「車が前年同月比で5万台多く売れている…」ついにやってきた景気回復の足音が聞こえる業界、聞こえない業界
プレジデントオンライン / 2023年5月28日 11時15分
■しばらくは回復基調の日本経済
日経平均株価も3万円台を回復し、日本経済に少し明るさが見えてきました。1~3月の実質GDPで年率1.6%と3四半期ぶりの成長でした。今後もしばらくは底堅さが期待できます。
景気回復にはいくつかの理由があります。ひとつはコロナの影響が和らぎ、日本人のみならずインバウンド観光客が急増していることです。もう一つの理由は賃上げが大企業中心に進みつつあることです。さらには、回復が遅れていた製造業に明るさが見えてきたことです。
世界経済には、米国の債務上限の問題、金融危機や解決の糸口が見えないウクライナ情勢、それに関連する欧州の物価高騰などがあり、今後、世界経済の減速が懸念されていますが、今のところ、日本経済はしばらくの間、回復という感じがします。
■インバウンドの増加と賃上げ
コロナが5類に移行し、多くの規制が消えつつあります。私も、コロナ前のように出張が増えてきました。毎週のように新幹線に乗っていますが、新幹線では外国人観光客が格段に増えていることが分かります。一車両の半分くらいが外国人の場合もあります。
また、東京の繁華街や地下鉄では、大きなスーツケースを引っ張っている外国人の姿をよく見かけるようになりました。インバウンド旅行客が戻ってきています。統計的には、ピークの2019年(年間で3188万人)のペースにはまだ達しておらず、2023年の4月では7割弱ということですが、今後も増加が予想されます。
それだけではありません。日本人の旅行客も多くなりました。全国旅行支援が一部では続いていることもありますが、コロナにより制限されていた旅行を再開する人たちも増えているのでしょう。
また、インフレがピークで4.1%まで達したことがあり、大企業を中心に賃上げが進みつつあります。図表1は全産業の一人当たりの給与の前年比の伸びを表したものです。このところ伸びが続いています。ただし、この数字はインフレ調整前の数字で、インフレを加味した実質賃金は12カ月連続でマイナスが続いています。
この先、インフレ率(現状3%程度)をカバーするかは微妙なところですが、大企業中心ではあるものの、賃上げがある程度進むことは、景気にはプラスに働くことは言うまでもありません。
景気指標でもそのことが確認できます。図表2の街角景気の数字をご覧ください。街角景気は景気ウォッチャー調査とも言われることがありますが、経済の最前線にいて景気に敏感な人たちに内閣府が各地で調査をしているものです。
景気に敏感な人たちとは、タクシー運転手さん、小売店の店頭にいる人、ホテルのフロントマンなどです。中小企業の経営者にも調査しているとのことです。変わったところでは、ハローワークの受付の人も対象ということです。
それらの人たちに景気が良くなっているかどうかを調査し、数字が「50」を超えていると「良くなっている」と答えた人のほうが多く、下回っていると「悪くなっている」というふうに答えた人が多いということです。
この数字を見ると、2022年の年初やその途中にはコロナの影響により、50を切って大きく落ち込んでいた時期もありましたが、秋には持ち直し、その後少し低下していました。それが、2023年の2月、3月には50を超えるところまで戻しています。経済の最前線にいる人たちには景気回復の足音が聞こえているのです。
図表2には自動車販売台数が出ています。2022年の1月以降の数字と2023年の1月以降の数字を比べると、月に5万台程度確実に伸びています。この2年の比較をすると、1月38万2000台(+5万2000台)、2月35万5000台(+7万2000台)、3月51万3000台(+5万9000台)、4月35万台(+5万台)となっています。4月のブランド別では、ダントツ1位はトヨタで11万台超、前年同月比の伸び率で圧倒的だったのがトヨタの高級車ブランド・レクサスで245%でした。
こうした自動車業界の好況の背景にあるのは、半導体不足が解消されたことと、国内の消費がコロナ明けということもあり、旺盛になってきているからです。コロナの時に積みあがった貯蓄が徐々に消費に回りつつあるからです。
■これから回復する製造業、好調の非製造業
図表3には日銀短観の数字も出ています。3月調査が最新の数字なので、少し時間が経っていることに注意が必要ですが、大企業製造業の数字が落ちているのが分かります。この調査は、景気の状態が「良い」と答えた人のパーセンテージから「悪い」と答えたパーセンテージを引いているものです。
大企業製造業は、もともとそれほど良くなかった数字が悪化しました。2022年の半ばからの数字が出ていますが、半導体不足や中国のゼロコロナ政策やその後の混乱の影響が出ています。ただ、表にはありませんが、鉱工業生産指数の動きを見ていると、年初1月に90.7で底を打って、3月には95.7まで戻しており、徐々にですが回復がうかがわれます。先に見た自動車販売の数字とも呼応しています。
一方、非製造業では、数値の改善が顕著です。日銀短観では「良い」、「悪い」の他に中間的な回答も認めているため、3月調査の「20」という数字はかなり良い数字です。飲食やホテルの回復が牽引しています。
今後は中国からの団体客の増加も予想されます。2022年の150円程度までの円安ではありませんが、現状の140円程度の為替水準も以前に比べれば、訪日外国人からすると「バーゲン」で、今後も訪日客は増えることが予想されます。
中小企業を含めた賃上げの状況は、正確な統計が出るまでにはしばらく時間がかかりそうですが、インフレもピークを過ぎ、2022年はピークで前年比49%まで上昇した輸入物価が直近で10%を切っていることなどを考えれば、インフレももうしばらくすればかなり収まるものと考えられます。賃上げと総合して考えれば、インフレ鎮静化は景気には良い影響を与えると考えられます。
■世界経済は不安材料山積
一方、冒頭にも述べたように世界経済には大きな不安材料があります。
まず米国です。米国では、現在は債務上限の引き上げ問題が大きくクローズアップされています。現状、名目GDPの125%程度の政府債務を持っていますが、野党・共和党が上限引き上げに強く反対しているのです。政治の駆け引きに使われています。
毎年のことなので、どこかで決着するとは思いますが、債券市場などに思わぬ余波が起こらないことを願うばかりです。
さらには、金融危機懸念がくすぶっています。急激な金利上昇などが原因で、シリコンバレーバンクの破綻に端を発した今回の金融不安ですが、中堅行が相次いで破綻し、大手行に買収させるなどして金融当局が抑え込みに躍起になっています。皆さんも覚えておられると思いますが、金融不安が欧州に飛び火し、スイス大手のクレディスイスが危機に陥り、同じく大手のUBSと統合することで何とか危機を回避しています。
今のところ日本の金融機関は大丈夫と思われますが、ネットで情報が行き交い、かつネットバンキングが進んだ現状では、いつ、どこで金融危機が起こるか分からない「21世紀型の金融危機」にも注意が必要で、その懸念も広がっています。
また、ウクライナ情勢に大きく関係して、欧州では物価の高騰が続いています。戦争の終結もなかなか見通せない中での欧州経済の先行きにも懸念材料は少なくありません。
世界の経済情勢には不安が大きく、日本経済もまだまだ予断を許さないところはありますが、しばらくは回復傾向でそれが長く続くことを心より期待しています。
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小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。
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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)
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