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日本人も銀行にお金を預けっぱなしで大丈夫か…アメリカで「銀行預金の引き出し」が急速に進んでいる理由

プレジデントオンライン / 2023年5月15日 9時15分

2023年4月20日、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院で、米中経済関係について講演するジャネット・イエレン米財務長官。 - 写真=EPA/時事通信フォト

■2カ月の間に中堅銀行3行が経営破綻

最近、米国で預金に対する不安が急速に高まっている。その背景には、約2カ月の間に3行の中堅銀行が破綻したことがある。3月初旬以降、シルバーゲート銀行、シリコンバレー銀行、シグネチャー銀行が相次いで破綻した。また、5月に入ると、資産規模で全米14位のファーストリパブリック銀行も破綻した。

それとは対照的に、3月までのデータではわが国の預金は増えている。米国と異なり、わが国では預金に対する安心感があるということだ。わが国の場合、2002年以降の不良債権処理によって、金融システム全体で体質は健全化された。それに加えて、わが国の金融機関は国債取引や、個人、法人向けの融資によって相応の利ザヤを稼いできた経緯がある。

ただ、足元でも、米国では経営不安が取り沙汰される中堅銀行が増えている。今後、SNSを介して預金への不安心理は急速に高まり、さらなる預金引き出しが急速に進むことが懸念される。それが現実となれば、米国の金融システムは1980年代のようにかなり不安定な局面を迎える可能性もある。わが国でも、預金保険制度を十分に理解しておく必要があるだろう。

■預金不安はリーマンショック時を上回っている

5月4日、米国の調査会社であるギャラップは、「米国民の約半分が銀行に預けたお金を心配している」と題したリポートを発表した。リポートには、ギャラップが実施した世論調査の結果が記されている。

当該の調査は、シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行が破綻した後の4月3日から25日に実施された。“銀行などに預けているお金の安全性についてどの程度心配しているか”との質問にして、“非常に心配している(Very worried)”は19%、“少し心配(Moderately worried)は29%”だった。“あまり心配はしていない(Not too worried)”は30%、“まったく心配していない(Not worried at all)”は20%だ。なお無回答者は集計から除外されている。

全体として預金への不安を抱く人は48%に達している。この水準はリーマンショック直後のギャラップの調査結果(45%)を上回っている。

■財務長官は「全額保護も検討する」と述べたが…

3月以降に起きた一連の米銀破綻は、預金への不安を急速に高めた。多くの米国の中堅銀行は、個人などから集めた預金を、長期の投融資に回した。その多くはITスタートアップ企業に投資するファンドや商業用不動産など、流動性の低いものだった。結果として、シリコンバレー銀行などの破綻、他の中堅銀行の経営不安の高まりによって預金を引き出す個人、法人は増えた。

米国では、連邦預金保険公社(FDIC)が1口座(個人も法人も)あたり25万ドル(約3400万円)までの預金を保護している。さらに、3月にはイエレン財務長官が「必要であれば預金全額保護も検討する」と述べた。

それでも、預金に対する不安が高まっている。特に、今日の世界ではSNSを通して瞬く間に人々の不安などが拡散し、群集心理が高まりやすくなったことは大きい。5月1日にはファーストリパブリック銀行が破綻した。2日にはカリフォルニア州地盤のパックウエスト・バンコープなどの地銀株が大きく下げた。ギャラップの調査時点と比較した場合、預金への不安を強める米国民は一段と増えている可能性がある。

■なぜ、日本では預金流出が起きていないのか

一方、わが国では預金が依然として増えている。全国銀行業界(全銀協)が公表する“全国銀行 預金貸出金速報”によると、2023年3月、110ある全国の銀行の総預金は前年同月比で3.3%増えた。

都市銀行(5行)は同3.7%増、地方銀行(62行)は同2.0%増、第2地方銀行(37行)は同2.2%増、信託銀行(4行)は同5.5%増だ。信用金庫業界に関して、信用中央金庫が発表した“2023年3月末の信用金庫の預金・貸出金動向(速報)”によると全国254の信用金庫の預金残高は前年同月比0.8%増加した。

