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佐藤優「アメリカにウクライナを勝たせるつもりはない」巨額の資金をはたいて支援を続ける"真の目的"

プレジデントオンライン / 2023年6月11日 12時15分

G7広島サミット後、会見を行うバイデン大統領=2023年5月21日 - 写真=AFP/時事通信フォト

アメリカは巨額の資金をはたいてウクライナに兵器を送っている。その目的は何か。作家の佐藤優さんは「アメリカは今回の戦争が“使える”ことに気づいた。ウクライナに戦わせることで、ロシアを弱体化できるからだ」という――。

※本稿は、手嶋龍一・佐藤優『ウクライナ戦争の嘘 米露中北の打算・野望・本音』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

■アメリカはウクライナを勝たせるつもりはない

【手嶋】ウクライナのゼレンスキー大統領は、クリミア半島を含めたすべての領土の奪還を主張し、バイデン大統領もそれを支持すると述べています。たとえ和平交渉が持たれたとしても、両者の主張は大きく隔たっています。

【佐藤】そう、ゼレンスキー大統領は、4州のロシアへの併合を認めた形で戦争を終結させたりしたら、自分が縛り首になりますから必死です。ただ、アメリカはウクライナが望むような勝利のシナリオは描いていない、とみるべきです。

【手嶋】ウクライナで戦いが起き、国際秩序にかくまで甚大なダメージを与えてきた責任の一端は、超大国アメリカにあると言っていい。かつては、口先でウクライナのNATO加盟を支持すると言っていながら実際には何もせず、ウクライナのすべての領土の奪還がいかに困難かを知りながら、これまた口先で都合のいいことを繰り返す。この点でアメリカは、歴史の審判を受けなければならないと思います。

■「第三次世界大戦を招かぬように」という制約条件

【佐藤】ここは、ちょっとだけロシアの気持ちになって考えれば分かることです。今回の4州のみならず、クリミアまで奪い返されるのを、ロシアは黙って見ていられるのか。答えは、「断じて許すまじ」なのです。西側の支援を受けたウクライナが、クリミアに攻勢をかけてきた場合には、戦いのフェーズはさらに上がります。

現実問題として、ウクライナ軍単独でクリミア半島に攻め入ることは考えられません。その場合には、アメリカ軍を中心とするNATO軍による直接介入ということになるでしょう。事実上の米ロ衝突ですから、そのまま第三次世界大戦に発展してしまう公算が大きくなります。

【手嶋】“新クリミア戦争”で、ロシアが劣勢を強いられれば、プーチン大統領は、核のボタンに手をかけるかもしれません。プーチンの内在論理に思いをいたして考えれば、核戦争の悪夢が現実になる恐れがあるのです。

【佐藤】その可能性は十分にあるとみていい。当然、アメリカはそれを理解しています。ロシアのような国はけしからん、アメリカがつくりあげた国際秩序を乱すことができないようにしてやりたい。これが彼らの本音でしょう。ただ、そこには「第三次世界大戦を招かぬように」という制約条件が付く。つまり、戦域はあくまでウクライナにとどめておかなくてはならない。

■今回の戦争が「使える」と気づいたアメリカ

【手嶋】佐藤さんが指摘した「アメリカはウクライナが望むような勝利のシナリオは描いていない」というのはまさしくそれなのですね。ウクライナを支援はするが、本気で勝たせてしまえば、新たな世界大戦を招いて、アメリカの命取りになりかねない。だから、ゼレンスキーが望むようなシナリオを認めるつもりはない――。非情ながら、合理的な思考です。

【佐藤】別な表現でいえば、ウクライナを勝たせることは構造的にできない、ということです。

【手嶋】一方で、世界大戦のリスクは避けたいと考えながら、巨額の資金をはたいて武器の供与はウクライナに続けている。そんなアメリカの胸の内をどう読みますか。

【佐藤】ワシントンの視点にたてば、この戦いはウクライナとロシアの間接戦争でした。それがいまや、ウクライナ・西側連合対ロシアの直接対決に近づいています。そのプロセスで、アメリカは、今回の戦争が「使える」ことに気づいたのだと思います。ウクライナでの戦争が長引けば長引くほど、ロシアは疲弊していくと考えるようになったのです。

