アップル、ウーバー、パタゴニアの共通点を説明できるか…世界の先端企業が持っている「4つのコンセプト」
プレジデントオンライン / 2023年6月5日 9時15分
■世界の先端企業ブランドは「共感」に支えられている
この10年ほどの間に急速に我々の生活に浸透した企業ブランドやサービスを挙げてみよう。「アップル」「エアビーアンドビー」「ウーバー」「グーグル」「パタゴニア」などが思い浮かぶ。いずれもかっこよくて、若者に人気がある。また、ミッションに社会や環境との調和をうたう。
従来の一流ブランドの多くは「高品質」「安定性」「信頼性」などをアピールした。これに対してこれら企業は先進性や時代感覚、あるいは社会変革を前面に出す。そして圧倒的な「いいね数」、つまり人々の「好き」「イケてる」という共感に支えられファン層を広げる。
■ジョブズはプロダクトデザインを「禅」と表現した
①アップル
ハイテクと同時に「ミニマリズム」を代表するブランドだ。創業者のスティーブ・ジョブズは東洋哲学や禅に傾倒していたし、彼がこだわったプロダクトデザインは、無駄を極限まで削ったものだった。それをジョブズは「禅」と表現し、アップルストアを白で統一した。
②エアビーアンドビー、ウーバー
SNSの普及で個人が情報の発信者になったことで、エアビーアンドビーやウーバーといったシェアリングサービスが生まれた。個人間を仲介するシェアリングサービスは、お客様 対 業者という主客の関係を分離し、上下関係を壊した。「対話」的な関係性のもとで個人の大切なものを他人と共有するシェアリングは、個人間に新たな共生関係を生みだした。
③グーグル
いわゆるGAFAのひとつで情報独占を批判されるグーグルも、元々はシェアリングを意識した企業だ。グーグルはインターネットの黎明(れいめい)期に世界の図書館、つまり国境を越えたネットワークで知識を共有することを目指した。その結果、グーグルのプラットフォームが標準規格となったのだ。
④パタゴニア
パタゴニアは「サステナビリティ」と「エコ」を追求するアパレル企業だ。ファッションは使い捨て型産業の典型だが、その真ん中で同社は「新商品を買うより、古いものを修理して使おう」と言い出し、消費者の共感を集めた。同社は拡大再生産という資本主義の基本原理を否定することで消費者の共感を集め、競争にも勝ち続けている。
■「新知性ブランド」が示す新しい資本主義
私が注目するのは、彼らの強さが単に技術力やマーケティングの成功によるものではないという点だ。これらの企業は、格差を拡大し環境を破壊する資本主義の限界に挑む、いわば「オルタナティブ」のアイコンとして共感を広げている。
彼らが掲げるミッションは、必ずしも従来の資本主義の原則に当てはまらない。しかし、こうした企業が資本主義市場で勝利することで、やっかいな資本主義と環境保全、あるいは経済成長と格差是正の両立が進み、新しい資本主義の姿をつくるのに貢献するのではないか。
私はこうした先端企業のブランドを「新知性ブランド」と呼んでいる。「新知性」とは、従来の「知性」に変わる新しい知性である。かつての知性とは、18世紀末に生まれた啓蒙(けいもう)思想である。啓蒙思想は、近代社会の基礎となる資本主義や民主主義を生んだ。社会は確立した個人から構成され、各人が自律的に考え、人も企業も健全に競争・協力し、それで社会は進歩するという考え方である。
■これからのブランドに求められる4つのコンセプト
だが現実には、啓蒙思想のもとで生まれた資本主義のもとで格差は拡大し、民主主義はポピュリズムと化した。私は「新知性ブランド」が掲げるミッションこそ、18世紀末の啓蒙思想の限界を乗り越える積極的なアンチテーゼだと考えている。
かつて資本主義の限界を超えるべく生まれたのは共産主義だった。しかし失敗をしたし暗い。かたや新知性ブランドは明るい。資本主義の限界を打破する新知性を社会に育むためには、すてきな価値観をミッションに掲げる新知性ブランド企業を育てればよい――となり、もしかしたら、ここから革命的ブランド論が誕生するかもしれない。
