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ピアノを習いに来た14歳少女を本気で口説く…"妄想癖"のベートーヴェンが名曲を生み続けた納得の理由

プレジデントオンライン / 2023年5月23日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Keith Lance

「交響曲第9番」や「エリーゼのために」など数々の名曲を生んだ作曲家ベートーヴェンは、どんな人物だったのか。音楽プロデューサーの渋谷ゆう子さんは「生涯独身だったベートーヴェンは身分の違いから数々の失恋をしたことで知られているが、実際は身分差以前に、猪突猛進型で自爆するパターンだった」という――。

※本稿は、渋谷ゆう子『名曲の裏側 クラシック音楽家のヤバすぎる人生』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

■だれとも結ばれないまま56歳で生涯を閉じる

音楽史上最も有名で多大な影響を残した作曲家、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。ライオンヘアで赤いスカーフの気難しい肖像画が音楽室に飾られ、第九(交響曲第9番)は日本の年末に欠かせない風物詩となっている。そんな偉大なるベートーヴェンのプライベートといえば難聴に悩まされただけでなく、愛する女性にことごとく振られ続けた不遇な生涯だった。

1770年 神聖ローマ帝国ケルン大司教領のボンで生まれる。
1787年(16歳)ウィーンへ行きモーツァルトを訪問。
1792年(22歳)ハイドンに弟子入り。ウィーンに移り住む。
1801年(30歳)「月光ソナタ」作曲。
1802年(32歳)難聴を苦に、オーストリアのハイリゲンシュタットで遺書を書く。
1809年(39歳)交響曲第5番「運命」を出版。
1810年(40歳)「エリーゼのために」作曲。
1824年(54歳)交響曲第9番を作曲。
1827年(56歳)肝硬変のため死去。葬儀にはウィーン市民2万人が参列した。

1770年、ドイツのボンでベートーヴェンは生まれた。歌手でアルコール依存症の父親のせいで生活は困窮し、当の父親から才能と収入をあてにされるという、人生のスタートからして不穏な空気を纏っていた。

しかし音楽的才能は進化し続ける。16歳のベートーヴェンは当代きっての大作曲家であるモーツァルトに会いたくて、ドイツからオーストリアのウィーンまで行ったりもする。情熱と積極性。これがベートーヴェンのひとつの特徴だ。

■近隣トラブルで引っ越しは70回以上にも

その後偉大なる作曲家ハイドンにもその才能を見出され、1792年、当時文化の中心であったウィーンに移り住み、作曲家への道を開いていく。ただ性格に難ありと評判で、恩人ハイドンから「ハイドンの弟子って楽譜に書いていいよ」と言われて「お前からは何も教わってないわ」と断固拒否した逸話はなかなかである。人でなし加減が振り切れていて、いっそ清々しい。

そんなベートーヴェン、このウィーンでは第5番「運命」や「第九」をはじめとしたオーケストラ楽曲やピアノソナタなど数多くの素晴らしい作品を残した。気難しく変わり者で気分屋の性格が災いし揉め事も多発。ウィーンでの引っ越しは70回以上にも及び、半年に一回は引っ越ししている計算になる。

度重なる移転の理由は、ハチャメチャな生活にあった。引っ越す、引っ越さない、行くところがないなどと騒ぎ、友人や近隣を巻き込んでの騒動に発展したりもする。当時ピアノや大量の楽譜と一緒の引っ越しは大変なことだった。

そんな落ち着かない中で作曲を続けるが、20代後半頃にはすでに難聴の気配があり、40歳頃には全く聞こえなくなっていたという。大量の飲酒のせいもあり体中を病が進行していった。交響曲第10番を完成できないまま、1827年56歳で亡くなった。

■「尊敬の念しかございません」の意図に気づけない

ベートーヴェンは作曲家としての偉業と共に、数々の恋愛遍歴も有名である。さすがは作曲家だ。好きな人ができると相手に曲を贈り、熱烈にアプローチをしていたよう。しかしいつも振られてしまう。彼は生涯独身だった。この失恋の数々は身分の違いという社会的側面で語られることも多いが、そこを女性視点でも考えてみよう。

ある時には一度振られた女性が結婚したのち、未亡人になった後に懲りずに再度アプローチする。「尊敬の念しかございません」と丁寧な返事をいただいたにもかかわらず諦めない。断られていることを理解できていますかと言いたいくらい空気読めなさを発揮した。

「尊敬の念しかございません」って「本当に素敵!」ではなくて、「男としては見られません」という辛辣な内容を穏便に返答しているだけで女性側の割と丁寧な配慮なのだが、そこはわからなかったのかもしれない。

ベートーヴェンの妄想的恋愛突進自爆はいつも同じパターン。熱烈な恋に落ちて、手紙や曲を贈りまくる。さらには自分の友人に宛てて「もうめちゃくちゃ可愛い子がいるんだがww(意訳です)」と手紙を送る。もう素晴らしく有頂天な感じだ。情熱的で猪突猛進的な性格が恋愛に強烈に表れる。そういう強引さが時として魅力とも思えるが、結局はフラれてしまう。

■「月光ソナタ」は14歳の少女に贈ったもの

30を過ぎてもなおその勢いは衰えず、次の恋の相手もまた、自分にピアノを習いに来た美しい14歳の少女ジュリエッタだった。この時も「この娘と結婚したら幸せになれそうwwwなんなら病気も大丈夫かもww(意訳です)」のような手紙をまた友達に送っている。

名探偵コナンの神回で有名な「月光ソナタ」はこの時の彼女に贈ったものだ。美しくロマンチックな楽曲だが、好きな人に贈るにはちょっと暗すぎない? と思わなくもない。伯爵令嬢という身分の差があったにせよ、ご想像のとおりこの恋(いっそ妄想かもしれないが)も、結婚というゴールにたどり着くことはなかった。

いよいよ40も過ぎた頃、彼は性懲りもなくまた恋愛をこじらせる。友達の紹介で知り合った(どこかの結婚式だったようだが)テレーゼ28歳に心奪われたのだ。この時作られたのが「エリーゼのために」というピアノ曲である。いや待て。テレーゼさんが好きで贈った曲がなぜエリーゼ宛てなのか。

■フラれる要因は「エリーゼのために」を聴けばわかる?

