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だから「女性の自慰行為」がタブー視される…日本の性教育がひた隠しにする「女性の身体の部位」

プレジデントオンライン / 2023年5月21日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Larisa Rudenko

日本の性教育はなにを教えているのか。性教育研究者の村瀬幸浩さんは「女性の生理については教えても、妊娠にいたる過程は教えないという指導要領がいまでもある。そのため、子どもたちはセックスについて偏った認識を刷り込まれてしまう」という。女性学研究科の田嶋陽子さんとの対談を紹介する――。

※本稿は、村瀬幸浩ら『50歳からの性教育』(河出新書)の一部を再編集したものです。

■日本の性教育はあまりに足りていなかった

【村瀬】50歳からの性を考えるうえで、私はぜひ田嶋さんとお話ししてみたかったんです。

【田嶋】ありがとうございます。村瀬さんはもう40年以上、性教育に携わってこられたんですよね。私は日本の性教育ってその問題点を考える以前に、ほぼ「なかった」と思っているんですけど、村瀬さんのお考えは?

【村瀬】それはまったく正しい認識ですよ。日本の性教育は、ここ3、4年でようやく、学校だけでなくメディアでも政治でもその必要性が叫ばれるようになってきましたが、それまではあまりに足りなかったと断言できます。2000年代はじめにはジェンダーバックラッシュといって、性教育を「過激だ」「行き過ぎている」と糾弾する動きもありました。

いまの50歳前後の方はその前夜とでも言うべき時期に、中高生時代を過ごしたことになりますね。

【田嶋】私は性教育を、人間教育だととらえています。人生教育と言ってもいいですね。それなのに、日本ではいまもって「性のことを子どもに教えたら、みんながセックスをするようになる!」とかバカげたことを言う政治家たちもいるんですよね。

■セックスの話を真剣に聞く男子校の生徒たち

【村瀬】寝た子を起こすな、とよく言われました。性教育でセックスについて学ぶ――これ自体は間違いではないんですが、私は性行為を含む人間関係全般について、そして自分自身について学ぶ時間だと考え、取り組んできたんですよ。

「性」だけでなく「生」について何を知り、どう考えるかということが抜け落ちた状態で、セックスの方法だけを知るものではない! という話を、いまでも高校生や大学生にします。なかには男子校もありますよ。真剣に聞いてくれているなぁ、と手応えを感じることが多いですね。

【田嶋】それは真剣でしょう、いままでそんなこと話してくれる人はほとんどいなかったですから。目から鱗よね、きっと。性教育は人生すべての根幹にあるもの、それをないがしろにするわ、子どもを知らないままにしておくわ、というのは、国が根幹から歪んでいるからじゃないかと私は考えていますよ。

■日本はセックスの頻度も満足度も世界最下位

【村瀬】はい、その歪みが結局はセックスにも表れるんですよ。少し古いデータなのですが、イギリスのコンドームメーカーが世界各国でセックスの頻度と満足度を調査したところ、日本は頻度も満足度も最下位だった。世界一セックスしていないし、しても満足できていない国だということがわかったんです。

【田嶋】さもありなん、といった感じですね。それはどうしてだとお考えですか?

【村瀬】日本における「セックス」とは、男性が女性を支配する行為になっているからです。長いあいだそうでしたし、残念ながらいまもさほど変わっていません。そのうえ、メディアにはそれを強化するような情報があふれています。

本来ならセックスは、「快楽と共生」を核にしたものです。それが感じられるセックスは満足度が高いですし、頻繁にしたくなるでしょう。でも日本ではセックスが互いの楽しみではなく、攻撃と支配の手段になっている。これでは女性がつらいのは当然のことですが、男性も実は楽しくないんです。それで世界最下位という結果になっている。

■主導権は男性にあり、女性は従うしかない

【田嶋】日常生活における男性中心の女性差別的な状況が男女の性生活にも如実に反映されているということですね。私が聞く限りの話ですが、セックスの最中、男性に「この体位は好まない」「もっとこうしてくれたほうが気持ちいい」といったことをはっきり言える女性はとても少ないのだとか。主導権は男性だけにあって、女性はつらいのを耐えているか、演技をして早く終わらせようとしている……これっていまでもそうなんでしょうか。

【村瀬】私たちの世代では大半がそうだったと思いますし、いまの50代もそうしたセックスが多いでしょう。もっと若い世代も同じように見えますよ。言えない、というより、女性はそんなことを口にすべきではないし積極的であるべきではないとされているからですよね。これも性教育が貧困すぎたがゆえだと、私は思うのですよ。

学校での性教育は長らく、男性と女性は対等である、というところから出発せず、いきなり「女性は生理が始まると、妊娠する可能性があります」という話をします。それでいて、妊娠にいたるまでの過程は教えないという指導要領の“はどめ規定”がいまでもあります。

子どもたちはセックスについて学ぶ機会がないうえに、セックスは男性の能動性、攻撃性の上に成り立つものであるという情報ばかり巷にあふれていて、それらがとても刺激的なものだから、子どもはすぐに刷り込まれます。そして女性の身体や快感は置き去りにされてしまいます。

