「50歳をすぎたら生命保険も医療保険も不要」というお金のプロが「これだけは必要性が高い」と説く保険
プレジデントオンライン / 2023年5月29日 11時15分
※本稿は、大江英樹『50歳からやってはいけないお金のこと』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。
■最も大きな「無駄な支出」
無駄な支出で最も大きなものは不要な保険でしょう。
誤解のないように申し添えておきますが、私は保険というのはとても大事なものだと考えています。人類が考え出した偉大な叡智の一つだとさえ思っています。なぜなら、保険というのは自分一人の力ではどうにもならない経済的な問題が起こった時にそれを解決してくれるからです。
ということは、自分一人で解決できる経済的な問題であれば、保険に入る必要はないということですね。では、ここから具体的に考えてみましょう。
■保険が必要な3つの条件
私は、保険を絶対に利用すべきなのは、次の3つの条件が揃(そろ)ったケースだと思っています。
まずはじめは「めったに起こらないこと」です。めったに起こらないからこそ、安い保険料でたくさんの補償が得られるのです。しょっちゅう起きることなら保険料がとても多額になってしまいますから、入るべきかどうかは慎重に考えるべきです。
2つ目は「もし起こったら自分の蓄えでは到底まかなえないこと」です。実はこれが保険の一番キモになる部分です。自分の蓄えで何とかなるのであれば保険に入る必要はありません。貯金をしていればいいだけです。自分の貯金では絶対無理と言えるほどの巨額の負担があるからこそ、みんなが少しずつお金を出し合い、不幸にしてそんな目に遭ってしまった人にそのお金を回してあげる。まさに保険の相互扶助の考え方はここにあります。
そして3つ目は「それがいつ起きるかわからないこと」です。あらかじめ起きることがわかっていれば、それに備えてお金を準備することもできます。しかし、往々にして不幸は突然やってきます。それまでにお金の蓄えが間に合わないこともあります。だからこそ保険が必要なのです。
■最も必要性が高いのは自動車保険の対人賠償
このように考えていくと、入る必要性が高い保険の最もわかりやすい具体的な例は、自動車保険の「対人賠償」です。
自動車を運転していて事故を起こし、相手を死亡させるなどということはめったに起きることではありません。でも、もし起きてしまったら、何億円もの賠償金はとても自分の蓄えで払うことは無理でしょう。それに、車を運転している限り、いつこのような人身事故が起きるかはわかりません。だからこそ、車を運転するなら、対人賠償無制限というのは絶対入っておくべき保険なのです。
恐らくほとんどの人は、自分が運転していて死亡事故を起こすなどということは、生涯経験することがないでしょう。そんなめったに起きないことだから年間数万円の保険料で何億円もの賠償金をまかなうことができるのです。これこそが保険の意味であり、重要な役割です。
ところが、車両保険の場合はどうでしょう? 車両保険というのは、言わば自損事故に対する補償です。こちらは人身事故と異なり、割とよく起きることです。車庫入れする時にちょっと擦ったりすることはよくあります。よく起きるからこそ、保険料が高いのです。ですから、中古で車を買った時は車両保険には入らないという人も結構います。
![自動車保険](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/a/1200wm/img_aadaaedb79667fedc1b83d789db5c382403384.jpg)
■生命保険は必要か?
このように論理的に考えていくと、自ずと保険に入るべきケースと保険が不要なケースが明らかになってきます。
例えば生命保険。会社を定年退職した人にとって、生命保険はほとんど無用と言っていいでしょう。生命保険の役割は、一家の働き手が亡くなってしまった時に残された遺族の生活保障にあります。したがって、独身で扶養者もいない人であれば生命保険は不要ですし、定年になった人で子供が既に独立しているのであれば、やはり生命保険に入る必要はありません。
まだ年齢が若くて子供が小さい、そして配偶者が働いていない場合には生命保険に入った方がいいと思いますが、その場合でも、「遺族年金がいくらぐらいもらえるのか?」、会社員であれば「勤めている会社に遺族補償や弔慰金といった制度がないか?」といったことを調べ、いくらぐらいの金額が受け取れるかを把握した上で、足りない分だけ掛け捨てで保険料の安い生命保険に入ればいいのです。
年輩の人で生命保険が必要なのは数億円の資産を持っている人です。そういう人が相続税対策として入ることは有効ですが、普通の人であれば、高齢者に生命保険は必要ありません。もちろん私も生命保険には全く入っていません。
■医療保険よりも貯金が大事
同様に、医療保険に入るかどうかも慎重に考えるべきです。
多くの人は誤解しているようですが、民間の医療保険というのは別に治療費をまかなうためのものではありません。治療費をまかなうのは公的な医療保険、つまり会社員であれば健康保険組合などであり、自営業の人などは国民健康保険です。一度自分の給与明細を見るとわかると思いますが、健康保険料としてかなりのお金が引かれているはずです。これが病気になった時のための保険料です。
では、民間の医療保険というのは、一体何のためにあるのでしょう? それは公的な医療保険ではカバーできない部分をまかなうためです。具体的に言えば、入院した時の食事代(患者が負担する食事療養標準負担額分)、同じく入院して個室に移る場合の差額ベッド料、そして病院に通うためのタクシー代といった部分です。これらは公的な医療保険ではカバーされません。でも、よく考えてみてください。これらの費用は貯金があれば何の問題もありません。
