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「みんな仲良し」を目指すべきではない…日本の学校の「集団生活」がイジメを生んでしまう根本原因

プレジデントオンライン / 2023年5月16日 15時15分

出典=『学校というブラック企業』

なぜ日本の学校ではイジメなどのトラブルがなくならないのか。元公立中学校教師ののぶさんは「『みんな仲良し』を目指すからトラブルになる。大切なのは合わない人との適切な距離感を教えること。みんなを仲良しにしなくても、温かい雰囲気のクラスは作れる」という――。

※本稿は、のぶ『学校というブラック企業』(創元社)の一部を再編集したものです。

■時代錯誤な「こうあるべき」から脱けられない

「学校で教えられる価値観が、昭和から変わっていなくて残念」。

私のツイートに多く寄せられるコメントだ。今の親世代が「私が学生時代に受けた指導だ!」「まだ同じことやっているの? 何時代?」と驚愕の声を上げる、古くてブラックな価値観に基づいた指導が、今も学校で続いている。

いくつか例を挙げてみる。

・休まない子が立派→皆勤賞が表彰される。休むと入試に不利だと脅される。
・自己犠牲が美徳→苦しくてもみんな頑張っているから、お前も我慢しろと言われる。
・長く継続を推奨→部活など、一度始めたことは嫌でもやめることが許されない。
・つらくても我慢→どんなにつらくなっても、逃げることを責められる。
・集団に従うのが正義→見た目、行動でみんな一緒を求められる。同調圧力。
・どんなルールも厳守→教師も理由が説明できない校則、決まりを守らせる。
・競争するために勉強→テスト、入試が目的の一斉授業。
・みんな友達→誰とでも仲良くすることを強いられる。
・連帯責任→一人のミスで、全員が罰を受ける。子ども同士で互いに見張らせる。

ご自身の学生時代を思い出して、おかしいと感じていた指導はあるだろうか。

前述した内容が全て悪い指導だと言うつもりはない。ただ、どの指導も一長一短があり、全ての子どもに当てはまる適切な指導とは言えない。子どもの特性を見分けて使い分ける必要があるのだが、その柔軟性を持ち合わせている教師が少ないように感じる。古くから学校にある文化や、「こうあるべき」という理想の子ども像から脱却できない人は、教師だけでなく保護者、地域の大人にも多い。

■偏った校則がなくならない2つの理由

なぜ、どの学校でも同じような偏った指導が続いているのか。二つの理由が考えられる。

一つは、自分が過去に受けてきた指導や、自分の成功体験のみをもとに指導するからである。親世代が「私が学生時代にあった指導だ」と感じるのは当然で、今の学校で管理職や主任など中心的な役割を担っているのは、他でもない親と同世代の教員たちである。自分が受けてきた指導を、自分なりに実践して成功体験を積んできた人たちは、価値観を簡単に変えられない。

もう一つは、管理する方にとって都合がいい指導だからである。言われたことに疑問をもたない、指示通りに動く、つらい環境でも逃げない。聞いただけでも管理しやすいと分かる人間だ。多くの子どもを一斉に管理し、教育する必要があった学校と、従順に長く勤めてくれる人材がほしかった企業。昔は需要と供給が一致していたが、今は自ら考えて行動する人材が求められる中、学校の指導方針も変更を迫られている。

だから本稿では、今まで学校で当たり前とされていた価値観や指導方針の問題点を具体例を交えて明らかにし、今後の学校がブラックな指導から脱却するために必要な考え方を述べていきたい。

One Point
全ての子どもに当てはまる適切な指導はない。
どんな指導法も一つの成功事例にとらわれず、子どもの特性を見分けて柔軟に使い分ける必要がある。
「みんな仲良し」は幻想
出典=『学校というブラック企業』

■「みんな仲良し」を目指すからトラブルになる

「みんなが仲良しのクラス」という目標は、担任として立てやすい。仲間外れになる子や一人ぼっちになる子がいなくて、みんなが仲良く活動できるクラスは理想的で、全ての学級がそうであってほしいと思う。

ただ現実はそううまくいかない。年齢が上がるにつれて子どもたちの自我が発達し、価値観が合う子、合わない子が顕著になってくる。異性を意識するようにもなる。これはごく当たり前の成長で、特段気にする必要もないのだが、それでも「みんな仲良しクラス」を目指す担任がいるとトラブルが起こる。

例を二つ挙げる。

一つ目は、ケンカが絶えない子ども同士でも仲直りさせようとすることだ。

お互いに相性が悪く、一緒にいることでトラブルになる二人がいたとする。普段から距離を取らせておけばトラブルが防げるのに、みんな仲良しという目標があると実現できなくなる。問題が起こるたびに、教師は仲直りさせようと努力する。これは当事者の二人も、振り回される周りの子もストレスだ。

