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なぜ新電力の値上げは大手電力より激しいのか…「電気代が安くなる」という甘い言葉のウラにある真実

プレジデントオンライン / 2023年5月30日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

電気料金を安く抑えるにはどうすればいいか。ファイナンシャルプランナーの内藤眞弓さんは「大手電力だけでなく、新電力の自由料金プランも、燃料費調整額の上昇で高騰している。料金プランの勧誘を鵜呑みにせず、自分で選択肢を探し、比較することが重要だ」という――。

■電気料金値上げ、今秋以降はさらに打撃

6月1日から電力大手7社が家庭向け電気料金を大幅に値上げします。報道によると、平均値上げ幅は、最小の東電でも15.3%、北海道20.1%、東北21.9%、四国23%、中国26.1%と続き、沖縄は36.6%、北陸は39.7%にもなる見通しです(中部、関西、九州は値上げなし)。

近年、ロシアによるウクライナ侵攻といった世界情勢や円安等によるエネルギー価格の高騰が続いています。暮らしへの悪影響を緩和するため、国が電力・都市ガスの小売業者に補助金を交付し、それを原資にして使用量に応じた値引きを行う制度がスタートしています。

補助を受けられるのは、2023年1月使用分(2月検針分)から同年9月使用分(10月検針分)までとなっており、その後については分かっていません。プロパンガス(LPガス)を使用している家庭は対象外でしたが、何らかの負担軽減策が行われる模様です。

しかし、この6月からの値上げで、国の補助をもってしても負担増は免れず、今秋以降はさらに家計に打撃を受けることが予想されます。今回は、変動の激しい電気・ガス料金を安く抑えるポイントについて解説したいと思います。

■大手電力より新電力のほうが高くなっている

日本では、電力の小売りが2016年4月から、都市ガスの小売りが2017年4月から全面自由化され、消費者は電力会社やガス会社が提供する料金メニューを自由に選ぶことができます。

自由化によって競争が働き、料金が安くなることが期待されたのですが、今回のエネルギー価格の高騰により、思いがけない事態に直面する人が出てきました。大手電力会社の規制料金プランよりも、新電力会社(※1)の自由料金プランのほうが大幅に高くなってしまったのです。

事例を一つ紹介しましょう。

都内の賃貸マンション在住のAさん(30代女性)は、不動産管理会社が指定した新電力と契約していました。節約志向であまりエアコンを使わないため、電気料金は月平均3200円(平均使用電力量は約80kWh)、夏場でも4500円程度に抑えられていました。しかし、2022年秋から請求金額がジワジワと高くなり、2023年1月には6000円を超えました。使用電気量はこれまでと同様、80kWh程度だったにもかかわらずです。

新電力会社は値上がりの理由を「燃料費調整額の上昇」と説明しました。東京電力に切り替えたAさんの電気料金は、国の負担軽減策もあって、現在の料金は2500円程度に収まっています。

なぜこのようなことが起きたのでしょうか。

※1 電力自由化によって新たに参入してきた、大手電力会社以外の電力会社のこと

■自由料金は燃料費調整額に大きく左右される

月々の電気料金は、「基本料金」「電力量料金」「燃料費調整額」「再生可能エネルギー発電促進賦課金」を合計した金額です(図表1)。

【図表1】電気料金の基本的仕組み

「燃料費調整額」を計算するための「燃料費調整単価」は、電力会社が発電に使用する原油・LNG(液化天然ガス)などの価格変動や為替レートを加味して決定します。自由料金プランが高騰した背景には、この燃料費調整額の上昇があります。

燃料費調整額は毎月変動し、燃料費が基準価格よりも低ければ電気料金から減算、高ければ加算されます。たとえ価格が上昇しても、規制料金であれば上限が設けられていますが、自由料金だと上限を設けていないとか、新電力の中には独自の計算方法をするところもあり、変動幅が異なることがあるのです。

■規制料金の値上げには「お墨付き」が必要

規制料金とは、電力の小売りが自由化される以前から、東京電力や関西電力など、大手電力会社10社が提供していたメニューのことで、いずれ廃止される予定ですが、経過措置として現在も提供されています。規制料金の場合、燃料調整単価の改定は電力会社の一存で行うことができないので、上限を超過した分は電力会社が負担していました。

