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フランス25万円vs.日本8万円…夏のバカンスに給料1カ月分を割く"すごい経済効果"

プレジデントオンライン / 2023年5月29日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gradyreese

フランスは観光大国だ。観光収入も支出も多い。フランス在住のライター髙崎順子さんは「ツーリズムはフランスにおいて、国の重要産業セクターとして認められている。バカンスにおける1世帯当たりの予算は“月収1カ月分”に当たる金額にのぼる」という――。

※本稿は、髙崎順子『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■観光収入も、支出も多いフランス

ツーリズムはフランスにおいて、国の重要産業セクターとして認められています。観光業の国際団体・世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の各国資料によると、新型コロナ禍前の2019年、フランスにおける観光関連産業寄与額の対GDP比は8.4%。ちなみに全世界での同年・同指標は10.3%、日本のそれは7.3%でした(*1)

フランス観光業の重要度は国内のみにとどまらず、各種世界統計でも、上位常連国の一角を占めています。日本の国土交通省が発表している「観光白書」の国際比較資料が日本語で分かりやすくまとまっているので、図表を引用しましょう(*2)

まず観光業がもたらす収入をまとめた、国際観光収入ランキングから。最新資料は世界がパンデミックに見舞われ人の移動が激減した2020年のデータに基づいていますが、それでもフランスはアメリカに次いで、世界2位の観光収入を記録しました(*3・図表1)。同じ年の観光支出ランキングでは世界4位に位置(*4・図表2)

フランスは観光で得る収入だけではなく、支出する額も世界有数という実態が表れています。また外国からの旅行者受け入れは年間4千万人の世界第1位で、2位のイタリアに1500万人近く差をつけています(*5・図表3)

【図表1】国際観光収入ランキング(2020年)
出所=『休暇のマネジメント』
【図表2】国際観光支出ランキング(2020年)
出所=『休暇のマネジメント』
【図表3】外国人旅行者受入数ランキング(2020年)
出所=『休暇のマネジメント』

■コロナ禍でも世界上位の観光国であり続けた

2020年はコロナ禍前の2019年に比べ、世界中で観光収入と支出、外国からの旅行者受け入れ数が大幅に減り、前出の世界旅行ツーリズム協議会は、全世界の観光関連産業の収益が半減したと報告しています。前出の寄与額の対GDP比は5.3%まで落ちました。フランスも同様に、各項目の数字が前年比の半分近くに減少し、対GDP寄与比は5.0%まで沈んでいます。そんな異例の1年でも国際ランキングでは上位を保ったことに、フランス観光業界を支える底力のほどが表れていると言えます(*6)

たとえば同じヨーロッパの観光人気国スペインは、2019年には観光収入で世界2位とフランス(同年3位)を上回り、外国からの旅行者受け入れ数でもフランスに600万人差で迫る2位でした。しかし2020年はパンデミックからより深刻な影響を受け、観光収入で世界8位、外国からの旅行者受け入れランキングで世界5位と順位を下げています(*7)。観光産業の対GDP寄与比では、2019年の14%が5.9%と6割以上の減少となってしまったのです(フランスは45%減)(*8)

■2020年夏も54%の人々はバカンス旅行に出発した

コロナ禍でもフランスが、観光関連の国際ランキングで上位を保ったのはなぜか。入国制限や行動規制の違い、地理的条件など要因は複数あり、安易な因果づけはできませんが、背景の一つにはやはり、フランスの人々の堅固なバカンス精神があると考えられます。

髙崎順子『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』(KADOKAWA)
髙崎順子『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』(KADOKAWA)

バカンスの非日常時間は、それ以外の労働の日々を生きる心の支え。長期休暇なしに働くのは考えられない──本書のインタビュー回答者の方々が、何度も言及していましたね。そのマインドセットの前では、パンデミック下であっても、自宅外で過ごす休暇が必須。前代未聞のロックダウンが明けて数カ月しか経っていない2020年の夏、フランスでは54%の人々がバカンス旅行に出発し、そのうち94%の行き先がフランス国内でした(*9)。ですがコロナ前、2019年のあるバカンス意識調査では、行き先をフランス国内とする人の割合は回答者の半分ほどだったのです(*10)。移動制限があるなら行き先は近場でも良い、とにかくバカンスに出る、自宅以外の場所で休暇を過ごす! そんな強い意志とその背景にある長年の習慣性が、この数字に繫がっています。

また新型コロナ禍2年目の2021年は春に再び感染が拡大し、4月に3回目のロックダウンがありました。しかし直後の夏の地中海岸地域では、宿泊業の売上がパンデミック前年の2019年を上回り、夏の客室販売数の記録を更新した街もありました。これを報じたニュースのタイトルがまた象徴的で、まさしく「フランス人がサマーシーズンを救った」でした(*11)

