「ほめワード」をネットで調べてはいけない…子供をほめるときにプロ教員が必ず守る3大ポイント
プレジデントオンライン / 2023年5月20日 14時15分
※本稿は、平熱『特別支援教育が教えてくれた 発達が気になる子の育て方』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■子どもを「ほめる」目的
みなさん、お子さんをほめてます?
悪いところばかりに目がいって「ほめるところがない!」なんて四六時中怒ってばかりじゃないですか? そんな悪党は月に代わっておしおきです。
今回は「ほめる」について考えていきます。
そもそも人を「ほめる」目的ってなんでしょう?
わかるよ、わかる。そんなに計算高く人のことをほめてないんでしょ? そんなにあざとく生きてないですよね? はい、わかってます。でも、大事な話なので、とりあえずいったん聞いてください。
「ほめる」の目的は、言ってしまえばこの2つです。
②ほめた行動を「強める」こと
とくに保護者や先生たちが子どもをほめることに目的があるとすれば、この考え方はきっと遠くありません(いやらしい解釈だけど許してね)。
というわけで、「ほめる」の目的を「①うれしい気持ちになってもらう②ほめた行動を強める」の2つだとしたうえで、それぞれ解説していきますね。
■相手をよく見ることが何より大事
いきなり結論ですが、①「ほめられた人が『うれしい気持ちになる』こと」はこちらがコントロールできることではありません。
だってそうでしょう。まったくおなじタイミングで、おなじ表現でほめてうれしい子もいれば、そうじゃない子もいます。
赤ちゃんとおなじようにほめられて、喜ぶおじさんなんている?(いるけど)
また、ほめられる「量」が大事な子もいれば「質」が大事な子もいます。
ほめる「量」が優先される子だったら、ひとつひとつのほめるワードにとらわれすぎず、間髪入れずにどんどんほめていきましょう。極端な話、ひとつのアクションのたびにほめるくらいでも構いません。ジャブだけで試合を制すのです。
ほめる「質」が優先される子なら、強弱をつけてほめましょう。ジャブはあくまでもおとりです。基本的にクールにほめつつ、ここぞ! というタイミングで渾身(こんしん)のストレートを打ち込んでノックダウンを奪いましょう。
好きなキャラクターや有名人がいるならそこを絡めてほめてもいいし、成功したときより失敗したときのチャレンジをほめてほしそうなら、そうしましょう。
ほめられてうれしいポイントは十人十色。「容姿ばかりほめられてきた美人の性格をほめるといい」って、どこかで読んだ恋愛指南本にも書いてありました。
ひとつ気をつけてほしいことがあります。
「ほめる」についてインターネットでちょいと調べれば、「このワードでほめよう!」みたいな「ほめワード」が、ポップコーンのLサイズくらいあふれかえっています。
いいですか、重要なのはなにがなんでもそのワードを使ってほめることじゃありません。大事なのは、その「ほめワード」で、ほめられた人が「うれしい気持ち」になっているかどうかです。
言いかえれば、「ほめワードを使うこと<その子をよく見ること」です。
ここを意識せず、「ほめワードでほめるぞ!」なんて気合を入れてしまうと、「ほめワードを使って上手にほめることのできた自分」に満足しちゃって終了です。
つまり、「ほめる」の目的である「うれしい気持ちになってもらう」が達成されているかは、自分より相手に体重をかけていないと見つけられません。
■「早く、短く、具体的に」ほめる
②「ほめた行動を『強める』」には「早く、短く、具体的」な「ほめる」を意識しましょう。
「早く、短く、具体的」でいちばん大事なのは「早く」です。
発達につまずきのある子どもたちは、記憶が苦手だったり、経験をスムーズに積み重ねていくことが苦手だったりします。
だから、子どもたちの行動から時間が空けば空くほど「なんの行動をほめられたの?」とピントがズレていってしまいます。わたしたちが、突然2年前のことをほめられて「はぁ……」ってなるのといっしょです。
だから「望ましい行動をした“瞬間”」です。鉄は熱すぎるうちに打て。「行動」と「ほめる」の時間をなるべく空けずに伝えることを意識しましょう。
そして「短く、具体的」にです。
