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国王は「中継ぎ投手」、王妃は「ダイアナ元妃を死に追いやった人」…戴冠式で注目された"主役以外"の人物

プレジデントオンライン / 2023年5月18日 11時15分

2023年5月6日、ロンドンで戴冠式へ向かうチャールズ英国王とカミラ王妃を乗せた馬車「ダイヤモンド・ジュビリー・ステート・コーチ」 - 筆者撮影

5月6日に開かれたイギリス・チャールズ国王(74)の戴冠式。現地に赴いてパレードを見た英国王室ウオッチャーの東野りかさんは「ハイソな方々は総じて無関心で、中流とそれ以下の人々は、知らない者同士が路上で飲んで騒いで喋ってお祭り騒ぎ。ただし、注目の的は主役の国王ではなく、美人政治家やPerfect Kateことキャサリン妃だった」という――。

■はるばる極東からなぜわざわざ戴冠式を見に行くの?

「It’s so funny」(超ウケるんだけど)

2023年5月6日の戴冠式の前日。ロンドンへ向かう飛行機の中で、隣の席に座っていたイギリス人夫婦に「戴冠式を見に行くのです」と筆者が言ったところ、先のように返された。

自分たちイギリス人は戴冠式に1ミリも興味がないのに、なぜこの東洋人の女は極東くんだりからわざわざ見に行くんだ? と口に出さずとも彼らの顔に書いてあった。

ロンドンで出会ったイギリス人や在英日本人のほとんどの反応は、このようなものだった。国王を支持するとかしないとか以前に、王室そのものに関心がないようだ。その無関心層は若い世代を中心に国民の6割にのぼるという。

■雨にたたられたのはダイアナ妃の呪いという噂が

2022年9月のエリザベス女王の葬儀での奮闘で、チャールズ国王はそれまでの不人気を脱出したようだった。いや、どうやらそこが人気のピークで、それからジリジリと支持率が降下。

国王はインテリでハードワーカー、気難しいオタク気質。亡き女王のようなカリスマ性や求心力はない。妻のカミラ妃もやっと王妃として認められたものの、いまだに、「ダイアナ元妃を死に追いやった」とみる人もいる。

戴冠式当日も、パレードが始まってから雨が降り始めて、儀式の最中はとうとう本降りになった。式の前後の日はすっきり晴れて気温が上昇した時間帯があったというのに運が悪い。「雨にたたられたのは、ダイアナ妃の呪いだ」という噂が、一部ネット上に流れていた。

それでも、パレードのメインルートであり、バッキンガム宮殿に近いザ・マルの周辺は、キャンプの装備を持った人々が場所を陣取り、前日からそれなりに盛り上がっていた。

イギリス人はコスプレが大好きなので、思い思いのキング&クイーンの衣装をまとい、手作りの王冠をかぶっている人も多い。

筆者はこの周辺で見学するのを諦め、まだ並ぶ人が少なく、戴冠式が行われるウェストミンスター寺院近くの街道沿いで待つことにする。

■知らない人間同士で飲んで騒いで喋って、退屈知らず

5月6日、朝6時。

ウェストミンスター寺院近くの沿道の、かぶりつきでパレードを見られる良い場所はすでに人で埋められていた。

国王のパレードが始まるのは10時半ごろ。これから5時間近く時間を潰さないといけないが、イギリス人にとっては、何ら苦痛ではなさそう。というのもイギリス人はコミュニケーション能力が非常に高い。知らない人同士(前も後ろも横も斜めも)でも、喋ること、喋ること。さらには食べ物をシェアする、酒を酌み交わす、スマホの中の家族の写真を見せる、自分のこれまでの職歴を披露するなど。

