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日本人は「なぜ歯磨きをするのか」を勘違いしている…むし歯を防ぐために「食べかすを流す」より重要なこと

プレジデントオンライン / 2023年5月26日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kyonntra

むし歯を防ぐためにはどうすればいいのか。東京医科歯科大学の品田佳世子教授は「日本では『なぜ歯磨きをするのか』と聞いても答えられない人が多い。むし歯や歯周病を防ぐには、歯磨きだけでは不十分であることを知ってほしい」という――。(取材・構成=フリーライター・宮崎智之)(前編/全2回)

■歯の病気は別のさまざまな病気と関係している

――そもそも、なぜ歯の健康が重要なのでしょうか。

歯の病気は、さまざまな病気と関連しています。歯周病は、糖尿病、心臓病、骨粗しょう症、肥満、脳梗塞、誤嚥(ごえん)性肺炎、関節リウマチ、そして近年では認知症との相互関連が指摘されています。健康な歯を維持してきちんと咀嚼できることは全身の健康とも関連してきますし、美味しく食事をして、口臭を気にせず笑顔でお喋りができるかなど、QOL(生活の質)にも影響してきます。

品田佳世子教授
品田佳世子教授(写真提供=東京医科歯科大学)

――むし歯になりやすい人と、そうでない人がいると聞きます。

むし歯や歯周病は「多要因の疾患」と呼ばれています。実にさまざまな要因がミックスされて、むし歯や歯周病になりやすい人と、なりにくい人の差が出てきます。たとえば、食事やストレスといった要因のほか、たばこやアルコールといった生活習慣も関係します。

出産直後より、特に1歳半から2歳半の間に伝播される口腔(こうくう)細菌によってむし歯になりやすくなるなどといった後天的な要因もありますし、その人の歯の感受性や、唾液の量、成分の構成、顎の大きさや歯並び、歯の形など遺伝要素も関係してくることがわかっています。

さらに、アメリカでは「健康格差」が問題になっていて、社会階層、教育、収入といった社会環境要因、知識、態度、習慣といった保健行動要因も、歯の健康に間接的に影響があると言われています。

■国民皆保険のある日本は予防に無頓着

――「健康格差」は日本にもあるのでしょうか。

日本には国民皆保険があるので、健康格差はアメリカに比べると少ないです。だからこそ歯の健康に対する意識が低い部分もあります。予防には力を入れず、歯が悪くなってから歯科にかかる人がほとんどなんですね。アメリカでは自分で保険に入るので、悪くなる前の段階、すなわち予防的に歯科にかかる人が、いわゆる「健康格差」の上の階層にいる人たちには多い傾向があります。

■海外と比べ日本人は「歯の健康」への意識が低い

――たしかに、日本ではむし歯になってから歯科にかかる人がほとんどでしょう。

パナソニックが2013年に30~50代の働く男性に実施した「歯とオーラルケアに関する意識調査」によると、トラブルがなくても通院する割合はアメリカの男性が76%なのに対し、日本の男性は36%になっています。

内訳をさらに詳しく見ると、「ややある(不定期だが行く)」人が23%で、「ある(定期的に行く)」人はたったの13%しか日本にはおらず、ほとんど予防に関心がない状況であることがわかります。また、アメリカの男性の86.5%が「歯を健康に保つためにお金や時間をかけてもいい」と考えているのに対し、日本の男性は42.5%しかそうは考えていないそうです。さらに日本では高収入層にも予防歯科は浸透していません。

――ずいぶん意識が違いますね。

そうなんです。さらに、歯への年間投資金額を見ると、アメリカの男性は平均約3万6000円、日本の男性は平均約6000円との結果も出ています。おおよそ6倍も金額が違っています。

■「日本人の同僚の口が臭いので何とかしてほしい」

同じくパナソニックが2021年に、今度はドイツ、アメリカ、日本の20~69歳の男女に実施したオーラルケアについてのアンケートでは、口臭対策に自信があるドイツ人は79%、アメリカ人は68%であるのに対し、日本人は19%しかいません。

自分の口臭をチェックする男性
写真=iStock.com/Alona Siniehina
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Alona Siniehina

