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だから「日経平均はバブル期以来の高値」に…海外投資家が日本株に殺到している本当の理由

プレジデントオンライン / 2023年5月29日 9時15分

3万800円台の日経平均株価を示すモニター=2023年5月19日午前、東京都中央区 - 写真=時事通信フォト

■海外投資家が買いを演出している

5月22日、日経平均株価は前週末比278円47銭(0.90%)高い3万1086円82銭で取引を終了した。1990年7月26日の3万1369円75銭以来、約33年ぶりの高値だ。ここへきて株価上昇を演出しているのは海外投資家の買いだ。

海外投資家が日本株を見直す背景には、いくつかの要因がある。まず、日本株がこれまで安値に放置されていたことだ。少なくとも過去数年間、海外投資家は日本株にほとんど目もくれなかった。そのため、日本株は安値に放置されてきた。次に日銀による異次元の金融緩和が当面続くとみられることだ。金融緩和策は株式市場には重要なプラス材料だ。

また、台湾問題をはじめ地政学リスクも高まっている。とりあえず、日本には差し当たった地政学的リスクは見られない。さらに3月末、東京証券取引所が、株価純資産倍率(PBR)が1を下回る上場企業に改善策を開示し、実行するよう求めたことも大きい。

今後の日本株の展開は、なんといっても海外投資家の行動につきる。短期目線で取引する投資家は、一定の利益が発生すれば保有する日本株を売る。一本調子で相場が上昇しつづける展開は考えにくい。中・長期的に海外投資家が日本株を買うためには、わが国企業の成長戦略が問われる。

一部で成長に向けた取り組みを強化する企業はあるものの、今のところ、わが国経済全体でみるとそうした企業は一部にとどまる。海外投資家にとって、中長期的にわが国の企業業績が拡大し株価が上昇する展開は描きづらいだろう。

■欧米の金融機関の破綻を契機に買いが加速

4月上旬以降から5月中旬まで、海外の投資家はわが国の大型株を積極的に購入した。3月末から5月22日までの間、日経平均株価は10.9%、TOPIXは8.6%上昇した。世界全体の株式市場の平均的な上昇率は2%だった〔MSCIオールカントリーインデックス(米ドル換算)の騰落率〕。かなりの資金が日本株式市場に振り向けられたことが窺(うかが)える。

日本取引所グループが公表する、“東証プライム”市場の投資部門別株式売買状況によると、3月27日の週以降、東証プライム市場において海外投資家の買いは急速に増加した。3月10日、米国ではシリコンバレーバンクが破綻し、19日にはクレディスイスも救済買収された。米欧金融機関の経営不安定化懸念を背景に世界的に株価は大きく下げた。その局面で一部の海外投資家は日本株に買いを入れ始めた。

■“買うから上がる、上がるから買う”流れが鮮明に

4月10日の週、海外投資家による買い越し額は1兆487億9499億円に膨れ上がった。さらに大きかったのは、4月11日、バフェット氏が5大総合商社株を追加で取得し、他の日本企業への投資も前向きに検討していると報じられたことだ。東京都内でインタビューは行われた。バフェット氏が率いる投資会社「バークシャー・ハサウェイ」が円建て社債を発行することも伝わった。

バフェット氏が日本を訪問するのは珍しい。わざわざ日本に赴いて総合商社トップと面会するからには、見逃せない投資のチャンスがありそうだ。“サムライ債”を発行するということは、日本の超緩和的な金融環境は続くと考えてよい。

そうした見方の増加とともに日本株を買う海外投資家は急増し、株価上昇の勢いは強まった。5月に入って以降は、東証プライム市場の一日当たりの売買代金は3兆円の大台を上回る日も増えた。海外投資家の買いにつられて国内の機関投資家や個人投資家も日本株を買った。

海外投資家による買いを起点に、日本株を“買うから上がる、上がるから買う”という相場の流れは鮮明化した。それは、行動ファイナンス理論にある“バンドワゴン効果(商店街を練り歩くチンドン屋のにぎやかな雰囲気に思わずついていく心理)”が高まった典型的なケースといえるだろう。

■海外投資家が日本を狙う“最大の要素”

海外投資家が日本株を買った最大の要素は、割安さにある。株価純資産倍率(PBR)から確認できる。PBRは株価が、1株当たりの解散価値(バランスシートの資産総額から負債総額を差し引いた純資産の価額)の何倍かを示す。4月末、世界の平均的なPBRは2.63倍〔MSCIオールカントリーインデックス(米ドル換算)〕、日経平均株価は1.23倍だった。

