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「もう自由に生きていいんだよ」死んだ愛犬からの声に従い、人格否定された毒母に別れを告げた娘の胸の内

プレジデントオンライン / 2023年5月13日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/katerinasergeevna

30代の女性は子供時代、両親は夜の仕事をしており、家でひとりぼっちの時間が多かった。母親は女性に対して呪いの呪文のように「お前は要領が悪い」「家事ができない」などとののしり、人格を否定した。心に傷を負った女性は「私には価値がない」と思い悩み、就職後、メンタルの不調を訴え始めたが、あることがきっかけでなんとか持ち直すことができた。心の支えになったものとは何だったのか――。(前編/全2回)

ある家庭では、ひきこもりの子供を「いない存在」として扱う。ある家庭では、夫の暴力支配が近所に知られないように、家族全員がひた隠しにする。限られた人間しか出入りしない「家庭」という密室では、しばしばタブーが生まれ、誰にも触れられないまま長い年月が過ぎるケースも少なくない。

そんな「家庭のタブー」はなぜ生じるのか。どんな家庭にタブーができるのか。具体事例からその成り立ちを探り、発生を防ぐ方法や生じたタブーを破るすべを模索したい。

■優柔不断な父親と厳しすぎる母親

関東在住の町田朋美さん(仮名・30代・既婚)の両親が出会った場所は、当時25歳だった父親が店長を務める、東北地方のスナックだった。20歳だった母親は、友達が従業員として働いていたため遊びに行くようになり、いつしか交際することに。母親が24歳の時に妊娠がわかると、両親は結婚。町田さんが生まれた。

町田さんが物心ついたとき、両親はそれぞれ夜の飲食店に勤めていた。0歳で保育園に入園させると、母親は19時ごろに迎えに来た後、車で10分ほどの自分の実家や友人の家に町田さんを預け、そのまま出勤。土日も仕事があるため、祖父母宅に預けられた。明るく社交的な祖母と寡黙な祖父は、畑仕事や山菜の取り方などを教えてくれた。

しかし町田さんが小学校に上がると、平日は祖父母宅には預けられなくなった。学校から帰った後、母親が夜の19時ごろに出勤すると、翌朝の6時まで1人で過ごす生活が始まる。

小学校1年生とは、まだ6歳か7歳だ。母親は夕飯を食べ終わるまでは一緒にいてくれるが、その後は一人きり。一人で入浴を済ませ、明日の学校の準備をし、就寝するが、最初の頃は、夜一人で過ごすことが怖くてたまらなかった。

「犬を飼ってくれたら一人で留守番できる!」と言ってミニチュアダックスフントを買ってもらったが、それでも怖くて母親に言うと、「犬を買ってやったのに!」と烈火のごとく怒られた。一度だけ祖父母の家に自力で行こうとしたことがあったが、車で10分の距離は子どもの足では遠すぎて、途中で断念した。

「常に恐怖を感じていることは、子ども心につらすぎたので、『寂しい』『こわい』『つらい』という感情を捨てました。そう感じること自体、『自分が弱いからだ』と思い、テレビをつけたまま寝たり、『夜一人で過ごせる自分ってすごい!』と自分で自分に言い聞かせたり、『一人のほうが気楽で良いな』と思い込むことで、前向きに捉えられるように工夫し、次第に慣れていきました」

父親は飲食店の店長や副店長を任されるものの、本部の人やオーナーなど、上の人と折り合いが悪くなることが多く、そのたびに転職を繰り返す。そのうえ、父親にはもともと知人の借金の連帯保証人になってしまったことでできた借金があった。にもかかわらず、稼いだお金のほとんどをパチンコや飲み代に使ってしまうため、父親の借金は実質母親が返済する。そのせいでたまった愚痴を、町田さんは物心ついた頃から聞かされ続けていた。

「父は優しいというより、優柔不断な人でした。母はしつけに厳しく、思い通りにならないと、相手の人格を否定するような言葉を平気で口にする人でした。家事にもこだわりがあり、私が手伝っても、母の望むかたちにできていないと、『完璧にできてなければやらないのと同じ!』『勉強ができても気遣いができなければ意味がない!』という言葉をよく口にし、母自身は勉強があまりできなかったようですが、人に助けられながらも、真面目に働いてきたことで評価されて、『自分は仕事ができる』という自信を持って生きている人でした」

