の両極、および北陸の石川より西、そして静岡から和歌山、高知、南九州に続く西南暖地と呼ばれる地域で好まれている。
もっとも、飛び地がある。西日本の中でも讃岐うどんの香川と出雲そばの島根は「麺」に区分される。また、東日本の中でも群馬は「米」に区分される。
消費支出額上位4位の地域を掲げると以下の通りである。
パン:①兵庫、②京都、③岡山、④滋賀
麺:①山形、②香川、③岩手、④新潟
米は4位までの地域がそれぞれ離ればなれであるのに対して、パンは兵庫をはさんだ両隣りの地域、麺は香川を除くと近県どうしでまとまっている。パンと麺の分布には積極的な理由があり、米の分布はむしろ受動的な結果ではないかと感じさせる。
歴史をさかのぼれば、パンはもともと横浜や神戸といった国際港湾都市や東京など海外文化をいち早く受け入れた大都市、および岡山、広島といった西日本で消費が多かった。そして、食生活の洋風化とともにだんだんと全国にパン食が普及、拡大したが、地域分布としては、なお、当初の地域性が保たれていると言ってよかろう。パン好きの地域は上でふれた図表1の肉好きの地域とも重なっており、相互に関連する側面もあろう。
東日本の麺好きも実は以前からその傾向があったが、近年になってより明確になっている。
「米」好き地域については、かつては全国おしなべて米中心だった状況から、パン好き、麺好き地域が多くなる中で、日本列島の遠隔地ではかつての特色をなお残しているととらえられよう。西南暖地ともいうべき地域がなお米好きということからは、熱帯原産の米の栽培上の適地だという要因も作用している可能性もある。
コメどころ地域でコメ好きというよりむしろ麺好きとなっている点については次のように考えることができよう。東北がコメどころとして発展したのは明治以降の品種改良などで寒冷地でもコメ栽培が安定的に行えるようになったからであり、そう歴史が長いわけではない。もともとは麦やソバ、雑穀を重視した食文化だったわけであり、食の好みなどは食生活の長い蓄積によるものだと考えられるので、そうした意味では、東北がコメ好きというより麺好きであるのも不思議でないといえよう。
■東北のラーメン、香川のうどん、東京圏のパスタ
麺といっても、うどん、そば、ラーメン、カップ麺などとさまざまである。東日本の麺好きは何によっているかを確かめるために、内食の麺(家庭で食べる麺)と、外食の麺に分けて、すでに掲げた分布図と同じ手法で地域マップを作成した(図表3)。
![【図表】東日本はラーメン好き、西日本はうどん・そば好き](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/7/1200wm/img_a70100025260e3ea6ef3b54b89ba172a503151.jpg)
全体的な傾向としては、東日本はラーメン(中華麺)好き、西日本はうどん・そば好きという傾向が明らかである。
内食の麺のうちインスタント麺(カップ麺と即席麺の計)はラーメンが多いと考えられるので、インスタント麺好きの地域(緑)と中華麺好きの地域(ピンク)を合わせると、ほぼ、外食の中華そば好き地域(ピンク)と重なる点から、外食の麺の地域分布がほぼすべてを語っていると解することができよう。
つまり、東日本の麺好きは、うどん・そばというよりラーメン好きによっているのである。
若干例外的な地域分布として目立っているのは、外食の麺で、東日本の中でも北関東の群馬、埼玉、茨城で日本そば・うどん好きとなっている点である。これは北関東のうどん文化を表していよう。
家計調査によると、麺類に対する年間支出金額(2020~22年平均)は、内食の麺では、うどん・そばが生と乾を合わせて5867円、パスタが1378円、中華麺が4556円、カップ麺と即席麺を合わせたインスタント麺が7611円となっている。
今やインスタント麺が最も多くなっているのが印象的である。パスタは千円台と少ないが、グラム単価も安価なので量的にはそう少ないわけではない。しかし、順位の高さで区分したパスタ好きの地域の数は、食のウエートからするとやや多めになっている点については注意が必要である。
●自宅で食べる麺
内食の麺の消費支出額上位4位の地域を掲げると以下の通りである。
パスタ:①東京、②神奈川、③埼玉、④栃木
中華麺:①岩手、②山形、③青森、④秋田
インスタント麺:①新潟、②福島、③青森、④山形
パスタだけは東京、神奈川、埼玉という首都圏で多く食べられているが、その他の麺は、東北諸県が上位を独占している点が特徴である。ただし、うどん・そばだけは西日本の香川が1位と東北以外の地域として突出した地位をもっている。香川のうどん・そば好きはソウルフードであるうどん好きの影響が大きいことがうかがえる。
●外食で食べる麺
外食の麺の年間支出金額(2020~22年平均)では、日本そば・うどんが5260円、中華そばが5891円と後者の方がやや多くなっているがほぼ同等である。
外食の麺の消費支出額上位4位の地域を掲げると以下の通りである。
中華そば:①山形、②新潟、③宮城、④栃木
東日本の麺好きを反映して、東日本勢が上位を占めているが、日本そば・うどんは、1位がうどん県の香川、2位が静岡と西方に片寄っている。東日本の中でも山形は中華そばで1位であるのに加え、日本そば・うどんでも4位とまさしく麺好きの特徴を明らかにしている。
外食の中華そば(ラーメン)については山形と新潟が1位を争っている。2013年から20年まで8年連続で全国1位だった山形市は21年、新潟市に王座を明け渡した。山形市はラーメン店の紹介サイト開設など首位奪還に向け約2300万円の税金を投入。両者とも強力なブランドラーメンは見当たらないものの「総合力」でラーメン好きの県民性を競い合っているという(産経新聞2023.1.14)。22年には、再度、山形市が首位を奪還している。
山形のラーメン好きは、1923年の関東大震災の際、横浜中華街で料理屋を営んでいた中国人が被災して全国各地に移り住み、そこでラーメンを出すようになり、県内では、最初に酒田や米沢に移り住み、そこから広まったのがきっかけという(県のHP)。
新潟には昭和初期から中国出身者「華僑」の中華料理店が多く、それらがやがてラーメン店になっていったという。
信州そばで名高い長野は、内食ではうどん・そばが6位と高いが、外食では、日本そば・うどんは19位と中華そばの9位を下回っており、ラーメン圏に区分されている。信州人は、そばはウチで食べ、外食ではむしろラーメンを好んでいるらしい。
長野と正反対なのが静岡であり、内食では中華麺が5位と多いのに、外食では日本そば・うどんが香川に次ぐ2位となっており、麺好きである点は同じであるが、長野と反対の外食と内食の使い分けを行っているようだ。
大阪、京都、兵庫といった阪神圏地域は、上位10位までに大阪のインスタント麺しか登場しておらず、実際、順位を調べてみると、特に外食の麺で全国の中でもランキングが非常に低くなっている。肉やパンでおなかが満たされているとともに、小麦粉食品としては、麺というより、お好み焼き、たこ焼きといった方面に特色を見いだしているせいであろう。
今後も、引き続き、麺好き地域どうしの熱い戦いが繰り広げられそうだ。
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統計探偵/統計データ分析家
東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『なぜ、男子は突然、草食化したのか』(日本経済新聞出版社)。
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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)
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