「このチャーハン、パッラパラッ! くっつきたくてもくっつけないN極とN極、磁石のようなお米やで! 結婚式でも食べたいわ!」
という比喩まみれのグルメレポートではなく、
「このチャーハン、お米の水分を飛ばせてる! 強火で炒めたのがいいね!」
です。
まどろっこしい表現は、子どもたちの「ほめた行動を強める」には向きません。抽象的かつ情報量が多すぎて、理解するのが大変だからです。
短く具体的にほめられることで、自分の「行動」と「ほめられた」が一致すれば、「またやってみよう!」と思ってくれる確率が上がります。そうやって、ほめた行動を「強める」ことができます。
子どもがうれしい気持ちになって、彼らのスキルアップにつながればこっちもうれしい気持ちにしかなりません。世界が平和になります。
「ほめる」の正解なんて簡単に導けません。導いたつもりの正解が、まちがっているかもしれません。合っていたはずの正解が、相手の変化で正解じゃなくなることもしょっちゅうです。
それでも考えるしかありません。何度も何度も、相手を見るしかありません。
「ほめる」ことは「相手をよく見ること」と同義です。
ほめた相手がうれしそうにしてくれたなら、それをできた自分もしっかりほめてくださいね。
■叱らないように環境を整える
発達につまずきのある子どもたちは、まちがった行動から学び、正しい行動に修正していくことが苦手な場合が多いです。
だから、前提として、なるべく失敗できない(まちがった行動ができない)環境を整え、正しい行動だけを積み重ね、定着させていくことが基本的な戦略です。特別支援教育では、この「失敗できない環境」を整えることに気を配っています。
たとえば、先生の説明を聞いてからその手順通りに工作をする授業。
このとき、説明の「まえ」に材料を配ったらどうなるでしょう。
説明をはじめるころ、子どもたちは、目のまえにある画用紙やハサミが気になって触り、集中して聞けないことがほとんどです。そしてこれを目にした先生は「説明している最中なのに、なんで画用紙やハサミを触ってるんだ!」と叱ることになります。
だれも得しないやつですね。
だから、説明の「あと」に材料を配るんです。そうすると、説明中に材料を「触らない」ではなく「触れない」「触ることができない」環境を設定することができます。
この例で、あえて説明の「まえ」に材料を配るときは、「今から材料を配りますが、説明している間は材料に触らず、先生の話を聞いてください」という「正しい説明の聞き方」を提示しておくべきでしょう。あえて「触ることのできる」状況で、触らない練習ですね。
このように、失敗「しない」ではなく、失敗「できない」環境を整えることをまずは工夫していきましょう。
冷蔵庫にビールがあるから、禁酒中であっても飲んでしまうんです。ビールがないなら飲めません。これとおなじです。
■どんなときに「叱る」べきか
常々、わたしは「叱る」より「ほめる」を大事にしています。
もちろん、これは決して「叱らない」を意味しているわけではありません。「ほめる」と「叱る」の二択で、常に「ほめる」に体重をかけておくことは、「叱る」をずいぶん遠くに追いやれます。「叱る」に体重をかけた指導はしたくないんです。「ほめる」を増やして、「叱る」を減らしていきたい。
ダメなところ、まちがったところを見つけて叱ることより、いいところ、正しいところをほめて伸ばし、全体の行動のうち「正しい行動」の割合を増やすことで「まちがった行動」の割合を減らしていくイメージです。
とはいえ、なんでもかんでも「ほめる」を推奨しているわけではありません。
よくない行動や発言を、「適切に」叱ること、注意することは「ほめる」とおなじくらい大事です。
やっちゃいけないのは、叱ることではなく、子どもを「恐怖でコントロールすること」です。
では、どんなときに子どもに注意をしていけばいいでしょうか。
基本的には、発達につまずきがあろうがなかろうが、叱る基準にちがいはありません。
いちばん極端な例は「法律に触れること」ですし、「人の心身や物を傷つけること」も当然その対象です。
反対の言い方をすると、そうじゃないことは、なるべく怒らず、落ち着いて指導をするように心がけています。
■「叱る」ときに気をつけること
「叱る」ときに気をつけることは、とってもシンプルです。
「大声を出さず」「具体的に」「改善策まで」です。
