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なぜ軽自動車なのに「デリカ」なのか…あざとかわいい「デリカミニ」の裏にある三菱自動車のかつてない危機感

プレジデントオンライン / 2023年5月18日 11時15分

筆者撮影

三菱自動車は5月25日に、新型軽自動車「デリカミニ」を発売する。自動車評論家の小沢コージさんは「正確には新型車ではなく、2020年発売の『eKクロス スペース』のマイナーチェンジ版だ。受注は好評で、狙いは当たったが、『デリカしか武器がない』という現実を示しているともいえる」という――。

■絶対王者N-BOXとの違い

「そうか……この手があったか!」

見るなりそう思わされたのが5月25日発売予定の三菱「デリカミニ」です。4カ月以上も早い1月13日から予約を開始し、4月頭には月間販売目標台数2500台をはるかに上回る受注9000台を突破。

成功の秘密は年始の東京オートサロンで実車公開、同日始めた早期受注戦略はもちろん、独特のあざといデザイン戦略にあります。ありそうでなかった仏頂面キュートフェイスです。

全高1.7m超えのボディや両側スライドドアを見ればわかるように、ジャンル的には流行りの軽スーパーハイトワゴン。今や国民車ともいえる6年連続国内最多販売のホンダ「N-BOX」と同じであり、それを求めるお客は相当います。

しかし見るからにN-BOXと同じ匂いがしないのです。N-BOXがIKEAやニトリに置いてあるシンプルなクリーン家具としたら、デリカミニはアウトドアショップやオモチャ売り場に置いてあってもおかしくないガジェット系。ふたつの車は毛色が異なっており、ターゲットの違いを感じます。

■狙いはアウトドア志向の女性

主なポイントはフェイスデザインと訴求するアースなボディカラーです。一見「デリカミニ」の車名から、三菱伝統の四駆ミニバン「デリカスターワゴン」や「デリカD:5」の弟分のように見えます。しかし、そこに三菱らしいひとヒネリが加えられているのです。

「具体的にデリカと同じモチーフを入れている部分はありません。バンパーにせよライトにせよ全然違います」(三菱 デザイン本部 プログラムデザインダイレクター・松岡亮介氏)と言うように漠然とデリカ的イメージを感じさせつつディテールは別物。

デリカスターワゴンはラリー競技で知られる三菱らしく、屈強な鉄パイプのガードや古典的丸目フォグランプが印象的でしたが、デリカミニはガード風の樹脂プロテクターでたくましさを主張しつつ、丸目ではなく半丸目LEDヘッドライトでキャラクター性を表現。寝ぼけまなこのかつてないワイルド&キュート路線で女性ユーザーを狙っています。

N-BOXが標準ボディで女性を、N-BOXカスタムで男性ユーザーを狙い、他のSUV風スーパーハイトが主に男性を中心に狙っているとしたら、デリカミニは微妙に女性寄りを狙っている可能性があります。それもアウトドア志向のイマドキな女性を。

事実、独特の仏頂面キュートマスクは他にないインパクトがあり、TVCMで流れるキャンディーズの「年下の男の子」の替え歌からも狙いが透けて見えます。

いま軽スーパーハイトは5年前のスズキ「スペーシア ギア」に続き、昨年ダイハツ「タント ファンクロス」が登場し、SUVデザインが流行りかけていますが、キュートさはさほど感じませんでした。それこそがデリカミニの狙い目なのです。

リアスライドドアはキック動作で開けられる
リアスライドドアはキック動作で開けられる

■軽とは思えない本格的な四駆の足回り

新型デリカミニが凄いのはFFと4WDが選べるだけでなく、後者の4WDタイプには軽のジャンルにはなかった四駆専用の足回りを用意していることです。

といっても本格SUVのように最低地上高を200mmなどにはせず、最低限レベルではありますが、4WDモデルに限り他のスーパーハイトワゴンにはない165/60R15サイズの大口径タイヤを使い、車高を10mmほどアップ。微妙ではありますがデコボコ悪路で前後バンパーが地面に擦れにくいようアプローチアングルやデパーチャーアングルという数字も変わっています。

同時に悪路用に開発した4WD専用ショックアブソーバーを備え、駆動力制御のグリップコントロールや下り坂で安心のヒルディセントコントロールも標準装備しています。日常生活シーンが多い軽スーパーハイトなので、極端に悪路を考えたハードな走りにはなっていませんが、このあたりはアウトドアシーンに強い三菱の面目躍如。N-BOXはもちろん、競合SUV風ワゴンに対するアドバンテージを感じさせます。

