11歳で「ビル・ゲイツよりビッグになる」と放言した起業家の事業が巨人アップルを打ち負かせたワケ
プレジデントオンライン / 2023年5月29日 15時15分
※本稿は、桑原晃弥著『世界最高峰CEO 43人の問題解決術』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■デザイナーになるために大学を中退
ツイッター社の創業者は4人います。そのうちの1人ビズ・ストーンが高校生の頃からいつも大切にしていたのが、「自分が動いて自らことを起こす」ことでした。
成功には運と努力が欠かせません。運は自分ではどうにもできない要素ですが、チャンスを自分の手でつくり出せば、運をつかむ確率も上がるというのがストーンの考え方です。
ストーンはノースイースタン大学を経てマサチューセッツ大学に移りますが、アルバイト先のリトル・ブラウン社で手がけた本のカバーデザインが認められ、フルタイムのデザイナーとして働くために大学を中退します。
その後、一緒にウェブの会社をつくろうと意気投合した友人たちと共にブログサービスの「ザンガ」を起業しますが、しばらくして退社、働きながらブログを投稿するだけという先の見えない日々が続きます。
■グーグルに採用され「人生大逆転」となったが…
転機は2003年、グーグルがのちにストーンと一緒にツイッター社を創業することになるエヴァン・ウィリアムズの会社「ブロガー」を買収したことで訪れます。ウィリアムズはそれまでオタクの遊びに過ぎなかったブログを誰もが知る存在にまで発展させた人物であり、ストーンは思い切ってウィリアムズに「人を雇う機会があればお知らせください」とメールを送りました。
すると、ストーンのブログを読んでいたウィリアムズから一緒に働かないか、という連絡が入りました。しかし、グーグルは学歴を重視する会社だけに、普通はストーンのような中退者を採用することはまずありません。それでもウィリアムズのお陰でストーンは何とか採用され、幸運にもグーグルのブログ部門で働くことになったのです。
思うような仕事に就けず、借金ばかりが増えていたストーンにとって、グーグルに入社できたことは人生大逆転でしたが、2年後、ストーンはせっかくのストックオプションの権利を途中で放棄して、「オデオ」というスタートアップに転職します。ウィリアムズが新しく会社を立ち上げ、誘われたことがきっかけでした。
■好きになれなければ、その仕事は失敗する
当時、オデオがつくっていたのは「ポッドキャスティング」のサービスであり、ベンチャーキャピタルからの資金も得ていた「有望なサービス」のはずでしたが、2005年、アップルがiTunesにポッドキャスティング機能を加えたことで状況は一転します。
アップルが本気でポッドキャスティングに取り組めば、オデオの生き残る道はありません。生き残るためにはアップルに負けないサービス、アップルが興味を示していないポッドキャスティングのソーシャルな機能を強化することが必要ですが、ストーンはこの時、さらに大切なことに気づきました。
「僕たちにはこれ(ポッドキャスト)にかけたいという思い入れがなかった。自分たちがつくっているものを好きになれなければ、自分自身が熱心なユーザーになれなければ、どんなにほかをうまく進めたとしても、その仕事はおそらく失敗する。僕は自分が興味が持てないものには取り組めない(1)」
順調であってもそうでなくても、今自分がやっている仕事が自分は実は好きではない、夢中になれないと気づいたら、あなたはどうしますか? もしそれが稼げる仕事や、人が羨むような仕事だったらどうでしょうか?
■ツイッターは「好き」から始まった
アップルを率いるジョブズの凄さは、徹底して「自分たちが使いたいと思う製品やサービス」をつくるところにありました。自分たちが心の底から「好き」と思えるものだからがんばれるし、がむしゃらに働くこともできるのです。
「このままではダメだ」と気づいたストーンはウィリアムズに「すぱっと手を引いて、持っている資金を使って夢中になれるものを始める」ことを進言します。そして社内でハッカソン(2)をやった結果、次にやることになったのがストーンとジャック・ドーシーがつくった「ツイッター」のアイデアです。
最初は小さなアイデアでしたが、試作を試みるうちに誰もが夢中になっていきました。
途中、ツイッターが注目され始めたころにフェイスブックから買収の提案もありましたが、ストーンたちはオファーを断りました。
■最初は朝食を知らせ合うためだけのツールだった
理由は、自分たちが始めたこのツイッターというサービスへの情熱は立ち上げ当時と変わっておらず、自分たちでこれをやり通したかったというものでした。
やがてストーンは、ツイッターの価値をこう評します。
「ジャックと僕が、朝食に何を食べたかを知らせるためにつくったツールがここまで来たのだ。ツイッターで働く社員に、自分たちのしている仕事はすごいんだとわざわざ言う必要はもうなかった(3)」
ストーンの場合、手がけていたポッドキャスティングサービスがアップル参戦により駆逐されうるという状況はあったものの、強力なライバルが登場しようがしまいが、すごいものをつくりたいなら、自分が夢中になれるだけの情熱は欠かせません。次に紹介するダニエル・エク(スポティファイ創業者)の話もそれを証明しています。
1、3『ツイッターで学んだいちばん大切なこと 共同創業者の「つぶやき」』(ビズ・ストーン著、石垣賀子訳、早川書房)
2 hack+marathon=新しい製品やソリューション構築のためにアイデアを出し合うイベント
■11歳の時には「ビル・ゲイツよりビッグになる」
もう1人、自分が好きなこと、やりたいことに忠実であったがゆえに大成功した人物がいます。「スポティファイ」創業者のダニエル・エクです。スウェーデンのストックホルムの近くで生まれたエクは、早くに父親と離婚した母親に女手一つで育てられました。
