偏差値40台から塾ナシで開成合格…母親が「祭り」と名の付くイベントにせっせと息子を連れて行った理由
プレジデントオンライン / 2023年5月24日 11時16分
※本稿は、『プレジデントFamily2023春号』の一部を再編集したものです。
(前編から続く)
■「全落ちたら、この神棚、絶対に燃やす」
【ぎん太】(尾崎さんの著書)『きみの鐘が鳴る』にはいろいろな親が出てきますが、尾崎さん自身をモデルにしたキャラクターもいるんですか?
【尾崎】完全に自分を投影した人物はいませんが、安全校に合格できなかった娘に対して、火がついたように怒りを爆発させる母親のセリフは私自身が発したものです。「全落ちしちゃったら、この神棚、燃やすから、絶対に燃やす」って。実際のわが家では「そんな罰当たりなこと言わないで」と夫にたしなめられました(笑)。
【ぎん太】分刻みでスケジュールを作って、子供をガチガチに管理するお父さんも印象的でした。うちの父は仕事が忙しくてあまり家にいなくて、受験にもまったく関わることがなかったので。模試の合格判定はいちばん低いのが20%なのに「20%も可能性あるんだから受かるんじゃない?」みたいな感じでした(笑)。
■「ウチの親はつき合いはじめのカップルみたい」
【尾崎】小説に出てくる父親のように、子供の受験を完全に管理しようとするタイプのお父さんはいますよね。取材等で見聞きした事例をミックスし、あのキャラクターを作り上げていきました。ちなみにわが家の夫は受験にまったくノータッチ。本人がやりたければ好きにしたらいいよというおおらかなスタンスでした。長男が勉強に集中できるよう、土日に次男を連れ出してもらうなど、お互いの役割分担をしていました。
【ぎん太】両親ともに受験に前のめりだと、子供の逃げ場がなくなりそうですよね。
【尾崎】実は一度、私が外出するときに「これは絶対にやらせておいて」と夫に頼んだことがあるんです。そうしたら張り切りすぎてしまったみたいで「お母さんに言われたところ、ちゃんとやれよ! そもそもお前は生活態度が……」なんてやっちゃって。長男にしてみれば、普段ノータッチの父親にいきなりあれこれ言われたらカチンときますよね。「何も知らないのに、何言ってんの?」とけんかになってしまい、頼むんじゃなかったと後悔しました(笑)。
【ぎん太】小説を読んでいていちばん感じたのは、やっぱり両親の仲がよくないとダメだということでした。僕の両親は、つき合いはじめのカップルみたいに仲がいい。もう、かんべんしてほしいくらい(笑)。でも時々、しょうもないことでけんかをするんですね。それを弟たちがすごく嫌がって。めちゃくちゃストレスに感じていることが伝わってくるんです。子供にとっては、家族みんなが仲よくのびのびと暮らせることがいちばんですよ。
【尾崎】ああ……、うちは親子げんかが絶えず(笑)。受験生に言ってはいけない言葉のワースト10を、みんな言ってしまったほどなので。「本当にやったの? やってこれ?」とか言ったこともあります。長男には、「お母さんは、できてないことじゃなく、やったことをもっと評価するべきだ」と言い返されたこともありました。
【ぎん太】子供が言われたくないのは、誰かと比べられることですよね。僕は空手を習っているんですが、武道の世界では自分と向き合うことの大切さを説かれます。弓道で国体に出た人に聞いたのですが、「これが当たれば優勝できる」といった邪心がよぎると必ず的を外すそうです。勉強も一緒で、つい「○○には負けたくない」「○○より偏差値を上げたい」といったことを考えてしまいます。目の前の問題に向き合い、それを解くことが本質なのに、見失ってしまうんです。
【尾崎】誰かと比較するのではなく自分自身と向き合うことが大切。本当にその通りだと思います。一流のアスリートも、そうですもんね。
【ぎん太】中学受験もスポーツも同じですよね。偏差値を目標にする前に、まずは自分自身の知識を深め、解ける問題を増やすことが、親から子供に伝えるべき本質だと思います。
■お風呂で実験遊び、暗記CDを聴いて歌う、しりとり
【尾崎】ぎん太さんの本にはいっぱい学べるテクニックがあったんですけど、同じ母親として「びっくりするように子供を褒める」っていうのがなるほどなあと感心しました。お母さんは女優のように豊かな表現力で、ぎん太さんの好奇心をくすぐってくれたんでしょうね。ほかにも「ボードゲームを一緒に楽しむ」「お風呂に地図を張る」などさまざまな「おうち遊び勉強法」が紹介されていますが、ぎん太さん自身は何がいちばん役立ったと思いますか?
