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「あなたは高くて不味いレストランと同じ」50歳の元メガバンク支店長に職安職員が告げた"残酷な一言"【2022編集部セレクション】

プレジデントオンライン / 2023年5月12日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

2022年下半期(7月~12月)にプレジデントオンラインで配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします――。(初公開日:2022年11月14日)
50代の就職活動はどのようなものなのか。元銀行員で作家の江上剛さんは「私は49歳でメガバンクを辞め、転職のためにハローワークを訪ねたことがある。『支店長をやっていた私は引く手あまただろう』と考えていたが、職員から『あなたは高くて不味いレストランと同じ』と告げられ、現実を知った」という――。

※本稿は、江上剛『50代の壁』(PHP文庫)の一部を再編集したものです。

■50代は守りに入ると途端に腐り始める

50代になると、人間としてのそれまでの蓄積の差が如実に現れるようになってくる。

人格、教養、財産など、何もかも蓄積がものを言う年齢だが、なかなかそうは問屋が卸さない。

私が言うのだから男性に限るのだが、50代になると、ご飯を食べると、歯の間に食べた物の残りカスが溜まるようになる。

それを爪楊枝でほじり、出てきたカスをじっと見つめ、ペロッと口に入れ、飲み込む。

そしておもむろに茶を飲む。グジュグジュとうがいをしてから飲み干す。

昼食を食べ終わった後、以上の動作を若手女子社員の前でやれば一発で終わりだ。誰も可愛いとは言ってくれない。不潔! と悲鳴をあげられるだろう。

平気でおならをするし、くだらないオヤジギャグで笑わそうとする。カラオケに行けば、やたらとデュエット曲を歌いたがる。

孫のいる人は孫自慢を始めると止まらない。そんな人も妻のことは怖い、厳しいと嘆く。いかに妻に虐待されているか、自虐的に話し、ネタにする。

電車の中で何をやっているかと思えばスマホでギャル漫画を夢中で読んでいたり、ゲームに興じたりしている。これで時代についていっていると誤解している。

若い頃は毅然(きぜん)としていたのに、どうして年齢を重ねるにつれて外見がだらしなくなっていくのだろうか。本当は、ナイスミドルと言われる男になっていなくてはならないのに、だんだんと崩れていく。

内面も同じだ。どんどん崩れていく。

まず守りに入る。現在の地位、たいした地位じゃなくても、それを守りたいのだ。

守りに入ると人は内面から腐り始める。

■東大出身の銀行員が痴漢騒ぎを起こした理由

銀行の広報部次長だった時、ある事件に遭遇した。それは行員の痴漢事件だ。その行員は東京大学出身で能力は高かったと思うのだが、あまり偉くなれなかった。支店長にはなったが、大きな基幹店ではない。

不満を抱いていた。いつも周囲に「あいつは俺よりバカなのに」と役員になった先輩や同期のことをののしっていた。彼は、ある企業に出向した。名のある会社だった。しかし役員ではなかった。部長だった。

ある日、広報部にとんでもないニュースが飛び込んできた。彼が痴漢で逮捕されたというのだ。

すわっ、一大事!

私は、総務部に警察とのコンタクトと情報収集を頼み、人事担当役員に連絡し、すぐに出向先の会社の社長に会ってほしいと頼んだ。

出向先の社長と会う段取りは私の方でつけた。

私は人事担当役員に同行し、社長の自宅に赴いた。人事担当役員は社長に事件のことを謝罪した。

事件は、酒に酔っていた彼が、電車内で座席に座っていた女性客の前で、ズボンのファスナーを上げ下げしたというものだった。

混雑する電車内
写真=iStock.com/Wachiwit
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wachiwit

人事担当役員は、彼を銀行に引きあげてもよいが、もし温情があるならそのまま留まらせてほしいと頼んだ。彼は、今は出向だが、早晩、転籍になる予定だった。

社長は温かい人で、大きな問題にならなければ、このまま我が社で働いてもらって結構だと言ってくれた。

■「バカな後輩」に先を越されたことを知った故の愚行

弁護士、警察関係者などを総動員して、なんとか示談に持ち込み、彼は釈放された。

なかなか所属している会社などを言わなかったので、警察の心証が悪く、てこずったのだが、なんとか、大きな問題にならずに済んだ。

彼は、出向中の会社に転籍し、ほとぼりを冷ますために海外勤務となった。

なぜ彼が痴漢騒ぎを起こしたか。それは彼の不満にあった。騒ぎを起こしたのは、銀行で新しい役員が発表になった日だった。彼は、出向先のあるパーティに出席し、酒を飲んだ。