■観光消費の7割を支えるフランス国内客

フランスの人々のバカンス習慣が自国の観光業に大きく貢献していることは、消費実態のデータにも表れています。国立統計経済研究所によると、フランス国内の観光消費の約7割が国内客によるもので、その割合はコロナ禍前・コロナ禍後でもほぼ同じ。世界で最も多く外国からの観光客を迎える一方、その人々の消費が全体の3割にしか及ばないほど、国内客が観光にお金を使っているのです(*12)

フランスの人々の観光へのお金のかけ具合を、日本と比べてみましょう。コロナ禍前の2019年、国内客による旅行消費額は日本では約22兆円、フランスでは約16兆円(1140億7000万ユーロ)。日本の人口はフランスの2倍弱なので、単純計算での一人当たりの平均額では、フランスの人々は日本の人々より観光に多くお金を使っていることになります(*13)

■夏のバカンス予算の目安は「月収1カ月分」

ではフランスの人々は実際、バカンスにどれくらい予算を割いているのでしょう。

この国では毎年複数の会社が、国内の成人(18歳以上)に夏のバカンス予算をヒアリングする恒例調査を行っています。よくメディアで引用されるのは、保険会社ソファンコによる調査会社オピニオン・ウェイ委託調査(国内成人約1000人を対象に7月に実施*14)と、保険会社ユーロップ・アシスタンスが調査会社IPSOSに委託する15カ国比較調査(15カ国の成人約1万5000人を対象に4〜5月に実施*15)です。調査時期や質問内容が異なっていることに留意しつつ、共通する項目の同年の結果を並べてご紹介しますね。前述の2調査の前者を調査A、後者を調査B、さらにもう一つ、クレジット会社コンフィディスによる同年の委託調査の結果を調査Cとして併記します(*16・図表4)

【図表4】フランスにおける2022年夏のバカンスに関するアンケート
出所=『休暇のマネジメント』

3つの調査によると、フランスの一世帯の夏のバカンス予算の平均額は約1400〜1800ユーロ。調査によって数百ユーロの幅がありますが、日本円にして20万円〜25万円くらいと捉えていただけると良いかと思います。

これはフランスの法定最低賃金の月給(1645ユーロ、2022年5月*17)や民間企業サラリーマンの月給中央値(2005ユーロ、2020年*18)を鑑みて、ざっくりと「月収1カ月分弱」に当たる金額です。調査Aでは月収2000ユーロ未満の所得者層と3500ユーロ以上の所得者層によって異なる予算平均を明示しており、前者は902ユーロ(約12万6千円)、後者は2151ユーロ(約30万1千円)。所得額の差に関わらず、みなそれぞれの収入に見合った範囲で予算を組み、バカンスを実践している様子が浮かび上がっています(*19)

■バカンスは「国家経済を動かす推進力」

また調査Aでは、過去10年間の予算の回答を並べて掲載しています(*20・図表5)。社会情勢や景気の動向を反映して多少の増減はありつつ、1300〜1500ユーロ付近の「月収1カ月分弱」で推移。バカンス予算の捻出法を尋ねた別の調査では、対象者の68%が「日頃からバカンス用に貯金している」と回答しました(*21)。第1章で紹介した「この1カ月のために残りの11カ月を働く」というフランスの人々の感覚に呼応しています。

【図表5】フランスにおける夏のバカンスの平均世帯予算
出所=『休暇のマネジメント』

こうして数字を追うと、この国でバカンスが「国家経済を動かす推進力」と捉えられているのも納得です。数千万人が平均20万円近くの予算を観光に注ぎ込む期間が、毎年夏に必ず来る。そりゃ国の一大事だ……!

日本の夏にも、毎年帰省ラッシュが報道されるお盆休みがありますが、規模感の違いは否めないところ。ここ数年の帰省にはコロナ禍の影響も強く出て、2022年6月に実施された全国2500人対象のアンケートでは、国内旅行を予定している人は回答者の約2割、平均予算は約8万6千円でした(*22)

