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局長たちの「利益誘導」を「ミス」で片付け不問にする…なぜ日本郵便は"小学生レベルの不祥事"を繰り返すのか

プレジデントオンライン / 2023年5月24日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/EvergreenPlanet

失敗は誰の身にも起きるが、失敗をごまかし、ウソで上塗りするのは、組織として最低の事後対応だ。そんな最低な対応を、全国の郵便局を運営する日本郵便が最近、また一つ積み重ねている。地域の住民や郵便の利用者を蔑ろにして、郵便局長会という身内に利得を横流しするためだ。『郵便局の裏組織』(光文社)を上梓した朝日新聞の藤田知也記者が解説する――。

■取締役会のウソ報告を「手続きミス」と釈明

賃料が得られる郵便局舎の移転先物件を郵便局長に持たせようと、取締役会へのウソ報告が日本郵便では横行していた。これは筆者が2021年の夏から追及してきた疑惑である。

日本郵便は4月26日公表のニュースリリースで、ウソの報告を基に取締役会が承認した局長の局舎取得が103件あり、対象期間の移転局舎の3分の1超を占めると認めた。全国13支社のうち9支社で働く社員52人が、ウソ報告に関与していたのだが、同社の信用をさらにおとしめているのは、その釈明内容だ。

「手続きミスの範囲でとどまっています。社員が意図してウソをついたとは捉えていません」

報道陣に対して堂々と言い切ったのは、日本郵便の坂東秀紀執行役員だ。4月26日、オンラインで開いた記者会見の場である。

意図しないミスでウソの報告書を書いた? 筆者が「その説明は一般常識では理解できない」とただすと、坂東氏はこう答えた。

「ヒアリング等の結果から、そういう認識に至っています」

日本郵政グループという上場企業の中核会社が、いかに壊れて手がつけられなくなっているかを物語る一幕ではないか。

■局長が局舎移転先の土地を買いあさる「局舎問題」

まずは局舎問題の概要を振り返っておこう。

端緒は、移転する郵便局舎の多くが、現役の郵便局長の所有物になっていたことだ。登記簿などで調べてみると、2018~20年に移転した局舎のうち約3割が現役局長の所有だった。移転の直前に、局長が第三者から土地を買ったり借りたりするケースが多く、戸建ての新築局舎に絞れば、割合はさらに高くなる。

日本郵便は親会社が上場した2015年以降、移転先の物件を局長が取得するのは原則禁止としている。不当利得を防ぐ目的で、どうしても社員に持たせるのは「真にやむを得ない理由」があると取締役会で決議した場合に限る。地主が「日本郵便には土地を譲りたくないが、局長なら譲ってもいい」と言い出すような、ごくまれなケースに限ると社内ルールで定めている。

■「真にやむを得ない理由」が横行

ところが、支社の現場では、「真にやむを得ない理由」があるかのように演出し、取締役会から決議を引き出す欺瞞(ぎまん)が日常茶飯事だった。

どういうことか。

支社の担当部署は、必要な移転先を探す本来業務より、局長に局舎を持たせる目的を優先する。つまり、局長が局舎を欲しがるなら、移転先は局長に見つけさせ、地主との交渉も局長にやらせる。局長から「土地は自分に譲って」と地主に働きかけ、地主から支社社員に「土地はどうしても局長に」と言わせることで、さも「真にやむを得ない理由」があるかのように演出する。じつに手間の凝った工作である。

こうした実態を裏付けるように、20年初めには当時の全国郵便局長会会長が組織の会合でこう公言していた〔詳細:「どうせ出来レース」地主も嘆く、郵便局長「局舎横取り」疑惑の真相:朝日新聞デジタル(asahi.com)〕。

「各支社の担当は(局長の)意見を最大限尊重するスキームになっている」

■虚偽報告は「自然に起きたこと」

それでは、日本郵便が1年以上も費やした「調査」の結果はどうだったか。

今回の処分対象は、支社社員が地主と話もせず、その意向をでっち上げて報告書類に記した例に絞られた。いわば「演出」が行き届かなかった例である。それだけでずいぶんな数だが、地主に働きかけて日本郵便の取引を妨害した局長の行為や、担当部署が局長と共に実質的に取締役会を欺いた行動は、すべて見過ごされることになった。

何より驚かされるのは、ウソ報告の「動機」や「原因」の説明だ。

いわく、支社社員は調達手続きの理解が希薄だったため、業務の煩わしさから、局長の意向をくもうとウソの報告書を書くに及んだ――。ニュースリリースには、そんなふうに書かれている。

これでは、業務が煩わしいからウソをつく阿呆(あほう)な社員が各地で50人超もいた、という話になる。事実なら小学生レベルの不祥事で、企業のガバナンス以前に、社会人としての資質が集団的に疑われる事態だ。

