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家の台所はトイレよりも汚い…「自家製の冷凍食品」を弁当の保冷剤にすると食中毒が起きる仕組みを解説する

プレジデントオンライン / 2023年5月16日 14時15分

表面に自然解凍で食べられることをうたう冷凍食品。厳しい取扱要領を守っている - 筆者撮影

これからの時期、弁当が食中毒の原因となることが多い。科学ジャーナリストの松永和紀さんは「特に自家製の冷凍食品には注意が必要だ。市販の冷凍食品と同等に考えてはいけない。一般家庭の台所は細菌に汚染されているため、弁当箱に細菌を持ち込んでしまうリスクがある」という――。

■「自家製冷凍食品」は要注意

これからの暑い季節、細菌による食中毒が多く発生します。作ってから時間を置いて食べるお弁当の衛生管理にはとくに、気を使います。そんなとき、自然解凍で食べられる冷凍食品は力強い味方。冷凍食品メーカー各社が販売し、保冷剤代わりに弁当に入れる人も少なくないでしょう。

でも、それを真似して、「自家製冷凍食品」を弁当箱にそのまま入れるのはダメ。食中毒の原因となります。レシピサイトや個人のブログなどで、安くて賢いテクニックとして紹介されていますが、信じてはいけません。あなたの家の台所は、工場に比べてはるかに汚いのです。細菌の性質をよく知り、夏に打ち克つほんものの“賢い弁当術”を身につけましょう。

■市販品は、厳しく衛生管理されている

市販の自然解凍で食べられる弁当用冷凍食品と自家製の大きな違いは、細菌の数です。市販品は、社団法人日本冷凍食品協会が2007年に定めた「一般家庭向け弁当用自然解凍調理冷凍食品等の製造・販売に係わる取扱要領」と「保存試験実施要領」で、厳しい衛生管理を定められています。

弁当に入れて時間がたった後に食べることを想定し、35度で9時間保存した後の細菌数が、冷凍食品1gあたり10万個以下、大腸菌群は食品0.01gあたり陰性、つまり検出されない、という条件をクリアしないといけません。

ピンとこないかもしれませんが、これはものすごい自主基準です。

■市販品は非常に厳格な基準をクリアしている

たとえば大腸菌は、1個存在すると30℃程度で水分や栄養分などの条件が整っていれば3時間後には500〜4000個程度になるぐらい、細胞の分裂増殖のスピードは速いのです。日本冷凍食品協会の取扱要領は、工場での細菌の混入がほぼ許されない、というレベルの衛生管理を求めています。

食品工場での作業
写真=iStock.com/yalcinsonat1
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yalcinsonat1

そのため、このタイプの冷凍食品を作る工場は、施設内を陽圧にして外から細菌やかびなどの微生物が入らないようにし、さまざまな技術を駆使して微生物汚染を極力防ぐようにしています。また、ヒトは肌などに細菌を持っており全身を作業着で覆っていても汚染源となるおそれがあるので、機械化を推し進めヒトの作業を減らして製造しています。保存料は使っていません。

こうした努力により、細菌に汚染されていない冷凍食品が出来上がり、保冷剤代わりに弁当に入れても条件をクリアし、腐敗や食中毒につながらず安全に食べられます。

■家庭の台所は細菌で汚染されている

一方、自家製冷凍食品の調理環境はどうでしょうか?

花王が家庭の台所の調査結果を「トイレより汚い⁉キッチンは菌でいっぱい」と紹介しています。同社の拭き取り調査で、シンクのふちや手拭きタオルは、6割以上の家庭で10万個以上の菌が検出され、調理台も17%の家庭は同様に10万個以上の菌が検出されたことを明らかにしています。

四国大学の研究者の一般家庭を対象とした使用後のふきん調査でも、台ふきんは10センチ角の面積あたり、細菌が1000万個以上いることがわかりました。かびも同程度でした。つまり、台所は細菌やかびだらけで、ふきんにもそれらが付いている、ということなのです。

■自家製に食中毒のリスク

家庭の台所では、生の肉や魚、野菜などさまざまな食品を調理します。それらは自然のものなので細菌が一定数いて当たり前。工場のような細菌を防ぐ装置もなく、洗うときの水はねなども起こり、台所はどうしても細菌に汚染されます。

