「歩くだけで健康になる」はウソである…元気なカラダをダメにする"歩き方の大誤解"
プレジデントオンライン / 2023年5月27日 14時15分
※本稿は、犬飼奈穂『背中をゆるめると健康になる』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■「ペットボトル」のような姿勢がいい
「よい姿勢で歩きましょう」と言われたら、どうやって歩きますか?
多くの人は、肩甲骨をグッと寄せて、胸を張って歩きます。足にも力を入れて、強く踏みしめながら早足で歩きます。颯爽としていて、一見、良い歩き方のように見えますね。でも、実はこの「胸を張って歩く姿勢」は、さまざまな不調を引き起こしてしまう危険な姿勢だということを知って頂きたいと思います。
なぜ胸を張って歩いてはいけないのか? 人間の体を、空のペットボトルで例えてご説明します。体に負担のないラクな姿勢というのは、ストンとしたきれいなペットボトルのような状態です。どこにも歪みがないのです。
胸を張ると、その反動で腰が大きく反ってしまいます。ペットボトルに例えると、ボトルの形がぐにゃりとつぶれて、歪んでしまった状態になります。こうなると、体に力を込めないとバランスがとれません。ただ立つだけで、筋肉に必要以上の負荷がかかっている状態なのです。
いつも猫背で歩いている人が、急に胸を張って颯爽と歩くと、とても疲れると思います。「疲れるけれど、これは健康のためだから!」「急に姿勢を良くしたせいで体のあちこちが痛いけど、慣れてくれば治るから!」などとは思わないでください。
「疲れる」という時点で、体にとって良い姿勢ではないのです。もちろん猫背は猫背で改善すべきなのですが、猫背を治す=胸を張る、ということでは決してありません。もし日常的に胸を張って立ったり、歩いたりしている方がいたら、今すぐにやめて頂きたいと思います。
■「胸を張って颯爽と歩く」ことの弊害
胸をピンと張った姿勢で歩き続けてしまうと、呼吸の質の低下、内臓機能の低下、肩こりや首こり、腰痛、スタイルの悪化などをもたらします。とても大げさに聞こえるかもしれませんが、その理由についても簡単にご説明していきます。
まず、胸を張った姿勢をとると、呼吸が浅くなります。人の体は、胸腔(きょうくう)といって、肋ろっ骨こつや横隔膜(おうかくまく)などで囲まれた空間に左右の肺がおさまっています。胸を張ると、この胸腔がつぶれてしまって、うまく広がらなくなってしまい、深い呼吸ができなくなります。
また、胸を張ると骨の位置はどうなるでしょうか? ①肋骨は前につき出て、②背骨は反り、③骨盤は傾いた状態になります。ペットボトルがいびつに歪んだ状態です。容器が歪むと、中におさまっている臓器が圧迫されます。つまり、内臓の働きが悪くなってしまうのです。胃が圧迫されると胃の不調に、腸が圧迫されると便秘に、卵巣や子宮が圧迫されると生理痛などにつながります。
胸を張ると、いかにも体がグ~っと上のほうに上がったように感じるかもしれません。でも、実際に体の中で起こっていることはその逆です。驚くことに、内臓は「上から下へ」と押し潰されてしまっているのです。
![アジアの人々は横断歩道を渡っています](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/2/1200wm/img_4244c9ccfc7f483b87320dae65d47e6e961341.jpg)
■腰痛、首や肩こりを引き起こす
ペットボトルがきれいな形のとき、人間の背中はゆるやかなS字カーブを描いています。胸を張った姿勢で歩くと、腰が反って、S字カーブがきつくなります。腰に過度な負担がかかるので、腰痛の原因になります。
また、腰が反ると相対的にお腹がぽっこり出てしまいます。背中の筋肉の動きは大きく制限されるので、背中の筋肉は次第に固くなり、しなやかさを失います。血液やリンパ液の流れが悪くなって、首や肩まわりのコリを引き起こします。
このような理由から、胸を張って颯爽と歩くことは、体に良いことは一つもありません。せっかく健康になりたくてウォーキングを頑張っているのにもかかわらず、どんどん疲れてしまい、体のあちこちに負担をかけ、スタイルも悪くなってしまうという、とても残念な歩き方なのです。
■「前へ前へ」進もうとしてはいけない
それでは、どのような歩き方が健康に良いのでしょうか?
