ワインの乾杯は軽く持ち上げるのが正式…それでもグラスを鳴らそうとしてくる相手への「超一流の対応」
プレジデントオンライン / 2023年5月18日 15時15分
※本稿は、小倉朋子『世界のビジネスエリートが身につけている教養としてのテーブルマナー』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■ワイングラスは右手で持って、アゴを連動させてはいけない
ワインを注いでもらうときは、必ず、ワイングラスはテーブルに置いたままです。
和食の席でビールや日本酒を注いでもらうときは、「ありがとうございます」の気持ちで盃やグラスを持ち上げますね。お店の人が注いでくれる場合もありますが、和食の文化では自分たちで「差しつ差されつ」というのが主流です。
しかしフランス料理は違います。「サーブする側」「サーブされる側」という階級のもと、マナーが確立されました。ワインを注いでもらうときに、こちらからワイングラスを持ち上げるような真似はしません。
階級というと旧時代的に思えるかもしれませんが、古来、先人たちが確立してきたマナーは、今もこうして守られているというわけです。
ちなみに、ワイングラスは香りや味わいの特徴によって使い分けますが、ソムリエの判断で適切なグラスに注がれるので、お任せして大丈夫です。
ただ注がれるままに飲むよりは、どういうワインだとどのグラスに注がれるのかを観察したり、ソムリエに聞いてみたりすると、食の楽しみがいっそう広がるでしょう。
![グラスは右手で持って、右側に戻す](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/6/1200wm/img_c6ba93b2f683b14f2f22f2bd21068e53249162.jpg)
ワイングラスの持ち方は、2種類あります。
①ボウル下部(丸い部分)を指先で支え、軽く包み込むようにする
②ステム(脚の部分)を親指、人差し指、中指で軽くつまみ、ほかの指は軽く添える
世界的には一般的なのは①です。
日本では、②の持ち方を正しいと感じている人も多いのですが、実は、各国の国賓クラスの方々の晩餐会は①が主流です。
ワインを飲むとき、ワイングラスを傾けるのと同時にアゴも一緒にグイーッと上げてしまうと、ワインを呷って飲み干しているような、はしたない印象になります。
アゴを連動させなくとも、グラスを傾ければ最後まで飲めます。せいぜい顔が少し上を向くくらいで、「傾けるのはワイングラスだけ」と心得ておきましょう。
■ワインのテイスティングは店と客との信頼の儀式
ボトルワインを選ぶと、必ず、ホストのグラスにほんの少しだけ注ぐ「テイスティング」があります。
テイスティングといっても、「好き・嫌い」を見極めるためではなく、「品質が悪くなっていないかどうか」を確かめるためのものです。万が一にもカビ臭いなどの異変を感じない限りは、「これでお願いします」という流れになります。
ちなみに、ホストがテイスティングして「OK」となったら、ソムリエは、まずゲストのグラスに注いでから、ホストのグラスに注ぎます。ホストがテイスティングするのは確認のためであって、あくまでも優先されるのはゲストというわけです。
自分がテイスティングする立場になっても、何も緊張する必要はありません。「品質の確認のため」とはいえ、たいていは間違いないものが出されるはずなので、ワインを楽しむための1つの通過儀礼と考えて、堂々と振る舞いましょう。
■「乾杯」の一番の心得は「顔」である
ワイングラスは繊細です。乾杯ではグラスをカチンと合わせず、自分の胸の高さくらいまで軽く持ち上げるのが正式です。
ここで私が何よりも重視しているのは、表情です。乾杯は、「食べましょう」の合図ではなく、心の表現です。相手とちゃんと目を合わせ、ニッコリ笑ってグラスを持ち上げる。
こうして「おめでとう」「集まれてうれしい」「お会いできて光栄です」などの気持ちを通わせることを一番に考えてください。
場合によっては、グラスを鳴らそうとグイグイ差し出してくる人もいるかもしれません。そこで頑なに拒否するのは無粋というもの。相手の気持ちを汲みましょう。グラスを傷つけないように気をつけながら、そっと合わせればよいでしょう。
■平皿の上の芸術・盛り付けを愛でる
フランス料理は、平皿の上に描かれた芸術作品といってもいいくらい、盛り付けの美しい料理です。
料理が運ばれてきたら、まず、そんな盛り付けを目で存分に楽しみましょう。ただし、テーブルに置かれた平皿を上から眺めるだけです。決して、平皿をうやうやしく持ち上げて眺めたりしないでください。
格式のあるお店では見ませんが、ボウル状の小器でサラダが出されたときなども、ついお茶碗と同じ感覚で持ち上げたくなるかもしれません。でも、西洋料理は器を持ち上げて食べません。
持ち上げていいのは、ワイングラス、コーヒーカップ、ティーカップといった飲みものの容器だけと心得ておきましょう。また、料理の器でも、例外としてスープが取っ手のついたカップで出された場合は、持ち上げてかまいません。
■ソースを余らせないよう、計算しながら食べる
フランス料理は「ソースを楽しむ料理」ともいわれます。まさしく料理ごとに趣向を凝らしたソースは、肉や魚の単なる引き立て役ではありません。ソースには、そのお店の思想や哲学が表れているといっても過言ではないのです。
それだけに、ソースを堪能するのも、フランス料理のマナーの1つです。
ここでも重要なのは「戦略」です。肉や魚を食べ終えたときにソースがたっぷり残っていた……ということにならないよう、お皿の全体を見渡し、ソースの量を勘定に入れつつ、一切れごとに絡めながら食べていきましょう。
ただ、その一点に集中するあまり、会話がおろそかにならないよう注意してください。
■中座するなら、デザートの前がベストタイミング
会食中はなるべく中座しないほうがよいですが、やむを得ず化粧室に立つなら、デザートの前まで待ちます。
![小倉朋子『世界のビジネスエリートが身につけている教養としてのテーブルマナー』(SBクリエイティブ)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/f/1200wm/img_ef08c0aedd31e61f7eb07d5102f5116b272321.jpg)
英語の「デザート」の元であるフランス語の「デセール」には「食卓を片づける」という意味があり、文字どおり、すべてのものが下げられてテーブルの上は水だけになります。
つまり、デザートの前は、「ひととおり料理は出し終えたので、いったんすべて下げてテーブルの上をクリアにしますね」という時間帯。いわばデザートまでの幕間、小休止ということなので、中座するならベストタイミングといえるのです。
これはフランス料理だけでなく、懐石でも同様です。なるべく中座しないほうがいいというのも同じなのですが、どうしてもその必要が生じた場合は、すべての料理を食べ終え、お菓子と濃茶が出されるまでの間に行きましょう。
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フードプロデューサー
青山学院大学文学部卒業。トヨタ自動車(株)広報、国際会議運営ディレクター、海外留学を経て、現職。企業や飲食店への事業提案、メニュー開発、一連のフードプロデュースのほか、諸外国のテーブルマナーと食文化を主に総合的に“食”を学ぶ教室「食輝塾」を主宰。食環境と心の大切さを柱に、食事作法のほか、動向分析、伝統食からトレンド情報、食育など専門は幅広い。亜細亜大学、戸板女子短期大学講師。東京食育推進ネットワーク幹事。著書に『グルメ以前の食事作法の常識』(講談社)など多数。
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(フードプロデューサー 小倉 朋子)
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