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噴石に潰され、左ひざはちぎれかけていた…58人が死亡した「戦後最悪の火山災害」で生存者が見た悲惨な光景

プレジデントオンライン / 2023年5月30日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Taka Mountain Gallery

山に登るとき、どんなことに気をつけたらいいのか。ノンフィクションライターの羽根田治さんは「日本には111の活火山があり、登山の対象になっている。最も重要なのは、いつ噴火に遭遇してもおかしくないという認識を持つことだ。2014年に起きた御岳山の噴火災害は絶対に忘れてはいけない」という――。

※本稿は、羽根田治『山のリスクとどう向き合うか 山岳遭難の「今」と対処の仕方』(平凡社新書)の一部を再編集したものです。

■50の火山が24時間体制で常時観測・監視されている

登山者に大きな被害をもたらす自然災害といえば、火山噴火を忘れてはならない。

多くの死傷者を出した2014(平成26)年の御嶽山の噴火は、記憶に新しいところだ。

現在、日本国内には111の活火山(おおむね過去1万年以内に噴火した火山および現在活発な噴気活動のある火山)がある。そのなかには、御嶽山のように登山の対象となっている山も多く含まれている。

この111の火山のうち、今後100年程度の中・長期のうちに噴火の可能性があり、その社会的な影響を踏まえ、「火山防災のために監視・観測体制の充実等の必要がある」として24時間体制で常時観測・監視している火山が50ある。さらにそのなかの硫黄島を除く49の火山(2022年3月現在)で運用されているのが「噴火警戒レベル」である。

これは、火山活動の状況に応じて、「警戒が必要な範囲」と、防災機関や住民等の「とるべき防災対応」を5段階に区分して発表する指標で、活動が活発化すれば噴火警報などを発表し、入山規制や避難などの呼びかけを行う。しかし、各レベルにおける火山活動の状況や住民らの対応方法の判定基準は、その火山がある地域によって異なる。各火山の現時点での噴火警戒レベルは、気象庁のウェブサイトの「火山登山者向けの情報提供ページ」で確認することができる。

■「噴火の兆候は認められない」と判定されていた御嶽山

ただし、噴火警戒レベルを参考にする際には、「火山の状況によっては、異常が観測されずに噴火する場合もあり、レベルの発表が必ずしも段階を追って順番どおりになるとは限らない」と、同サイトでは注意を促している。御嶽山の噴火が、まさにそうだった。

噴火前の御嶽山の噴火警戒レベルは1の「平常」(当時の区分)で、「火山活動に特段の変化はなく、静穏に経過しており、噴火の兆候は認められない」との判定だった。

それが同年9月27日の午前11時52分、突如として噴火した。

この噴火は、マグマで熱せられた地下水が沸騰して爆発する水蒸気噴火だった。水蒸気噴火はマグマ噴火と違って山体の変形や火山性微動がみられないことも多く、予知が難しいとされている。

実は噴火の2週間ほど前から、御嶽山の剣ヶ峰山頂付近では火山性地震が増加しており、気象庁はその情報を周辺自治体などに伝えていた。しかし、その後は小康状態になったことに加え、火山活動が活発化したことを示す火山性微動は観測されなかったため、噴火警戒レベルは引き上げられないままであった。

■紅葉シーズンの山頂は大勢の登山者で賑わっていた

この日は好天の土曜日で、紅葉シーズンがはじまっていたこともあり、大勢の登山者が御嶽山を訪れていた。しかも、噴火した時刻はちょうどお昼どきで、山頂周辺などでランチをとっている登山者も多かった。