そんな場所で、菌が付いているヒトが調理をするのです。どんなに清潔そうに見えても、家庭での料理は設備のよい工場の食品に比べ汚いのです。でも、家庭では調理からあまり長い時間を経ずに食べることにより細菌は増殖しておらず、食中毒リスクは抑えられます。

台所で調理したものを冷凍する自家製冷凍食品も、加熱調理をした段階では殺菌できても、容器に小分けして冷凍する段階で細菌が付いてしまい、細菌汚染を避けられません。冷凍しても細菌は死にません。解凍され温度が上がると増殖が始まります。生ぬるい弁当箱の中で食べるまでの数時間の間に食中毒菌が大増殖していたら……これは危険です。

微生物学の専門家で食品安全委員会委員長の山本茂貴先生は「家庭での調理による食中毒は届け出が少ないだけで、実際には把握している以上の被害が出ていると推定されています。家庭でも十分に気をつけてほしい」と話します。

■冷凍食品のパッケージの表示に注意

なお、冷凍食品の中には、加熱して食べることを前提とした冷凍食品も数多くあり、自然解凍で食べられる弁当用冷凍食品よりは少し緩いルールで作られているものが多くなっています。食べる前にきちんと加熱することでおいしく、安全に食べられる食品です。

したがって、加熱が必要な冷凍食品も、弁当にそのまま入れてはだめ。加熱調理用の冷凍しゅうまいや唐揚げをポンと弁当に入れていませんか? 冷凍食品のパッケージには、加熱が必要なのか自然解凍で食べられるか、明記されていますので、表示をよく読んで、加熱が必要な場合は表示されている方法で火を通してから弁当に詰めましょう。

【図表1】冷凍食品の一括表示欄の例
筆者提供
自然解凍で食べられる冷凍食品は大抵、表面に大きく「自然解凍OK」「自然解凍調理が可能です」「自然解凍でもおいしく召し上がれます」などと表示されている。裏面や側面の一括表示欄の「加熱調理の必要性」の項目を見ると、加熱せず自然解凍で食べられるかどうか判断できる - 筆者提供

■自家製冷凍食品は全部ダメ?

弁当の衛生管理Q&A

春先以降のお弁当の衛生管理には、多くの人がさまざまな不安や疑問を抱いているようです。それらについても今回、山本先生に聞きました。

【Q】自家製冷凍食品は全部ダメですか? 電子レンジで温めてからお弁当に入れるのはどうでしょうか?

【A】自家製冷凍食品でも、中までしっかり加熱して殺菌できた直後なら、お弁当に入れても大丈夫です。冷蔵していたお惣菜も同じ。弁当箱に入れる直前にしっかり加熱し、殺菌してください。お弁当は、詰めたら急いで冷やして、それからふたをして、保冷剤を添えて運んでください。ごはんやおかずに少し菌が付いていたとしても、急いで冷やすことで細菌が増殖しやすい温度帯が短くなり細菌の数が少なくなって、食中毒になるのを防げます。

電子レンジで食品を加熱する人
写真=iStock.com/AndreyPopov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AndreyPopov

【Q】市販の一口ゼリーを冷凍して、保冷剤代わりにおかずの間に入れています。これは大丈夫ですか?

【A】市販品なら、ゼリーの中身は殺菌されています。でも、ゼリーの容器を冷凍する時に、あなたが触ることにより容器の外側に細菌が付きますし、調理台の細菌がうつるかも。冷凍した時に周りの食品からの汚染も起きるかもしれません。それを、ほかのおかずの間に入れて保冷剤代わりにしたら、おかずに細菌がうつり生ぬるい温度でやっぱり細菌が増殖する可能性があります。私はお勧めしませんね。

■果物ゼリーも食中毒の危険性がある

【Q】みかんゼリーを家で作って小型容器に入れて冷凍し、それをそのまま弁当箱の上に載せて保冷剤代わりに、というのがレシピサイトに載っていました。ほかのおかずに接するわけではないし、ゼリーも解凍されてほどよく冷たくて、デザートでおいしく食べられます。こんな食べ方は安全上、問題はありませんか?

