たった3日で1000万本が売れた…任天堂『ゼルダの伝説』最新作が世界中で大ブレイクした背景
プレジデントオンライン / 2023年6月24日 11時15分
■レビューサイトでは批判コメントがゼロの大絶賛
家庭用ゲーム機「Nintendo Switch」の最新ゲーム『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』が5月12日、リリースされた。すでに国内で大変な好評を博しているが、熱狂は海外にも猛烈な勢いで広がっている。
米フォーブス誌は、発売から3日間で世界累計販売本数が1000万本に達したと述べ、「ゼルダ史上最大の初速」になったとの記事を掲載した。
ゲーム作品の評価指標として知られる「メタスコア」は、5月21日時点で非常に高い96点を記録している。本作に寄せられた世界のメディア103媒体によるレビューを、米レビュー総合サイトのメタクリティックが集計したものだ。うち肯定評価が101件に対し、否定的評価は0件と、極めて評判が良い。
96点のスコアは、数あるゲーム作品のなかでも希有な高水準だ。プラットフォーム別集計で100件以上のレビュー評価が寄せられている超大型タイトルとしては、歴代3位の高得点となっている。これより上位には、シリーズ前作の『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』および、『スーパーマリオ オデッセイ』(ともに97点)が控えるのみだ。
大成功の要因は、高い自由度にあるようだ。想定を超える柔軟性で話題となった前作だが、本作ではその上をゆく選択肢の幅をユーザーに与えた。ふと思いついた無謀アイデアが、移動手段や攻撃手法として成立してしまう――。そんな驚きが、世界の多くのプレイヤーを魅了している。
■「自由度の高い冒険」に海外メディアも注目
本作でプレイヤーは、ハイラル王国の異変に立ち向かう勇者・リンクとなる。敵の集団を繰り返し倒しながらより上位の装備を入手し、異変の元凶である巨悪を砕くことが目的だ。その過程において、自分だけの発想力で戦闘を有利に運び、地形の難所を越え、行く手を阻むパズルと謎を解く――。その爽快感と興奮が世界のプレイヤーを虜にしている。
たとえば数多くのモンスターがひしめく敵陣に、正面から切り込んで剣を振るうだけが能ではない。英テレグラフ紙の記者は、剣で樹を切り倒して丸太を作り、そこにロケットを縛り付けて敵陣に撃ち込んで一網打尽にしたと語る。敵を散らせるのであれば、ほぼどんな手段でも認められる。
プレイヤー自身でさえ半信半疑だった荒唐無稽な戦術が、時として思いがけず見事なまでに炸裂する――。その爽快感こそが、本作の醍醐味(だいごみ)のひとつだ。
テレグラフ紙は、お仕着せの解法に留まらない柔軟なプレイが可能となっていることに感嘆し、「そう、『ティアーズ オブ ザ キングダム』は、創意と驚嘆に満ちた、並外れたタイトルなのだ」と評価している。総じて、あなたは英雄ですよ、と状況設定を「語る」ゲームが多いなか、知恵とひらめきを試す場が与えられたティアーズ オブ ザ キングダムは、まさに英雄だと「感じさせてくれる」ゲームになっているという。
■プロデューサーの青沼氏は「ズルは楽しいもの」と語る
大抵のゲームにおいて、開発側が想定しないアプローチは、ズルやチート(不正行為)とみなされることも少なくない。ところが本作は、開発側が用意した王道パターンだけを正とせず、プレイヤーたちのあらゆる創意工夫を受け付ける。それでもなお、ゲームバランスが崩壊しない堅牢さと懐の深さを備えている。
ヘドロをまとった敵を討つシーンでは、水の能力を持った仲間と共闘して泥を洗い落としても良いし、手持ちの剣に放水アイテムを合成して振るだけでも効果が得られる。1つの状況に対し、「これでないと前へ進めない」という縛りは、どんな場面でもほぼない。
ダンジョンに相当する「祠(ほこら)」の解き方も、アプローチは多様だ。純粋に謎解きと向き合うプレイヤーから、巧みな発想で壁を乗り越えるなどして駆け抜ける強者まで、十人十色のスタイルがソーシャルメディアを賑わせている。
