ストレッチに時間を割くのは無駄である…首・肩・腰がバキバキに硬い人にオススメしたい「シン柔軟法」とは
プレジデントオンライン / 2023年5月24日 13時15分
※本稿は、夏嶋隆『10秒でほぐす カラダが硬い人でもラクに柔らかくなる。きつくない、痛くない「シン柔軟法」』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■ストレッチは逆に大きな負担となる恐れがある
みなさんは体の硬さを自覚したとき、まず何をして改善を試みようとしますか?
多くの方がストレッチを選択すると思います。両手を上に挙げて横に倒してみたり、片足を引いて伸ばしてみたり、腰を回してみたり、と思い思いに体をほぐしはじめると思います。
しかし、その考えはいますぐに捨ててください。あなたの体はすでに、ストレッチができる体ではなくなっているからです。
なぜなら「体が硬い」という自覚のある方が行うと、ストレッチは逆に大きな負担となって、さらに体を痛めてしまう原因になるので注意が必要です。
実際に「肩にコリを感じて、肩を回したら肩を痛めた」とか、「待ち時間に上半身を回旋するストレッチをしたらギックリ腰になった」など、冗談とも本気ともつかないきっかけで、私の治療院を訪ねてくる患者さんがいらっしゃいます。
では、なにをすれば体を痛めずに、柔軟性を取り戻せるのでしょうか。
■“姿勢”を見直せばいい
私は「動作解析」という、人の体の使い方を観察・記録して、運動学や解剖学、物理学などの科学の面から「人体構造に合った正しい動作」を検証し、それをスポーツなどの分野に還元していく研究をしています。
そのような研究を30年もしていると、なにが原因で体が硬くなっているのか、立ち方や歩き方を診るだけでわかるようになります。
実際、私の治療院に来られた方にまずかける言葉は「今日はどうしましたか?」ではなく、「ちょっと歩いてみてください」「その場で立ち上がってみてください」です。
そのときに、私がほぼ毎回思うのは、「なぜこの人は体が傾いているんだろうか」「どうして立っているだけなのに筋肉を緊張させているのだろうか」ということです。
そしてそう診たてた方は総じて体が硬い。決定的な理由はラクだと感じて長年とっていた姿勢に「大きな間違い」があったのです。
■世界最強のバレーボールチームをサポートする老婆から得たヒント
私がこの答えにたどりついたきっかけは30年前のある出来事までさかのぼります。
当時の私は、実業団女子バレーボールチーム「久光製薬(現・久光スプリングス)」のコーチを務めていました。
あるとき、日本で国際大会が開かれることになり、当時「女子世界最強」の座にあったキューバの滞在のサポートを私たちが受け持つことになりました。
私は興味津々でした。ミレヤ・ルイス、レグラ・トレスらを中心に、おそろしいほどの体のしなやかさで世界を席巻していた選手たちの秘密が知れるのではないかと思ったからです。
ですが、練習を見に行った時に私は不思議な光景に出合います。
選手やコーチのなかに、年齢は80歳くらいで、杖をついて歩く女性がひとりまじっていたからです。とてもコーチには見えません。ただただ場違いな雰囲気を醸し出している「おばあさん」でした。
■朝礼台から下りる前の姿勢をチェックしていた理由
そんな彼女がチーム関係者に「朝礼台を用意してもらえますか」という要求をしました。
高さにして、50、60センチくらいでしょうか。何をするのかと思って見ていると、選手たちがひとりずつ朝礼台の上に立ち、そこから「ピョン」という感じで床に下りていきます。
その様子を見て、おばあさんが声を出します。「OK」、または「NO」と。「NO」と言われた選手は、「OK」が出るまで、何度も何度も台から下りるように命じられていました。
これはいったいなんなのだろうか。
当時の私はまだ気づくことができませんでしたが、動作解析の研究を続けてきた結果、謎を解くことができました。
80歳のおばあさんは、朝礼台から下りる前の姿勢をチェックしていたのです。もっと詳しく言えば「浮遊ろっ骨が閉じた姿勢」になっているかどうかを見ていたのです。
■浮遊ろっ骨を閉じれば体は柔軟性を取り戻す
「浮遊ろっ骨」とは、あまり聞き慣れない言葉かもしれません。ろっ骨は12本あります。そのなかでいちばん下にある「第12ろっ骨」と呼ばれる小さな骨が、浮遊ろっ骨です。後方は背骨に関節でつながっていますが、前方は遊離しているため「浮遊ろっ骨」と呼ばれています。
とても小さな骨ですが、体を動かす上で重要な役割を果たします。前屈、後屈、側屈、回旋といったストレッチの基本となるような動作の起点となるのが、じつはこの小さな骨なのです。
浮遊ろっ骨を意識できるか、上手に閉じることができるか否かによって、体は大きく変わります。
浮遊ろっ骨が閉じれるようになると、私たち人間にとってもっとも自然な姿勢、ナチュラルポジションが身につきます。