しかし、このままでは事業の継続が困難になることから、大手電力会社のうち7社が引き上げを申請し、政府は5月16日開催の「物価問題に関する関係閣僚会議」において、値上げ幅を確定する査定方針案を了承しました。これによって、家庭向けの規制料金が6月使用分から上がることになり、大幅な値上げとなりました。

消費者が料金メニューを自由に選べるようになったと言いましたが、住んでいる地域によって一定の制約を受けることは避けられません。電気とガスに分けて、それぞれの事情を見ていきます。

電力エリアは日本全国で10に分割されており、大手電力会社10社の送配電エリアと重なります。自由化後に参入した新電力は、この送電網を利用して電気を各家庭に供給しています。送電網が違えば利用する発電所が異なり、それに加えて新電力の場合は、送電網の託送料金による違いもあるため、電力エリアによって電気代が異なるのです。

■注目するのは「基本料金」と「電力量料金」

既に述べたように、月々の電気料金は、「基本料金」「電力量料金」「燃料費調整額」「再生可能エネルギー発電促進賦課金」を合計した金額です。基本料金は電気契約に対して発生するもので、電力量料金は電気を使った分に対して発生するものです。

再生可能エネルギー発電促進賦課金は、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギー発電の普及のために用いられる料金で、料金単価は国が決めており、電力会社による差はありません。1年に1回見直されますが、ずっと値上がり傾向が続いています。

今後も燃料費調整額や再生可能エネルギー発電促進賦課金が上がっていくことが避けられないなら、基本料金と電力量料金に注目して、自分が住んでいるエリアで、安く利用できる電力会社を探すのが現実的です。これについては後述します。

コンロの火
写真=iStock.com/Sjo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sjo

■LPガス料金を安くすることは可能か

次は、ガスについて見ていきます。自由化以来、さまざまな企業が都市ガス市場に参入しましたが、都市ガスの供給区域は東京や大阪などの都市部エリアで、国土の6%に過ぎず(販売量は全体の80%以上)、郊外エリアや地方といった供給区域外ではLPガスを利用することになります。

実は、2017年4月に自由化されたのは都市ガスで、LPガスはもともと自由市場です。ところが、LPガスは各家庭にボンベを運ぶための人件費やガソリン代などの輸送費がかかることから、都市ガスより料金が高くなる傾向にあります。加えて、業界内であまり競争が働かず、談合体質であるためとの指摘もあります。

しかし、いくら都市ガスが安いからといって、供給区域でなければ変更はできません。たとえ供給区域であっても、自宅まで都市ガスの導管を引き込めるかどうかという問題があります。

工事にかかる費用は平均10万~15万円程度で、導管までの距離によって異なります。それまで使っていたガス機器を都市ガス対応のものに変える必要もあります。これらの費用をすべて見積もったうえで、変更するかどうかを判断しなくてはなりません。

■安いLPガス会社を自分で探すのも一手

都市ガスにこだわらず、LPガス会社(販売店)を変えることも選択肢の一つです。LPガスの小売業者は全国で約2万社あり、もともと自由市場ですから、安い料金メニューを提供している会社があるかもしれません。

HP等で料金を公表している会社は少ないので、住んでいる地域の販売店を探して複数社から見積もりを取って比較してみてはどうでしょうか。切り替えコストをかけずに節約できるかもしれません。地域ごとに料金比較ができるサービスをインターネットで展開している会社もあります(※2)

ただし賃貸の場合、大家さんや管理会社からガス会社を変更する許可を得なければ変更はできません。賃貸の多くは、全居住者が同じガスを共有しており、建物の構造上、世帯ごとに自由にガス会社を選ぶことは難しいと言えます。

※2 「ガス屋の窓口」

■家の設備、ライフスタイルに合ったプラン探し

では、電力と都市ガスの自由化の現状を見ていきます。

電力小売りには、大手電力会社傘下の会社、東京ガスをはじめとする都市ガス会社、LPガス会社、石油会社、通信会社、鉄道会社などのほか、太陽光、風力、水力、地熱などの再生可能エネルギーを中心に発電を行う事業者、電気の地産地消を目指す自治体が運営する事業者、消費者運動として取り組む生協など、多様な事業者が参入を果たしています。