担当役員の坂東氏は会見で「ミス」だの「不備」だのと補足し、「意図もなく組織的でもない」と主張するために、「自然に起きた」「空気の中で起こった」などの言葉も継いでいった。

記者会見
写真=iStock.com/wellphoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/wellphoto

こうした説明が事実と異なるのは疑う余地もなく、ウソと言っても過言ではない。

調査を担った日本郵便のコンプライアンス部門はもちろん、日本郵便という企業そのものの信用が、今回の「事後対応」によって地に落ちようとしている。

■局長会が局長に局舎を持たせたがるワケ

自らの信用を投げ捨て、ウソとしか思えない方便をまき散らしてまで、いったい何を守りたいのか。

局長個人が局舎を欲しがる動機は、賃料欲しさではなく、自分で局舎を持つ「自営局舎」を郵便局長会が強力に推進していることが大きい。中には欲しくもないのに、渋々取得する局長も珍しくない。

では、局長会は何のために局舎を局長に持たせるのか。

答えは拙著『郵便局の裏組織』で詳細に明かしているが、事実として浮かび上がるのは、郵便局長会の関連団体に多額の利得が注ぎ込まれていることだ。

全国に12ある地方郵便局長協会は、局長に局舎の取得資金を融資し、多額の利息収入を稼いでいる。たとえば中国地方郵便局長協会は日本郵便の局舎賃料などを元手に、20年12月期だけで9000万円超の貸付金利息を得ている。局長数で単純に試算すれば、利息収入は全国で年間10億円規模にも上るはずだ。

局長協会は一般財団法人で、役員や所在地は各地の地方郵便局長会とほぼ同じ。法人格のない地方郵便局長会に代わり、契約を結んだり不動産を保有したりするのに使われる「サイフ」役だ。各地でビルを保有して郵便局を入居させたり、一部では1棟マンション投資にも乗り出したりするなど、資金運用には余念がない。

運用資金の元手は、会員である局長から集める積立金が中心だ。運用で稼いだお金は会員への支払いに充てるほか、組織を回す人件費や不動産などの管理費にも使われる。いわば、「裏組織」である局長会の運営を支える資金源の一部である。

企業の管理者でつくる財団法人が、会社から支出される店舗経費の一部を、自分たちのサイフに流れ込むように工作を働いている、ということだ。

ところが、こうした郵便局長協会の”錬金術”について、担当役員の坂東氏は会見で「そんなに大きくない」とまで言ってかばってみせた。なるほど、協会に流れる10億円も彼らにとってははした金なのか。

■「最低の事後対応」で信用は地に落ちた

折しも日本郵便は、郵便や宅配の利用料金を続々と値上げしまくっている時期にある。

彼らは郵便の利用者負担が重くなるのは厭わず、地域住民である地主が土地取引で不利益を被るリスクにも目をつむり、身内同然の局長会の利得を守るためだけに、なりふり構わず「最低の事後対応」に走っているのだ。

実はこれは、近年の不祥事で見られた日本郵便の“王道パターン”だ。

藤田知也『郵便局の裏組織 「全特」――権力と支配構造』(光文社)
藤田知也『郵便局の裏組織 「全特」――権力と支配構造』(光文社)

経営陣やコンプライアンス部門による「見て見ぬふり」は、顧客の情報を局長会の選挙のために流用した問題、8億円のカレンダー費用を局長会の要望に応じて注ぎ込んだ問題でも、同様だった。一般社員はちゅうちょなく切り捨てるわりに、局長会の利権が絡むと途端に、企業のガバナンスもコンプライアンスも棚上げにしてしまう。

彼らは郵便局の利用者の保護などよりも、局長会の利権を守ることを優先している。そのこと自体が郵便局ブランドを深く傷つけ、寿命が縮まるのを加速させているというのに。

郵便サービスを利用する私たちは、局長会の利得のために、利用料などの負担が重くなっていく事態をこのまま漫然と見過ごすのか。それが許せないとすれば、選択肢は一つしかない。日本郵政と局長会に改善の兆しがない以上、郵便に頼らない生活への移行を加速させ、決別への備えを急がなければならない。

現場の社員と郵便の利用者を愚弄(ぐろう)した今回の振る舞いも、そう指南してくれている。

※郵便局長会や局舎に関する情報は、筆者(fujitat2017[アットマーク]gmail.com)へお寄せください。

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藤田 知也(ふじた・ともや)
朝日新聞記者
早稲田大学大学院修了後、2000年に朝日新聞社入社。盛岡支局を経て、2002~2012年に「週刊朝日」記者。経済部に移り、2018年から特別報道部、2019年から経済部に所属。著書に『郵政腐敗 日本型組織の失敗学』(光文社新書)、『郵便局の裏組織 「全特」――権力と支配構造』(光文社)など。

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(朝日新聞記者 藤田 知也)

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