自分は銀行の役員になれないのに、「バカな後輩」が役員になる事実を知って、悪酔いしてしまい、それで電車で帰宅する時に、尿意を催し、夢見ごこちで、ズボンのファスナーを上げ下げしてしまったのだ。

週刊誌がこの騒ぎを嗅ぎつけ、記事にしたが、私は「彼は夢を見ていたのです」とコメントした。このコメントは秀逸だと他行の広報に褒めてもらったが、それはさておき、いつまでも過去の栄光にこだわっていると、こんな目にあうという話だ。

過去は過去、今は今ということだ。幾つになってもその場、その場で頭を切り替えて暮らさなければならない。

■学歴や過去の経歴にこだわると心が腐る

別の人の例を話そう。

この人も東大出身だったが、出向先でまったく腰が定まらなかった。

彼はエリート意識が強烈で、銀行員時代、企業との懇親会などに行くとアメリカ留学と東大時代の先輩、同期、後輩などが大蔵省(現・財務省)や日銀でいかに重要な地位に就いているかを必ず話題にした。

その場にいた私は、相手が鼻白む様子がありありだったので、話題を転じようとしたが、彼は話を止めない。とにかく酒宴の最初から最後まで自慢、自慢だった。

きっと彼は役員になれると思っていたのだろう。しかしなれずに企業に出向、転籍した。出向といっても、その先は一流の上場企業だ。破格の待遇だと言ってもいい。

しかし彼には不満だったのだろう。銀行で役員になれなかった自分が許せないのだ。それで相手先企業でも「銀行では」と銀行時代の自慢を繰り返した。1年も持たずにお払い箱になった。その後、幾つかの企業を斡旋された(銀行は温情がある)が、どこもすぐにお払い箱になる始末だった。その後は、銀行の関係会社に勤務していたようだ。

とにかく過去の亡霊、出身大学などにこだわっていると、心が腐る。

心が腐るくらいなら、まだ爪楊枝で歯の間のカスを取り除き、茶でグジュグジュとうがいしている方が無難かもしれない。

会社員が出向、転籍するのは運命だ。まだ出向、転籍先があるだけ幸せと感謝すべきだ。その運命を甘受し、「人間到る処青山あり」の心境で働けば、まったく新しい人生や楽しみが見つかると心得るべきだろう。

■成果を上げたからといって必ず出世できるとは限らない

会社員も50代になれば、はっきり出世の明暗が見えてくる。閑職に異動となり、「安定した身分と給料を取り、仕事に喜びを見出せないまま今の会社にしがみつくべきか」、それとも「新たな道へ踏み出すべきか」と悩む人も出てくるだろう。

あなたにものすごい成果があれば、ちょっとした規模の会社なら50代は役員になるかどうかの年齢だよね。でも成果を上げたから役員になれるとは限らない。むしろ嫉妬されたり、警戒心を抱かれたりして出世できないことの方が多いかもしれない。適度に無能で、ゴマをすれる人間が出世するのが世の常だ。私も役員間違いなしと言われた時もあったが、もし銀行に残っていたら、警戒されるなどして役員にはなれず、きっと不満たらたらの人生を送っていただろう。

それはともかく、会社員なら、いずれは閑職への異動や第一線を退くのは当たり前。甘んじて受けるべきです。

そうは言うもののしかし、あなたが同期に比べて圧倒的な成果を上げていて、周囲、特に部下もあなたの出世を望んでいるような状態にもかかわらず閑職に回されたのなら、やっぱり悔しいだろうね。

いっそのことケツをまくって(失礼な表現ですみません)やろうかと思われるのも、これまた当然。

でもねぇ……。よく考えた方がいいなぁ。

■ハローワークで出会った喪黒福造

私は、いろいろな事情があって49歳で銀行を辞めたんだけど、40代と50代とではまったく違う。

40代なら、まだ遠くへ飛べそうな気がする。失敗しても、もう一度やり直しがききそうだ。子どもも、まだ小さい。金がかかるようになるまでには時間がある。妻も若い。きっと応援してくれるだろう……。

