フェイスブックの次はVR離れ…1兆円超えの大赤字を垂れ流す「メタ社」の悲惨な末路
プレジデントオンライン / 2023年5月20日 10時15分
■メタバースで大失敗…ザッカーバーグに向けられた従業員の不信感
マーク・ザッカーバーグ率いる米Meta社(旧Facebook社)が、従業員の深刻な士気の低下にあえいでいる。
Facebook、Instagram、WhatsAppなどを運営する同社は昨年、業績が急激に低下。ニューヨーク・タイムズ紙は、ザッカーバーグ氏が2023年を「効率化の年」にすると宣言したと報じている。過去半年で2回のレイオフに踏み切ったほか、今後もさらに2回の実施を予定している。合計で2万1000人規模の削減となる見込みだ。
米デジタルメディアのVoxは、「Metaはまず間違いなく、過去最も厳しい部類に入る年を過ごした」と指摘。18年間ノンストップで成長を遂げたが、株価は昨年、前年比で65%急落したと指摘する。
米IT大手は一様に厳しい時代を迎えているが、MetaはGAFAMと呼ばれる大手5社のなかでも一段と厳しい状況に立たされている。Facebookで一時代を築いた同社が凋落した原因はいくつも指摘されているが、なかでもトップのビジョンの迷走が大きく災いしたようだ。
IT他社が人工知能(AI)の開発に資金を投じるなか、同社はここ数年、「メタバース」と呼ばれるオンライン空間の提供に全力を傾けている。ユーザーが仮想の人物「アバター」の姿を借り、交流を図る仮想の世界だ。だが、現実には過疎化が過疎化を呼ぶ悪循環に陥っている。
■社内チャットでは不満が渦を巻いている
芽生える気配のないメタバースの開発に大金を注ぎながら、カリフォルニア州メンローパークのMeta本社内では解雇の嵐が吹き荒れる。Metaの従業員たちは、ザッカーバーグ氏らトップへの不信を深めている。
米ワシントン・ポスト紙は、「マーク・ザッカーバーグはいかにしてMetaの労働力を破壊したか」との記事を掲載。従業員たちは、いつ自身を襲うとも知れないレイオフの波に翻弄(ほんろう)されており、ザッカーバーグ氏はビジョンと従業員からの信頼を失ったとの見方を取り上げた。
同紙はまた、「MetaはVR開発者に最高100万ドル(約1億3000万円)の年俸を支払っていた」が、同社が「今となっては財政難に陥っている」と指摘する。VRヘッドセットのQuestなどを手がける同社のVR/AR部門「Reality Labs」は、昨年137億ドル(約1兆8000万円)以上の損失を出し、赤字額は年を追うごとに増加傾向にあるという。
ニューヨーク・タイムズ紙は、「少し前までシリコンバレーで最も魅力的な職場のひとつだったMeta社だが、社員はいま、時がたつほどに不安定になる未来に直面している」と述べ、「士気の危機」が訪れていると報じている。
社内チャットでは、殺伐とした空気が流れているようだ。チャットの履歴を入手した同紙によると、ある従業員は「大惨事だと思う人は、炎の絵文字を」と呼びかけた。同僚たちからは数十個もの炎の絵文字が寄せられたという。
従業員たちはボーナスの減少に不満を抱き、持ち株の時価減損に胃を痛め、目に見えて悪化する社内の福利厚生に士気を削がれているようだ。同紙は、誰が生き残るとも知れない疑心暗鬼に陥り、オフィスは殺伐とした雰囲気に包まれていると報じている。
■仮想空間の「出会いの場」には誰もいなかった
コミュニケーションがすっかり希薄になったのに加え、これまで従業員たちに無料で提供されていたランドリーサービスや夕食などの複利厚生は縮小した。自身にレイオフが迫るとの噂を聞いた従業員は、親しい従業員との個人や職場のチャットでドクロと骨の絵文字を使った暗喩で連絡を取り合い、情報交換に奔走しているという。
Metaの人事部はレイオフに怯える従業員たちに配慮を寄せるばかりか、こうした会話の規制に乗り出した。Voxは、会社側が「コミュニティ・エンゲージメントへの期待」と題するガイドラインを打ち出したと報じている。ネガティブな会話を禁止し、チームや個人に対して「適切なフィードバックをする」よう求める内容だ。
だが、口を封じたところで従業員の不満が消えるわけではない。同記事によるとある従業員は、「この会社は総じて、社員を失望させるようなことをせずに1週間たりとも過ごすことはできないようです」と不満を露わにしている。