宮殿から寺院までの沿道でパレードを一目見ようと待つ人々
筆者撮影
宮殿から寺院までの沿道でパレードを一目見ようとテントを張って待つ人々 - 筆者撮影

なかには、パレードの警護をする若手警察官をイジリ出す者も。だから全く退屈しない。筆者の周囲にはアジア系もチラホラいたが、おとなしめ。

そこで筆者は気づいた。

「彼らは君主制支持派というよりも、面白そうなイベントだからとやって来ている人が多いのだ」と。

彼らの身なりや持ち物を見るに、たぶん中流かそれ以下。年齢的には50代以上が多い。ティーンエージャーや幼い子供が結構いたが、どうやら親や祖父母に(半ば無理やり)連れてこられたのか。

パレードを待つ人々
筆者撮影

低学年の子供たちは退屈しのぎに、ずっとタブレットなどでゲームをしている。幼児は手作りの紙製王冠の作成に夢中になっている。筆者は戴冠式後に、バッキンガム宮殿近く、ハイドパークコーナー周辺のパブに入ったが、そこで酒を飲んでいる層は、身なりの良い30代のハイソ風の男女。そういうアッパー層は、パレードの見学者の中にはあまりいなかったような気がする。

■誰でも参加できるお祭り騒ぎだから、参加しないと損

何といっても前回のエリザベス女王から70年ぶりの君主の、そして王妃にいたっては86年ぶりの戴冠式である。

一生で何度見られるかわからない。王室に関心があろうがなかろうが、(入場無料の)誰でも参加できるお祭り騒ぎ、「参加しないのは損!」だと捉えているのではないだろうか。特に庶民にとっては。

パレードを待つ人々
筆者撮影

そこで、「王室のメンバーでは誰が好きか?」と筆者の前にいる中年女性にたずねたところ、「亡くなった女王のことをいまだに尊敬しているわよ。あとはキャサリン妃も好きだね」とのこと。

あのー、今回の主役はチャールズ国王夫妻なんですけど……。

■国家元首はいまだにエリザベス女王の気分

この気持ちもわからないでもない。

多くのイギリス国民にとって、気分的には国家元首はいまだにエリザベス女王。国内で流通する紙幣も切手に描かれているのも女王の肖像だったり、警察官の制帽につけられているバッジもエリザベス女王を表す「E II R」だったり。なんだかんだ言って、まだ女王の国なのだと改めて思う。

思えば、エリザベス女王の戴冠式は彼女が27歳の時に行われた。輝くように若く美しい女王は、新時代の到来を象徴するものだった。一方、今まさに目の前を馬車で通っていったチャールズ国王&カミラ妃は、どう見ても、おじいさんとおばあさん。

特にウェストミンスター寺院からバッキンガム宮殿に帰る馬車は、1700年代の製作で、サスペンションがない、ガタガタ揺れる最悪のシロモノ。この「ゴールド・ステート・コーチ」と呼ばれる古い馬車は、エリザベス女王も前回の戴冠式で乗車したが、20代だった彼女でさえ大変な思いをしたとのこと。しかも重い王冠をかぶっているのだから、国王夫妻が疲れて顔色が悪く見えたのも仕方がない。

■各宗教のトップに、英国国教会の長になったことを宣言

前の女王と違って若さや新鮮さはないにしても、彼は彼なりの思いを戴冠式に込めている。

若い頃から多様な人種の許容、ジェンダー平等、環境問題、貧しい若者の支援などに尽力してきた国王は、特にダイバーシティの精神を式に反映していたように思う。

「今回は英国国教会の長になったことを、カトリック、正教会、イスラム教、ヒンズー教、シーク教、仏教など世界のあらゆる宗教のトップに知らしめることが大きな目的だったと思います。このように多様性に富み宗教色の強い戴冠式を行なっているのは、ヨーロッパの王室ではイギリスだけです。前回の女王の戴冠式でも招かれている宗教関係者は英国国教会の僧だけでした」

とは英国在住30年、イギリス全土とロンドンの公認ガイドの塩田まみさんは言う。

2023年5月6日・チャールズ王の戴冠式と書かれた旗
筆者撮影

■美人政治家、Perfect Kateらに注目が集まる

国王は世間が思うよりも志の高い人だが、偉大な母やダイアナという強烈な個性を持った人々の陰に隠れていた。今回も結局、自分が主人公であるのに、魅力的なキャラクターの存在が耳目を集めた。