【A】自家製みかんゼリーは細菌の管理ができていません。自然解凍後の温度によっては時間がたつと細菌が増殖します。みかんゼリーの大きさにもよりますが、保冷剤としての効果も十分とは言えず、お弁当の中で細菌が増殖する可能性があります。やはり、お勧めできません。

■電子レンジを過信してはいけない

【Q】私は、前の日の晩におかずを全部弁当箱に詰めて、冷蔵庫に入れています。朝、ふたを空けずにそれを持って出勤し、食べる前に電子レンジで温めて食べています。こんなやり方も危ないですか?

【A】殺菌するには、食品の中心部が75度で1分以上になるように加熱する必要がありますが、さまざまな食材が入っている弁当は加熱ムラが起こりやすく、この条件を満たせないかもしれません。

それに、細菌の中には、生きたままヒトの体の中に入って増えるタイプのほか、食品中で増殖する際に毒素を作っているものがあります。電子レンジでまんべんなく加熱すれば殺菌はできるかもしれませんが、毒素は加熱では無害化できません。

前の晩に作り、それを昼に食べるというのは、細菌が増殖できる時間が長いということ。市販弁当の多くは、細菌汚染や増殖を防ぐ手立てを講じたうえで、おいしく食べるために電子レンジで温める仕組みです。家庭では細菌対策は難しく、電子レンジでの加熱殺菌も不十分なのですから、やっぱり、朝にしっかり加熱殺菌して急冷して、という基本を守ることをお勧めします。

市販の弁当を表示通り、電子レンジで500W、1分45秒加熱した。加熱ムラがあり、白飯、おかずともに40~60度程度の温度上昇にとどまった
市販の弁当を表示通り、電子レンジで500W、1分45秒加熱した。加熱ムラがあり、白飯、おかずともに40~60度程度の温度上昇にとどまった(出典=食品安全委員会「加熱調理の科学的情報の解析及び画像の開発」)

■おにぎりは素手で握ってはいけない

【Q】おにぎりは素手で握ってはいけない、とよく聞きます。心配しすぎのように思うのですが。

黄色ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌(出典=食品安全委員会)

【A】人の手、とくに切り傷にはよく、「黄色ブドウ球菌」がいます。黄色ブドウ球菌が先ほど説明した毒素を産生する菌なのです。熱いご飯を素手で握ってもし、黄色ブドウ球菌が付いてしまったら、増殖して毒素を作り食中毒につながります。おにぎりはラップや手袋を使って握ってください。

細菌による食中毒を防ぐ3原則は「付けない」「増やさない」「やっつける」です。自然解凍で食べられる弁当用の市販冷凍食品は、細菌を「付けない」条件をクリアし、弁当を低い温度に保つ、という点で「増やさない」に貢献しています。細菌の科学を理解し、お弁当を安全に食べましょう。

(本稿は、所属する組織の見解ではなく、ジャーナリスト個人としての取材、見解に基づきます)

〈参考文献〉
日本冷凍食品協会・自然解凍冷凍食品
東京都食品安全FAQ・弁当用そうざいの冷凍食品を冷凍のまま弁当に入れても大丈夫ですか?
花王・[くらしの現場レポート]家族の健康を守るため キッチンの意外な汚れに注意!
岡崎貴世,台ふきんと食器用ふきんの微生物汚染状況;四国大学紀要,B42:13-16,2015
西野由香里ら,都内で販売されている自然解凍冷凍食品の細菌学的調査;東京都健康安全研究センター年報,71:147-152,2020
内閣府食品安全委員会オフィシャルブログ
食品安全委員会調査事業報告書「加熱調理の科学的情報の解析及び画像の開発」

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松永 和紀(まつなが・わき)
科学ジャーナリスト
京都大学大学院農学研究科修士課程修了。毎日新聞社の記者を経て独立。食品の安全性や環境影響等を主な専門領域として、執筆や講演活動などを続けている。主な著書は『ゲノム編集食品が変える食の未来』(ウェッジ)、『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書、科学ジャーナリスト賞受賞)など。2021年7月より内閣府食品安全委員会委員(非常勤、リスクコミュニケーション担当)。

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(科学ジャーナリスト 松永 和紀)

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