たまたまその瞬間に出くわしてしまい、辛くも九死に一生を得た人たちの証言は、あまりにも生々しく悲惨である。以下、新聞報道等からいくつか要約して紹介する。

八丁ダルミにいたときに、地鳴りとともに、なんの前触れもなくドン、ドンという鈍い音が鳴り響いた。100メートルほど先に白い煙が2つ、むくむくと噴き上がっていくのが見え、すぐに周辺が煙で闇に包まれると、こぶし大から畳ほどの大きさもある石が降ってきた。この場所にいてはまずいと思い、噴煙が押し寄せる側とは反対の斜面に逃れようとしたとき、今度は猛烈な熱風が襲ってきた。火山灰で鼻や口、耳が詰まり、熱さも加わって息ができず、死ぬかと思った。ザックを背負っていなかったら、熱でやられていた。全身は灰で真っ白で、足元には50センチメートルほどの灰が積もっていた。やっとの思いで登山道を下ったが、途中の尾根上には、家族連れや若い女性ら100人ほどの人がいた。「助けてくれ」という声も聞こえてきたが、まわりが見えずどうしようもなかった。助かったのは奇跡としか思えない。(63歳男性「中日新聞」)

■煙の写真を撮っていたらあっという間に真っ暗に

突然、「パーン、パーン」と鉄砲を撃ったような乾いた音が響き渡った。山頂からもくもくと灰色の煙が上に向かって伸びたかと思うと、横に広がっていった。このときは、みんな写真を撮るなどのんびりしたものだったが、急に煙が向きを変え、自分たちのいる方向に雪崩のように迫ってきた。灰が降りかかるのと同時に、自分の手も見えないくらい真っ暗になり、500円玉ぐらいの大きさにくっついた噴石のかたまりが打ち付けるように降り始めた。バーン、バーンと音がして、雷が光っているのが暗闇でも見えた。ほんとうに地獄のようだった。20分ほど経ったときに少し明るくなり、「今しかチャンスはない」と思い、転落防止のためのロープにつかまりながらゆっくり下りはじめた。(38歳男性「MSN産経ニュース」)
大学時代からの仲間3人で王滝口を出発し、九合目付近に差しかかったとき、突然、目の前で噴煙が上がった。黒ずんだ煙に覆われ、その場にうずくまった。暗闇の中、「痛い、痛い」とうめくような声がして目をやると、仲間の女性の左膝から血が流れ続けていた。降ってきた噴石につぶされ、ちぎれかかっていた。119番し、アドバイスを受けながら止血のために足をタオルで縛ったり、爪先の位置を高くしようと体をずらしたりした。すぐ近くの山小屋に運ぼうとしたが、とても動かせる状態ではなかった。「お母さんと話したい」というので、携帯電話で女性の母に状況を説明した後、女性に代わった。噴火から3時間半がたったころ、少しずつ弱っていた心臓の鼓動が聞こえなくなった。「ごめんね」としか言えず、女性をその場において下山した。(35歳男性「東京新聞」)
友人2人と登った御嶽山で噴火に遭ったのは、27日正午頃、ちょうど山頂付近だった。噴火に驚き、神社の建物に駆け寄った。中に逃げ込もうとしたが出入り口が見当たらず、ひさしの下に頭と肩だけを入れた。背後から次々と人が駆け寄り、ひさしに入ろうとした。そこに上空から大小さまざまな石が落ちてきた。屋根に当たってはね、頭上にばらばら降り注いだ。そばにいた男性が窓をたたき割ったので、火山灰に埋もれていた足を懸命に抜き、中へ入った。結局、逃げ込めたのは十数人。わずかに遅れ、逃げ込めなかった人が倒れ、灰に埋もれるのを目の当たりにした。灰が降り続ける中、何とか倒れた人を中に引き入れようとしたが、灰に埋まりかけた若い女性3、4人は動かず、中に引きずりこんだ男性は「痛い、痛い」と苦しんだ。その声もやがて聞こえなくなり、動かなくなった。(73歳女性「読売新聞」)