【ぎん太】読み聞かせをしてくれたり、図書館に連れていってくれたりしたおかげで、本を読む習慣がついたことがいちばんよかったと思っています。開成の先生がこんなことをおっしゃっていました。「大学の講義では難しい言葉もたくさん出てきますが、誰も説明してくれません。わからないことは自分で本を読み、学ばないといけない。だから本と向き合う習慣を身につけておくことがすごく大事なんです」と。勉強の手段はたくさんあるけれど、基本はやっぱり、本を読むことなんですね。
【尾崎】私も長男の受験を通して、すべての基礎は国語力だと思いました。どの教科も、そもそも読解力がないと問題を理解できませんからね。うちは仕事柄、本がいっぱいあるんです。長男にはたっぷり読み聞かせをして、小3くらいまでは2週に1回、図書館で10冊以上借りてきて読んでいました。だから物語が大好きな子に育ちましたが、同じようにやっていたつもりでも次男は図鑑が好きで、物語には見向きもしません。塾の先生に相談したら「わざわざ気の向かない本を読ませなくとも、図鑑が好きで夢中になっているのだからいいじゃないですか」って。
【ぎん太】うちも同じですよ。僕は小説が好きだけど、上の弟は理系の本ばかり読んでいます。
【尾崎】要は、自分が好きで読んでいるかどうかですよね。誰かに強制されるのではなく、自分から前のめりになって行動することが大事なんでしょう。ぎん太さんのお母さんも、本やボードゲームなどに触れる機会をつくって、ぎん太さんが能動的に面白いものを見つけて行動する習慣をつけてくれたのかなって思います。それが、中学受験をしたいという気持ちにもつながったんじゃないでしょうか。受験を振り返って、やってよかったと思いますか?
【ぎん太】中学受験を通して、頑張り方や心の持ち方を教わりました。また、どうやって勉強したらいいのかをつかむきっかけにもなりました。不合格になった学校もあるので楽しいことばかりではありませんでしたが、やらなければよかったとはまったく思わないです。尾崎さんは、中学受験をどのように振り返りますか?
【尾崎】つらいこと、大変なことが本当にたくさんありました。そうした中、受験本番を迎えた日のことが忘れられないんです。つき添いの親たちが校庭で試験終了を待っていたら、校舎の鐘が鳴ったんですね。その音を聞いた誰もが、荘厳な気持ちで祈っているように見えたんです。こんなに親子で頑張ってきたのだから、みんな受かってほしい。これが祝福の鐘にならないのであればおかしいって。やがてうちの子が校舎から出てきたとき、一皮むけて成長した顔をして見えました。「ああ、大人になっちゃうんだなあ」と思ったんです。
この子が子供である時期の、最後の瞬間をいま目にしているんだろうなと。そんな経験をさせてもらえたことにすごく感動しました。中学受験をしていなかったら、その瞬間を目にすることはできていなかったので、親として後悔はありません。
■中学受験に「失敗」はない。その経験は一生の武器
【ぎん太】もちろん合格できたら嬉しいけど、たとえ不合格だったとしても、これ以上にないくらい勉強して、やりきったという経験は自信となって、今後に活きてくると思うんです。それって、合格以上に大切なことだと思います。
【尾崎】そうですよね、私も中学受験に「失敗」はないと思っています。志望校に合格できなくても人生が終わるわけじゃない。高校受験や大学受験など、再チャレンジする機会はいくらでもありますから。
【ぎん太】人生において、自分で選んだ目標に挑戦できる環境があることは素晴らしいことだと思います。これから受験する人たちには、中学受験という経験を一生の武器にするつもりで頑張ってほしいですね。
【尾崎】私からは、受験生をサポートする親御さんたちにひと言。言葉掛けも大事ですが、子供が安心するのは言葉だけじゃないのかなと、いまにして思っています。中学生になると子供は急に大人になってしまいます。子供が子供であるうちに、背中をポンポンと叩いてやるとか、頭をなでるとか、手をつなぐとか。そうした親子の触れ合いを大切にして、寄り添ってやってください。
■尾崎さんの中学受験小説『きみの鐘が鳴る』
中学受験に挑む小学6年生たちの物語。クラスメートとのトラブルで転塾する子、父親に厳格に管理されて学ぶ子、得意・不得意が激しいマイペースな子、トップ校の受験に失敗した姉のことを引きずる母に悩む子……、そんな子供たちが2月の受験を目指す姿がリアルに、希望を持って描かれる。
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東京生まれ東京育ちの、3兄弟の長男。塾にほとんど通わず母と楽しく学び開成中学に合格。現在、開成高校に在籍。おうちで楽しみながら学ぶ様子をマンガで描いた『偏差値40台から開成合格! 自ら学ぶ子に育つ おうち遊び勉強法』を刊行。好きな食べ物は梨と桃。特技は空手。
尾崎英子
大阪府生まれ、東京都在住。早稲田大学教育学部国語国文科卒。『小さいおじさん』で第15回ボイルドエッグズ新人賞を受賞して作家デビュー。著書に『ホテルメドゥーサ』『有村家のその日まで』など。中学受験小説『きみの鐘が鳴る』(ポプラ社)が話題。
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(プレジデントFamily編集部 構成=尾関友詩 撮影=岡村智明)
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