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こんな会社で働いてはいけない…危ない企業を見抜く『就職四季報』の"7つのデータ"

プレジデントオンライン / 2023年5月24日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jay Yuno

「いい会社」と「ダメな会社」を見分けるにはどうすればいいのか。東洋経済新報社・編集委員の田宮寛之さんは「会社のパンフレットやホームページを見ても分からない。『就職四季報』に掲載された離職率や平均勤続年数、実際に消化された有給取得日数などの7つのデータを見ればいい」という――。

※本稿は、田宮寛之『ビジネスエリートが実践している教養としての企業分析』(自由国民社)の一部を再編集したものです。

■いい会社、ダメな会社を見分ける『就職四季報』の7項目

『就職四季報』は『会社四季報』と同じ記者とデータ担当者が制作し、毎年11月に発行されています。記者が一社一社を独自に取材し、会社パンフレットやホームページに掲載されている宣伝のような情報ではなく、データに裏付けされた中立的・客観的な情報を掲載しています。

「3年後離職率」「残業時間数」「有給取得日数」など、他の就職情報誌では見ることができない情報が満載です。会社から掲載料はまったくもらっていません。

『就職四季報』には、「総合版」「女子版」「優良・中堅企業版」「企業研究・インターンシップ版」の4種類があります。他の出版社から類書は発行されていません。本稿は就職四季報の見方について具体的に解説していきます。

■離職率5%超の会社は選ばないほうがいい

『就職四季報 総合版』では社員の離職率が分かります。離職率が高い企業は就職に適さないのはもちろん、取引相手としても適さないでしょう。社員がすぐに辞めてしまうということは何か問題があるはずです。問題のある企業に勤務する社員は安心して業務に集中できません。

そのような企業は何かトラブルを起こす可能性が高いですし、こちらが期待するような成果を上げることは難しいでしょう。

【図表1】『就職四季報』の企業データ
出典=『ビジネスエリートが実践している教養としての企業分析』

離職率は【離職率と離職者数】(図表1の①)という項目でチェックできます。離職率とは、会社全体でどれくらいの社員が1年間で離職しているのかを示す指標です。離職率は(前年度1年間の離職者数)÷(前年度期首の社員数)×100で算出されます。定年退職やグループ企業への転籍は離職者数に含めていません。

離職者数は自己都合で離職した人数ですが、リストラで退職した人の数も含みます。

早期退職募集をしたときは一時的に離職率が高くなります。単年だけ見て、その会社の離職傾向を判断することはできません。ですから、過去3年程度のバックナンバーを見ることをお勧めします。リストラなどの特殊要因がない場合は、5%を超えると高い水準と言えます。リストラをした結果としても、10%を超えればかなり大きなリストラを断行したことになります。

■平均勤続年数を見れば「居心地のいい会社」かわかる

居心地のいい会社ならば、社員はなかなか辞めません。居心地のよさを表す指標が【平均勤続年数】(図表1の②)です。企業のホームページやパンフレットに「温かい社風」「家族的な経営」などと書かれていることがよくあります。しかし、こんな抽象的な表現では実態が分かりません。

居心地のよさを知りたいのならば【平均勤続年数】をチェックしましょう。

ただ、平均勤続年数が長いということは、長期間、固定的なメンバーで働いているということです。こうした企業は、保守的で新事業への意欲に欠けていることがあります。こうした企業にビジネスを持ちかけた場合、なかなか返事がこないかもしれません。

■新入社員が3年以内で退職してしまう会社は要注意

「3年後離職率」(図表1の③)は、3年前に入社した新卒者が3年間でどの程度辞めたのかを表します。「3年後離職率」は(3年前入社者-直近4月在籍者)÷(3年前入社者)×100で算出されます。

『就職四季報』(2022年11月発行)の場合、小さな文字で書かれた「3.8」とは、2018年4月1日に入社した新卒社員のうち3.8%が2021年4月1日までに辞めたことを意味します。

大きな文字で書かれた「3.1%」とは、2019年4月1日に入社した新卒社員のうち3.1%が2022年4月1日までに辞めたことを意味します。

厚生労働省の職業安定業務統計によれば、就職してから3年間の離職率は大卒で約30%です。30%を超える企業は、何かしら問題があるかもしれません。30%を超える企業=ブラック企業というほど単純ではありませんが、注意してください。