『ゼルダの伝説』シリーズ総合プロデューサーを務める任天堂の青沼英二氏は、米ゲーム・インフォーマー誌のインタビューに応じ、「ズルは楽しいものです!」と語っている。開発姿勢として、意図的に“邪道な”クリア方法の余地を残したと氏は明かす。
青沼氏は続ける。「近道を見つけるのは、楽しいことです。苦労せずにすむのであれば、誰だって簡単な方法を探したい。本作にはそうした要素を残したかったんです」「たくさんのやり方を用意し、1つの謎解きに対して多くの答えがあって、そしてどれもが正解となり得る。そんな開発スタイルにたどり着けたことを、私は幸せに思います」
■34歳の英紙記者はゲームに熱中し、飛行機に乗り遅れそうになった
そんな青沼氏のアプローチが、海外のプレイヤーやゲーム批評家たちの心に響いたようだ。海外紙の記者からは、非常に前向きなコメントが多く発表されている。米ワシントン・ポスト紙は、多様な解法が存在する柔軟な謎解きに興奮し、「クリエイティブな天才になった気分にさせてくれる」「完璧に仕上がっている」と称える。
ニューヨーク・タイムズ紙は、アイテムの組み合わせで無限とも思えるほどの新たな効果と活用法が生まれるシステムを評価し、「創意工夫が報われるシステムになっている」と感心した様子だ。
ハイラル王国の随所に頭をひねる機会がちりばめられたことで、大人でも熱中できるタイトルとなったようだ。英ガーディアン紙の34歳記者は空港での空き時間にプレイしていたところ、想像以上に熱中。あわや搭乗の締め切り時刻に遅れそうになるほどのめり込んだという。
米評論メディアのスクリーン・ラントは、「その野心的なシステムが記憶に残るこのゲームでは、どんなプレイヤーであっても別の人と同じ体験をすることはない。まだ知れぬ可能性が呼び起こす、喜びと興奮を除いては」と語る。
さらに同記事は、「ティアーズ オブ ザ キングダムは記念すべき偉業であり、今後何年にもわたり繰り返し語り継がれることだろう」とも述べている。王国の伝承と古代文明の謎を扱う本作だが、作品自体がゲーム史に残る「伝説」のひとつになる可能性もありそうだ。
![シリーズ最新作『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/d/1200wm/img_5d7ac65abcc1428ee2338fd6fd2da64f270788.jpg)
■画面越しなのに思わず足がすくむ映像
本作のもうひとつの魅力は、段違いに広くなったフィールドだ。前作で主人公・リンクは、広大なハイラルの大地を徒歩や馬で駆け巡った。今作ではこれに加え、空に浮かぶ島々や暗く淀んだ広大な地底世界が展開。冒険の舞台は高さ方向へと広がる。
そもそも縦方向へフィールドを広げるに至った動機は、前作との差別化だったようだ。任天堂で本作のディレクターを務める藤林秀麿氏は、米テックメディアのワイヤード誌の取材に応じ、水平方向への冒険が主体だった前作から思い切った変化を付けたかったと語っている。
冒頭でリンクが目覚める「始まりの空島」では、遙か高所から大地を見下ろす空中遺跡の数々にしがみつき、ときに飛び移りながら探索を続ける。ゲームの世界とは分かっていながらも、Switchの小さな画面越しに思わず足がすくむような体験がプレイヤーを待っている。
無限とすら錯覚しそうなマップの広さに、ガーディアン紙の記者は胸を膨らませたようだ。「このゲームは一生終わらないような気がする。攻略したと思うたびに、新たな広がりが見えてくる」と語っている。
■12年前にひらめいたアイデアを実現させた
空からシームレスに地上に降り立つというアイデアは、本作ディレクターの藤林秀麿氏が、2011年発売の『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』開発時代にひらめいたという。青沼氏がゲーム・インフォーマー誌へのインタビューで語ったところによると、当時は技術的な限界で実現せず、空と地上はそれぞれ独立した別世界として扱われたようだ。
![画像=任天堂『ゼルダの伝説 スカイウォードソード HD』公式サイトより](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/b/1200wm/img_bbbed76cbc48cab675dd81aed2aea73b320178.jpg)