![2016年9月29日、都内で行われた記者会見で、スウェーデンの音楽ストリーミングサービス「Spotify」のCEO、ダニエル・エクがカメラマンにポーズ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/3/1200wm/img_23d10660a430a80394d576e7be9489af445879.jpg)
ビージーズやダイアナ・ロスが好きな母親の影響でエクもギターを弾き始め、やがてビートルズなども弾くようになったばかりか、ドラムやベース、ピアノやアコーディオンも習うようになり、地域のバンドを二つ掛け持ちするほどの音楽好きでした。
そんなエクが音楽と同じように興味を持ったのが、5歳の時に母親に買ってもらった中古のパソコンです。その後、母親が再婚した義父から新しいパソコンをプレゼントされたエクはさらに夢中になり、9歳の時には既にプログラミングを始め、11歳の時には「ビル・ゲイツよりビッグになる」と周囲に話す早熟な少年でした。
■音楽配信サービスで立ちはだかった巨大な壁
中学に進んだエクは既にコンピュータではナンバーワンの子どもとして知られていました。当時、エクは「自分たちは世界一になるんだと思っていた」といいますが、同時に「僕はミュージシャンとしては一番になれなかった。その後、優秀なプログラマーにはなれるかもしれないと思ったけど、結局それも無理だと分かったんです(4)」と、自らの限界も悟ったといいます。
音楽とテクノロジーが大好きで、才能もあったものの、それでは念願の世界一にはなれそうもありませんでした。しかし幸い、エクにはアイデアを出し、プロジェクトを率いて結果を出す「起業家としての才能」がありました。
エクはプログラマーとしてはトップではないものの、人にプログラミングを教え、人をまとめて何かをつくるという自分の才能に気づきます。「起業家」としての才能に気づいたことがその後の躍進につながります。
以来、いくつかのサービスで実績をあげますが、最も自信のある音楽配信サービスには当時アップルという巨大なライバルがいました。「スポティファイ」が誕生した時、音楽配信市場はアップルの一人勝ち状態でした。そう、相手は前述のビズ・ストーンの前にも立ちはだかったスティーブ・ジョブズです。
■「音楽をただでくれてやる」サービスの勝機
ライバルがスティーブ・ジョブズとなったら、あなたはどうするでしょうか? ジョブズでなくとも、圧倒的強者が目の前に立ちはだかっていたら、迂回(うかい)したくならないでしょうか?
大手レコード会社のトップを口説き、大物ミュージシャンを説得して、「盗み」が横行していた音楽配信の世界を正し、デジタル音楽の時代を切り開いたのは間違いなくジョブズの功績でした。
普通はこれほど強力なライバルがいれば、市場への参入を諦めるか、アップルのいる北米を避けて自分たちが得意とするヨーロッパでの事業に専念するものです。しかしエクは、事業を成功させるためには、アメリカで成功をおさめ、ストリーミング事業で世界一にならなければならないと考え、アメリカへの進出を決意します。
それは、アップルと戦うことを意味していました。ジョブズから見るとスポティファイのやり方は「音楽をただでくれてやる」許しがたいサービスでしたが、エクは、食べていくために音楽と他の仕事をかけもちしなくてはならない状況にある友人のミュージシャンたちを助けるために、アップルとは別のやり方で勝負を挑みます。
■やりたくない仕事で世界一になった人はいない
ヨーロッパでの実績を積んだエクは2009年、ナップスターによって音楽配信の扉を開き、かつて同じ「ハッカーサークル」に属していたショーン・パーカー(フェイスブック初代CEO)と面談、そこからピーター・ティール(ペイパル創業者)やマーク・ザッカーバーグ(フェイスブック創業者)へと人脈を広げていきます。
![桑原晃弥著『世界最高峰CEO 43人の問題解決術』(KADOKAWA)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/2/1200wm/img_72bc7f125afe530a88091fef093546cb292479.jpg)
こうしてジョブズを除く多くのIT起業家と面識をもったエクは、2011年、ついに大手レコード会社との契約に成功、アメリカへの進出を実現します。スポティファイは今や、音楽配信ではアップルを抜き1位になっています(アップルとの熾烈(しれつ)な戦いはその後長きにわたって続きます)。
「有望そうに見える」けれど自分が夢中になれない仕事に時間をかけたり、強力なライバルを恐れ二番手三番手に甘んじたりしていては、1位になれないどころか、やがては時間切れが訪れ、居場所を失ってしまいます。あなたのやりたかったこと、叶えたかった夢は人のものになってしまうのです。夢中になれない仕事で世界一になった人はおそらくいません。
「やりたいことだけでは生きていけない」とはよく言われることですが、大きな成功を手にしたいなら、やりたいことに取り組むのは最重要条件と言えるでしょう。
4「クーリエ・ジャポン」2018年9月20日
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経済・経営ジャーナリスト
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問として、トヨタ式の実践現場や、大野耐一氏直系のトヨタマンを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導した。著書に、『スティーブ・ジョブズ名語録』(PHP研究所)、『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』『トヨタ式5W1H思考』(以上、KADOKAWA)などがある。
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(経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥)
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