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「マイホームが高すぎて買えない」という報道が増えたら要注意…不動産価格が急落する直前に起きる"変化"

プレジデントオンライン / 2023年5月16日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

首都圏の新築分譲マンション平均価格が1億円を突破した。一方で、中古マンションの売れ行きは悪化している。売却を急ぐべきなのか。スタイルアクト代表の沖有人さんは「不動産価格が下がるきっかけは『令和版総量規制』になる可能性が高い。見極めるにはメディア報道に注目するといい」という――。

■中古マンションの売れ行きは悪化している

首都圏の新築分譲マンション平均価格が1億円を突破した(不動産経済研究所調べ)。2023年3月の平均価格が1億4360万円だったのは、浜松町駅直結の世界貿易センタービルの建て替え案件であるWORLD TOWER RESIDENCEと港区三田綱町という億ションしかない立地にできる三田ガーデンヒルズの販売が重なったからだ。1億円以上の億ションの契約戸数は東京23区で694戸で、3億円以上が315戸に及んだ。

一方、中古マンションの売れ行きは悪化しており、2023年に入って価格調整が行われている。2022年11月に都心3区の成約平方メートル単価が163万円と最高値を付けてから、12月160万円、2023年1月147万円、2月145万円、3月151万円と11月から約1割下げている。

■「家探し」が「レジャー」に置き換わった

新築価格が高騰し、中古価格が下がる現象を正確に把握しておく必要がある。

自粛期間中は行動制限されてステイホームが推奨されたがゆえに、家を探すニーズが顕在化した。もう1部屋多い持ち家を探す人が急増し、需給バランスがひっ迫し、中古の成約単価は急伸した。その巣ごもりの特需の潮目の変わり目は2022年10月11日になる。全国旅行支援と在留資格外国人の全面受け入れが同時に始まった日だ。これはコロナ禍の自粛の終焉(しゅうえん)を意味する。政府が自粛要請していた観光やレジャーを推奨する方向に転換したのだ。

これにより、土日祝日に行っていた家探しがレジャーに置き換わっていく。特需が減るだけでなく、通常家を購入するファミリー世帯も家探しどころか、我慢していたレジャーを溜まり需要のように行うようになる。家を買おうとする世帯は既に急減したのだ。

■中古で起きているのは急伸した価格の調整

そんな中、中古は需給バランスを反映して価格調整が行われているが、新築はなぜ未曽有の価格での大量契約が実現するのか。中古が1戸1戸の現物の早い者勝ちの取引なのに対して、新築の売り方は来場した顧客を数カ月溜めて、期分けして販売し、その入居次期はかなり先になる。つまり、新築では巣ごもり特需が減退する前の顧客を含めてまだ滞留している状態にある。その意味で、中古は新築の売れ行きの先行指標と言える。こうして、中古では下火の売れ行きが新築ではまだ残っているのだ。

それでは、今後はどうなるのか。中古で調整局面になっているが、これは需給ひっ迫での価格の急伸の調整と私はとらえている。その調整が済めば、またこれまで同様に価格上昇が続くと考えている。なぜなら、不動産価格は金融緩和で上昇し、金融引き締めで下落するからだ。その金融政策は4月に就任した植田和男日銀総裁がキーパーソンになる。前任の黒田東彦さんの金融緩和政策を継続すると4月28日に日銀の決定会合で発表している。この金融緩和で貸出資金は担保が取れるがゆえに貸しやすい不動産に向かう。これは過去漏れなく起こってきたことだ。このため、不動産購入には資金が付きやすいゆえに、借入金(ローン)が増え、その分資産(不動産価格)が上昇するのだ。

記者会見する日銀の植田和男総裁
写真=時事通信フォト
金融政策決定会合を終え、記者会見する日銀の植田和男総裁=2023年4月28日、日銀本店 - 写真=時事通信フォト