町田さんは、父親と2人、母親と2人で出かけることは時々あったが、両親の仕事のシフトがめったに合わないため、家族3人がそろって出かけることはほとんどなかった。

いつしか父親は、他に相談できる相手がいないのか、町田さんに転職の相談をするようになっていた。

■全く褒めない母親と無関心な父親

町田さんは、小さい頃から生き物に興味があり、本を読んだり、絵を描いたりすることが好きだった。「獣医さんになりたい」という目標を持った町田さんは、自分から「塾に通いたい」と言い、母親は、「お嬢様じゃないんだから……」などとブツブツ言いながらも承諾。町田さんは、両親に言われることなく自分で勉強した。

中学に上がると、成績は常に学年上位をキープし、高校は母方の祖母が夢見ていた、県内有数の進学校に入学。祖母は勉強ができる孫をとてもかわいがり、褒め称えたが、父親は無関心、母親は全く褒めなかった。

「母と祖母は仲が悪く、母は、自分が求める家事を私ができないので、『金食い虫』『最低な人間』『思いやりがない』などと、ことあるごとにののしってきました。幸い、母と関わる時間が、朝に学校に行く前と、学校から帰宅して母が仕事に出発するまでの時間しかなかったので、私は心を壊さずにいられたのだと今は思います」

中学校では吹奏楽部、高校では弓道部に所属していたが、両親は学校で娘が何をしていようが無関心だった。練習で遅くなったときや、コンクールや大会などの際、友人の親の車に一緒に乗せてもらうことがあったが、友人の親には大抵、「あのよく喋る子でしょ?」と覚えられていた。町田さんは家の中で人と話す時間がほとんどなかったため、その分外で喋っていたのだ。

座位で弓構えの前動作に入る人
※写真はイメージです(写真=iStock.com/JGalione)

自分の家庭のおかしさに思うところはあったが、他にも親に苦労させられている友人はいたため、町田さんはその都度、愚痴を言い合って発散したり、通い続けていた塾の講師に相談して助言をもらったりしていた。講師からは、「早く自立して生きられるようになって、親元を離れたほうがいい」とアドバイス。町田さんは獣医になる道を諦め、看護大学に進学した。

■一人暮らしを始めて分かったこと

大学3年時、就職先を考える時期になると、母親は、「あなたは要領が悪くて、仕事と生活を両立することはできないだろうから、地元で働きなさい」と言った。だが、地元で一人暮らしができて、かつ条件の良い求人がなく、さまざまな就職説明会に参加したところ、「関東の病院に就職したい」と思い始める。

だが母親が反対するのは目に見えている。7歳の頃から共に過ごしてきた愛犬が高齢になっており、側を離れられないことも悩みの一つだった。しかし、大学3年生で行う実習がすべて終わったタイミングで、愛犬は亡くなってしまう。

「愛犬が、『もう自由に生きていいんだよ』と言ってくれているように感じた私は、案の定、母からは反対されましたが、無事に地元を離れ、一人暮らしを始めることができました」

母親から呪文のように「要領が悪い」「家事ができない」などと聞かされ続けてきた町田さんだが、いざ一人暮らしが始まると、実家で暮らしていた頃よりも、はるかに安らげて、想像以上に楽しいことが分かり、拍子抜けした。しかし仕事のほうはというと、職場になじめず、3年で退職してしまう。

白い看護服を着た女性
写真=iStock.com/key05
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/key05

「私はコミュニケーションスキルが乏しく、“報告・連絡・相談”ができないという問題があり、看護師という女性中心の社会になじめませんでした。今思えば、母と関わってきたなかで、『相手の機嫌によって攻撃される』『自分自身の意見は尊重されない』という無意識の思い込みがあり、『誰かに何かを伝える』『他人を頼る』ということが苦手で、『何でも1人でやる』『抱え込む』というクセがついてしまっていたのだと思います」

患者に対しては問題なかったが、スタッフとの関わりが、町田さんにとってはとても難しかった。病棟勤務から訪問看護に転職すると、やはり利用者とは良い関係性を築くことができるが、上司や同僚との関係がうまくいかず、異動を願い出たが、変わらない。

次第に気持ちが不安定になり、心療内科を受診し、漢方の内服をしながら勤め続けたが、主治医から「抑うつ」の診断を受けて、上司に休職の相談をしたところ、休職は認められず、退職に至った。

その後、往診同行と訪問看護の職場に転職したが、やはり、「相談や質問をするのは、新卒であっても当たり前なはずなのに、どうして相談ができないの?」と注意を受ける。町田さんは、そもそも何を質問していいのかが分からず、わからないのが悪いのかと思い込み、さらに抱え込んでしまうため、徐々に残業が増えていく。