ポイントはたった一つ。背中の筋肉を使って、力を入れずに歩くことです。人間は本来、体に負荷をかけずに歩くことができます。体に負荷をかけないというのは、筋肉に余計な力を込めない、ということです。無理も我慢もがんばりも、必要ないのです。そのためのカギとなるのが、背中の筋肉です。
私が街中やレッスンで拝見する限り、からだの前側の筋肉だけを使って歩いている人がとても多いです。歩くとき、人は「前へ前へ」と足を進めていくので、背中のことなど意識していません。これは当然かもしれません。
![クローズアップ写真のランナーの靴](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/1/1200wm/img_d1b20b30d21b1f8e4fe3d5717c22e860694470.jpg)
でも、一度でいいので「背中! 背中!」と、背中を意識して歩いてみてください。背中に少し意識を向けるだけで、余計な力を入れずに、ラクに歩くことができるようになります。
背中の筋肉を使って歩くことができると、それだけで背中が勝手にゆるんでいきます。いつもと変わらない日常の動作が、マッサージや整体に通う効果に匹敵するようになるからです。
■背中の筋肉を「ゆるめる」ことを意識して欲しい
私は、背中の筋肉をたくさん動かしながら歩くことこそが、健康な体を手に入れるための一番の近道だと思っています。わざわざストレッチやトレーニングをしなくても、歩きながら自然に背中を動かすことで、背中がゆるんだ状態を保つことができます。
背中がゆるむと、それまで動かせていなかった筋肉も連動して動かせるようになりますし、自然と呼吸は深く安定し、血液やリンパの流れも改善されます。
歩きながら、背中の筋肉をたっぷりと動かすのはとても心地よい感覚で、一度覚えたら忘れられなくなるでしょう。私自身、何十年も苦しんできたひどい肩こりと頑固なぽっこりお腹が、背中を使って歩くようになってすんなり解消しました。
■ポイントは「腕を後ろにふる」だけ
「背中の筋肉を使って歩く」というのは、具体的には「上半身と下半身の筋肉を後ろに集めながら歩く」ということです。こう説明すると、なんだか難しそうですが、心配しないでください。上半身は腕のふり方をほんの少し変えるだけで、変わります。
何も考えずに歩くと、腕を前の方に振って歩いている人が多いのですが、これでは背中の筋肉を十分に使えません。背中の筋肉を使って歩くための最大のポイントは、「腕を後ろにふること」なのです。
腕の後ろ側の筋肉を使って腕をふり、みぞおちから上の筋肉を、背中側に集めていきましょう。まずは、この「腕を後ろにふる」という感覚をぜひ覚えて頂きたいと思います。
腕のふり方を意識するためのごく簡単な動作をご紹介しますので、1日20秒、1週間だけ続けてみてください。これで、上半身の筋肉の動かし方のコツをつかめると思います。
【2】みぞおちを中心に体をぐっと右後ろにひねるようにしながら、右手を後ろに振ります。
【3】同様に、みぞおちを中心に体をぐっと左後ろにひねるようにしながら、左手を後ろにふります。
【2】~【3】を20秒繰り返してください。左右の腕を後ろにふります。骨盤は正面を向いたまま、肩の関節ごと後ろにふってください。
![腕の動きが自然に変わる腕のふり方](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/8/1200wm/img_284c857954c0cf957893955210471dac463531.jpg)
腕をふることで、背中に筋肉が集まってくるような感覚がつかめると思います。もちろん、余計な力を込める必要は一切ありません。
ラクに、力を抜いてふって頂ければ大丈夫です。まずはこの腕の動きだけを1週間続けてみて、実際に歩くときにこの腕のふり方を取り入れてみてください。
■ラクに歩くことが健康への近道になる
そして、歩くときのちょっとしたコツもご紹介します。
![犬飼奈穂『背中をゆるめると健康になる』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/0/1200wm/img_70ac0b8f531e97eb2a32ecd75ed7cb7e216566.jpg)
まず、意識的なウォーキングを行う場合は、無理なく会話ができて、心地よく心拍数が上がる程度のスピードで行うと良いでしょう。慣れないほど速いスピードで歩いたり、不自然な大股で歩いたりする必要もありません。
通勤や買い物などで荷物を持って歩くことも多いと思います。歩きやすさを考えればリュックサックがおすすめですが、肩にかけるタイプのバッグを持つ場合は、持ち方にポイントがあります。それは、肩にかけた部分を、指の「小指側」を使ってしっかりと握ることです。
無意識だとどうしても親指側でぎゅっと握ることが多いのですが、小指側で握ることで、肩が前に引っぱられるのを防ぎます。より、背中の筋肉を使いやすくなるのです。バッグは適度に左右で持ち替えましょう。
家の中で家事や移動で歩く場合は、裸足がおすすめです。スリッパだと脚に余計な力が入ってしまうことがあります。とにかく余計な力は入れず、ラクに歩くことが健康への近道なのです。
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ウォーキングコンサルタント
歩き方コーチ。「ORO(オーロ)ウォーキングスタジオ」代表。「オーラをまとう歩き方レッスン」主宰。愛媛県松山市出身。「正しい歩き方」ではなく、「心地よい歩き方」を探求し、これまでに述べ6000人以上に指導し、肩こり・腰痛、猫背、坐骨神経痛など、体が抱える数々の悩みを改善してきた。開催する講座やセミナーは1000回を超える。
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(ウォーキングコンサルタント 犬飼 奈穂)
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