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G7サミットも憎くて仕方ない…中国が「日本にできるアジア初のNATO事務所」を"毒々しいトゲ"と呼ぶワケ

プレジデントオンライン / 2023年5月14日 11時15分

2023年4月30日、エジプト大統領府が発表した資料写真には、カイロでの会談を前に、日本の岸田文雄首相を迎えるアブデル・ファタフ・アル・シシ大統領(右)が写っています。 - 写真=AFP PHOTO/HO/EGYPTIAN PRESIDENCY/時事通信フォト

台湾統一を目指す中国を抑えるため、岸田首相は各国との「対中国」外交を進めている。政治ジャーナリストの清水克彦さんは「アメリカやインド、東アジアなどによる包囲網ができつつあるが、課題はグローバルサウスと呼ばれる新興国の取り込み、特にアフリカだ」という――。

■中国をいら立たせる「NATOの東京進出」

5月9日、ワシントンD.C.にあるナショナルプレスクラブで、冨田浩司駐米大使が、東京にNATO(北大西洋条約機構)の連絡事務所を設置する方向で調整を進めていると明らかにした。

中国共産党の機関紙「人民日報」系の新聞「環球時報」は、さっそく冨田大使の発言を取り上げ、「日本に開設する予定のアジア初のNATO事務所はアジアに突き刺さる毒々しい棘になる」と強く牽制している。

台湾統一に執念を見せる中国にとって、日本とNATOとの連携強化は極めて不愉快な話である。ウクライナに侵攻したロシアが、国境を接するフィンランドのNATO加盟申請を嫌がったように、中国もまた、近くに東アジア版NATOが誕生すれば台湾侵攻の足かせとなるからだ。

しかし、日本は、岸田首相が2022年6月、マドリードで開催されたNATO首脳会議に日本の首相として初めて出席するなど連携強化を進めている。これは、ロシアのウクライナ侵攻と中国による台湾統一への動きは「不可分」とする考えに基づくものだ。

筆者が得た情報では、NATOの東京事務所は、2024年には開設される見通しだが、これを境に、東アジアでは中国を想定した安全保障体制がさらに強固なものになるはずだ。

■日韓首脳会談で得た東アジア版NATOの手応え

中国・習近平指導部にとっては東アジアにNATOのような同盟関係が構築されるのはもっとも望ましくないことだ。

しかし、5月7日に開かれた日韓首脳会談、そして5月1日にホワイトハウスで行われた米比首脳会談は、東アジア版NATOの誕生を予感させるには十分な内容となった。

日韓首脳会談の要旨
岸田首相が、元徴用工問題を含む歴史認識で、植民地支配への痛切な反省と心からのおわびを明記した1998年の日韓共同宣言を含め、歴代内閣の立場を堅持する姿勢を表明。「多数の方々が大変苦しい、悲しい思いをされたことに心が痛む思い」と言及。

韓国の尹錫悦大統領も、「歴史問題が完全に整理できなければ未来の協力へ一歩も進めないという認識から脱却しなければならない」と応じ、両首脳の間で、日米韓3カ国の安全保障協力を進め、抑止力と対処力を強化していくことで合意した。

■岸田首相と尹大統領の貴重な外交成果に

岸田首相は訪韓前、自民党保守派から「歴史問題で韓国に一歩たりとも譲歩するな」という電話攻勢を受けていた。そこで韓国側と一言一句調整したうえで言葉にしたのが「心が痛む思い」という表現であった。

韓国の国内には、「それでも不十分」との声が根強い。しかし、4月26日の米韓首脳会談に続き、今回の日韓首脳会談と、日米韓の強固な関係を構築できたことは、岸田首相と尹大統領の外交成果と言っていい。

5月19~21日の間、岸田首相の地元・広島で行われるG7サミットでは、日米韓3カ国がそろっての首脳会談も予定されるが、岸田首相は確かな手応えを感じながら会談に臨むことになる。

広島平和記念公園に設置されたG7サミットの花のモニュメント
筆者撮影
広島平和記念公園に設置されたG7サミットの花のモニュメント - 筆者撮影

■フィリピンとアメリカも「軍事連携」で結束

5月1日の米比首脳会談でも進展があった。

米比首脳会談の要旨
バイデン大統領が「アメリカは南シナ海を含むフィリピンの防衛について、鉄壁の関与を続けていく」と、中国を念頭にアメリカの防衛義務を約束した。

フィリピンのマルコス大統領も、国内4カ所の軍事基地のアメリカ軍の使用を認めると表明。両首脳は、陸海空のほか宇宙やサイバー空間での軍同士の情報共有や作戦計画能力を強化することで一致した。

フィリピンは地政学上、南シナ海の戦略的要衝にある。その領有権をめぐって中国と対立を繰り返してきた国だ。日韓の急速な関係改善に加え、米比両国の間に軍事同盟に近い関係が出来上がったことは、東アジアで中国を取り囲むように、NATOにも似た安全保障同盟が構築されつつあることを意味している。この点は日本から見ても歓迎すべきことだ。

ただ、「対中国」外交での手応えとは裏腹に、驚愕したであろう点にも触れておかなければならない。それは、「グローバルサウス」と呼ばれる新興国の取り込み、特にアフリカにおける日本の弱さと中国の圧倒的な強さである。

■エジプトの地下鉄整備に1000億円借款も…

岸田首相が4月29日から5月5日にかけて歴訪したエジプト、ガーナ、ケニア、モザンビークのアフリカ4カ国。その狙いは「日本がG7とグローバルサウスとの橋渡し役」になることであり、言い換えるなら、「中国包囲網」の中に取り込むというものだった。