一方、都市ガス事業は東京ガス・大阪ガス・東邦ガス等の既存のガス会社に加え、東京電力などの大手電力会社をはじめ、石油会社、商社、鉄鋼会社など、原料をすでに確保している業種からの参入が多くなっています。また、電力自由化で新たに電力の小売りに参入した事業者が、新ガス会社としてガスの販売を始めるケースもあります。

気になるのが、わが家にとってのお得なプランをどう選ぶかということです。

まず、お住まいの地域で利用できる会社の中から、それぞれのライフスタイルに合わせたお得なプランがないか、探してみます。

たとえば、オール電化住宅であれば「夜間や土日祝日など、電気の需要が少ない時間帯が割安になるプラン」、家事をする時間帯を選べるのであれば「基本料金0円で30分ごとに料金単価が変わるプラン」、昼間はほとんど外出しているなら「夜間の電気使用量の割合が高くなるほどお得なプラン」などです。また、ケーブルテレビやインターネットなどとのセットで割引になるプランもあります。

■「電気料金が安くなる」という甘言は要警戒

都市ガスについては、電気料金ほど特徴のあるプランは少ないですが、現在契約しているガス会社の料金実績をもとに、変更後の料金をシミュレーションできるサイトが複数ありますので、試してみてはいかがでしょうか。また、電気とガスをセットで契約すると安くなるプランがありますので、検討してみてください。

ただし、契約の切り替えを検討する際には、料金プランだけでなく、料金の算定方法や契約期間、契約解除の違約金の有無にも目配りしましょう。「毎月の電気料金が安くなると説明されたのに、逆に高くなった」というケースや、知らない間に有料のオプションサービスが追加されていたケースもあります。大手電力やガス会社をかたって、契約の切り替えを勧誘するトラブルも増えています(※3)。迂闊に検針票に記載された情報や住所、氏名などを伝えないようにしてください。

とにかく重要なのは、他人の勧めを鵜呑みにせず、自分で選択肢を探し、比較することです。最初に紹介したAさんの事例も、不動産会社が指定した新電力会社の料金プランを漫然と契約し続けたことが問題でした。請求書をチェックする習慣がなければ、今も値上がりに気づいていなかったかもしれません。

電力会社は、集合住宅か戸建てか、持ち家か賃貸かにかかわらず、自由に選べるのが基本ですが、管理組合や大家さんが電力会社と「高圧一括受電」の契約を結んでいる集合住宅の場合は、個別に電力会社を選んで契約することができないので注意が必要です。

※3 独立行政法人国民生活センター「電気代が安くなる⁉ 電力契約の訪問販売トラブル」

エコのための省電力化
写真=iStock.com/show999
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/show999

■「電気代を食う大型家電」の節電のヒント

お得なプランを選ぶだけでなく、日常的な使い方を見直して節電につなげることも大切です。たとえば、夏はエアコンの室内温度を26度から2度上げると、1.6%~5.4%の節電効果があると言われます。エアコンの目詰まりしたフィルターを清掃することで0.6%~1.9%の節電につながります。

冷蔵庫の設定温度を季節に応じた適切な水準にし、食品を詰め込みすぎないようにすることで1.2%~1.8%の節電効果が得られ、冷蔵庫と壁との間に適切な間隔を空けておくことも省エネにつながります。

経済産業省「資源エネルギー庁」HPでは、このような節電や省エネのヒントが示されています(※4)。実際にやってみたら1年前の同月比で電気使用量を25%カットできたという人もいます。ライフスタイルに合ったプランの選択と節電行動の合わせ技で、何とかこの難局を乗り越えていきましょう。

※4「どうやったら節電できる? 明日からすぐに役立つ節電・省エネのヒント」

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内藤 眞弓(ないとう・まゆみ)
ファイナンシャルプランナー
1956年生まれ。博士(社会デザイン学)。大手生命保険会社勤務後、ファイナンシャルプランナー(FP)として独立。金融機関に属さない独立系FP会社「生活設計塾クルー」の創立メンバーで、現在は取締役として、一人ひとりの暮らしに根差したマネープラン、保障設計などの相談業務に携わる。『医療保険は入ってはいけない![新版]』(ダイヤモンド社)、『お金・仕事・家事の不安がなくなる共働き夫婦最強の教科書』(東洋経済新報社)など著書多数。

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(ファイナンシャルプランナー 内藤 眞弓)

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