同社肝煎りで普及に努めるメタバースだが、その集客数はほぼゼロと言っていいほどだ。
米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、41歳男性ユーザーの体験を取り上げている。彼は「パンデミック期間中、社会との交流を求めて」VRヘッドセットを購入し、買ったその日に意気揚々と仮想空間に飛び込んだ。だが、メインとなる出会いのスペースに行くと、「そこには誰もいなかった」との悲しい体験が待っていたという。
同紙によると、Facebook、Instagram、WhatsAppなどMeta社のソーシャルメディアには、合計で月間35億人以上のユーザーがいる。これに対し、同社のVRオンラインゲーム・プラットフォーム「Horizon Worlds」は、月間20万人以下であるという。比率にしてわずか0.0057%という惨状だ。
■VRヘッドセットは半年以内でガラクタに…
Horizon Worldsは、VRヘッドセットの「Quest」を装着して利用する。エントリーモデルでも約400ドル(国内価格はQuest 2の場合5万9400円から)と高価な機器だが、同紙が参照した調査によると、飽きは早いようだ。購入後半年以内に、半数以上の個体が使用されなくなるという。
同社の社内文書が「空っぽの世界は悲しい世界である」と内省するように、原因は過疎化にある。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「(Horizon内のコンテンツである)『ホットガール・サマー・ルーフトップ・パーティー』には女の子がほとんどいないし、『マーダー・ビレッジ』には殺すべき人がいないことが多い」と指摘する。ユーザーの性別についても男性2:女性1と、大きな偏りがある模様だ。
課題は多い。Meta社が実施した調査によると、ユーザーからは、「気に入ったメタバース・ワールドがない」「一緒に遊べる仲間が見つからない」「人がリアルでない」などの不満が聞かれたという。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記者は、VR空間で開催された「ハウスパーティー」の会場へ赴いた際の悲しい記憶を記事にしている。ユーザーとの交流を期待したが、さびしい現実が待っていたようだ。出席者は記者を含め、2人しかいなかったという。
同記者はボクシングなどをして時間を潰したというが、パーティーの盛り上がりとはほど遠かったようだ。「もう一人のアバターは一言もしゃべらず、10分ほどで試合は終了した。その後、記者自身のアバターはプールに落ち、出る方法がわからなくなった。助けてくれる人は辺りに誰もいなかった」
■Meta社だけがメタバースの普及に社運を賭けている
ユーザーの興味が薄れているにもかかわらず、Metaは普及に躍起だ。ニューヨーク・タイムズ紙は、これこそが同社従業員がトップに不信感を抱く原因になっていると指摘する。テック企業の多くがAI開発に乗り出すなか、Meta社だけがメタバースの普及に社運を賭けている状況だ。
ザッカーバーグ氏は2021年10月、VRの重視を鮮明に打ち出し、社名をMetaに変更した。ワシントン・ポスト紙は、「このとき、従業員はこの動きを不安な気持ちで受け止めた」と振り返る。2014年にVR企業のOculusを買収後、ハードウエアの研究開発費は「爆発的に増加」したと同紙は指摘する。
2018年からはビデオ通話デバイス「Portal」を売り出したが、同紙は「ユーザーにとって魅力的でないことが明らかになった後も、長い間この製品にこだわってきた」と厳しい評価を下している。サンフランシスコのニュースサイトであるSFゲートは、Portalがすでに2022年に製造中止になったと指摘している。
■社内で囁かれる「マーク・ザッカーバーグのご機嫌取り」の隠語
過疎化の悪循環に加え、製品の扱いにくさもユーザー離れの原因となっているようだ。皮肉にも、ザッカーバーグ氏主催の社内ミーティングがそれを証明する形となった。ニューヨーク・タイムズ紙によると氏は昨年、バーチャルの会議室を提供する「Horizon Workrooms」内での社内ミーティングを呼びかけた。
