弟のおむつ替えをしながら塾に頼らず「開成合格」…身重の母親が長男をやる気にさせた声かけの言葉
プレジデントオンライン / 2023年5月24日 11時15分
※本稿は、『プレジデントFamily2023春号』の一部を再編集したものです。
■これほどの負荷をかけることが本当に必要だろうか?
【尾崎】わが家が中学受験を考えたいちばんの理由は、中高の6年間というまとまった時間を確保できることです。高校受験のために時間を割くよりも、青春期には好きな部活などに打ち込んでほしいという思いで私が勧めました。地域では半分くらいの子が受験していたので、長男もそういうものだと思ったようです。ぎん太さんは自分で受験を決めたんですか?
【ぎん太】はい。きっかけは、自分が面白いと思える授業を受けたいと考えたことでした。当初は経済的な理由でも、公立中高一貫校を目指したのですが、進研ゼミの中学受験講座で私立コースを受講したらそちらもいい感じで。父が「せっかく勉強するんだったら、開成とか私立も視野に入れたらいいんじゃないの」って。
【尾崎】いきなり開成!
【ぎん太】うちの両親は中学受験をしていないし、高学歴でもありません。受験や学校の情報も知らないので、単に私立の有名校として開成を挙げただけだと思います。でも、そのひと言のおかげでいまの自分があるんですけど。国立中学も受けたものの、そちらは不合格でしたから。
■口癖は「へー、すごいね」「それ、どういう意味?」
【尾崎】実は、私自身も中学受験の経験者なんです。第1志望には合格できず、往復で2時間半を費やす私立中学に通っていました。でも、半年でやめて公立中学に通うことになったんですね。合格した学校が本当に自分に合っているのか、6年間通い続けられるのかは、結局のところ入学してみないとわからないですよね。その意味では、ぎん太さんはよかったですね。
【ぎん太】そうですね。結果的には開成にご縁があって本当によかったです。実は、一時、ゲームにはまってしまい成績が落ちてあわや退学の危機、ということもありました。オンライン授業中にゲームをしているのが親にバレてからは、授業をきちんと聞くように。聞いてみるとやはり開成の先生の話は面白い。そこから持ち直しました。自由な校風も僕に合っていて、いい学校に入れたと思っています。
【尾崎】ぎん太さんはほとんど塾に通わなかったそうですが、自宅での受験勉強でいちばん大変だったことって何ですか?
【ぎん太】好きな本を読んだりゲームをしたり、やりたいことがいっぱいあるのに我慢しなくてはならない。それがつらかったです。受験するのは自分の意思でしたが、これほどの勉強量とは思っていなくて。特に公民や歴史がつらかった。小学生なので政治のことなんか興味もないし、何のためにこんなことを覚えなければいけないんだって。
【尾崎】私も長男を進学塾に通わせて、あらためて勉強量の多さに驚きました。自分で受験を勧めておきながら、これほどの負荷を12歳の子供にかけることが、本当に必要なんだろうか、と。そうした思いとのせめぎ合いがずっとありました。
特に小6の後半は塾の課題がぐんと増え、見るに忍びず「もう、やめたい」という気持ちを私自身が常に抱えていました。けれど、本人がやる気になっているのに親がそれを言っちゃダメですよね。そこを耐え続けるのが、私のいちばんしんどい時期でした。
【ぎん太】ご長男自身は、つらかったんでしょうか?
【尾崎】長男がいちばんつらかったのは小5のときだったと思います。友達と遊ぶのが大好きな子だったので、しょっちゅう私の目を盗んで遊びに出かけていました。その頃は「なんで受験勉強なんかやらないといけないんだろう」という気持ちだったと思います。小6になったら周りも受験モードで勉強一色になるので観念したのか、淡々としていましたね。ぎん太さんは、どうやってつらい時期を乗り越えたんですか?
【ぎん太】わが家では、小さい頃から母が遊び感覚で学ばせてくれていたのですが、中学受験の内容も、母が一緒に勉強してくれたことで、だんだん楽しくなってきたんです。四谷大塚の「予習シリーズ」というテキストを使って、母と一緒にそれを読み、学んでいました。
学年が上がるにつれ内容も難しくなり、母はついてこられなくなったんですが、僕が読んで「なるほど!」と思ったことを母に教えていたんです。母は「へー、すごいね」と面白がったり驚いたりしながら聞いてくれ嬉しかったです。母は、事あるごとに「それってどういう意味?」と質問してくるんです。聞かれたことを調べて、また教える。その繰り返しで力がつきました。
■おむつ替えしながら勉強して「開成合格」
【尾崎】ぎん太さんのお母さんが素晴らしいのは、そうやって寄り添う力があることですよね。でも何より、ただ隣に座ってくれることが、どれほどぎん太さんに安心感を与えていたかを思うと……。私には、とてもできなかったです。
【ぎん太】いま思えば、当たり前のように楽しく勉強できるよう母が仕向けてくれていたんです。塾に通っていないので、「人より遅れちゃう」といった、追い詰められるようなプレッシャーもありませんでした。
【尾崎】だからぎん太さんって、自然体なんですね。無理して頑張らせられている子って、変に大人びてしまう。ぎん太さんはいい意味で子供らしさを持ちつつ、しっかりしている。やはり育った環境のおかげでしょうか。
【ぎん太】僕は3兄弟の長男で、下の弟は僕の受験期に生まれたんです。僕もおむつを取り替えたりしていました。弟がもう少し早く生まれていたら、受験に失敗していたかもしれません。母は弟の育児にかかりっきりで、僕の受験勉強につき合う時間もなかったでしょうから。
【尾崎】私は、本当にダメ親だったんです。いちばんやってはいけなかったと思っているのが、ヒステリックになること、感情的に怒ることでしたね。子供は頑張っているんだから、まずそのことを褒めてやらないといけない。受験が終わったいま冷静に考えるとわかるんですが、その最中にいるときは、頑張っているように見えなかったんですよね。だから『きみの鐘が鳴る』を、私は“みそぎ”のつもりで書いたんです。小説には親のダメな部分もたくさん書きました。それを読んだ受験生の親が、反面教師にしてくれればと思って。
(以下、後編)
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東京生まれ東京育ちの、3兄弟の長男。塾にほとんど通わず母と楽しく学び開成中学に合格。現在、開成高校に在籍。おうちで楽しみながら学ぶ様子をマンガで描いた『偏差値40台から開成合格! 自ら学ぶ子に育つ おうち遊び勉強法』を刊行。好きな食べ物は梨と桃。特技は空手。
尾崎英子
大阪府生まれ、東京都在住。早稲田大学教育学部国語国文科卒。『小さいおじさん』で第15回ボイルドエッグズ新人賞を受賞して作家デビュー。著書に『ホテルメドゥーサ』『有村家のその日まで』など。中学受験小説『きみの鐘が鳴る』(ポプラ社)が話題。
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(プレジデントFamily編集部 構成=尾関友詩 撮影=岡村智明)
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