実はこの曲、楽譜にドイツ語でタイトルが書かれていたのだが、その字があまりに汚なすぎて読めなかったのだ。なんかよくわからないけどエリーゼって書いてあるっぽい、という雰囲気で後世にこのタイトルで知られるようになってしまった。自分の名前のはずだけど汚くて読めないってどういうことなの、と私が贈られたほうなら思う。

非常に美しいピアノの曲だが、これを聴くと、ああやっぱりな、フラれるはずだわ、字が汚いだけじゃなく、と現代でも女性たちの間でそのナルシストぶりがネタにされたりしてしまう。

「エリーゼのために」はまるでお花畑を歩いているかのような滑らかで美しいメロディから始まる。ロマンチックこの上ない。あたりにも爽やかな風が吹いているような名曲だ。中盤には少し激しい雰囲気が現れる。テンポも速くなり盛り上がっていく。そしてまた終盤に最初のフレーズに戻って繰り返す。美しい曲だ。流れるような右手のメロディに左手の伴奏が追いかけていくように攻めていく。右手と左手が重なり合うように同じ音を繰り返す、ロマンチックな指使いまであって。

素朴なピアノのキー、クローズアップ画像。古典的な楽器。
写真=iStock.com/Patrick Daxenbichler
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Patrick Daxenbichler

■「不滅の恋人よ」ラブレターは相手に渡っていない

ベートーヴェン天才だ。だがしかしこの曲を贈られた女性の気持ちになってみると、やっぱり女心に響かなかったのだと思う。私自身を見てるんじゃなくて、私を好きな自分自身に酔ってるなと。

お花畑を歩いているのは「自分の理想たる女性像」。私じゃない。何度も繰り返される同じフレーズが私に向いているようには感じない。キミが好きだよ、こんなに好きだよ、美しいキミを思う僕の心はこんなに激しいんだよ、としつこいくらいに繰り返す。いや、こっち見ろ、である。女性からすれば自分の顔がそこに見えないのだ。表現されているのはベートーヴェン自身の思いだけ。

女性の側からしたら、それが一番受け入れ難い。そんな相手とは困難を乗り越えて共に生きようとは思えない。残念ながらそういうことになってしまうのだろう。いつも。

なお、上梓した『名曲の裏側 クラシック音楽家のヤバすぎる人生』(ポプラ新書)では、「エリーゼのために」をはじめ、筆者がセレクトした楽曲を本文にあるQRコードから聴くことができる。スマートフォンやタブレットで読み込むと音楽ストリーミングサービス「Spotify」で曲を再生することができるので、ぜひ本書をお手に取っていただきたい。

※QRコードは、株式会社デンソーウェーブの登録商標。

■ままならない人生だったからこそ名曲が生まれた

晩年のベートーヴェンのラブレターとして最も有名な「不滅の恋人よ」と呼びかけたものも実は、相手に渡っていない。ベートーヴェンの死後に机の中から出てきた、つまり独白ラブレターなのだ。ここまでくるとベートーヴェンのモテなさが可哀想な気さえしてくる。

渋谷ゆう子『名曲の裏側 クラシック音楽家のヤバすぎる人生』(ポプラ新書)
渋谷ゆう子『名曲の裏側 クラシック音楽家のヤバすぎる人生』(ポプラ新書)

ベートーヴェンは作曲家として輝かしい地位を築いた。生まれて250年が経った今も楽聖として崇められている。彼がいなかったら今のクラシック音楽はなかっただろう。病気や難聴といった不遇な運命にあっても残した功績は素晴らしい。作曲家として成功し、ウィーン音楽文化の中心的な存在であるベートーヴェンは、デキるオトコとして大変理想的だ。社会的な成功は男性を魅力的に見せる。

だがしかし、一歩そのプライベートに近づいたら、その奇人ぶり、気難しい気性についていけないと周囲が思ったのも理解できる。ベートーヴェンに愛し愛され、心の支えになってくれる女性がもしそばにいたら、生まれた楽曲の数々もまた違っていたかもしれない、と思わなくもない。

今残っている楽曲を聴いて、そう、いややっぱり思わないな、このままがむしろいい。この情熱と経験と、そしてままならない人生が偉大な作品へと繋がっている。フラれ続けてくれてありがとうベートーヴェン。いや感謝すべきは彼を受け入れなかった女性たちかも。

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渋谷 ゆう子(しぶや・ゆうこ)
音楽ジャーナリスト、音楽プロデューサー
香川県出身。大妻女子大学文学部卒。株式会社ノモス代表取締役として、音源制作、コンサート企画運営を展開。また演奏家支援セミナーや音響メーカーのコンサルティングを行う一方、ジャーナリストとしてウィーン・フィルに密着し取材を続けている。

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(音楽ジャーナリスト、音楽プロデューサー 渋谷 ゆう子)

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