だが、多くの従業員はVRヘッドセットを持っておらず、設定にも手こずったと同紙は伝えている。従業員らは上司に知られる前にヘッドセットを入手し、ユーザー登録を済ませるなど、あたかも以前からのユーザーであるように振る舞うのに苦心したという。
ある従業員は同紙に対し、「Horizon Workrooms」上での別のミーティングもうまくいかなかったと明かしている。記事によると「技術的な不具合で会議は中断され、結局のところこのチームはZoomを使うことになった」という。
メタバースの有用性について、社内からも疑問が噴出している。情報筋は同紙に対し、メタバースのプロジェクトが社内の一部では「MMK」と呼ばれていると明かした。「Make Mark Happy(マーク・ザッカーバーグのご機嫌取り)」を意味する隠語なのだという。
■TikTokへの流出が止まらない
過去であればMeta(当時のFacebook社)は、時代の波を見据えた舵取りを行ってきた。デスクトップ版が主流だった主力サービス・Facebookは、2000年代前半にモバイル対応に成功。Facebook一本槍からの脱却を企図し、2012年にInstagramの買収を通じて若年層を取り込んだところまでは先見の明があった。
しかし近年、VR事業を別にしても、同社を取り巻くビジネス環境は一段と過酷になっている。ネット上にコンテンツが溢(あふ)れるようになった現在、ユーザーはより短時間で消費できる短編動画を求めており、TikTokへの流出は深刻な課題だ。
TikTokにも弱みはあり、中国企業のByteDanceによる運営という立場上、プライバシー問題には懸念が世界から寄せられている。だが、この点でMeta社は決してリードを保っているとは言い難(がた)い。
もともとFacebookユーザーのプライバシーを収益源としていた同社には、ユーザー保護の視点が欠如しているとの批判が絶えなかった。AppleがiOS上での個人情報の追跡を困難にしてからは、広告収入の明らかな減少に見舞われている。
■仮想空間は一過性のブームだった
こうしたなかザッカーバーグ氏が希望の光とみるのがメタバースだが、ユーザーの心とは大きな乖離(かいり)がみられるのが現状だ。VRについては確かに一部ゲームなどで、他社製デバイスも含め、一定のユーザーを獲得している。
だが、Meta社はVRコンテンツのなかでも、ユーザー同士の交流空間であるメタバースの普及に骨を折っている。現在のところ十分な興味を引いているとはいえず、ブームの到来が予言されつつも本格的な普及に至ることなく消えた「セカンドライフ」の後追いだとする否定的な意見さえ聞かれる。
セカンドライフはその名の通り、コンピューター内で「第2の人生」を生きる理想空間を追求したサービスだ。一時は高額で仮想の土地を購入するユーザーが相次ぐなどブームを生んだが、一過性の現象に終わった。
Meta社のHorizon Worldsについては、そもそも一時的なブームにすら至っていない。肝心のユーザーが集まらず、VRヘッドセットを購入した希少なユーザーでさえ、半年とたたずに離脱する悪循環が生じている。
■いつまでもメタバースに固執するべきではない
セカンドライフの衰退をみるに、人々がバーチャル空間での交流を求めているという考えは、サービスを提供する側の幻想にすぎないのだろう。MetaのVR事業についても、例えばゲーム用ヘッドセットのハードウエア販売に特化し、仮想ワールドのサービスからは撤退するなど、思い切った事業の整理が求められているように思われる。
FacebookやInstagramで「いいね」を送るだけで温かい気持ちが伝わるいま、ゴーグルを装着しアバターを操作して他人と触れ合うというアイデアは、必ずしも多くのユーザーの賛同を得るに至っていないようだ。
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フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
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