性格が合わないのは本人たちがよく分かっている。合わない人との適切な距離感を教える方が、クラス内の人間関係を良好に保つことにつながるのだ。

■そもそも「1人でいること」は悪いことではない

二つ目は、「一人で過ごすのが悪い」という空気が生まれることだ。

みんなが仲良くなるために「教室に一人でいる子をなくそう」「みんな一緒に外で遊ぼう」などのキャンペーン活動をやる担任がいる。これは遊びの輪に入りたいけど、入れないで悩んでいる子に対する手立てとしては正しい。ただ、一人でゆっくり過ごしたい子には迷惑だ。一人でいることはダメ、みんなと遊ぶのはいい。こんな価値観が集団にできて、一人でいることが悪いと思われてしまう。すると一人にならないように、グループ意識が強くなったり、一人でいる子がいじめの対象になったりする危険性が出てくる。

みんなが仲良く過ごしている様子だけにとらわれると失敗する。個々の子どもが自分らしく過ごせる環境が最優先なのだ。

「みんな仲良しクラス」が危ういとしたら、どんなクラスを目指せばよいのか。

■目指すべきは「互いの存在を否定しない環境」

私は「誰も傷つけないクラス」がいいと考えている。

学級づくりがうまい担任は、子どもの人間関係をうまく交通整理している。気が合う子、合わない子をよく理解し、ぶつかりそうな場合は適切な距離感を教える。みんなで遊ぶのが好きな子、一人で過ごすのが好きな子、いろいろな価値観をもった人がいると伝える。それを四月~六月ごろまでトラブルが起こるたびに継続して指導・助言することで、人間関係の交通整理をするのだ。

もめごとが起きたら、まず生徒から事情を聞いて、今後どうしたらトラブルを避けられるのかを一緒に考える。その中で、相手との関わり方を助言する。遊ぶグループを変えることや、授業以外ではあまり関わらないことを提案する。

子どもたちがお互いの特性を理解して、関わり方が分かれば、その後はみんなが自分らしく、傷つけ合うことなく、安心して過ごせるクラスに変化を遂げる。互いの存在を否定しない環境は、いじめを防ぐことにもつながる。みんなを仲良しにしなくても、温かい雰囲気のクラスは作れるのだ。

One Point
みんな仲良しクラスは目指さない。目指すべきは、誰も傷つけないクラス。適切な人との距離感を教える。これなら実現できる。
「みんな一緒」の弊害
出典=『学校というブラック企業』

■「協調性=集団に合わせること」ではない

子どもたちが集団生活で学ぶ意義は大きい。

学校で集団生活を送ることで、コミュニケーション能力などの協調性を身に付けられる。集団の中で自分はどのように立ち振る舞えばよいのか、どうすれば自分の能力を最大限発揮できるのかなど、将来職場のチームで働く上で大切なスキルが学べる。

ただし、これらを学ぶ意義を最大化するには、集団の中に個性を大切にし、尊重する文化が必要である。一つの集団の中に考え方や文化の違いがあってこそ、コミュニケーションの重要性が分かるのだ。

しかし、日本の学校は個性や違いを嫌う傾向にある。学校生活にはたくさんの規則があって、見た目、行動、勉強内容、勉強時間まで、みんな一緒を求められる。「集団に合わせる」ことが、集団生活で学ぶべき価値だと言わんばかりだ。この考えには真っ向から反対したい。

みんな一緒を求めることの大きな弊害が二つある。

■個性を潰す方向に向かってしまう

一つは、教師の意識が「集団に合わない個性をどうなくすか」に向かうことだ。

みんな一緒を実現するには、集団をそろえるための基準が必要となる。教師によって指導に差が出ないように、統一した基準が作られる。そして、基準が作られると集団を統一することが目的となり、教師の意識は「集団に合わない個性をどうなくすか」に向かうのだ。

その最たる例が「校則」である。先にも述べたように、校則はルールの意味よりも、集団を統一することが目的になっている。みんなが同じ見た目にそろうように、膨大な労力をかけて指導する。子どもは自分の個性よりも、周りに合わせることを優先するようになり、自己主張が苦手になる。それにもかかわらず、社会に出ると「自分で考えてやりたいことをやれ」と言われるから無茶苦茶だ。何でもかんでも統一して、個性を潰す教育に未来はない。

■空気が読めない子が排除される

もう一つは、集団に合わせられない子が排除されることだ。

「空気が読めない子」と言われる、集団に合わせるのが苦手な子がいる。私はこの「空気が読めない」という言葉が嫌いだ。理由は、この「空気」とは集団の中でも一部の影響力がある人間、もしくは多数派のグループが作り出したものであり、読むほどの価値がないからである。

例えば、学級でレクリエーションの内容を話し合うとする。内容が多数決で鬼ごっこに決まったら、当然鬼ごっこをやりたい子たちは全力で楽しむ。だが、走るのが苦手な子は参加こそするけど、心から楽しめないかもしれない。それなのに多数派からは「あいつはノリが悪い」「空気が読めないやつだ」と言われてしまう。それがいじめの原因にもなる。

