精神科医に「死にたい」と打ち明けた借金1000万円を抱えた50代男性が1週間後に明るい表情になった理由
プレジデントオンライン / 2023年5月24日 15時15分
※本稿は、樺沢紫苑『言語化の魔力 言葉にすれば「悩み」は消える』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
■「どうにもならない」が、最大のストレス
「ブラック企業に勤めて、毎日がたいへん。メンタルが病みそうです」
労働環境が劣悪。ストレスが多い仕事で、かつ毎日残業……そんなブラック企業に勤めて3カ月で「うつ」になる人がいます。一方で、同じブラック企業に勤め、同じ仕事内容、同じ勤務時間で3年以上働いているのに平然としている人もいます。
この違いは何なのでしょうか?
答えは「コントロール感」の有無です。
実は、「うつ」になった人は、忙しいことがストレスだったわけではありません。忙しい勤務体制を、「自分でコントロールできていない」ことがストレスなのです。
「コントロールできていない」とは、「やりたくないことを、やらされている状態」のこと。
具体的には、「やらされ感を持ちながら、嫌々仕事をしている」「仕事に工夫の余地がなく、言われた通りに、言われたやり方で、仕事をこなさなければならない」「マニュアルと違うやり方をすると怒られる、やり直しをさせられる」
「反論や議論の余地がない、意見を言うことが許されない」「横やりが多い」「裁量権がない」「時間に関して厳密すぎる」「まったく融通が利かない。杓子定規」などです。
まったく同じように忙しい労働環境に置かれても、「コントロール感」さえ持てていれば、むしろ「楽しい」「充実している」と感じられるようになります。
■コントロール感でストレスは激減する
スウェーデンの心理学者ロバート・カラセックは、どんな仕事がストレスになるのか、どうすれば職場のストレスを減らせるのかを研究し、「職場ストレスモデル(カラセックモデル)」をまとめました。
横軸を「仕事の要求度(デマンド)」、縦軸を「仕事の裁量度(コントロール感)」として、様々な仕事を4種類に分類しています。図表2を見ながら解説しましょう。
左上領域の「仕事の裁量度が高く、要求度が低い」場合は、難しすぎない仕事を自分の好きなように行うことができるわけですから、心理的な負荷が低い。右下領域の「裁量度が低く、要求度が高い」場合は、難しい仕事を自由度なく行うので、負荷が高くなります。
次に、仕事のコントロール感を持ちながら、難しい仕事を上手にこなせる人は、「積極的」な職場態度となり、学習意欲やモチベーションも高く充実感もあるでしょう(右上領域)。
反対に、単純でコントロール感がない仕事、たとえばオートメーションのライン作業や内職作業のような単純作業の反復は、「受身的」となり無気力になりがちです(左下領域)。
もう1つ、研究例をご紹介します。
福岡県の産業医科大学が、6千人以上の日本人労働者を9年間フォローし、カラセックモデルと病気の発症率や自殺率の関係を研究しました。
その結果、「高負荷」のグループは、脳卒中の発症率が「低負荷」の2.73倍。また、「裁量度が低い」グループの自殺率は、「裁量度が高い」の4.1倍にもなったのです。
共に「コントロール感」の有無が、心身に大きな影響を与えることがよくわかるデータです。
この「コントロール感」というのは、仕事の種類、業種に限らず、本人が「コントロールできている」と自覚していることが大切です。
単純な内職作業でも、「スキマ時間に音楽を聴きながら楽しく作業できている!」と自覚していれば、ストレスが低いわけです。
また、仮に仕事の裁量権が与えられていても、自分で計画や目標を立てるのが苦手な人は、「自由に計画を立てていい」ことに、強い「やらされ感」を覚え、ストレスが増えるかもしれません。
同じ仕事を、同じ時間していても、コントロールできているという感覚があれば、ストレスは減り、気分は楽になる。
コントロールできないという感覚で、ストレスは増え、気分はつらく、苦しくなる。
あなたは今、どちらの状態でしょうか。
■借金1000万円で憔悴から1週間で明るい表情に
「借金1000万円を抱えてしまった。死にたい……」
もう少し「コントロール感」をわかりやすく理解できる例を紹介します。
小さな会社を家族で経営している50代の男性Cさん。仕事の失敗で1000万円の借金を負って精神を病み、奥さんと一緒に来院されました。
Cさんは明らかに憔悴した様子で、落ち着きもありません。
「今月中に1000万円を用意しないと、会社が倒産する。家族も養えない。もう生きていてもしょうがない。自殺して生命保険で返済するしかない」と物騒なことまで言い出します。
「銀行に相談しましたか?」と訊くと、「していません」という返事。今まで自己資金で細々と経営していたので、銀行からまとまったお金を借りたことがないと。「とりあえず、銀行に行って相談してみたら?」とアドバイスをして、その日は薬も出しませんでした。
1週間後、Cさんは別人のような明るい表情で来院しました。銀行に相談したら、家と土地を担保に1000万円の融資を受けられることになったそうです。
「月々6万円の返済ですが、それならなんとかなりそうです!」
不思議ではありませんか? Cさんが、「1000万円の借金を負っている」事実はまったく変わっていません。1週間前と比べて、借金は1円も減っていないのです。
■「なんとかなる」で心が楽になる
「1000万円など絶対に返済できるはずがない。無理。どうしようもない」とコントロール感を失ってパニックとなり、「自殺する」とまで言っていたCさん。
しかし、銀行から融資を受けて、返済計画を立ててみれば、「月6万円の返済」でよかったのです。「月6万円なら払える」とコントロール感を取り戻したCさん。不安は一瞬でなくなりました。
これが「コントロール感」の力です。
悩みの根本原因を取り除かなくても、コントロール感があれば、「なんとかなる」という感覚が湧き、実際に行動にうつす精神的な余裕も生まれます。
「あー、どうしよう」「もう、どうにもならない」「もう、ダメだ。終わりだ」と口走っている時は、かなり追い込まれた状況にいます。その時、ハッと気付いて、「どうしようもない」を「なんとかなる」に転換できれば、悩みは解消するのです。
(樺沢紫苑)
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