■死者58人、行方不明者5人…戦後最悪の火山災害

現地では、噴火直後から警察・消防・自衛隊の3隊が連携しての捜索・救助隊が展開された。しかし、噴火活動や火山灰、台風の接近、悪天候などによって難航し、10月16日、「山頂付近での降雪などにより二次災害の危険が高まった」として捜索は打ち切られた。この20日間の捜索・救助活動に携わった人員は、述べ1万5000人余りにのぼる。そして翌年の7月29日から8月6日にかけて再捜索が行われ、行方不明者1人が発見された。

この噴火による死者は58人、行方不明者5人、重傷者29人、軽傷者40人を数え、1991(平成3)年の雲仙・普賢岳の噴火(死者・行方不明者43人)を上回る戦後最悪の火山災害となった。死者の発見場所は、今回の噴火口の東側にあたる剣ヶ峰~王滝頂上の間に集中しており、その死因のほとんどが、噴石の直撃などによる外傷性ショックであった。

■活火山に登る際にはゴーグルとヘルメットを持参する

火山噴火については、大雨や台風のようなわけにはいかず、予知は非常に難しい。火山噴火に遭遇しないためには、登らないのがいちばんなのだが、そういってしまっては身も蓋もない。大雪山、八甲田山、鳥海山、吾妻連峰、会津磐梯山、浅間山、草津白根山、妙高山、白山、富士山、九重山、阿蘇山など、日本には登って楽しい魅力的な活火山がいっぱいある。

先にも少し触れたが、気象庁は、国内の50の常時観測火山の活動状況について、最新情報をウェブサイトにて発表しており、「火山概況」「噴火警報・予報」「噴火速報」「降灰予報」「火山ガス予報」などをチェックすることができる。

別枠で「火山登山者向けの情報提供ページ」も設けられているので、対象火山に登る際には、事前に最新情報に目を通しておくといい。火山によっては、噴火警戒レベルのリーフレットやハザードマップ(火山防災マップ)も要チェックだ。ハザードマップは、防災科学技術研究所の「火山ハザードマップデータベース」のウェブサイトで検索できる。

実際の登山にあたっては、噴火に遭遇することを想定した装備も携行したい。噴石などから頭部を守るためのヘルメット、火山灰が目に入るのを防ぐゴーグル、火山灰の吸引を防ぐためのタオルは必携だ。また、御嶽山の噴火では、犠牲者や行方不明者の身元確認に手間取り、混乱を招くという事態が起きた。登山以前の準備として、登山届は必ず提出しておこう。

■「いつ噴火に遭遇してもおかしくない」と認識して登る

そして最も重要なのは、火山に登る以上、いつ噴火に遭遇してもおかしくないという認識を持つことだ。無警戒だった火山が突然噴火することは充分起こりうることであり、事前にいくら情報を収集したとしても、噴火に遭遇することを防ぎ切れるものではない。

以前、噴火警戒レベルが1で火口から500メートル以内への立ち入りが禁止されている浅間山に登ったとき、警告板を無視してロープを越え、火口付近へと立ち入っていく登山者が少なからずいた。噴火後の御嶽山では、立ち入りが規制されている警戒区域内に入り込む登山者があとを絶たず問題になった。噴火警戒レベルが2の霧島連山・新燃岳では、入山規制中のエリアに立ち入った登山者の遭難騒ぎが起きたこともあった。

まさか、この瞬間に噴火するはずはない……、それがごくふつうの認識であり、「噴火するかもしれない」と思っていたら、まずその山には登らないだろう。数十年~数百年という噴火の周期のなかでは、前回の噴火でどれほど多くの犠牲者が出ようと、悲しいかな人はその記憶をいつか忘れてしまう。御嶽山の噴火の記憶にしても、あと10年、あるいは20年したら、すっかり忘れ去られているかもしれない。

黒竜山から見たアサマ
写真=iStock.com/backpacker
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/backpacker

■まずはシェルターや大きな岩陰を目指して避難

だが、繰り返していうが、火山に登るからには、噴火に遭遇するリスクは常についてまわる。それを前提としたうえでの「登る」「登らない」の判断は、個々の登山者の責任によるものである。

