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「ほかに男ができたに違いない」…妻から突然、離婚を言い渡される"モラハラ夫"の残念な共通点

プレジデントオンライン / 2023年5月19日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

どういう男性がDVやモラハラをするのか。弁護士の太田啓子さんは「家の外ではまじめで『いい人』な人が多く、決してモンスターではない。彼らに共通するのは、『男性は外で働き、女性は家庭を守るべきである』と思い込んでいる点だ」という――。

※本稿は、村瀬幸浩ら『50歳からの性教育』(河出新書)の一部を再編集したものです。

■妻の固い覚悟を信じようとしない夫

私は弁護士として、離婚事案を多く担当しています。私自身に離婚歴があり、2児を子育て中ということもあってか、妻側からの依頼がほとんどです。

世の中には円満離婚という言葉もあり、お互いが納得したうえで婚姻関係を解消し別々の道を歩んでいく人たちもいますが、協議によってでなく、弁護士に依頼し調停を申し立ててでも離婚したいという人もいて、その場合の決意は軽いものではありません。今後パートナーとして生活をしていくのはむずかしい、いや、もう無理だというものです。

しかも昨日、今日思い立ったことではなく、もう何年も夫婦関係に悩んだ末の決断で、「ネットで弁護士を探し始めたのが2年前で、やっと気持ちが固まりました」と話してくれる人もいます。

しかし、夫はこれを青天の霹靂だと感じます。妻の代理人として私から、これから離婚調停が始まる旨を知らせる手紙を送っても、すぐには信じません。「弁護士がお金ほしさにけしかけたんだろう」「実家の親に吹き込まれたんじゃないか」、果ては「そうか、ほかに男ができたに違いない!」と想像をふくらませていきます。そんな事実はないと伝えても耳を貸そうとせず、妻が離婚を望むはずがないと思い込みます。

■「俺が悪かった」と号泣し、反省と謝罪

しかし目の前には「妻が家を出ていった」という現実があり、自分のなかで整合性をつけるため、なかば無理やりにアナザーストーリーを編み出しているのでしょう。

なかにはアポイントを取らずにいきなり私の事務所を訪れ、「俺が悪かったと、妻に伝えてほしい。悪いところは改めるから帰ってきてほしい」と号泣しながら、反省と謝罪の言葉を繰り返す男性もいます。

弁護士には、クライアントへの報告義務がありますから、「こうおっしゃっていました」とそのまま報告するわけですが、それまでの経過から夫への不信感や恐怖感が強い妻が簡単に気持ちを変えることはありません。ここまで言えば変わってくれるのではないかという期待が何度も裏切られたという経験を経てようやく弁護士に相談するにいたった、という妻の決意の強さは生半可なものではないのです。

■逆切れする夫も、外では普通の「いい人」

それで私が「夫さんがこうおっしゃっていました」と伝えても、「いつもそういうの口先だけで本気じゃないんです。怖くて信じられません」と妻は気持ちを変えず、夫のところに戻りません。謝罪したはずなのに妻が帰ってこない、となると今度は夫から「こんなに謝っているだろう! なんでわからないんだ!」「弁護士がちゃんと伝えてないんじゃないのか!」と激昂されることもあります。

こう書くと、その男性らは常軌を逸した人物だと思われるかもしれませんが、実際には、「ごく普通の」という表現がぴったりあてはまる人ばかりです。友人や職場の同僚たちは、彼が妻や子にDVやモラルハラスメント(モラハラ)をして離婚を申し立てられたと知ったら、「まさかあの人が」と言うでしょう。家で妻や子にDVやモラハラをする夫も、一歩家を出れば毎日まじめに出勤し、仕事をし、「いい人」と言われるような男性も多いです。決してモンスターではないのです。

私はこうした離婚事案のあり方に、日本社会がいま抱えている問題がいくつも象徴的に現れていると考えています。結婚や離婚はとても個人的なイベントではありますが、同時に極めて社会的な行為でもあります。社会というマクロの単位で起きていることと、家庭というミクロの単位で起きていることが相似形を成しているのです。社会の構造に歪みがあれば、家庭にもそれが現れます。“特異なモンスター”だけの問題と考えると、そこが見えなくなります。

■いつのまにかすり込まれる「価値観」

私たちは物心ついたときから、社会のなかに組み込まれた存在です。子育てをしていると、そう感じることが多いです。親が「こんなふうに育てたい」と思っていても、子どもには子どもの気質がありますし、社会から――つまりたとえば周囲の大人から学校から友だちからそしてメディアから、さまざまな影響を受けます。

