79歳で『インディ・ジョーンズ』最新作に出演…ハリソン・フォードがまた鞭を振るうために鍛えた方法
プレジデントオンライン / 2023年6月1日 14時15分
※本稿は、サイモン・ウォーターソン『インテリジェント トレーニング』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■アクションヒーローは若手俳優の専売特許ではなくなった
ダニエル・クレイグが初めてジェームズ・ボンドを演じたのは30代後半のときだ。最後のボンド役をやるころには、彼は50歳になっていた。だが、クレイグは年をとったことを理由にして、自分に対する要求を下げたりしなかった。
007として出演した最初の作品から5作目まで、クレイグと私は高いレベルでトレーニングを行ってきたつもりだ。トレーニングをたくさんこなす25歳にも負けない、見事な肉体を誇りに思っている。最近では、アクションヒーローになるのに20代や30代である必要はない。20代のときの見た目よりも50代では見栄えがしないなどと誰が言えるだろう? クレイグと私はただこう思った。「そんなことはどうだっていい。ただやってみて、何ができるか確かめてやろう」と。
映画業界ではもはや、アクションシーンは若手俳優にしか演じられないものではなくなった。社会全体の身体づくりに対する考え方が大きく変わったからだ。年齢だけで健康かそうでないかを判断することはできない。私はこうした傾向が続いてほしいと思っている。
■ベテラン俳優になるほど自分の身体についてよく理解している
若いときと同じ身体づくりの目標をもつことはできるが、当然、方法論は変わってくるし、達成するには時間もかかる。『カジノ・ロワイヤル』のためのトレーニングには約7カ月かかったが、クレイグの出演する007シリーズ2作目となる『慰めの報酬』ではもう少しかかり、約9カ月だった。『スカイフォール』のためにはちょうど1年弱、『スペクター』ではもっとかかり、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』ではさらに長かった。
50代で、30代のときとまったく同じようにトレーニングして回復できるとはかぎらない。年齢に伴い身体が変わる事実は、どう考えても完全には無視できない。だが、昔より少し賢くなって、自分の身体についての理解が深まり、自分のモチベーションを高めるものとそうでないものに自覚的になることはできる。
私はあまり若くはない俳優をトレーニングするのが好きだ。撮影現場に入るまでに、彼らの身体をしっかりと仕上がった状態にするのはやりがいがある。たとえば、インディ・ジョーンズ・シリーズの5作目に出演するハリソン・フォードのための計画を立てたとき、役づくりの肝となる鞭をぴしっと打ち鳴らす動きができるようにしなければならなかった。
撮影時、ハリソンは70代後半だったが、身体を使ったシーンもできるだけ自分で演じたがっていた。私の計画によって、彼は必要としていた、なめらかでしなやかな動きを身につけていた。
■トレーニングを楽しいと思えることが重要になる
若いころは、どれだけの重量を持ち上げられるか、どれだけ速く走れるか、自分の体重がどれくらいかを基準にしてトレーニングメニューを決めることが多い。年をとるにつれて、自分の進歩のはかり方が少し変わり、どう感じるか、どんな結果になるかを気にするようになる。
![サイモン・ウォーターソン『インテリジェント トレーニング』(かんき出版)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/b/1200wm/img_0bbc48b039788e4b02da9005eea242bc285588.jpg)
さらに年を重ねると、トレーニングを楽しいと思えることが重要になってくる。それこそが最も大切だ。気分がよくなることをしよう。年齢によって、バランスは変わる。年齢が上がると、健康を維持し、元気で柔軟性があることが大事になる。
たとえば、レイフ・ファインズだ。彼は並はずれてたくましい(あなたが想像するよりはるかに屈強だ)。私は、007シリーズのMの役、『タイタンの逆襲』、いくつもの演劇作品のためにファインズのトレーニングを行ってきた。ファインズはしっかり取り組み、メニュー(どれぐらいの重さでデッドリフトやベンチプレスができるか)に興味があると同時に、年齢にふさわしいものにしようとした(現在のメニューが25歳のときと同じはずがない)。
ファインズは映画のためにすばらしい身体をつくり、姿勢がよくなりたい、スーツを着たときの外見と所作をよくしたい、といつも洩(も)らしていたが、そのおかげで、プライベートな時間も楽しめるようになった(彼はかなりの食通だ)と私は思う。
■ウディ・ハレルソンから逆に教えられた身体づくりの知識
ハリソン・フォード、ウディ・ハレルソン、ドニー・イェンといった年配の俳優とトレーニングするすばらしい点は、たくさんのことを学べるところだ。私は指導すると同時に、彼らは気づいていないかもしれないが、彼らから教わってもいる。
ハレルソンのように何十年も映画業界に携わっている人は、身体づくりの専門家に囲まれている。トレーニングの最中に彼と話していると、何十年もの経験が数分に凝縮された意見を聞いているように感じた。ハレルソンからは反対意見もぶつけられたが、私はそこから断片的な情報を集めて、別のクライアントに役立てた。トレーナーとしては、そのように互いに影響を与え合うと知識が深まり、業界で代わりの利かない存在になれる。