■ゆとりある生活を送れる会社か見分けるポイント

年収については『会社四季報』でも説明しましたが、『就職四季報』でも調べることができます。ただ、同じ企業でも『会社四季報』と『就職四季報』で金額が異なることがあります。これはどちらかの数値が間違っているのではありません。

会社四季報は工場労働者などのブルーワーカーも含めた全社員の平均年収を載せています。一方、就職四季報はホワイトカラー職の平均年収、または総合職のみの平均年収を掲載しています。そこで、金額が異なるのです。

【図表2】『就職四季報』の企業データ
出典=『ビジネスエリートが実践している教養としての企業分析』

建設機械総合メーカーのコマツの場合、就職四季報には806万円と掲載されていますが、会社四季報では747万円となっています。

■有給休暇の制度があるだけでは意味がない

有給休暇を100%消化できる企業は、それほど多くないでしょう。会社の人事制度に十分な有給休暇日数があるということと、実際に休みを取ることができるというのは別の話です。

有給休暇と書かれた予定表
写真=iStock.com/Yusuke Ide
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yusuke Ide

有休を取る権利はあっても、忙しくて取れない、または職場の雰囲気で取れないということがあります。働き方改革が叫ばれて、以前よりは休みを取りやすい環境になっていますが、それでも100%消化は難しいでしょう。

そこで、『就職四季報』では、就業規則上の有給休暇の日数ではなく、1年間に実際に消化した有給休暇の日数を掲載しています。その日数が「有休取得年平均」です。

【有休取得】(図表2の⑥)の右側の数字が規則上取得できる有給休暇日数で、左側の数字が実際に消化した日数です。

国内で企業が従業員に付与した有給休暇の平均日数は17.6日ですが、従業員が実際に取得した日数は10.3日です(2022年就労条件総合調査・厚生労働省)。

多くの年収を得て、多くの有給休暇を消化できれば社員はゆとりある生活を送ることができます。そして、こうした状況を作ることができる企業もゆとりがあると言えます。ゆとりある企業とは、経営力が高くて収益を上げている企業です。

平均年収と有休取得年平均の多い会社は、ビジネス対象としても投資先としても優れています。

■1カ月の残業時間を比べてみる

「残業(月)」(図表2の⑦)欄に1カ月の残業時間が掲載されています。労働基準法によって労働時間は1日8時間、1週間40時間以内と定められています。本来は、会社はこれ以上労働させてはいけないのです。

しかし、これでは実際に業務が成り立たないので、会社と労働組合が協議して残業時間を設定しています。ただ、協議をすれば何時間でも残業させていいということではありません。

上限は1カ月45時間、1年間360時間と決められており、これを超えたら労働基準法違反です。

1カ月45時間というと1日約2時間、30時間としても1時間超の残業時間となります。企業が労働者に残業をさせた場合、25%以上の割増賃金を支払わなければなりません。

■女性が長く働きやすい会社はいい会社『就職四季報 女子版』の活用法

ここからは『就職四季報 女子版』について解説していきます。『就職四季報 女子版』に掲載されている「勤続」(図表3の①)、「3年後離職率」(図表3の②)、「女性の既婚率と既婚者数」(図表3の③)は女子社員のみを対象にした数字です。男女合わせた全体では数字がよくても、女子社員だけで見ると数字が悪いのでは、女子にとって意味がありません。

【図表3】『就職四季報 女子版』の企業データ
出典=『ビジネスエリートが実践している教養としての企業分析』

「勤続」(図表3の①)は女子正社員の平均勤続年数を表します。基本的に、居心地のよい企業ならば社員は辞めません。単純に言えば、この勤続年数が長い企業は女子が就職するのに適した企業と言えるでしょう。

「3年後離職率」(図表3の②)は入社した女子正社員のうち何%が3年以内に離職したのかを示しています。『就職四季報 総合版』にも「3年後離職率」が掲載されていますが、総合版は男女合わせた数字です。

新卒社員が短期間のうちに大量に辞める会社は、何らかの問題を抱えていると見た方がいいでしょう。就活生や新卒社員以外のビジネスパーソンもこの数値は把握しておくべきです。