「浮遊ろっ骨を閉じる」と「ナチュラルポジション」は同意。ナチュラルポジションを一言で表すなら「地面に対して垂直に立つ」姿勢です。イメージはクラシックバレエのダンサーの立ち方です。
■選手たちは“姿勢”を改善し、しなやかな体を手に入れた
実はキューバのコーチをしていたおばあさんは、元バレエダンサーでした。
バレエの立ち姿勢は、肩の力を抜いた状態で、フワッと浮き上がるイメージでまっすぐに立つ。これが、浮遊ろっ骨を閉じるコツになります。
この姿勢ができるようになると、まずウエストにくびれができます。そしてお尻がくっと上向き、スラッとしたスタイルに変わります。さらに全身が一気にほぐれ、硬くなっていた体が瞬時に柔らかくなります。
キューバの選手たちは、ナチュラルポジションをとる練習をすることでしなやかな体を手に入れ、世界最強の座に君臨していたのです。
■「胸を張って、背筋をピンと伸ばす姿勢」は間違い
「地面に対して垂直に立つ」姿勢、といわれると、結局「良い姿勢をしようということでしょう」という結論にいたると思います。
しかし、ナチュラルポジションは私たちが昔から教わってきた「胸を張って、背筋をピンとのばして」という姿勢とはまったく違います。
むしろ教えられてきた正しい姿勢は、動作解析的には体をただ疲れさせるだけの間違った姿勢だからです。
胸部を前に突き出すようにして立つと、上半身に無理に力を込め腰を反らせてしまい、その姿勢を保つのに疲れを感じるだけで体のバランスを崩してしまいます。
重力の影響も無視できません。重力があるからこそ、私たちは地に足をつけることができます。ですが、重力という非常に強い力を受け続けるからこそ、受ける面積は最小限にしなければいたるところに支障が出てきます。
胸を張るという行動を文字通り行った場合、頭より前に胸部が大きく出て、真上から見た場合、重力の負荷を受ける面積をわざわざ広げてしまう行為になります。
■体に負担をかけない「自然な姿勢」で柔軟性は取り戻せる
その点、ナチュラルポジションは重力の負荷を受ける面積を最小限にし、無理な力の使い方をしない、実に機能的な姿勢です。
試しにやってみましょう。
【STEP2】次に、上から糸で吊られていく意識で、グーっと体を10秒かけて、自分が感じる限界のちょっと先をイメージしながら伸ばしていってください。このときにつられて肩やかかとを上げないように注意してください。
【STEP3】最後に力を抜いて終わりです。
この姿勢ができるようになれば、長年の習慣によってゆがみ、縮んだ体を瞬時に、骨や筋肉をあるべき位置に戻し、本来の柔らかさを取り戻すことができます。
■ストレッチに時間を割くのは無駄である
人生100年時代と言われますが、厚生労働省の資料によると、男性の平均寿命は現在81歳、女性が87歳です。
私は65歳ですが、年換算で残り16年、月では192カ月。週では834週です。こう考えると、生きてきた時間よりも残された時間の方が当然短く、そして過ぎていく時間は日を追うごとに貴重になっていきます。
巷ではさまざまな柔軟法やストレッチ法が紹介されています。ですが、私から見ると、とにかくやることが多すぎる気がします。
あっちを伸ばして、今度はこっちを伸ばし、そっちを広げて、今度は曲げて……。
元気な体になって快適な毎日を送ることが目標のはずなのに、元気になるための道のりがあまりにも長くて、これでは本末転倒ではないかという気がしてなりません。
私が考える柔軟とは、立つだけでカラダがほぐれ、歩くたびにカラダがほぐれ、といった、人がとる一つひとつの動作を工夫さえすれば、充分に柔軟に相当する効果が得られるというものです。
立つ以外の方法については拙著『10秒でほぐす』に譲りますが、普段から理にかなった姿勢、動作で生活をすれば、体の負担は最小限になり、ストレッチもする必要がなくなるはずです。
わざわざストレッチや柔軟のためにあなたの貴重な時間を割くのではなく、普段の生活のなかで体の使い方を意識し、スキマ時間に10秒でできるナチュラルポジションを活用しながら全身をリセットして、大切な時間をご自身がやりたいことのために使ってください。
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メディカルトレーナー、動作解析専門家
1957年、大阪府出身。大学卒業後に実業団バレーボール部の指導者としてキャリアをスタートさせるが、自身の足のケガをきっかけに手技療法の道に。久光製薬バレー部元監督。大阪体育大学サッカー部、関西国際大学トレーナー。現在は、メディカルサポートやアスリートの動作解析を行っている。メディア出演も多数。
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(メディカルトレーナー、動作解析専門家 夏嶋 隆)
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