年配の俳優は自分の好き嫌いを熟知している。あなたも時間をかけて身体の声を聞き、どんなものが自分に合っているかを知ることだ。
■ドニー・イェンの演技を支える身体リカバリーへのこだわり
50歳では、21歳と同じように回復はしない。そんなことは生理学的にありえない。かつてのように筋組織をつくれないし、昔のようには動けない。そのころほど効率のよい身体ではないのだ。同じ基準の回復を助ける物質や同じ量の化学物質を生成しない。
年相応のトレーニングをするのと同じように、年齢にふさわしいリカバリーをしなくてはならない。若いときからリカバリーに時間をかける習慣を身につけるのが理想だ。そうすると、身体のプログラムに刻みこまれ、それが生活のなかで自然だと考えられるようになる。
ドニー・イェンは以前からサポーターなしでスタントを行ってきた。武術の達人として尊敬を集め、見事な肉体をもち、高い身体能力を有し、矜持ももっている。
『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』で彼と仕事をしたときに学んだのだが、ドニーの特徴は、そのリカバリーに対する姿勢と、しっかりと身体を癒し回復させるやり方にある。ドニーはいまでも見事な身体を保っている一方で、年をとったら同じことは続けられないことを心得て、回復の方法を調整している。
■80歳に差し掛かってもハリソン・フォードが元気な理由
ハリソンは自分の健康に強い関心をもち、努力をしている。70代後半だが、自転車や馬に乗ったり大好きなテニスをしたりと、活動的でアウトドアな生活を送る。毎日身体を動かすと生き生きと健康でいられるそうだ。年齢を問わず誰もがこの言葉に刺激を受けるだろう。
成熟には知識が欠かせない。ハリソンのように、人は年をとるにしたがって、自分の限界への理解が深まっていく。自分の身体に何ができるのか、何が合わないのかを見極めたい。
子どものころからインディ・ジョーンズの映画が大好きだった私からすると、鞭をぴしゃりと打ち鳴らすのに必要な動きについて、ハリソン・フォードとジムで話しているのは現実とは思えない瞬間だった。
子どものころ『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』を観ていて縮みあがるほど怖かったのを覚えている。特に、聖櫃が開き、結末に向かうシーンが恐ろしかった。インディ・ジョーンズの映画はすべて名作だ。そして、『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』公開から40年後、インディ・ジョーンズのシリーズ5作目のためにハリソン・フォードのトレーニングを見る仕事が私にきた。
■CGがない時代に『インディ・ジョーンズ』を生身で演じた
ハリソンは熱心なテニスプレイヤーでもあるので、私が考えたトレーニングをすると、動きがなめらかになりサーブもうまくなると聞いて喜んでいた。私はこう伝えた。「サーブが上達すれば、インディのように鞭が打てますよ。かなり似た動作ですから」
過去のインディ・ジョーンズ作品を観ると、ハリソンは1980年代に本格的なアクションシーンを演じていた。当時はCG技術がいまほど発達していなかったから、ハリソンはスタントの大半を実際に、生身で演じきっていたのだ。
彼はたくさんの戦闘シーンで何度となく走り、ジャンプし、ぶら下がっていた。主演男優にとって、インディ・ジョーンズのシリーズは007シリーズ並みに容赦のない撮影になる。ほとんどすべてのシーンに出番があるから、休んでいる暇などない。
■今の自分の身体で何ができるのか、見極める
ハリソンの年齢で、また大作に出て、たくさんの身体を使うシーンをできるだけこなそうとするなんて感心してしまう。これまでに出演したアクション映画のせいでハリソンは痛みやケガを抱えていたが、彼はできることを快くやった。ハリソンは常に身体を仕上げている。膨大な数のアクションシーンをこなしてきた彼の雄姿を、あなたもたくさん目撃しているはずだ。
自らスタントをこなした1980年代をくぐり抜けてきたから、ハリソンは本作の撮影も自分のペースで進められた。何が自分にできて、何を制作チームにまかせたらいいのかわかっていたのだ。
![ブーツ、鞭](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/1/1200wm/img_512bd16c08701da5fc3bfeea93b48302406440.jpg)
■ただトレーニングするのではなく痛みを予防する
インディ・ジョーンズで使われる鞭はかなり重たいので、ぴしっと打つためには特別な動作が必要になる。もちろん、これまでの4作でもハリソンは鞭を打ち鳴らしてきたが、私は計画を立て、この新作では流れるような動きが自然にできる身体に仕上げた。
ほかにも大事なのが、このメニューをこなすことで気分がよくなり、痛みがなくなることだった。2021年の撮影期間中、ハリソンは1週間に2回トレーニングを行った。
このトレーニングは、身体を動かし、頭を働かせられるので、年齢を問わずすべての読者にお勧めだ。ただトレーニングをするだけでなく、賢くやらなくてはならない。賢いのは、身体を痛みなく自然に動かせるのに、何かを──痛みや苦痛を予防することを──やっているように感じるからだ。これこそまさに「スマートな身体づくり」である。
■ウェイトではなくチューブを使うハリソン・フォードのトレーニング