■「女性の既婚率と既婚者数」は要チェック

さらに注目のデータは「女性の既婚率と既婚者数」(図表3の③)です。これは結婚後も働いている女子社員がどれだけいるのかを表します。一般的に既婚率が高い企業は、女性にとって働きやすい企業と言えます。

既婚率が低いということは、「結婚する相手を探す時間もないほど忙しい」、または「仕事と家庭生活を両立することが難しい」という状況が想像できます。

ただ、既婚率は高いのに、勤続年数が短い場合もあるので注意してください。

こうした場合は、「結婚してからも働き続けるが、子どもができると退職することが多い」ということが想像できます。つまり、「仕事が忙しすぎて育児の余裕がない、または、会社の子育て支援が不十分」という可能性があるのです。

■政府公認の「子育て支援企業」かどうか

子育てしやすい会社かどうかは、社名の横に〈くるみんマーク〉(図表3の④)があるか否かで判断することができます。

企業が従業員の子育て支援のための行動計画を策定し、目標を達成すると厚生労働大臣から「次世代育成支援対策に取り組んでいる企業」との認定を受けることができます。この認定を受けていることを示すのが〈くるみんマーク〉です。〈くるみんマーク〉を付けている企業は政府公認の「子育てサポート企業」なのです。

また、くるみんよりも高い基準をクリアしている場合は「プラチナくるみん」の認定を得て、「プラチナくるみんマーク」をつけます。

くるみんやプラチナくるみんの認定を受けた企業は、マークを会社案内資料や広告等に表示し、子育てサポート企業であることをアピールできます。

企業イメージは向上し、女性の就職希望者が増加するでしょう。出産を機会に退職する人が減り、定着率が上昇すれば企業収益にもプラスです。

■産休を「利用した人数」を見れば、充実した支援が期待できる

産休や育休が充実しているならば、安心して長く勤務することができます。また、こうした制度が充実している企業は社員を大切にし、働きやすい環境を用意していることになります。

社員のモチベーションが上がり、企業業績の向上が期待できるでしょう。産休や育休が法律の基準を上回っているかどうかをチェックしてください。

『就職四季報 女子版』の【産休期間、取得者数、給与】(図表3の⑤)を見ましょう。労働基準法では出産の6週間前から出産後8週間まで休めることになっています。しかし、最近は出産の8週間前から出産後8週間まで休める企業が増えてきました。その場合、就職四季報には「産前8・産後8」と表記しています。

田宮寛之『ビジネスエリートが実践している教養としての企業分析』(自由国民社)
田宮寛之『ビジネスエリートが実践している教養としての企業分析』(自由国民社)

また、労働基準法では産休期間中は、健康保険から休業前給与の3分の2が支払われることになっています。図表3の⑤に「法定」とあるのは、労基法の規定通り3分の2が支払われることを意味します。

最近は休業前給与と同額を支払う会社もあります。しかし立派な制度があっても、それを利用しづらい雰囲気があって実際に利用されていないのならば、何もないのと同じです。

『就職四季報 女子版』では1年間に産休を利用した人数も掲載しています。女子社員の総数にもよりますが、ある程度の利用者があれば安心して利用することができるということになるでしょう。同業他社または女子社員数が同程度の企業と比較してみてください。

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田宮 寛之(たみや・ひろゆき)
東洋経済新報社 編集委員
東洋経済新報社編集局編集委員、明治大学講師(学部間共通総合講座)、拓殖大学客員教授(商学部・政経学部)。東京都出身。明治大学経営学部卒業後、日本経済新聞グループのラジオたんぱ(現・ラジオ日経)、米国ウィスコンシン州ワパン高校教員を経て1993年東洋経済新報社に入社。企業情報部や金融証券部、名古屋支社で記者として活動した後、『週刊東洋経済』編集部デスクとなる。2007年、株式雑誌の『オール投資』編集長に就任。2009年、就職・採用・人事などの情報を配信する「東洋経済HRオンライン」を立ち上げて編集長となる。これまで取材してきた業界は自動車、生保、損保、証券、食品、住宅、百貨店、スーパー、コンビニエンスストア、外食、化学など。『週刊東洋経済』デスク時代は特集面を担当し、マクロ経済からミクロ経済まで様々な題材を取り上げた。2014年に「就職四季報プラスワン」編集長を兼務。2016年から現職。

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(東洋経済新報社 編集委員 田宮 寛之)

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