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「窒息、誤嚥、溺水」年間の保育事故が過去最多に…子を預ける親が目を光らせたい3つのポイント

プレジデントオンライン / 2023年5月18日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/paylessimages

毎年、保育事故で子供が亡くなるという痛ましいニュースが流れる。小児科医の森戸やすみさんは「睡眠中、食事中は特に事故のリスクが高い。保護者のみなさんにも、どんなリスクがあるのか、どうしたら防げるのかを知っておいてほしい」という――。

■意外と多い保育施設などでの子供の事故

この春、保育所や認定こども園などに入り、最初は慣らし保育のために短時間だけ通っていたお子さんも、園で過ごす時間が長くなった頃ですね。まだ新しい環境に慣れなくて緊張して疲れたり、体調を崩したりするお子さんも多いかもしれません。ときには急に機嫌が悪くなったり、食欲がなくなったりすることもあるでしょう。特に保育施設にお子さんを初めて預ける場合は、保護者のみなさんも保育事故などが心配になるだろうと思います。

内閣府によると、2021年に全国の保育所や幼稚園、認定こども園で子供がケガをするなどの事故は2347件と過去最多だったそうです。そのうち子供が死亡したケースは5件で、睡眠中の窒息や送迎バス内の置き去りなどが原因でした。

保育事故は預け始め、低年齢、睡眠中、食事中に起こりやすいことがわかっています。特に命に関わるのが、窒息、SIDS(乳幼児突然死症候群)、置き去りや閉じ込め(熱中症)、プールなどの水の事故(溺水)でしょう。内閣府は、こうした事故を防ぐために「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」を提示しています。具体的には、どんな事故があるのか、一つずつ見ていきましょう。

■最もリスクが高いのは午睡中の窒息

保育施設で最も事故が多いのは、睡眠中です。0歳児は、まだ自由に寝返りを打ったり、顔を上げたりできないことが多く、窒息による死亡が多いのです。窒息の防止について、ガイドラインには次のように書かれています。

○医学的な理由で医師からうつぶせ寝をすすめられている場合以外は、乳児の顔が見える仰向けに寝かせることが重要。何よりも、一人にしないこと、寝かせ方に配慮を行うこと、安全な睡眠環境を整えることは、窒息や誤飲、けがなどの事故を未然に防ぐことにつながる。

○やわらかい布団やぬいぐるみ等を使用しない。

○ヒモ、またはヒモ状のもの(例:よだれかけのヒモ、ふとんカバーの内側のヒモ、ベッドまわりのコード等)を置かない。

○口の中に異物がないか確認する。

○ミルクや食べたもの等の嘔吐(おうと)物がないか確認する。

○子どもの数、職員の数に合わせ、定期的に子どもの呼吸・体位、睡眠状態を点検すること等により、呼吸停止等の異常が発生した場合の早期発見、重大事故の予防のための工夫をする。

乳児のベッドは硬めのもので、顔の周りに余計なものを置かないこと、仰向け寝が基本です。うつぶせ寝にさせたり、頭に何かかけたりしてはいけません。

■SIDSを予防するための手立てとは

窒息防止策を講じていない場合、SIDSのリスクも高くなります。SIDSは、2歳くらいまでの乳幼児が、何の予兆や既往歴もないまま死に至る原因のわからない病気です(※1)。その対応策は、東京都の「認可保育所の指導検査について(保育園での事故を防ぐために)」によると、次の通りです。

○照明は、睡眠時の乳幼児の顔色が観察できるくらいの明るさを保つ。

○乳幼児のそばを離れない。

○乳児を寝かせる時は、仰向け寝を徹底する。
1歳児以上でも、子供の家庭での生活や就寝時間、発達の状況など一人一人の状況を把握できるまでの間は、必ず仰向けに寝かせる等、子供の安全確認をきめ細かく行う。

○保護者との緊密なコミュニケーションを取る。
家庭での子供の様子、睡眠時の癖、体調等を保護者から聞き取る。
預かり始めの時期や体調不良明けは特に注意して聞き取る。

○睡眠時チェックをきめ細やかに行い、記録する。

睡眠時のチェックとは、乳幼児の体に触れながら、寝つきや睡眠中の姿勢、顔色、呼吸の状態、体温などをみることで、0歳児は5分に1回、1〜2歳児は10分に1回が望ましい間隔とされています。こうしたガイドラインを守って保育をしている園でも、原因が明確でないSIDSは防げないこともあります。でも、ガイドラインに沿った予防策を取っていない保育園だと、SIDSや窒息のリスクが高くなるのです。

※1 厚生労働省「乳幼児突然死症候群(SIDS)について」

赤ちゃん
写真=iStock.com/Tom Merton
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tom Merton

■食事の時間はアレルギーや誤嚥が心配

そして食事中も、保育事故の起こりやすい時間です。一つには食物アレルギーのある子に、間違って除去食以外を食べさせてしまうことがありえるためです。多くの園では、アレルギーのある子のテーブルをまとめたり、名前を記載したりなどの工夫をして取り違えが起こらないようにしていると思います。

また、乳幼児は食事の際に、食べ物が食道ではなく気道にいく「誤嚥(ごえん)」によって窒息することがあるためです。ですから、保育者による見守りが欠かせません。特に食事をするようになって間もない1〜2歳児や、よく噛まず丸呑みしてしまうことのある3〜4歳児は、窒息しやすいため、保育者は食事中の子供を常に注視し、口に入れる大きさや量は適切か、よく噛んでいるか、うまく呑み込めているかを確認しなくてはいけません。