そのうちに、会議中に眠ってしまうようになったため、心療内科の主治医に相談すると、「特発性過眠症」と診断。その職場では、「業務の継続が難しい」との判断を受けて異動し、デイサービスと看護付き小規模多機能施設を兼務することになった。

「社会人として、看護師として、『私に価値なんてない』とボロボロの状態でしたが、この頃から、『あなたがいてくれてとても助かる』『あなたはちゃんとできているのに異動になったの? あなたは悪くないよ』『失敗しても、自分のことは自分で褒めてあげなきゃ』と味方になってくれる同僚ができました。それだけでなく、『あなたと話すと元気が出るわ』『あなたは声がすてき、目がすてき』と言ってくれる利用者さんもいてくれます。言葉だけでなく、温かい視線と表情をたくさん向けてくれる人たちと出会えたことで、まだまだ未熟かもしれないけれど、『私は私で良いんだ』と思えるようになりました」

少しずつ自信をつけていった町田さんは、次第に自分の思いや考えを伝えることができるようになっていった。

24歳になると、町田さんは自身の発達障害を疑い、心療内科を受診。検査を受けたが、診断はつかなかった。ただ、「考え方のクセがある」と言われたため、カウンセリングやコーチングを受けてみることにした。

■両親の離婚と結婚

町田さんが実家を離れると、両親はその2週間後に別居。しかしその後も、父親に借金や離職などのトラブルがあると、母親から電話があり、延々と愚痴を聞かされ、「何とかしてほしい」と言われる。結局両親は、別居から6年後に離婚。離婚後に母親は、「これで私はあの人と他人になるけれど、あなたにとっては血のつながった親だから、後のことはよろしくね」と嫌味とも自慢ともとれる言葉を投げかける。

町田さんは「勝手な人だな」と思ったが、「母が言う通り、父のことは私が面倒を見ないといけないだろうな」とも思い、言い返すことができなかった。

27歳になり、結婚を意識するようになった町田さんは、マッチングアプリで1歳年上のIT系企業で働く男性と知り合い、2カ月後に交際に発展。

湾岸の近くで手をつなぎながら言葉を交わすカップル
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

そんなある日、父親からLINEと電話で相談があった。「30万ほどお金を貸してほしい」と言う。町田さんが、「何度も借金を繰り返している人にお金を貸すことはできない」と断ると、父親は諦めたようだ。その後、母親に父親から借金の相談があったことを話し、「この先父とは会わないことにする」と宣言した。

29歳になった町田さんは、交際中の男性からプロポーズを受け、両家顔合わせをすることになった。しかし町田さんはもう、父親とは会わないと決めている。そんなとき母親が、「職場の上司を同席させていい?」とたずねてきた。その上司は、町田さんも小さい頃からよく知っている男性だったが、婚約者とその両親からは、「なぜ親族ではない人が同席するの?」と質問を受ける。町田さんがそのまま母親に伝えると、「もう上司に頼んじゃったじゃない!」と電話口で怒鳴られた。

結局、顔合わせは母親一人で来ることになった。顔合わせの日時を母親に連絡すると、「そもそもなぜ父親と婚約者を会わせないの? 親に会わせるのが筋じゃないの? 私だったら30万円くらい貸したわ!」と一気にまくしたてられ、町田さんは驚いた。

「私はもう何度も『なぜ私が父に会いたくないか』や、『どういう経緯で父との決別を決断したのか』を母に伝えていたはずですが、母は全く理解していなかったのだと、そのときに気付きました」

母親の言葉に怒りが爆発した町田さんは、「筋もなにも、顔も会わせられない状況になったのは、あなたたちのせいじゃない!」と叫んだ。

すると母親は、「あんたは頭がおかしい! 二度と顔を見せるな!」と捨てぜりふを吐いて、一方的に電話を切った。

それからすぐに、町田さんのアパートに、町田さんと父親が写っている幼い頃の写真や、町田さんが書いた文集が郵送されてきた。町田さんはそれらを捨てることも片付けることもできず、玄関に放置。

結局両家顔合わせは中止になり、町田さんと婚約者の男性は、入籍だけ先に済ませることにした。(以下、後編へ続く)

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旦木 瑞穂(たんぎ・みずほ)
ライター・グラフィックデザイナー
愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する連載の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、東洋経済オンライン「子育てと介護 ダブルケアの現実」、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」、朝日新聞出版『AERA.』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。

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(ライター・グラフィックデザイナー 旦木 瑞穂)

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