「みんな一緒」を教師が強く訴えれば訴えるほど、周りに合わせるのが苦手な子を排除する空気が教室に充満していくのだ。

One Point
集団生活で学ばせたいことは、空気を読んで嫌なことを我慢する力ではなく、自分の気持ちを相手にうまく伝える力である。
休まない子が立派なのか?
出典=『学校というブラック企業』

■「休まないこと」が立派なのか

日本は世界と比較して、会社員の有給休暇の取得日数が少ない。厚生労働省の調査によると、休みにくい最多の理由は「みんなに迷惑がかかると感じるから」。自分が休んだら誰かに負担がいってしまう。お互いに気を遣って休めない。みんなが休めればお互い様だと思うのだが、休みにくい空気が漂っている。

この原因とまでは断言できないが、「休まない子が立派」という文化は学校生活で培かわれる。欠席日数が高校入試に関係したり、休むと授業に付いていけなくなったりする。皆勤賞が表彰され、休まない子が先生から認められると、休みにくい雰囲気ができる。

確かに、休まずに頑張っている子は立派だと思う。でも、それと比較して休んだ子が悪いとか、不利になることは間違っている。休みにくい雰囲気が助長されて、子どもを追い込んでしまう危険がある。

■皆勤賞なんて必要ない

例えば、悩みごとを抱えている子が、思い切って親に「今日は休みたい」と伝えたとする。聞いた親は驚くだろうが、頭の中に「学校を休むと不利になる」という意識があると「もう少し頑張ってみたら」と説得してしまう。勇気を振り絞って相談したのに、休ませてもらえなかった子どもは、逃げ道をなくす。

実際に同じような例で、一時的に不登校になったり、いじめの発覚が遅れたりすることがあった。休みにくい雰囲気が子どもと親の余裕を奪い、子どものヘルプのサインを見逃すことにつながる。子どもも親も休みやすい環境があれば、話を聞いてあげる余裕が生まれるのではないだろうか。

そのためには、休むことに対して、学校側のスタンスを変えることが重要である。

まず、皆勤賞なんて必要ない。むしろ大人と同じように、年五日ほど自由に取れる休暇があってもいい。自分で休むタイミングを考えられることも大切な力だ。休む理由だって、体調不良である必要はない。家族旅行で休む子がいてもいい。平日にしか親が休めない家庭もあるのだから、周りがとやかく言うのもおかしい。

■苦しいときは休んでいい

次に入試への影響の度合いは、自治体や受ける学校によって違う。私立の入試や推薦入試の場合には、欠席日数が影響することも多いが、年数日休んでも影響がない場合がほとんどである。詳しいことは、各校の募集要項に書いてある。不安に思う親を減らすために、学校が正しい知識を伝えるべきだ。

のぶ『学校というブラック企業』(創元社)
のぶ『学校というブラック企業』(創元社)

最後に授業について述べる。学校の授業はみんなで同じ内容を同じ時間に学ぶので、一日休めば授業が先に進んで、周りと差が生まれてしまう。これが休みにくい理由になっていた。ただ、今はタブレット端末が一人一台配られ、授業の様子をデータで残せるようになった。学習ドリルや動画で後から学び直すこともできる。無料のコンテンツも多くウェブ上にある。休んだ日の授業を補う方法がいくらでもあるので、昔よりも休んだ子への支援ができるはずだ。

休むことは、心身の健康に大切な時間だ。「休まずに無理して心が折れると、立ち直るのに数年かかる」ことは忘れないでほしい。

One Point
「苦しいときは休んでいい」という選択肢があるだけで、安心できる子がいる。大人が子どもから「休む」という選択肢を奪ってはいけない。

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のぶ 元公立中学校教師
高校時代に校則がない学校で過ごした経験から、見た目をしばる校則に対して疑問をもち、改善するために行動してきた。8年間生徒会の担当として、いじめのない学校づくりを目指す取り組みを続ける。いじめ加害者の別室指導や出席停止も経験した。妻の妊娠、出産をきっかけに、自分の働き方を大きく改革。学級担任、部活動顧問、生徒会担当、生徒指導担当を掛け持ちしながら、「学校で一番早く帰る」をモットーに行動。独身時代は残業時間150時間を軽く超えていたが、月30時間程度に縮小させた。退職後、本格的に始めたツイッターでは、学校のモヤモヤ代弁者として、理不尽な指導や文化を中心に発信中。現在のフォロワー数は4万人を超える。DMには学校のいじめ指導に悩む保護者から、数多くの質問が寄せられている。地方ラジオ出演、テレビの取材やインタビュー出演、ニュース記事の取材など、メディアにも数多く取り上げられた。現在はIT企業に転職して、学校のDX化を提案している。二児の父。

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(元公立中学校教師 のぶ)

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