これが40代。

ところが50代になれば、まったく景色が違ってくる。

体力も衰えている。白髪も増えた。意欲もなくなってきた。おしっこの勢いさえ弱くなった(ごめんなさい、こんな事例は男だけの感想かな)。

子どもは大学進学で仕送りも増えた。住宅ローンもまだ1000万円以上残っている(ある調査によると50代で住宅ローンがある人は、だいたい1000万円以上も抱えているそうだ)。

でも会社に残っても出世は見込めない。後輩に先を越されて、腹が立つことばかりだ。辞めたい。でも辞めたら、その日から路頭に迷うかもしれない。でも、でも……の繰り返し。

私は、ハローワークに相談に行ってみたことがある。すると、相談員に大声で「あなた、甘い!」と叱られた。職業紹介依頼の書類の希望年収欄に、銀行員時代にもらっていた金額での希望収入を書いたからだ。

相談員は「50代になると、この人手不足の中でも、1歳上がるごとに10パーセントの求人が減ります。ですから60歳になると、ゼロになります。ドーン」と、アニメ『笑ゥせぇるすまん』の主人公・喪黒福造のように私に向かって指を突き出した。

「あなたは何ができますか?」

相談員が聞く。

「支店長でした。実績を上げました」

私は答える。

「支店長とは何をするのですか」
「……」

■銀行支店長の経歴で何ができるのかを問われ沈黙

私は沈黙。部下を叱咤(しった)激励し、目標達成させるのが支店長の仕事かな? 他に何があるのかな? 部下の教育かな? などと考えていたら答えが出ない。

「人事制度を最初から作れますか?」
「……」

再び沈黙。

人事制度? 人事部にはいたけど、そんなもの作ったことがない。

「作れないのですか?」

喪黒福造は不機嫌そのもの。

「作れと言われれば、作りますが……」

自分のことながら、自信のない答え。

■「高くて不味いレストランに誰も行かないのと同じ」

「あなたねぇ、前の会社でどれだけ偉かったか知らないけど、そんなの関係ないから。職務分析して、自分にどんなスキルがあるかが勝負なんだから。若い人なら、会社は安く、長く使うことができるけど、あんた50歳を過ぎてんだよ。高い金で短い期間しか使えないんだ。そんな買い物、あんた、する?」
「……しないです」
「そうでしょう。当然だよね。高くて不味いレストランに誰も行かないのと同じ。今、あなたはそんな状態なの。冷静に自分に何ができるか考え直して、出直しなさい」

喪黒福造は、私に書類を突き返した。

私は、完全に打ちのめされた。

それで「作家しかない」と覚悟を決めた、というのは嘘だけど、本当にショックだった。

私には市場価値がない。これが現実なのだ。

人事部、広報部に在籍したなんて、ポストだけであって、そこで具体的に何をして、どんなスキルを身につけたかが問題なのだ。

■会社にしがみつくのも才能

私には多少自信があった。広報部では、特にリスク管理で成果を上げたし、総会屋事件後の業務監査統括室ではヤクザとも喧嘩したから、「あなたは引く手あまたです」くらい言われると思っていた。しかし、すべては勘違い。

江上剛『50代の壁』(PHP文庫)
江上剛『50代の壁』(PHP文庫)

50歳になったら、たいていの人は同じ目にあう。嘘だと思うなら、一度、ハローワークに相談に行ってみるといい。誰もあなたを求めていないという現実に絶望するから。

私は、会社にしがみつくのも才能だと思う。

65歳定年制も70歳まで延びそうだ。年金支給年齢も年々、後ろ倒しになっていく。

私のアドバイスは、「恥ずかしくないから会社にしがみつけ」というのが一番。

それでも辞めたいというなら、いったい自分は何をやりたいのだろうか、何をやりたかったのだろうかと五十路の壁の前に坐禅してじっくりと内省することだ。

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江上 剛(えがみ・ごう)
作家
1954年、兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。77年、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。人事、広報部等を経て、築地支店長時代の2002年に『非情銀行』(新潮社)で作家デビュー。03年、49歳で同行を退職し、作家生活に入る。著書に『ラストチャンス 再生請負人』(講談社文庫)など多数。

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(作家 江上 剛)

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