子どもにはジェンダーバイアス――女性はこう、男性はこうと性別についての固定的な価値観を持ってほしくないと注意しながら育てていても、幼稚園や保育園に通うようになるとどこかでその価値観に触れ、「男の子は泣かない!」「ピンクは女の子の色」と言い始める、という話はよく聞きます。

DVやモラハラをする夫たちに共通して見られる価値観も、そのように社会からインプットされたものだと考えられます。なぜなら、離婚事案の現場で目の当たりにする彼らの言動は、驚くほど似通っているからです。

■「性別役割分業」をアンインストールできなかった

先述した、妻の話を信じずアナザーストーリーを作り出すのも、そのひとつ。ほかにも、弁護士や裁判所の介入を嫌って「妻と直接話せばわかりあえる!」と直接の対話を要求したり(同居中、「対話」で妻をねじ伏せてきていて、妻は言いたいことを言えないままだったという認識がまったくないのでそれをまたやろうとするのです)、「愛しているんだ、悪いところは全部直すから戻ってきてほしい」と泣いたり、それでも妻の決意が変わらないと知ると「自分がここまで謝っているんだから許さないなんておかしいだろう!」と一転して怒りに転じたり……。どこかにマニュアルがあってそれを読んでいるのではないかと思ってしまうほどです。

ちなみにDVやモラハラは男性だけが加害者になるわけではなく、女性がそうなることもあります。妻から夫への、加害行為です。これはこれで許されざることなのですが、女性たちの言動には共通点が少なくパターン化しづらいと感じます。社会によって女性にすり込まれたものより、その女性の個性・気質による部分が大きいからではないかと思っています。

マニュアルはないにしても、男性が社会から同じ価値観をインプットされ、それがDVやモラハラにつながっていることは明らかです。結論から言うと、その価値観とは「性別役割分業」、すなわち「男性は外で働き、女性は家庭を守るべきである」という考え方です。

彼らも、少なくとも、最初から意図的に妻を苦しめようとして結婚したわけではないだろうと思います。主観的には「愛していた」のだと思います。しかし土台に性別役割分業の価値観があり、それをアンインストールできなかったため、関係性の構築、そして成熟が妨げられたのでしょう。

■円満な関係のために手放すべきもの

現在「アンラーン(unlearn)」という考え方が注目されています。学び直しや学習棄却、学びほぐしと訳されますが、過去に学習したことからくる思考のクセや思い込みを手放す、という意味で、それをしてはじめて新たに成長する準備が整うのだそうです。

50歳を人生の節目と感じている人は多いと思います。人生後半戦をどう生きるか、誰とどのように歩んでいくかを考える、ひとつのタイミングとなるのでしょう。現在はシングルで、これから先に新たなパートナーと出会い、関係を築きたいと望んでいる人もいると思います。これまで生活を共にしてきたにしろ、出会ったばかりにしろ、円満で、安定した関係を求めているのではないでしょうか。

■女性の活躍を阻止する「ガラスの天井」

であれば、最初にアンラーンすべきは、この性別役割分業の価値観です。

「そんなの過去の価値観では?」と首をひねる人もいるかもしれません。これが前時代的な価値観だと感じられるのには、現在の50歳前後の人たちが子どものころは、共働き世帯より専業主婦世帯が圧倒的に多い時代だったことも関係しているでしょう。現在は、女性が生涯仕事をもつことはあたりまえとなっています。時代は変わっていることを、身をもって感じた世代なのです。

性別役割分業は過去のもの。私も、そうであってほしいと思います。しかし残念なことに、いまでもしっかり温存されています。法律によって雇用におけるあらゆる差別が禁止されるようになりましたが、現実には女性の管理職の割合はほかの先進諸国と比べるとワーストレベルに少ないです。

女性は出産や育児でキャリアが中断してしまうだけでなく、性別を理由に素質や実績が十分でも不当に昇進を阻まれてしまう現象があり、これを「ガラスの天井」と言います。国会中継を見ると年輩の男性議員ばかりなのに対し、新型コロナウイルスの蔓延で注目されたエッセンシャルワーカーは圧倒的に女性が多いというのも、「性別によって役割が違う」という考えからきています。

男女間の賃金格差の概念
写真=iStock.com/Andres Victorero
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Andres Victorero