例えば、ブルーグリーンのコンシャスなドレスに身を包み、長さ121cmもある宝剣を女性で初めて捧げ持ったのは、保守党下院代表のペニー・モーダント枢密院議長。

フランスの女優カトリーヌ・ドヌーブにそっくりの美貌の持ち主で、ビシッと背筋を伸ばし、微動だにせず立っていた姿が数々のメディアを飾った。「あの美女は誰?」と人々は噂した。

「昨年、エリザベス女王が最後に謁見したリズ・トラス首相の後任の保守党党首選に破れ、ペニーさんは首相になれませんでした。でも、そのおかげで今回の大役が回ってきたと言っていいかもしれません(笑)」(前出・塩田さん)

さらに人気をさらったといえば、ウィリアム皇太子夫妻一家だ。Perfect Kate(完璧なケイト)ことキャサリン妃が馬車の中から手を振る美しい姿は神がかっていた。加えて、長男のジョージ王子が国王のトレーンの裾を持つ最年少ページボーイを務め、賢くお行儀の良い長女シャーロット王女とやんちゃな末っ子ルイ王子のかわいさと言ったらない。国王の妹のアン王女が軍服を身に着け、王族の中ではただ一人、パレードに馬に乗って参加するという、安定の格好よさ!

悩みのタネである国王の次男・ハリー王子は、一応列席はしたが、式後にさっさとアメリカに帰国していった。問題を起こさず、妻のメーガン妃の元に帰ったことで国王はひと安心したかもしれない。

■エリザベス女王の墓には、多くの若者が参列に訪れて

何度も言うが、戴冠式の主人公は国王夫妻だが、どうにも影が薄い。

翌日はイギリス全土の英国国教会の教会で、国王の戴冠を祝う礼拝が各地で開催されたが、筆者が参加した教会は人がまばらで寂しい。どれだけ新国王がダイバーシティやジェンダー平等を訴えても、君主制は時代遅れの古臭いものなのか。

しかし、他日、ウィンザー城内の聖ジョージ礼拝堂に行ったところ、若い年代の人も大勢訪れ、エリザベス女王の墓に祈りを捧げている人が多かった。前述の通り、まだ国民の気分は女王の治世。新しい国王の魅力がちゃんと認知されていないのだ。

戴冠式でも君主の長寿を願っていたが、74歳のチャールズ国王の場合、エリザベス女王ほどの長い治世は望めないだろう。となると、国王の役目は、世の中のニーズをくみ取り、王室が絶えることがないように努め、無事にウィリアム皇太子に王位をバトンタッチすること。“中継ぎ投手”のような存在であることは否めない。

ウェストミンスター寺院に向かう馬車
筆者撮影

■チャールズに会った人は皆ファンになる

それでも、90歳過ぎて矍鑠(かくしゃく)とした姿を見せていれば、エリザベス女王のようなカリスマ性や求心力を発揮するかもしれない。

「国王をはじめ、王族は多くの公務をこなし、国民と直に触れ合うことで、王室の存在をアピールしてきました。国王は“気難しくて偏屈なチャールズ”と思われていますが、実際に彼に会った人は皆ファンになっています。君主は人気商売ではないものの、人間的魅力は大事です」(前出・塩田さん)

長い長い皇太子の時期を経て、やっと国王になったチャールズ3世だが、君主としての真価が問われるのは、まだまだ先のことになりそうだ。

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東野 りか フリーランスライター・エディター
ファッション系出版社、教育系出版事業会社の編集者を経て、フリーに。以降、国内外の旅、地方活性と起業などを中心に雑誌やウェブで執筆。生涯をかけて追いたいテーマは「あらゆる宗教の建築物」「エリザベス女王」。編集・ライターの傍ら、気まぐれ営業のスナックも開催し、人々の声に耳を傾けている。

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(フリーランスライター・エディター 東野 りか)

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