■教科書にクリトリスが描かれない国

【村瀬】田嶋さん、実はいまでも高校の保健体育の教科書には、女性の外性器の図解があるのにクリトリスは描かれていないんですよ。

【田嶋】えっ、それはなぜですか? 男性のペニスは描いてあるんですよね。

【村瀬】もちろん当然のごとく、描いてあります。

【田嶋】女性のクリトリスは解剖学的に男性のペニスに相当するのに、おかしな話ですね。

【村瀬】たとえばオランダでは中学校の生物の教科書に、クリトリスがちゃんと正面から描いてあって、男女ともそれを見て学びます。腟よりも性的に敏感な器官だから、マスターベーション……私は「セルフプレジャー」と言っていますが、そのときにここに触れて刺激する女性が多い、という説明もあるんですよ。

性教育の本
写真=iStock.com/designer491
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/designer491

■自分の身体なのに、見ても触ってもいけない

【田嶋】それ、とても大事なことです! クリトリスの存在を無視されているということは、日本でのFGM(Female Genital Mutilation)と言っていいですね。アフリカや中東のほか、いくつかの国にいまも残る、女性のクリトリスを切除してしまう慣習のことです。

なぜそんな酷いことをするのかというと、クリトリスで快感を知ったら女性は自由を望み、逃げたり浮気したりするかもしれない、と男性が思い込んでいるからですよ。女性が快感を得ることを否定しているんです。女性のセックスを子産みのためだけのものにします。

たしかに思い返してみると、私たちが子どものころは自分の性器って不可侵の場所でした。女の子は、自分の身体なのに見ちゃいけないし、触っちゃいけないとされていた。あそこは自分のためでなく、だれかほかの人のためにあるような感じだったことはたしかです。

当時は、まだ「処女」とか「貞淑」とかいう言葉が生きていた時代ですから。処女も貞淑も家の血筋を守るためのものですよね。私たちの世代ではクリトリスのあるなしにかかわらずその図解も見たことなかったし、大人になってもどんな構造なのかよくわかっていないという女性は、多かったんじゃないですか。

■女性の自慰行為はタブー視されている

【村瀬】クリトリスを「おしっこが出る尿道口と同じ」ものと思っている40代女性は、私が知っているだけでも何人もいて、社会的にも少なくないでしょう。それで性について、ましてセルフプレジャーについては口にもできないと思っています。

いまの若い世代も「セックスについては友だちと話せても、セルフプレジャーのことは話せない」という声が多いです。そもそもセルフプレジャーの経験率を見ると、男性はセックスの経験があってもなくても9割以上ですが、女性はそれよりずっと少ない。しかもセックスを経験したあとに始める人が多いんですね。男性はセックスの初体験の前からセルフプレジャーを始めています。

私は女子大で性教育、セクソロジー(性科学)の授業を20年以上担当していましたが、その最初のころの学生がいまの50歳前後です。当時は、自分の性器を触ってみようと女子学生に言うには勇気がいりました。セクハラだと言われるんじゃないかと思ってね。

■「自分の欲求を隠せ」から変化の兆しも

【田嶋】考えてみれば、ホント、おかしな話ですよね。自分の体なのに見ても触れてもいけないなんて。長いこと無意識にそう思わされていたなんて。

村瀬幸浩ら『50歳からの性教育』(河出新書)
村瀬幸浩ら『50歳からの性教育』(河出新書)

【村瀬】そのうち私も度胸がついて「自分が触ったこともないところに、人のペニスを挿れるな!」などと教えてましたね。

【田嶋】それを聞いてハッとした学生は多かったはずですよ。セルフプレジャーをしていると自分から言えないのは、それが自分の欲求から始まっているからでしょう。セックスだと「男性に求められたから」という言い訳が立つけど、それがない。いかに、女性が主体的に欲することが“ない”ことにされてきたかってことですよね。

ただ2022年11月の新聞に幼い女の子のセルフプレジャーをどうしたものかという記事が載っていて、世の中、少し動いていると感じました。(以下略)

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村瀬 幸浩(むらせ・ゆきひろ)
元高校教師、性教育研究者
東京教育大学(現筑波大)卒業後、私立和光高等学校保健体育科教師として25年間勤務。この間総合学習として「人間と性」を担当。1989年同校退職後、25年間一橋大学、津田塾大学等でセクソロジーを講義。従来の性教育にジェンダーの視点から問題提起を行ってきた先駆者。一般社団法人“人間と性”教育研究協議会会員。著書に『恋愛で一番大切な“性”のはなし』、共著に『おうち性教育はじめます』など多数。

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田嶋 陽子(たじま・ようこ)
女性学研究者
元法政大学教授。元参議院議員。英文学・女性学研究者。書アート作家。シャンソン歌手。女性学の第一人者として、またオピニオンリーダーとしてマスコミでも活躍。津田塾大学大学院博士課程修了。イギリスに2度留学。『愛という名の支配』『ヒロインはなぜ殺されるのか』『我が人生歌曲』など著書多数。

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(元高校教師、性教育研究者 村瀬 幸浩、女性学研究者 田嶋 陽子)

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