さて、これらブランドが求める「新知性」とは、どういうものか。私は、新知性とは東洋哲学の一連の思想、つまり「共生」「主客未分」「ホーリズム」「対話」という4つのコンセプトを基軸にできていると考える。
■「競争」は資本主義の動力源だが…
①「共生」
共生の対立概念は「競争」だが、競争こそ資本主義の動力源である。資本主義は新たな市場(フロンティア)を巡る競争を促し、勝者を主体に拡大再生産を続けていく効率的な仕組みだ。一方、「共生」は、競争よりもお互いが助け合って生き延びていく。それによって全体として持続可能な世界を保っていく。成長の限界を感じる時代でもある。「共生」は、限られた資源を分け合って生きていく上で重要だろう。
②「主客未分」
対立概念は「主客分離」だ。これは相手と自分を分けて考え、主観を排して冷徹に対象物の真価を評価する。主客の分離はデカルト以来の近代哲学の基本で、主観を排した客観性は科学発展の重要な要素だった。これに対して、「主客未分」は、主客は実はどこかでつながり、時には主客が入れ替わって主客は合一しているという視点から物事を見る。だから勝ち組も負け組もなく、全ては刹那の相対的な差異でしかなくなり競争は共生に転じる。
■行き過ぎた分業は専門バカを生み出す
③「ホーリズム」
これは「主客未分」の延長に当然に出てくる概念だが、事象を要素に分けずにひとつのものとして全体感をもって捉える。これまでの「主客分離」では「要素還元」主義のもとで主客を分離し、客観的な視点から複雑な事象を要素分解して解析した。人間ドックも裁判も科学研究もすべてこれだった。おかげで科学も経済も発達した。アダム・スミスが言う分業による協業で生産性も上がった。しかし、切り刻み過ぎると全体感を見失う。工場などでの人間疎外やホワイトカラーの専門バカを生み出してしまった。だから全体を丸ごととして捉え直すのである。
④「対話」
主客を分離する場合、自分は観察対象から一定の距離を置き、また自ら働きかけずに対象を外から理解する。それに対し、ホーリズムや主客未分では、むしろ積極的に相手と「対話」する。全てのものはつながり作用し合っていると考えるからである。そして、こうした考え方の延長線上には、ものの本質は「主」にも「客」にもなく、両者の「関係性」の中に宿るという世界観が生まれる。
■残されたプレイヤーは「個人と企業」
世の中を動かす仕組みとして、資本主義と民主主義に代わる優れた仕組みは、今のところ見当たらない。また、知識人が先導する理念や哲学が世の中を先導する時代でもなくなった。宗教はもとより、国家も制度も理念も哲学も世の中を動かす動力源とならない。そんな時代に残された社会変革のプレイヤーは、「個人と企業」ではないか。この両者が制度疲労に陥った資本主義と民主主義に代わる何かを生み出す担い手となるしかない。その変化の核が「新知性」なのだが、それを育む孵化器は個々人の消費生活の中に求めるしかない。
つまり、「新知性ブランド」が日常の企業活動を通じて個々人の消費生活の中に新知性を普及させ、人々にその価値を実感させていく。旧知性、つまり啓蒙思想は学校教育や政府による啓蒙活動で普及したが、新知性は人々の消費生活を通じて浸透していくのではないか。新知性ブランド企業は、資本主義の力をレバレッジしながら知らず知らずのうちに人々を、そして社会を変えていく力を秘めている。
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経営コンサルタント、慶應義塾大学 名誉教授
元マッキンゼー・パートナー。大学院大学至善館特命教授、スターフライヤー、平和堂等の上場企業の社外取締役、アドバンテッジパートナーズ等の顧問・監査役を兼務。東京都、大阪府市、愛知県の顧問を歴任。専門は経営改革と公共経営。著書に『組織がみるみる変わる 改革力』(朝日新書)、『大阪維新』(角川SSC新書)など。京大(法)、米プリンストン大学修士卒。世界117カ国を踏破。
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(経営コンサルタント、慶應義塾大学 名誉教授 上山 信一)
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