米国では中堅銀行から預金を引き出し、JPモルガンなどの大手行や、相対的に利回りの高い“マネー・マーケット・ファンド(MMF)”、あるいはアップルがサービスを開始した預金口座などに資金を移す人は増えている。一部報道によると、サービス開始から最初の4日間でアップルの預金口座には9億9000万ドル(約1360億円)の資金が流入したようだ。

今のところ、わが国でそうした資金の移動は起きていない。日米の預金の安全性に対する社会心理は異なっているといえる。

■投融資を積み増してきた米国と、停滞が続く日本

その理由の一つには、日米経済の差が大きく影響しているだろう。リーマンショック後、米国では超低金利環境の長期化観測が高まった。GAFAやスタートアップ企業なども、IT先端分野での成長期待も大きく押し上げた。超低金利環境と過剰な成長期待に支えられ、中堅行はIT先端企業や商業用不動産などへの投融資を積み増した。

それは景気が良い間は大きな問題にはならなかった。しかし、いつまでもよい状況が続くとは限らない。2022年3月以降は連邦準備制度理事会(FRB)が急速に利上げを行い、融資債権などの価値が急速に下落した。その中で、3月上旬、シリコンバレー銀行などは破綻し、米国の中堅行の経営に対する懸念は急速に高まった。

夕焼けと米連邦準備制度理事会(FRB)本部
写真=iStock.com/Douglas Rissing
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Douglas Rissing

一方、わが国経済は長期にわたって停滞している。国内の銀行は国債の短期取引や住宅ローンなどによって利ザヤを稼ぐ状況が続いている。日米銀行セクターにおけるリスクテイクの水準感の差はかなり大きい。そのため、米国の中堅銀行の経営不安上昇がわが国の預金不安を高めるには至っていない。

■1980年代の「S&L危機」の再来か

今後の展開次第では、米国の金融セクターの一部で、1980年代のような不安定な状況になる可能性は高まっている。1980年代、米国では貯蓄貸付組合(S&L)と呼ばれる金融機関の破綻が急増した。その要因の一つは、資金の調達と運用のミスマッチだ。

多くのS&Lは、預金など短期で調達した資金を住宅ローンなど長期の信用創造に回した。当時の米国では、故ポール・ボルカーFRB議長によって徹底したインフレ鎮静化が行われ、金利は大きく上昇した。その結果、多くのS&Lが預金金利の上昇(資金調達コストの増加)や、保有していた資産の価値下落に直面して破綻した。

その後、S&Lの経営はいったん落ち着いたかに見えたが、1980年後半、S&Lの経営不安は再燃した。主たる要因は原油価格下落によるエネルギー業界の業績悪化による不良債権増加、規制緩和による過度なリスクテイクだった。

資金の調達と運用のミスマッチ、過度なリスクテイクなどは、今回の米銀破綻にも共通する要素だ。足元、米国の中堅銀行の株価は合併交渉の破断やさらなる預金の流出懸念などから荒い値動きを伴いつつ下げ基調にある。

■株価下落→預金流出の負の連鎖はまだ続く

今後、株価が一段と下落すれば、預金者は自分の銀行が危ないとの不安に駆られ、預金を急いで引き出そうとするだろう。すでに確認された通りSNSを介した群集心理を抑えることは難しい。

短期的に株価下落、預金流出という負の連鎖反応は増幅されやすい。それに伴って米国では銀行の融資態度が一段と硬化し、労働市場、個人消費など実体経済への下押し圧力も強まる。加えて、米国のインフレ率は依然として2%を上回っている。FRBが金融システムの安定に配慮しつつ金融引き締めを続ける可能性も高い。

今年後半、米国の景気後退懸念は高まり、世界経済の先行き不透明感も一段と高まりそうだ。そうなると、わが国の景気に下押し圧力がかかることは避けられない。そのタイミングで米国の中堅銀行の経営不安が一段と高まる可能性がある。

今すぐではないにせよ、わが国の金融セクターでも、一部の銀行から他の銀行へ預金を移し財産を守ろうとする人は増えるかもしれない。現状、普通預金では元本1000万円まで保証されるが、そうしたリスクを考えると、わが国にとって預金保険制度の内容を国民により分かりやすく伝える意義は増している。米国で検討され始めたように、預金保険の制度拡充に向けた議論を進める必要性が出てくるかもしれない。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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