アクティベーションには、チューブを使ったり、自重を使ったトレーニングをしたり、動的ストレッチをしたり、ペースを保った有酸素運動のなかで瞬発力を使う動作を軽く行ったりした。ハリソンの場合、通常トレーニング間に行う2分間の有酸素運動の代わりに、振動する器具(マッサージガン)を2分間筋組織にあてた。
ハリソンには、激しいトレーニングというよりリカバリーのようにいくぶん感じられたかもしれない。あなたが2分間の有酸素運動を行いたければ、エアロバイクに乗るなりほかの心拍数が上がるものをするなり、好きなようにしてかまわない。
【ハリソン・フォードの5-2トレーニング】
チューブを使って片手で行うラットプルダウン
インディ・ジョーンズのためのハリソンのトレーニングはすべて、ウェイトではなくチューブを使う。チューブを使うと、動きがなめらかになり、動作のあいだずっと負荷がかかるからだ。トレーニング・ラックやケージにチューブを高い位置、腰の高さの真ん中の位置、低い位置に設置した。どれも気分転換にストレッチするのにちょうどいい(関節のあいだを血液が流れる)。このトレーニングは背中や肩に効く。
・膝立ちのまま、チューブがぴんと張るまでゆっくりと後方に下がる
・胸の高さまでチューブを引き、肘を身体からあまり離さないようにする。反対側も同じように行う
・かなりゆっくりした動きになるようコントロールしながら、チューブを元の位置に戻す。チューブに軽く手前に引っぱられるようにする。肩が少し関節から外れるような感じがするが、実際には外れないようにする。こうすると、関節のあいだに血液が流れる
・腕を入れかえて同じことをする
![【図表1】チューブを使って片手で行うラットプルダウン](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/a/1200wm/img_4a9725a83235862c2be682806e22da9d152920.jpg)
チューブを使った外旋の動き
このトレーニングは、回旋腱板と姿勢を保つ背中の筋肉に効き、肩が前に丸まるのを防ぐ効果がある。
・肘を身体の脇にしっかりとつけ、チューブが伸びているのを感じるまで、腕を身体から離すように開く
・ゆっくりと速さをコントロールしながらチューブをスタートポジションに戻す
・腕を入れかえて同じことを繰り返す
![【図表2】チューブを使った外旋の動き](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/9/1200wm/img_c9bea465b8278e3f24a5a77eac217d4c211597.jpg)
■チューブで鍛えられる部位は多種多様
チューブを使った内旋の動き
ここでは前回の外旋の動きと同じ筋肉を使ってトレーニングする。
・今回はチューブをへそに向かって引っぱる
・トレーニング中は体幹に力を入れておく。そうすることで、安定性が高まるという副次的な効果も得られる
・腕を入れかえて同じことを繰り返す
![【図表3】チューブを使った内旋の動き](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/2/1200wm/img_b2f064375db3d2e75098bbd0c5698fc2215173.jpg)
チューブを使って片手で引き上げるローイング
このトレーニングは背中にある三角筋と広背筋を鍛える。
・肘を身体から離さず、手が胸の横にくるまでチューブを引っぱる。こうすることで、背中の横にある広背筋が引き締まる
・力を抜いて、チューブを元の位置に戻す
・腕を入れかえて同じことを繰り返す
![【図表4】チューブを使って片手で引き上げるローイング](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/a/1200wm/img_0af501586e6925c32dac8d99d9eccc57180358.jpg)
チューブを使った肩関節包のストレッチ
このトレーニングは肩だけでなく、胸筋、上腕二頭筋、前腕も鍛えられる。
・それぞれ3本の指を使い、両手でチューブをしっかり握る
・チューブがぴんと張るまで前方に出る。顔を下げておくと、腕が少しだけ後方に上がる
・少しずつ片足を前に出し、顔を上げ、前方に視線を向けて、ゆっくりと胸を上げる。肩関節包(関節にあるやわらかい組織)が伸びるのを感じる
・伸ばしたまま30〜60秒キープする
・ケージのほうにゆっくりと後ずさり、スタートポジションに戻ったら指を離す
![【図表5】チューブを使った肩関節包のストレッチ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/4/1200wm/img_64d58d0d600a6abae67113f01c24cc8e181792.jpg)
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16歳で英国海軍コマンドスに入隊し、7年間特殊部隊に所属した後、フィットネストレーナーとしてのキャリアをスタート。映画業界で最も需要の高いヘルス・アンド・フィットネスコーチとして25年以上活躍している。英国を拠点に、世界中を飛び回り、大役を演じる俳優の準備をするだけでなく、撮影現場に同行して撮影中の健康管理を行っている。
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(フィットネストレーナー サイモン・ウォーターソン)
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