![医療費明細書](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/3/1200wm/img_4311ef28d6ce30e76f8581a9032eaa60400718.jpg)
■公的医療保険の充実ぶり
それに、治療費に関しても公的医療保険には「高額療養費制度」というのがありますから、入院して高額になったとしても自分が負担する治療費はせいぜい10万円に満たないぐらいです。
さらに言えば、大企業に勤める人であれば自社の健康保険組合があり、独自の「付加給付」がある場合もあります。この場合、企業によって金額は違いますが、多くは自己負担の上限が2万円とか3万円と定められています。この場合、どんなに医療費がかかっても自分が負担する金額はその金額までですから、民間の医療保険に入る必要は全くありません。
実際、民間の医療保険が国内の保険会社で販売されるようになったのは2000年頃からです。だとすれば、それまで病気になった人はどうしていたのでしょうか? 決して治療が受けられなかったわけではありません。公的な医療保険でカバーされていたのです。
民間の医療保険に入っていないからといって無保険というわけではありませんし、心配する必要は全くないのです。
■高度先進医療についてはどうか
最近では、高度先進医療にお金がかかるので医療保険に入った方がいいという意見も多く聞かれます。
たしかに高度先進医療には公的医療保険が適用されません。でも、これは順序が逆なのです。
なぜ高度先進医療に公的医療保険が適用されないのかを考えてみましょう。それは、その治療の効果が確認されていない実験的なものだからです。十分な効果が見込まれるものであれば、公的医療保険が適用されるはずです。
患者さんにしてみれば、藁をもつかむ気持ちで、実験的な治療でも試してみたいという気持ちはよくわかります。でも、お医者さんによっては、そういう治療を勧めない、あるいはやりたくないという人もいるでしょう。なぜなら失敗する可能性も大きいし、そうなった場合、最悪、医療訴訟ということも考えられるからです。実際に私の友人には何人も医師がいますが、一様に高度先進医療には慎重な姿勢です。
![高齢者に説明する男性医師](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/e/1200wm/img_1ef59653a25848563637b43243a363e7405070.jpg)
■高齢期に必要なのは「保険」よりも「現金」
このように冷静に論理的に考えると、入るべき保険と入る必要のない保険が見えてきます。ところが、どうやら日本人は世界一保険が好きな国民のようで、かなり過剰に保険に入っているように思えます。
![大江英樹『50歳からやってはいけないお金のこと』(PHPビジネス新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/d/1200wm/img_5dc6ed78bf51e0959fb808cf0d260578231862.jpg)
公益財団法人生命保険文化センターが3年に一度「生命保険に関する全国実態調査」をおこなっています。直近の2021年度の調査を見ると、生命保険で払い込む保険料は全世帯平均で年間37万1000円となっています。これが中高年齢層になると増える傾向があります。50代前半では43万2000円、50代後半になると43万6000円。60代前半では38万4000円といったん減少しますが、60代後半には再び43万6000円と増加しています。
前述したように、高齢期になれば生命保険に入る必要があるかどうか疑問です。むしろ、高齢期に必要なのは保険ではなくて現金です。保険はその保険がカバーする事態が起こった時にしか支払われませんが、現金を貯めておけば何にでも使うことができます。
■保険の見直しで+1000万円の貯金ができる
毎年40万円以上も保険料を払い続ける、それも自分が死んだ後に支払われる生命保険にそんな金額を払い続けるよりも、その分を貯金しておけば、50歳から70歳までの20年間で800万円以上になります。
病気になった時は公的医療保険で治療費をまかない、個室に移りたい場合やタクシーで病院に行きたい場合は、生命保険料の代わりに貯めていた貯金から使えばいいだけです。そう考えると、医療保険もやめてしまえば、おそらく1000万円を超える金額を貯めることができるでしょう。
病気になった時の治療費は公的保険でまかなえるのですから、そのお金は入院した時の個室代に使えばいいし、幸いにして病気にならなければ、そのお金を、定年後に夫婦で旅行に出かけたり、遊びに来た孫に好きなものを買ってあげたりといった、人生における多くの楽しみに使うべきではないかと私は考えます。
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経済コラムニスト
大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。
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(経済コラムニスト 大江 英樹)
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