特に注意が必要な食品は、プチトマト、乾いたナッツや豆類、うずらの卵、あめ類、ラムネ、球形のチーズ、ぶどう、さくらんぼ、餅など。これらの食品は、小さく噛みやすいようカットしたり、そもそも提供しないといった対策が必要です。

■散歩での置き去りや水の事故も要注意

これからの季節は、遠足や散歩などに出かけることもありますね。事前に職員が経路の安全確認をして共有しておく、子供の列の前後に保育士を配置する、定期的に人数確認をして置き去り防止をするなど、気を付けるべきことがたくさんあります。

夏になると水遊びやプール遊びをする園が多いですが、子供に指導をする保育者だけでなく、監視に専念する人員を必ず配置すること、万が一にも溺水事故が起こった際のために心肺蘇生術の訓練をしておくことも大切です。

時折、なぜそんなことが起こり得るのかわからないと思うような置き去りや閉じ込め、溺水などの悲しい事故のことが報道されますね。私の患者さんのなかに、保育所内でトイレに閉じ込められてしまったというお子さんがいました。無事に見つかってよかったのですが、本来なら決して起きてはならないことです。

こういったことを書くと、保育所や幼稚園などに子供を通わせるのが怖くなる人もいるかもしれません。でも、もちろん安全な園のほうが多いので心配しすぎないようにしましょう。一方で、保護者も保育事故のリスクについて知っておくことは重要なことだと私は思います。

砂場
写真=iStock.com/maximkabb
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maximkabb

■子供を守るために保護者にできること

では、こうした事故を未然に防ぐために、保護者にできることはあるでしょうか。まず、園の先生や職員の方と日頃からコミュニケーションを取り、お子さんについての情報交換をし、意思疎通が取れるようにしてください。

その他、以下の点をチェックしたり、教えてもらったりするといいと思います(『子どもがすくすく育つ幼稚園・保育園』猪熊弘子・寺町東子著 参考)。

(1)保育している様子や保育室を見せてもらう

安全性に問題のある保育施設ほど、中を見せない傾向があるそうです。園に入る前に説明のあったことと相違ないか、お子さんがどのように過ごしているかを、ぜひ見せてもらいましょう。

(2)午睡時、どのように寝かせているかを聞く

仰向けで寝ているか、どのような寝具で寝ているのかは重要です。一人用のサークルベッドに数人の子供を同時に寝かせたために、折り重なって窒息事故が起きた事例もあります。睡眠中の部屋の明るさ、見守る人が不在になったりしないかどうかも併せて確認しましょう。

(3)食事やおやつの内容と見守り体制を確認

食事やおやつの内容が発達段階に合っているかどうか、食事の際の見守り体制が十分かどうかを確認しましょう。重篤なアレルギー症状であるアナフィラキシーショックや誤嚥を防ぎ、また万が一にも事故が起こった際に素早く対応するためには、複数人による見守りが必要です。ですから、食事の際に保育者の数を増やしているかどうかが重要だといえます。

■問題があるときは園や公的機関に相談を

それ以外にも、保育士や幼稚園教諭などの資格を持った職員の人数が十分かどうか、保育者の入れ替わりが多すぎないかどうか、園内が清潔かどうか、連絡帳や連絡アプリにその日のお子さんの様子が具体的に書かれているかどうかなど、入園してからも確認したほうがいいことはたくさんあります。

もしも、何かおかしいと感じたり、改善してもらうべきだと思うことがあれば、園に相談してみましょう。保護者の方が考えたのとは違う意図があったり、誤解だったりすることもあると思います。担任の先生や園長先生に相談したり、他の保護者と意見交換をして保護者会を介して申し入れをするという方法もあります。

そうして園と話し合ったりしても改善されず、問題が残るようであれば、保育所の場合は市区町村の「こども支援課」「児童保育課」「幼児保育課」などに相談しましょう。「子ども・子育て支援新制度」に移行した園や公立幼稚園の場合は「教育委員会」または市区町村の所轄課に相談します。私立幼稚園の場合は、文部科学省の管轄なので教育委員会です。いずれにせよ、市区町村に問い合わせ、お子さんが通っている施設の名称を伝えれば、どこが窓口になっているか教えてくれるはずです。

幼稚園での食事
写真=iStock.com/M-Production
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/M-Production

■1948年から変わっていない4~5歳の配置基準

子供たちは、保護者だけでなく、社会にとっても大事な存在であることは言うまでもありません。大切な子供たちを守るには、それ相応の人手が必要です。なのに、現在の日本の配置基準は、保育士1人に対して0歳児は3人、1〜2歳児は6人、3歳児で20人、4〜5歳は30人。子供の人数に対して保育者の人数が少なすぎて、十分に目を行き届かせるのは困難でしょう。

とりわけ4~5歳の配置基準は、なんと1948年以来、75年間も変わっていません。もともと第2次世界大戦後の混乱期に作られた最低限の配置基準なので、いずれ国が落ち着いて豊かになったら引き上げるはずだったのに、現在まで後回しにされているのです。日本の4〜5歳の配置基準はOECD諸国でも極端に低い水準で、ニュージーランドは1対10、イギリスは1対13です。

政府は2015年に、1歳は6対1から5対1に、4〜5歳児は30対1から25対1に改善するとしていたものの、8年間放置されたまま。やっと岸田総理が「しっかり考えていく」と発言しましたが、これ以上「考える」必要があるでしょうか。現在のままでは、子供たちの安全を守ることができません。岸田内閣の今後の取り組みを注視し、意見を伝えていきましょう。

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森戸 やすみ(もりと・やすみ)
小児科専門医
1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。

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(小児科専門医 森戸 やすみ)

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