<出典>
*1 世界旅行ツーリズム協議会「経済影響報告(フランス、日本)」 2023年1月閲覧
World Travel&Tourisme Counsil, Economic Impact Reports(France, Japan)
*2 国土交通省「観光白書」国土交通省観光庁 2023年1月閲覧
*3 国際観光収入ランキング(2020年) 国土交通省「令和4年版観光白書」「第I部 観光の動向」P5 国土交通省観光庁 2022年9月
アメリカが1位728億米ドル、フランスは326億米ドルで世界2位、日本は107億米ドルで世界15位。
*4 国際観光支出ランキング(2020年) 出典は*3と同 P6
中国が1位1305億米ドル、ドイツが2位389米億ドル、アメリカ3位358米億ドル、フランス4位278米億ドル
*5 世界の外国人旅行者受入数ランキング(2020年) 出典は*3と同 P4
フランス4000万人で世界トップ、日本は412万人で世界21位
*6 出典は*1と同
*7 出典は*2と同
*8 世界旅行ツーリズム協議会「経済影響報告(スペイン)」 2023年1月閲覧 出典は*1と同じ。
*9 ガエル・シャレロン、サスキア・クザン、セバスチャン・ジャコ「ツーリズムの危機とバカンスの抵抗。パンデミック期のレジャー移動の習慣と価値観」7ページ ツーリズムの世界20号『ツーリズムとパンデミック』 2021年12月
Gael CHAREYRON, Saskia COUSIN et Sébastien JACQUOT, “Crise du tourisme et résistances des vacances. Valeurs et pratiques des mobilités de loisirs en période de pandémie”, Mondes du Tourisme [En ligne], 20 ¦ 2021, décembre 2021,P7
*10 ユーロップ・アシスタンス/イプソス「バカンス・バロメーター2019」 2019年6月
Ipsos/Europ Assistance, “Baromètre des vacances d’été 2019”, juin 2019
*11 マチルド・ヴィセリアス「ツーリズム:フランス人がサマーシーズンを救った」 ル・フィガロ 2021年8月
Mathilde VISSEYRIAS, “Tourisme: Les Français ont sauvé la saison estivale”, Le Figaro, août 2021
*12 メラニー・シャサール、アリス・メンゲネ(フランス国立統計経済研究所)
「2019年から2020年、フランスの観光消費は三分の一減少した」 Insee フォーカス262号 フランス統計経済研究所 2022年2月
Mélanie CHASSARD, Alice MAINGUENE(Insee), “La consommation touristique en France chute d’un tiers entre 2019 et 2020”, Insee Focus No262, février 2022
*13 国土交通省「令和4年版観光白書」「第I部 観光の動向」P17 「日本国内における旅行消費額」 国土交通省観光庁 2022年9月
フランス国立統計経済研究所「観光国内消費」キーナンバー 2022年11月
Insee, “Consommation touristique intérieure”, Chiffre-clef, novembre 2022
国内客による年間旅行消費額を総人口で割ると、日本は一人当たり約17万6000円、フランスは約23万8800円。
*14 ソファンコ/オピニオン・ウェイ「フランス人とバカンス予算 2022年:フランス人は環境に配慮できる旅行者か?」 2022年8月
Sondage Opinionway pour SOFINCO, “Les Français ont-ils des vacanciersresponsables? - Les français et le budget vacances”, août 2022
調査結果へのリンクは末尾にあり
*15 ユーロップ・アシスタンス/イプソス「バカンス・バロメーター2022」 2022年6月
Europ asistance/IPSOS, “Baromètre des vacances 2022”, juin 2022
*16 出典*11、*12および以下の調査結果より筆者作成
調査C コンフィディス/CSA リサーチ「フランス人の夏のバカンス予算」 2022年6月
Confidis / CSA Reserch, “Le budget des Français pour leurs vacances d’été”, juin 2022
*17 社会保障・家族手当掛金回収連合「法定最低賃金」 2023年2月閲覧
Urssaf, “Le Smic”, consulté en mars 2023
*18 ジョアン・サンチェス゠ゴンザレス、エレオノール・スアー(フランス国立統計経済研究所)「2020年民間セクターの賃金」 Insee プレミア1898号 2022年4月
Joan SANCHEZ GONZALEZ, Éléonore SUEUR(Insee), “Les salaires dans lesecteur privé en 2020”, Insee Première No 1898, avril 2022
*19 出典は*14と同 P13
*20 出典は*14と同 P14
*21 イフォップ(ジャン=ジョレス財団、フランスツーリズム連合、屋外活動とツーリズムの非営利団体連合の合同委託)「フランス人のバカンス」 P42 2022年5月
Ifop pour la Fondation Jean-Jaurès, l’Alliance France Tourisme et l’Union Nationale des Associations de Tourisme et de plein air, “Les vacances des Français”, P19, mai 2022
*22 インテージ「予算『増やす』約3割~今年の夏休みは“らしさ回復”の兆し!」 2022年7月

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髙崎 順子(たかさき・じゅんこ)
ライター
1974年東京生まれ。東京大学文学部卒業後、都内の出版社勤務を経て渡仏。書籍や新聞雑誌、ウェブなど幅広い日本語メディアで、フランスの文化・社会を題材に寄稿している。著書に『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)、『パリのごちそう』(主婦と生活社)などがある。

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(ライター 髙崎 順子)

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