■ふたりの息子に押し付けられた「男らしさ」

社会のなかに“あたりまえ”のようにある価値観、空気のように漂っている価値観に、人は疑問を持ちにくいもので、そうとは知らないまま吸収します。私がそのことに危機感を覚えた大きなきっかけは、息子ふたりの子育てです。

男の子の育児には、こんなにも幼いころから社会から「男らしさ」を押し付けられるのかと驚くことがたくさんありました。私自身は三姉妹の長女として育ったので、「男らしさ」の押しつけに気づきにくかったのですが、私は私で「女らしさ」のイメージをすり込まれ、それに苦しんできたところはたくさんあります。

息子たちは、私とは違う角度からこの問題にぶつかることになるだろうと、息子たちの幼少期から感じていました。幼いうちに身につけさせられたこの価値観は、社会に出るとさらに強化され、成長してからの人間関係に影響を与えるのではないか。そのなかにDVやモラハラにつながる要素があるのではないか。そんなことを考えながら書き下ろしたのが、『これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン』(大月書店、2020年)です。

■「女としての成功」にはケア労働が不可欠

そのなかでタレント・エッセイストの小島慶子さんと対談する機会に恵まれました。小島さんも男児の母親です。そこで私から、こんなお話をしました。

「同じ性別役割分業意識も、息子と娘への影響のあらわれ方はやはり違って、息子たちは素直に内面化して『男』に育つけれど、娘たちは『学業や職業での成功』と『女としての成功』というふたつの価値に引き裂かれていく」

村瀬幸浩ら『50歳からの性教育』(河出新書)
村瀬幸浩ら『50歳からの性教育』(河出新書)

性別役割分業の価値観を内面化し、「男らしさ」のイメージに囚われがちな男性には「男らしさ」に対する疑問が乏しいからだろうと思います。「男らしさ」とされるものの内実は、学業やスポーツ、仕事で競争に勝ち成功することなど、一般に好ましい、ポジティブなものですが、反面、そのような競争に勝ち抜けないことに「男としてどうなのか」と感じさせてしまうのは男性にとっても好ましいこととは言えません。

一方で、ここでお話しした「女としての成功」は結婚して子どもを産み、育てることで、このイメージは実に根強いと感じます。問題なのは、そこには必ず無償労働がセットになっている点です。女性は妻として母として、家庭内で家事、育児、介護のために労働力を提供する。それに対して対価が支払われることは基本的にないため、unpaid work、無償労働といわれます。それらは自分以外の家族のお世話にあたる労働なので、ケアワーク(ケア労働)とも呼ばれます。

■女性の無償労働時間は男性の5.5倍

図表1を見てもわかるとおり、1日あたりの有償労働と無償労働にかける時間を男女で比較したところ、ほかの先進諸国も決して男女が五分五分ではなく、女性のほうが多く無償労働を担っています。しかし日本ほど極端ではないことは一目瞭然でしょう。

【図表1】男女別に見た生活時間(「男女共同参画白書」令和4年版より)
出所=『50歳からの性教育』

この図では男性の有償労働時間、つまり外での仕事が諸外国と比べていかに長いかも見て取れます。全体で見ると、日本の女性は、無償労働に男性の実に5.5倍もの労働時間を割いています。それで男性と同じだけ稼げるはずがありません。

無償労働を女性に偏らせることは、女性の経済力を奪うことです。また、女性が仕事を持っているのといないのとで、男性の無償労働時間にそれほど差がないこともわかっています。男性の一日は「仕事」に大半が費やされるのに対し、仕事を持つ女性は「仕事」の上に「家事・育児・介護」も乗っかってくることになります。

このように偏った状態では、対等で健全なパートナーシップを育むためには相当の意識を払う必要があります。対等ではない関係性に容易に陥りやすいことに注意が必要です。

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太田 啓子(おおた・けいこ)
弁護士
2002年弁護士登録、神奈川県弁護士会所属。離婚・相続等の家事事件、セクシャルハラスメント・性被害、各種損害賠償請求等の民事事件などを主に手がける。明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)メンバーとして「憲法カフェ」を各地で開催。2014年より「怒れる女子会」呼びかけ人。2019年には『DAYS JAPAN』広河隆一元編集長のセクハラ・パワハラ事件に関する検証委員会の委員を務めた。共著に『憲法カフェへようこそ』(かもがわ出版)、『これでわかった! 超訳特定秘密保護法』(岩波書店)、『日本のフェミニズム since1886 性の戦い編』(河出書房新社、コラム執筆)。著書に『これからの男の子たちへ』(大月書店)。

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(弁護士 太田 啓子)

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