もし不幸にも登山中に火山噴火に遭遇してしまったら、浅間山や御嶽山などのようにシェルターがある場合は、そこに避難するのがいちばんだ。シェルターがなければ、大きな岩陰などに身を隠すか、山小屋などに避難する。

ただし、先の御嶽山の噴火の際には、直径数センチ~5、60センチメートルの噴石が時速350キロ~400キロメートルで飛び出したと推測され、火口周辺ではそれが雨のように降り注いだという。しかも、なかには軽トラック大の噴石まであったというから、そんな状況下ではどこかに身を隠せたとしても、気休めにしかならないかもしれない。

■火砕流とガスが流れ込みやすい谷や沢沿いをなるべく避ける

羽根田治『山のリスクとどう向き合うか 山岳遭難の「今」と対処の仕方』(平凡社新書)
羽根田治『山のリスクとどう向き合うか 山岳遭難の「今」と対処の仕方』(平凡社新書)

噴火がいったん落ち着くか、噴石の危険が低ければ、早急に噴火口から離れて、より安全な場所に避難することだ。御嶽山の噴火時には、人の頭ほどの大きさの噴石が1キロメートル以上離れた場所まで飛んだので、少なくともそれ以上は遠ざからないと安全圏とはいえない。

避難するときは、ヘルメットやゴーグルがあればそれらを着け、体内への火山灰の侵入を防ぐためにタオルなどで目、鼻、口を覆うこと。噴煙であたりが暗ければヘッドランプを点け、ザックは背中のプロテクターになるので、背負ったままにする。避難経路としては、火砕流や火山ガスが流れ込みやすい谷・沢沿いはできるだけ避けたほうがいい。

生き延びるために、とにかくやれることはすべてやるしかない。もちろんスマートフォンで写真を撮っている場合などではない。そんな余裕があるなら、少しでも噴火口から遠ざかるように努めることだ。

■遅々として進まない、周辺自治体による避難確保計画の作成

火山活動が続いている山では、噴火はしなくても場所によって火山ガスが噴出しているところがある。有毒な火山ガスの危険があるエリアでは、地元の自治体や観光協会、宿泊施設がホームページなどで情報を流しているので、事前にチェックする。現地では、決められたルートを外れないようにし、立入禁止のルートや危険区域には絶対に入り込んではならない。ガスが噴出していたり、刺激臭が漂っていたりする場所には、むやみに近づかないほうが無難だ。

なお、御嶽山噴火を受けて2015年に改正された活動火山対策特別措置法は、全国49火山の周辺自治体に対して、「避難促進施設」の指定と「避難確保計画」の作成を義務づけている。避難促進施設は、火山噴火の際に登山者や観光客らが逃げ込める施設で、山小屋やホテルなどの宿泊施設、ビジターセンターなどが対象となる。それらの各施設が退避方法などを決めたものが避難確保計画だ。

ただし、人手やノウハウが不足していることから、2022年3月末時点で施設の指定が済んでいるのは全体の3割ほどで、そのうち計画を作成済みの自治体は55パーセントしかなかった。近年噴火が起きていない地域の作成率がとくに低く、総務省は2022年9月、防災担当の内閣府に対して、市町村への周知徹底やノウハウ提供に努めるよう勧告した。

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羽根田 治(はねだ・おさむ)
ノンフィクションライター
1961年埼玉県生まれ。おもな著書に『ドキュメント 生還』『ドキュメント 道迷い遭難』『野外毒本』『人を襲うクマ』(以上、山と溪谷社)、『山の遭難――あなたの山登りは大丈夫か』(平凡社新書)、『山はおそろしい――必ず生きて帰る! 事故から学ぶ山岳遭難』(幻冬舎新書)などがある。

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(ノンフィクションライター 羽根田 治)

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