まず、「叱る」と「大声を出す」はイコールではありません。「大声を出す」は、叱るほうも興奮してしまい、感情まかせの言葉を発してしまうことも多いです。また、大きな声で叱られた子は、萎縮してしまい、そのあとの言葉が入らないかもしれません。
つぎに「なにが悪かったのか」を「具体的に」伝えることが大切です。「なにやってんの! ダメでしょ!」「コラ! いいかげんにしなさい!」では子ども自身が「なにが悪かったのか」を理解しないまま、またつぎもおなじ行動をしてしまう可能性があります。
そして「改善策まで」いっしょに考えることができれば、おなじミスをしてしまう確率を下げることができます。
■危険な行動をしている子に注意を促す
たとえば、校外学習に出かけたとき、傘の先端を後ろに突き出すように持っている子がいたとします。
よくないのは「おい! なにやってんだ! その持ち方は危ないだろ!」といきなり大きな声で抽象的な注意をすることです。
子どもは無意識のうちに、もしくは悪気なくこの持ち方をしていたかもしれません。
それなのに不意打ちでいきなり大きな声を出されてしまうと、それだけで頭がいっぱいになり、このあとの校外学習がたのしめないかもしれません。パニックになる可能性だってあります。
これを、
「○○さん、一度止まって。この持ち方だと、うしろの人に傘の先が当たってしまうよね。どう持つのがいいと思う?」
と落ち着いたトーンでたずねることができれば、注意された子も、
「そうか、この持ち方は危ないからよくないな。先をいつも下に向けるように持たないといけないな」
と冷静に、「なにが悪かったか」「つぎ、どうすればいいか」まで考えてくれます。
落ち着いて、まちがった行動を具体的に理解し、行動を改善することができれば、次回から注意されずとも正しい行動に修正できる可能性が上がります。
■恐怖でコントロールしない
「叱る」ことの目的はなんでしょうか。
叱る側が、思い通りにならないストレスを発散させること?
ちがいますよね。「まちがった行動を具体的に理解させ、おなじ過ちをさせないこと」または「正しい行動に修正していくこと」です。
これらの目的を達成するために「大声を出す」や「威圧する」、つまり「恐怖でコントロールする」ことは必須ではありません。もちろん一刻を争う状況では仕方がないですし、タイミングによっては、一時的な効果はあるでしょう。
ただし、「常に」恐怖でコントロールしてしまうと、子どもたちの判断基準は「正しいかどうか」ではなく「こわいかどうか」になります。子どもが耳を傾ける理由が「正しいかどうか」ではなく「こわいかどうか」になってしまうんです。
子どもたちが、こわい人の言うことだけ聞く大人にならないよう、まずはわたしたち大人が恐怖でコントロールをしないことからはじめましょう。
「正しい」と「正しくない」は常に変化します。今まで「正しい」とされていたことが時代や環境の変化でいつのまにか「正しくない」に姿を変えていきます。
30年まえの「正しい」が、今どれだけ「正しい」として扱われていますか?
だから、わたしたちは常に敏感でいないといけません。自分の「正しい」を疑わなければいけません。いろんな人の考えや価値観に触れながら、自分の軸をつくっていくしかありません。
そして、その軸にのっとって子どもの行動や発言を注意していくしかありません。子どもの行動をジャッジしていく大人のわたしたちも、えらそうに注意するばかりじゃなく、自分を振り返り反省し、襟を正していきましょう。
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特別支援学校教諭
おもに知的障害をもつ子が通う特別支援学校で10年くらい働く現役の先生。やさしくてちょっと笑える特別支援教育のつぶやきが人気を集め、Twitterのフォロワー数は6.9万人(2023年2月現在)。 小学部、中学部、高等部のすべての学部を担任し、幅広い年齢やニーズの子どもたち、保護者と関わる。著書に『特別支援教育が教えてくれた 発達が気になる子の育て方』(かんき出版)。
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(特別支援学校教諭 平熱)
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