■変動金利が上がる心配は無用

世界的にはインフレ対策としてほとんどの先進国で金融の引き締めが行われ、長期金利が上昇した。これに対して日本では真逆の金融緩和が継続され、円安を招いた。日本でも長期金利はやや上昇したので、住宅ローンの長期固定金利も同様に上昇した。しかし、住宅購入者の8割以上が利用している変動金利は上昇していない。

短期金利と長期金利は決定のメカニズムが違う。変動金利は、「短期プライムレート」(短プラ)を基準にして利率の見直しを行っている。短期プライムレートとは、業績面で好調な優良企業に適用する最も優遇された金利(プライムレート/最優遇貸出金利)のうち、1年以内の短期間で貸し出す際の金利のことであり、内部留保が進んだ大企業が多い日本では短プラを上げる余地はほぼ無い。だからこそ、金利が上がる心配など無用なのだ。

■バブル崩壊時に行われた行政指導「総量規制」

それでも不動産価格が下がるリスクはある。金融緩和が当分続く中、不動産にお金が流れるのを口先で介入することはできる。過去にも、バブル崩壊の際に「総量規制」という行政指導を当時の大蔵省が行い、不動産価格は急落した。これを行うとすると、現代では金融庁の役割になる。以前の大蔵省は財務省と金融庁に省庁再編されているからだ。令和版「総量規制」が行われるには、「自宅が高過ぎて買えない」という悲痛な声が大きくならないと起きないと考えられるが、そうしたメディア報道が増えてきたので注意を要する状況にはなってきた。

とはいえ、不動産価格の下落を期待する記事も金融緩和中のこの10年間にも何度もあった。「消費税率が10%になったら下がる」とか、「東京オリンピックが終われば下がる」とかまことしやかに言われた。しかし、これには全く根拠がない。過去に消費税率が上がる前後で持ち家需要の乱高下があったが、この教訓から駆け込み需要とその反動減を和らげる十分な税制が行われているし、オリンピック特需と建築単価はある程度関係はあるが、建て替え需要が旺盛なほど古いストックが多い日本ではその影響はかなり緩和されてしまっている。そんなことより、用地を購入する資金が不動産事業者に大量に流れる構図が変わらなければ、用地価格が下落することはないことくらい不動産金融の専門家の間では当たり前である。

2020年東京夏季オリンピック
写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

■買い手が少ない物件は手遅れになる可能性がある

不動産価格の一本調子の上がり方から、そろそろ不動産の売却を考えているなら、まずはタイミングを間違わないことだ。不動産価格が下がるには「令和版総量規制」の可能性が最も高いので、その機運を感じるだけのメディア記事が増えるまで売り急ぐ必要性はない。

そんな状況でも売りやすい物件とそうでないものがある。売りやすいものはストックの7割を占める3LDKのファミリータイプで、それ以外は買い手が少ない分売りにくくなる。需要が減退していく中、買い手が少ない物件は価格が下がり始める前に早めに対応しないと手遅れで全く売れなくなる可能性がある。

同様にして、需要が多い都心は安泰だが、郊外や地方はリスクが高い。いつの時代にも不動産価格高騰の最終局面ではセカンドハウス的なリゾートマンションが出現し、価格が下がり始めると自宅需要でないために下げ幅が非常に大きくなる。こうしたリスク管理は今のうちから考えた方がいいだろう。

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沖 有人(おき・ゆうじん)
スタイルアクト代表
1988年、慶應義塾大学経済学部卒業。監査法人トーマツ系列のコンサルティング会社、不動産コンサルティング会社を経て、1998年にアトラクターズ・ラボ株式会社(現在のスタイルアクト株式会社)を設立、代表取締役に就任。著書に『マンションは10年で買い替えなさい』(朝日新書)、『独身こそ自宅マンションを買いなさい』(朝日新聞出版)など多数。分譲マンション情報サイト「住まいサーフィン」(https://www.sumai-surfin.com/)、独身の住まい探し情報サイト「家活」(https://iekatu.com/)を運営している。

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(スタイルアクト代表 沖 有人)

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