光夕日の砂漠環境での丘の上に立っている 3 つの完全装備と武装兵士の分隊
写真=iStock.com/gorodenkoff
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gorodenkoff

【手嶋】超大国アメリカとしては、民主主義と相いれない価値観を持つ「プーチンのロシア」と直に戦争を構えなくても、ロシアの国力をおおいに殺(そ)ぐことができると思い至ったということですね。

■ウクライナに戦わせることで「ロシアの弱体化」を狙う

【佐藤】しかも、アメリカが現地に送っているのは兵器のみで、自らの将兵の血を流すことはありません。戦争で死ぬのは、両軍兵士とウクライナの民間人だけです。誤解を恐れずに言えば、アメリカは、ウクライナをけしかけて戦わせることで、「ならず者」ロシアの弱体化を実現することができるわけです。

フランスの歴史人口学者であるエマニュエル・トッドは、「ロシアに対する経済制裁によって、ヨーロッパ経済、とくにドイツ経済が麻痺していくことについても、ひそやかに満足感を味わっていることでしょう」と『第三次世界大戦はもう始まっている』(著・エマニュエル・トッド、翻訳・大野舞、2022年、文春新書)のなかで指摘しています。ドイツはウクライナ支援のための軍事支出を増やさなければならないのみならず、ロシアから得られなくなった天然ガスに相当するLNG(液化天然ガス)をアメリカから高い値段で買わなくてはなりません。この戦争によってドイツが弱体化するというトッドの指摘は鋭いと思います。

■「アメリカにより管理された戦争」

手嶋龍一・佐藤優『ウクライナ戦争の嘘 米露中北の打算・野望・本音』(中公新書ラクレ)
手嶋龍一・佐藤優『ウクライナ戦争の嘘 米露中北の打算・野望・本音』(中公新書ラクレ)

【手嶋】佐藤さんはモスクワで、私はワシントンで、永きにわたった東西冷戦の終焉を見届けました。あのとき、超大国アメリカは、民主主義が勝利して自由の理念に世界が染めあげられていくというユーフォリアに包まれていました。しかし、いまやプーチンのロシアが力で隣国の領土を奪い、ドイツもその引力に引き寄せられているように見えた。そんな“プーチンのロシア”をイラクやアフガンでの戦争のようにアメリカ兵の血を流さずに弱体化させることができる、そう考えている。

【佐藤】ですから私は、この戦争を、「アメリカにより管理された戦争」と呼んでいます。供与する武器は、手を替え品を替え、NATO諸国もコントロールしながら、秩序に逆らったロシアの侵攻を食い止める。しかし、ウクライナに第三次世界大戦のレッドラインは、絶対に越えさせない。繰り返しになりますが、この戦争におけるアメリカの真の目的は、ロシアの弱体化です。ウクライナは、その道具に過ぎません。

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手嶋 龍一(てしま・りゅういち)
外交ジャーナリスト、作家
9・11テロにNHKワシントン支局長として遭遇。ハーバード大学国際問題研究所フェローを経て2005年にNHKより独立し、インテリジェンス小説『ウルトラ・ダラー』を発表、ベストセラーに。『汝の名はスパイ、裏切り者、あるいは詐欺師』のほか、佐藤優氏との共著『インテリジェンスの最強テキスト』など著書多数。

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佐藤 優(さとう・まさる)
作家・元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『獄中記』(岩波書店)、『交渉術』(文藝春秋)など著書多数。

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(外交ジャーナリスト、作家 手嶋 龍一、作家・元外務省主任分析官 佐藤 優)

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