バフェット氏が購入した一部総合商社のように、PBRが1を下回る銘柄も多い。株価が1株当たり純利益の何倍になっているかを示す“株価収益率(PER)”でみても日本株には割安感がある。長期のデータに基づくと、日米などでPERは14~17倍が適正な水準といわれている。

5月19日、日経平均株価のPERは14.4倍。同日、米国のS&P500インデックスは18.82倍、ナスダック総合指数の上位100銘柄で構成されるナスダック100インデックスでは26.62倍だ。

わが国の超緩和的な金融政策も続くだろう。4月の日銀決定会合の『主な意見』によると“イールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)の運用を見直す必要はない”との見解が示された。短期のうちにYCCの追加修正、撤廃が実施される可能性は後退したと考えられる。

■世界的な地政学リスクの高まり、東証の改革号令…

また、日銀は1年から1年半程度の時間をかけて、過去25年間の金融緩和を多角的にレビューしている。ある意味それは、今後の世界的な後退リスクに備えるための時間稼ぎに見える部分もある。

世界的な地政学リスクの高まりも大きい。台湾問題の緊迫化に加え、ウクライナ紛争がどう推移するかは見通しづらい。北朝鮮によるミサイル発射など朝鮮半島情勢も不安定だ。一方、わが国は米国との関係を基礎に安全保障体制を強化している。海外投資家にとって、地政学リスクから離れて資金を運用するためにも日本株の有用性は高いだろう。

さらに、東証は『資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について』と題した資料を公表した。それによると、プライム市場の約半数、スタンダード市場の約6割の企業でROE(自己資本利益率)8%未満、PBR1倍割れが続いている。東証はそうした企業に成長に向けた計画を早期に策定、開示し、投資家と積極的に対話するよう求めている。国内企業による改革機運は高まる可能性がある。これらの要素を背景に、海外投資家は日本株を積極的に買い進めた。

画面上に表示された株式チャート
写真=iStock.com/da-kuk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/da-kuk

■今後の株価は海外投資家次第で乱高下も

今後、日本株の推移は海外投資家に大きく左右される。投資家が想定する投資の期間はさまざまだ。長期で保有することを目的に株を買う人もいれば、短期目線で取引を行う者も多い。短期目線で日本株を買った海外勢は、株価が上昇して一定の利益が発生すると株を売るだろう。海外投資家から利益確定の売りが出れば、日本株上昇のトレンドはいったん終焉(しゅうえん)を迎える可能性が高い。そうなると、日本株の上値は抑えられやすくなる。

また、株価が上昇して割安感が薄れれば、海外からの買いは減少するはずだ。4月下旬以降、徐々に海外投資家による購入金額は減少している。5月23日の後場、日経平均株価は下げた。高値を警戒する海外投資家は増えていると考えられる。

中長期の目線で日本株の展開を考えると、重要なポイントはやはり日本企業の成長性だ。日本企業がいかに成長戦略を描き、実行し、業績拡大期待が高まるか否かだ。2022年度の決算を確認すると、半導体関連、総合商社など収益分野を拡大している企業は徐々に増えている。

■日本株を買い増し続ける要素は見当たらない

通信分野では、量子コンピューティング技術の研究開発も強化されている。そうした中長期的な成長の兆しは出ているものの、全体として成長期待が大きく高まっているとは言いづらい。むしろ、新卒一括採用、年功序列、終身雇用など旧来の雇用慣行が続く企業は、旧態依然としたビジネスモデルから脱却できない企業も多い。

バブル崩壊後のわが国経済を下支えした自動車分野では、世界全体で加速するEVシフトへの遅れが懸念される。経済全体で考えると、多くの企業が積極的に成長戦略を策定し、半導体、バイオ医薬品、人工知能(AI)やインターネット・オブ・シングス(IoT)など成長期待の高い分野に進出する展開は想定しづらい。

世界全体で、わが国の電子部品メーカーや工作機械メーカーの業績拡大を支えたスマートフォンの需要も減少している。中長期の視点で、海外投資家が日本株を買い増し続ける可能性が高まっているとは考えにくい。いずれの段階で、株価上昇に伴い利益を確定するために日本株を手放す投資家は増え、国内株式市場の不安定感も高まる可能性が高いと予想される。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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