そしてついにSwitch上で本作が登場し、ロード画面を出さずに天空と地上を自由に行き来することが可能となった。青沼氏は語る。「宮本さん(任天堂代表取締役フェローの宮本茂氏)もおっしゃっていたと思うのですが、アイデアがあってそれを実現したいとき、たとえ上手くいかなかったとしても、諦めるということはないんです。ただただ適した機会が訪れるのを待つんです」
「これは私たち開発者すべてに言えることだと思うんですが、そういうアイデアは頭の片隅に残っていて、それを宿しながら仕事をこなしていく。それが積み重なって、来るべきチャンスが現れたとき、そのアイデアを実装することができるんです」
■開発者用の機能をユーザーに解放する大胆さ
縦への行動範囲を広げる新たなしくみとして、天井を突き抜け上へと移動する能力「トーレルーフ」が登場した。青沼氏は、米大手ゲームサイト「ポリゴン」のインタビューのなかで、その開発経緯を明かしている。
この能力はもともと、開発チームが用いていたデバッグ用の特殊機能だったという。開発チームは洞窟探検を終えると、デバッグ機能を使って地上に戻っていた。そこで藤森氏はひらめく。「それで、これはもしかしたら、ゲームの一部として使えるかもしれないと思ったんです」
ちょうどそのころ青沼氏は、洞窟探検を一通り終えたあと、来た道をただ引き返す作業の単調さを課題に感じていた。青沼氏が「戻るのは面倒くさいなあ」とこぼしたことから、作品の機能として正式に実装されるに至ったという。
これは、プレイヤーの行動に複数の選択肢を与えるという開発方針とも合致するものだった。その後、意図しない挙動でユーザーが行き詰まることのないよう細かな調整を重ね、新たな「能力」として提供したという。
小さな不快感を見逃さず改善を積み重ねた本作は、多くのプレイヤーの心を掴んだようだ。移動に多くの時間を費やす本作だが、不満はほぼ聞かれず、むしろどう移動しようかと頭を捻る喜びとして成立している。米ゲームサイトのニンテンドー・ライフは、「正直なところ、(空・陸・地底の)3つのマップをいくら行き来しようと飽きが来ない」と感想を述べる。
■プレイヤーたちの常識を打ち砕くから支持される
『ティアーズ オブ ザ キングダム』の好調な滑り出しは、2017年発売の前作『ブレス オブ ザ ワイルド』の人気を彷彿とする。同作も非常に自由度の高いオープンワールド・ゲームとして、ユーザーの常識を打ち砕いたことで広い支持を集めた。
前作の発売時はゼルダ人気とSwitch本体の供給不足が相まって、本体購入者のうち何割がブレス オブ ザ ワイルドを買ったかを示す「装着率」が、100%を超える異例の事態となっていた。フォーブス誌によると、ハード・ソフト共に発売初月を迎えた同年3月、本体約90万台に対し、同タイトルは約92万本が売れている。
このような人気を誇った前作だが、本作の壮大なスケールとプレイの自由度は、それを超越したとの呼び声も高い。大手ゲームサイトの米IGNは、新たなシステムとマップが「前作の魅力でもあった夢中にさせるような探索をさらに豊かなものにしている」と述べ、「未完成とはほど遠かったブレス オブ ザ ワイルドだが、ティアーズ オブ ザ キングダムはどういうわけか同作をまるで草案のように感じさせる」と例えている。
前作でハイラル王国に平和を取り戻したリンクだが、今回は再び王国に厄災の息吹が訪れると同時に、ゼルダ姫が失踪。不気味な噂も方々から聞こえるなか、王国の4つの地方で起きた異変の調査に乗り出し、漆黒に呑まれたハイラル城の奪還を試みる。
「ゼルダのアタリマエを見直す」をコンセプトに開発された前作に続き、今作もプレイヤーの発想力の限界に挑む濃厚な内容となっている。文字通り天井知らずのマップを舞台に、「ゲームだからこうすべき」「まさかこれはできないだろう」と無意識に信じている世界のプレイヤーのアタリマエを、心地よいほど鮮やかに塗り替えている。
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フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
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