私は「息さわやか外来」という口臭専門の外来で診療をしていたことがあります。日本人同士だとあまり気にしないのかもしれませんが、海外に赴任した日本人が「なんで口臭をケアしないんだ」と言われるケースもあるそうですよ。国際化が進んでいく現代において、口臭のケアはこれから必須のビジネスマナーになるのではないでしょうか。

口臭は歯周疾患が大きな原因になりますので、まずはきちんと治すこととセルフケアを徹底することが大切です。「歯が悪くなったら歯科に行く」ではなく、普段からきちんと意識していかないといけません。

――ビジネスシーンでは「スメルハラスメント」という言葉もあり、体臭ケアに注目が集まっています。最近は、マスクを外す人も増えてきましたし、口臭ケアが気になる人も増えてきそうです。

まさに、そうなっていくでしょう。そのためにも、歯を健康に保つことが重要になるんです。

■「何のために歯磨きをするか」を知っているか

――歯の健康について、セルフケアで心がけるべきことはありますか?

「歯磨きはなんのためにやっている?」と訊かれたら、なんと答えますか?

――清潔のためでしょうか。

そうなると、どこをどう磨くかということではなく、単になんとなく毎日歯磨きをして、さっぱり、すっきりすればいいということですよね。学生にもよく訊くのですけど、そう考えている人はとても多いです。でも、実際にはそれでは駄目なのです。歯垢(プラーク)という言葉を聞いたことがあると思います。歯垢を溜めないことが大切だとよく言われます。

でも、歯垢は歯面に付着する微生物からなる構造物で、つまりこれは食べかすではないのです。食べかすだと勘違いしている人が多いから、歯磨きをして、さっぱり、すっきりすればいいとほとんどの人が考えてしまうのです。

この微生物の塊である歯垢は、ちょっとやそっとでは取れません。よく薬用のマウスウォッシュでゆすげば歯磨きをしなくていいと思っている人もいます。たしかにすっきりはしますが、歯垢のケアにはならないんですね。この歯垢がむし歯や歯周病などの原因となるのです。

■歯磨きは細菌のバリアを壊すため

――食べかすを洗い流して、すっきりするだけでは駄目だということですね。

まさにそうです。かつ、歯垢は口腔のバイオフィルムといわれます。たとえば、台所の流しにぬめりができたりしますよね。それもバイオフィルムの一種です。それと同じで、口腔の細菌はバリアをつくります。細菌がぬくぬくと巣をつくって、外からくる薬液などを浸透させないためのバリアです。ですから、うがいをしても抗菌作用のある薬液がダイレクトに細菌をアタックしづらいのです。細菌たちが自分たちの住処を守っているのです。

歯垢は、歯にしっかりとくっつきますから、やさしい力で細かく歯ブラシの毛先を振動させて歯ブラシの毛先で物理的に擦り取らなければいけません。その時注意するのは、強い力で磨きすぎないこと。磨きすぎる(オーバーブラッシング)と、歯や歯茎を傷めてしまいます。

歯ブラシで歯垢を取るのは完全には難しいですが、とにかくそのバリアをある程度壊してあげないと、どんどん悪い菌が増えてしまい、むし歯や歯周病につながってしまいます。

私が今回どうしても伝えたいのが、ただ歯磨きだけではむし歯を予防できないということなのです。重要なのは、フッ化物を使った歯磨き粉(歯磨き剤)を使うことです。

日本では常識になっていないのですが、世界ではこれが常識になっています。食べたらすぐに歯を磨けばむし歯にならないと思っている人が日本では多く、だから何度も磨けばいいという発想になっている。実際に、歯科疾患実態調査からも、日本人の歯を磨く回数は増えている傾向にあります。口臭予防もありますし、その気持ちはわかるのですが、たくさん磨けばいいというわけではないのです。

(後編に続く)

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品田 佳世子(しなだ・かよこ)
東京医科歯科大学教授
東京医科歯科大学歯学部卒業。歯科医師。歯学博士。専門は口腔保健、口腔衛生学、予防歯科学。

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(東京医科歯科大学教授 品田 佳世子 取材・構成=フリーライター・宮崎智之)

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