「筋トレをしているのに筋肉が落ちていく…」努力を無駄にしないためのプロテインの効果的な摂取方法
プレジデントオンライン / 2023年5月23日 11時15分
■トレーニングブームでプロテインが人気に
5月8日に新型コロナの感染症法上の位置付けが5類に移行しましたが、コロナ禍では長期間の外出自粛や在宅ワークを強いられ、外食もしづらいなか、健康的な食事に対する需要が高まりました。一時期はフィットネスクラブなどの利用が落ち込みましたが、巣ごもりでフィットネスやウェルネスに対する関心も高まり、自宅で手軽にできる「宅トレ」も流行。感染対策の緩和とともに、24時間ジム、完全個室でパーソナルトレーニングを提供するスポーツクラブなどの需要も伸びています。
トレーニングブームにともない、高タンパクをうたったプロテイン関連食品への注目も高まっています。従来、プロテインというと、体を鍛えている人のための飲み物というイメージがありました。ハードな運動や筋トレの際にプロテインを摂取すると、トレーニングで傷んだ筋肉を修復して大きくすることができるためです。しかし、筋肉が増えると基礎代謝も上がり、「痩せやすく、太りにくい体」を手に入れることができるといった健康や美容の観点から、性別・年齢問わず幅広い層から注目されています。
プロテインは今や、スーパーやコンビニで手軽に入手できるようになっています。マーケティング調査会社富士経済によると、プロテインなどのタンパク質補給食品の国内市場は、2022年に2549億円に達したとみられ、2027年には3071億円になると予測されています。
■食事だけで必要量を取るのは難しい
そもそも「プロテイン」とはタンパク質を指します。タンパク質は筋肉の材料となるほか、内臓、皮膚、毛髪、爪など、人間の身体をつくるために欠かせない成分で、酵素やホルモンとして代謝を調節する働きもあります。必要量は年齢、性別、身体活動レベルなどによって異なりますが、運動量の少ない成人(30~49歳)の1日あたり摂取目安を例に挙げると、男性では75~115g、女性では57~88gが推奨されています。(厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020年版))
生の牛肉100gに含まれるタンパク質は20~30gほどで、1日の摂取目標を70gとしても、食事だけで摂取するのは難しいかもしれません。しかしプロテイン飲料やプロテインバーなどを上手に活用することで、手軽に不足分のタンパク質を補うことができます。
■不足すると糖尿病や心筋梗塞に
タンパク質は、体の健康を維持するために欠かせない栄養素なので、日常的なトレーニングの有無にかかわらず、不足するとさまざまな健康リスクがあります。
例えば、タンパク質は血糖値を調節する役割を持っているため、不足すると血糖値が上昇しやすくなり、糖尿病のリスクが高くなります。さらに、高血糖状態が続くと血管の壁がもろくなったり、動脈硬化を起こして血管が詰まり、心筋梗塞や脳梗塞などを発症する危険性もあります。免疫細胞にも欠かせないので、不足すると免疫機能が下がり、肺炎や感染症などの病気にかかりやすくなります。
また、タンパク質は筋肉の材料でもあるので、不足すると筋肉量が減り、運動機能が低下して、体の柔軟性や俊敏性が落ちてしまいます。思ったように体が動かずちょっとした段差で転んだり、体力が落ちて疲れやすくなります。そのため余計に体を動かさなくなり悪循環に陥ります。臓器も筋肉でできているため、摂取した脂肪が消費されにくくなり、内臓にたまってメタボリックシンドロームにつながります。
タンパク質が不足すると太りやすくなります。タンパク質は代謝機能を調節するために欠かせない栄養素なので、不足すると基礎代謝が下がり、脂肪が消費されにくくなるので体脂肪率が上がるのです。
■筋トレで筋肉が落ちてしまうことも
タンパク質はトレーニングにも欠かせない栄養素です。筋トレは筋肉に負荷をかけることで筋肉の成長を促しますが、筋肉は刺激されるとタンパク質を吸収します。
タンパク質から新しい筋肉を合成することを「同化作用」といいます。タンパク質が不足した状態では「同化作用」がうまく働かず、筋肉が分解されるだけになってしまいます。すると、筋トレをしても筋肉量が減ってしまうのです。
しかし、タンパク質が十分にある状態で「同化作用」を起こすと、しなやかで良質な筋肉がたくさん合成され、筋肉量を増やすことができるのです。
筋肉量を増やすには、バランスの良い食事に加え、プロテイン飲料を併用すると効果的です。特に激しい運動後30分は前述の同化作用が活発になり、筋肉へ送られるアミノ酸量が3倍になります。ですから、このタイミングでプロテインを飲むとベストです。
また、朝起きてすぐや、寝る前に飲むのもお勧めです。朝は、眠っている間に消費されるタンパク質を補給できますし、寝る前に飲むと、就寝中に分泌される成長ホルモンによりタンパク質の吸収が活発になり、筋肉ができやすいからです。
特に就寝後1~3時間は成長ホルモンが活発に分泌されて筋肉が修復されるので「筋肉づくりのゴールデンタイム」といわれています。この時間帯に体内にタンパク質がたっぷりあると、筋肉が修復、強化されるだけでなく、疲労回復効果も期待できます。また、タンパク質は皮膚や毛髪を作る材料でもあるため、肌や傷んだ髪の修復にも効果があります。
人間の体は多量のタンパク質を一気に吸収できない作りになっているため、数回に分けて摂取することが大切です。ただし、プロテインは消化が悪いため、トレーニング中に飲むのは避けましょう。運動中の水分補給には不向きなので、ほかの飲み物で水分を補うようにしてください。
■「たくさん摂ればいい」というものではない
不足するとトレーニングの効果が出にくくなりますが、だからといってたくさん摂取すればよいというものでもありません。
タンパク質を必要以上に摂取しても、全てが身につくわけではないからです。アスリートや日常的に運動をしている方の摂取目安量は「1日に体重1kgあたり2g」とされています。2009年に発表された研究によると、それ以上摂取しても筋肉が作られるスピードは上がらなかったことが報告されています(※)。
■腎臓病や尿路結石につながる
タンパク質を大量に摂取すると、吸収しきれず余ったタンパク質は、分解されて窒素になります。窒素は腎臓を通じて体外に排出されるため、タンパク質を過剰に取ると、腎臓に負担がかかります。すると腎機能が低下し、腎臓障害や慢性腎臓病のリスクが高まり、糖尿病の引き金にもなります。また、尿路結石のリスクも高まります。動物性タンパク質を多く摂取すると尿中尿酸値が高くなり、結石ができやすくなるのです。
消化不良や下痢、便秘など、消化器系のトラブルも引き起こします。タンパク質を多く摂り過ぎると、余剰分はそのまま腸へ送られます。タンパク質は消化に時間がかかるため、腸に負担がかかり腸内環境が乱れやすくなるのです。また、動物性タンパク質を摂り過ぎると、体臭や口臭が強くなることもわかっています。
そして、肉や卵など、タンパク質を多く含む食べ物は、比較的カロリーが高いものが多いため、肥満や高コレステロール血症のリスクも上がることにも、注意が必要です。
タンパク質は、食事だけで目標摂取量を取ることは難しいですが、プロテインを取り入れることで不足分を補うことができます。トレーニングを行う人はもちろん、健康や美容のためにも、上手に活用するとよいでしょう。
※Moore, D. R. et al. Ingested protein dose response of muscle and albumin protein synthesis after resistance exercise in young men. The American Journal of Clinical Nutrition. 89, 161-168 (2009).
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産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。
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(産業医 池井 佑丞)
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