その観点から言えば、今回の歴訪は「行かないよりマシ」ではあるが、野球で例えるなら「10点取られたあとに、どうにか1点返す」ようなものだったと言えるだろう。

エジプトは人口1億900万人を抱える中東・北アフリカの大国で、スエズ運河を有する交通の要所でもある。

岸田首相はシシ大統領との会談で2国間関係の強化を確認。日本とエジプトの経済団体が主催する「ビジネスフォーラム」では、日本が首都カイロと郊外を結ぶ地下鉄整備に1000億円の円借款を供与すると発表された。岸田首相はこの席で、次のようなスピーチを行った。

「エジプトで活動する日本企業は約50社、貿易額としては約13億ドルに上り、日本からの直接投資もこの1年で2倍に増加しました」

■カイロ近郊には「第2の上海」が建設されている

筆者もかつて首都カイロに数カ月滞在したことがあるが、確かに日本とエジプトとの関係は良好そのものだ。

しかし、中国の昨年のエジプトとの貿易額は180億ドルを超える。日本の15倍近い。エジプトにとって最大の貿易相手国は中国で、その中国は、今年1月には秦剛外相をエジプトに派遣するなど、近頃では、習近平指導部による巨大経済圏構想「一帯一路」に引き込もうとする狙いが透けて見える。

特筆すべきは新首都構想だ。カイロ近郊の砂漠地帯に新たな首都を建設する途方もないプロジェクトを担っているのが中国で、そのランドマークとなるアフリカ一の超高層ビル「アイコニックタワー(Iconic Tower)」(393メートル)の今年中の完成に向け工事が進められている。

650万人が暮らすことになる新首都は、6000台を超える監視カメラで守られ、Wi-fiのアクセスポイントは街灯の柱というスマートシティーだ。これだけでも砂漠の中に「第2の上海」が出現するようなものだ。岸田首相も驚愕の現実を目の当たりにしたことだろう。

■ガーナでも約700億円の「バラマキ外交」

ガーナでも日本は太刀打ちできない。岸田首相はアクフォアド大統領と会談し、「ガーナとの間で幅広い分野の協力を強化していく」と述べ、今後3年間で約5億ドル(約680億円)を支援すると表明した。しかし、中国のガーナとの貿易額は100億ドル近く。日本とガーナの8億ドル弱と比べれば12倍である。

3番目の訪問国ケニアでは、岸田首相が、日本が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け協力を呼びかけた。ケニアがインド洋に面しているためだ。

そのケニアでも2017年、モンバサ―ナイロビ間で主に中国輸出入銀行が融資し、中国交通建設が工事を請け負った鉄道が完成し、2022年には、同じく中国交通建設によってモンバサ港に世界規模の石油・天然ガス埠頭(ふとう)が完成し稼働している。

最後の訪問国、モザンビークは資源が焦点となった。岸田首相はフィリペ・ニュシ大統領と会談し、モザンビークを「有数の資源国」と評した上で、液化天然ガス開発事業について財政支援を続けると約束した。

ただ、ここでも中国は、中国医薬集団(シノファーム)製の新型コロナウイルスワクチンの供与、モザンビークからの輸入品の無関税化といった便宜を図っている。

■「アフリカ植民地化」を進める中国との歴然たる差

このように4カ国だけを見ても、日本は周回遅れという気がしてならないのである。

もっとも、アフリカ諸国では、ガーナやケニアのように、中国が手がけるプロジェクトや融資によって過剰な負債が生じてしまう「債務の罠」の問題が深刻化している。

アフリカ大陸の地図の上に人民元
写真=iStock.com/Oleg Elkov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Oleg Elkov

たとえば、ケニアでの鉄道建設は「通常より3倍も高い」と批判されており、他の国でも、中国マネーに依存させ、事実上の植民地化を進めているとの批判が絶えない。

日本はそこに付け入る隙があるのだが、中国は、先に述べた秦剛外相もそうだが、この30年余り、年始に必ず外相がアフリカを訪問し関係維持を図っている。

岸田首相は、G7サミット前に駆け足で回った4カ国で、「アフリカ諸国の顔を日本に向けさせることは容易ではない」と、中国との間についてしまった大差を痛感したに相違ない。

■サミットで注目すべきは「G7以外の国々」

さて、いよいよG7サミットのメインイベント、首脳会議である。注目はG7各国首脳が一致結束して「核兵器のない世界」に加え、「対ロシア」「対中国」で強いメッセージを打ち出せるかだが、真に注目すべきは、議長役の岸田首相の招待で参加するグローバルサウスの大国、インド(G20議長国)やインドネシア(ASEAN議長国)との会談である。

G7サミットのメイン会場となるグランドプリンスホテル広島
筆者撮影
G7サミットのメイン会場となるグランドプリンスホテル広島 - 筆者撮影

インドはロシアとは兵器の輸入等で関係が深いが、中国とは国境で紛争を続けている国だ。インドネシアは、中国が日本から契約を奪う形で受注した高速鉄道プロジェクトがうまくいかず、南シナ海における中国の進出にも疑念を抱き始めている国である。

岸田首相が、G7各国に加えこれらの国々を巻き込んでメッセージを発信できれば、東アジア版NATOとも言うべき包囲網が「対中国」の抑止力として、より現実味を帯びてくるだろう。

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清水 克彦(しみず・かつひこ)
政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師
愛媛県今治市生まれ。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。在京ラジオ局入社後、政治・外信記者。米国留学を経てニュースキャスター、報道ワイド番組プロデューサーを歴任。著書は『日本有事』(集英社インターナショナル新書)『台湾有事』、『安倍政権の罠』(いずれも平凡社新書)、『ラジオ記者、走る』(新潮新書)、『中学受験』(朝日新書)、ほか多数。

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(政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師 清水 克彦)

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