■パワーも燃費も問題なし

同時にボディカラーは前述したアース系のメタリックが選べますし、他のSUV風スーパーハイト同様ブラックのルーフレールやグレーのガード風バンパー類を採用。

インテリアはブラックを基調としたワイルドなもので、シート表皮には汚れや水に強い撥水加工が施され、あえて凸凹ワイルド感のあるテクスチャーを使用しています。

ブラックを基調としたインストルメントパネルに、ホワイトのカップホルダーが映える
筆者撮影
ブラックを基調としたインストルメントパネルに、ホワイトのカップホルダーが映える - 筆者撮影

スペースは厳密にはよりホイールベースの長いN-BOXに負けますが十分。リアシートスライドも付いており、多人数が乗る時はヒト優先、荷物が多い時は荷物優先にもできます。

さらに52psのノーマルエンジンと64psのターボエンジンを選ぶことができ、全車マイルドハイブリッド付き。パワー的にも燃費的にも過不足なし。N-BOXを超えることはありませんが、不満はでないはずです。非常に計算しつくされた出来栄えなのです。

後部座席は広々としていて余裕がある
筆者撮影
後部座席は広々としていて余裕がある - 筆者撮影

■透けて見える三菱の危機感

という具合に一見、遊び心から生まれたような新型デリカミニですが裏を返せば、かなりの三菱自動車の危機感が垣間見えます。なぜならこのモデルは明らかに突発的に生まれているからです。

実はデリカミニは完全なる新車ではありません。デリカミニのベースになったのは2020年発売の「eKクロス スペース」であり、ある意味、そのビッグマイナーチェンジ版であり、イメチェンのあまり車名まで変えてしまったわけです。かなり例外的に。

eKクロス スペース
写真提供=三菱自動車
2020年に発売された軽スーパーハイトワゴン「eKクロス スペース」 - 写真提供=三菱自動車

本来的にはeKクロススペースを6年ぐらいは作り続ける予定だったはずです。いくら日産「ルークス」との共同開発(両車は日産と三菱自動車の合弁会社NMKVによって商品企画や開発が行われ、三菱自動車水島製作所において生産)とはいえ、たった2年では開発費は回収できません。

eKクロススペースは2022年にeKシリーズ全体で2万7000台ほど売れています。月販平均ではおそらく単独1000台ほどでしょう。三菱としては売れているほうですが、最強の競合車であるN-BOXが多い月には2万台前後を販売していることを考えると少なすぎたのです。

よって異例に早い大リニューアルを行うことになったと思われます。歴史ある「デリカ」の名にかけて。

■もはやデリカしかない

かつて三菱には本格クロカン4WDの「パジェロ」、世界ラリー選手権用の「ランサーエボリューション」といった80~90年代のRVブーム、四駆ブームを象徴するワイルドなモデルがありました。しかし、今やどちらもなく、三菱らしさであり、独自のアウトドア性能を象徴するブランドはデリカしかありません。

デリカは今から55年前の1968年に初代デリカトラックとして生まれ、69年にワンボックスのデリカコーチが誕生、1982年から世にもまれな4WD仕様も選べるワンボックス・ミニバン系として貴重なブランドを築いてきました。

デリカはある意味、三菱が出したとっておきの手なのです。三菱には根強いアウトドアファンがいますが、彼らに訴求する今の武器は「デリカ」しかないのです。

事実、困った時のデリカ頼みではないですが、三菱自動車のラインナップには王道四駆ミニバンのデリカD:5の他に、日産NV200バネットベースの小型ミニバン「デリカD:3」と、スズキ・ソリオベースの「デリカD:2」があります。

三菱らしさであり、三菱ブランドをアピールする手法として「デリカ」の名をアレンジするのは実に3度目であり、4車種目なのです。

三菱自動車は、先日の決算において二期連続での好成績を示すことができましたが、その前のコロナ真っ盛りの2021年期は赤字でしたし、今の好調も円安だからこそ。根本的には自動車業界の変革期をどう生き抜くか精一杯のはず。

計算し尽くされた、あざとくも見えるデリカミニのワイルドキュート作戦ではありますが、再び伝家の宝刀であり、禁断の果実に手を出してしまった感もなくはありません。

困った時のデリカ頼みもそう何度は使えません。三菱自動車は抜本的な実力アップに取り組むべき時なのかもしれません。

軽スーパーハイトワゴンとしては優秀な車です
筆者撮影
軽スーパーハイトワゴンとしては優秀な車です - 筆者撮影

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小沢 コージ(おざわ・こーじ)
バラエティ自動車評論家
1966(昭和41)年神奈川県生まれ。青山学院大学卒業後、本田技研工業に就職。退社後「NAVI」編集部を経て、フリーに。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。主な著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)、『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はホンダN-BOX、キャンピングカーナッツRVなど。現在YouTube「KozziTV」も週3~4本配信中。

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(バラエティ自動車評論家 小沢 コージ)

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