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地域によっては新採用教員の大学偏差値が50を切る…日本が"教員の質低下"を避けられない構造的原因

プレジデントオンライン / 2023年6月14日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

教員の質を保つにはどうすればいいのか。教育改革実践家の藤原和博さんは「年齢構成の問題と、不人気職種になってしまったことで、教員の質低下は避けられない状況になっている。これは構造の問題だ」という――。

※本稿は、藤原和博『学校がウソくさい』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

■小学3年生は落ちこぼれになりやすい

中学で数学が「できない子」の中には、小学校の算数ですでに落ちこぼれてしまっている子が多い。

小学校では、「2個のリンゴと3個のイチゴではいくつになりますか?」と具体的にイメージできる算数から始まるが、3年生にもなると、「3分の2」というような分数が出てくるからだ。しかも「0.3」という小数も登場して、それらを足したり引いたりしなければならない。さらに「図形」も現れる。

つまり、小学校3年生で一気に、算数が抽象概念の世界に入るわけだ。

昔であれば、分数や小数が生活の中にも存在した。団塊世代の家庭ではきょうだいも多かったから、5人きょうだいにリンゴが3つしかなかったこともあっただろう。でも、今の豊かな社会では、2人きょうだいでも一人っ子が2人いるように育つから、1人にイチゴが2つ、リンゴが1つは与えられるのではなかろうか。つまり子どもにとっては、「3分の2」や「0.3」という事態が生活の中に存在しないから、なんのこっちゃというくらい意味不明なのだ。だから、算数で落ちこぼれやすい。

■算数で最も大事な時期に教えるのが“弱い教員”

さらに余計なこともバラしてしまうと、3年生の担任をしているのは、多くの学校では、ベテランの“できる”教員ではない。なぜなら、ベテランのできる教員は、スタートが大事ということで1、2年生の担任に配置されるか、仕上げが大事だからと5、6年生の担任に配されることが多いからだ。あなたがもし校長だったとしても、20人の現有勢力で学年担任を決めなければならない場合、おそらく最後に残った新採教員や指導力が強いわけではない教員を3、4年生に配することになる。

つまり、算数では、子どもの脳に抽象概念が形成できるかどうかというような最も大事な時期に、相対的には弱い教員が教えているのだ。現在、文科省が専科教員の小学校への配置を進めているが、小学校3年からの算数にこそ厚く張るべきだろう。

保護者は、学力が全体として図表1の右側に寄っている私立に我が子を入れさえすれば、この矛盾は解決されると思うかもしれない。しかし、観察されているところによれば、集団が「できない子」と「できる子」に分かれるのは集団の持つ癖のようなものらしく、「できる子」だけを取り出してクラスを編成した場合でも、その中でさらに2つの群れに分かれる。だから、できる集団に入って落ちこぼれてしまった子の劣等感は過剰になるという。

では、どのように教室運営を変えていけばいいのか。このフタコブラクダ化した児童生徒の学力分布を前提とした処方箋は、ICT(情報通信技術)の利用法も含めて、本書の第二部で詳しく述べる。

生徒の学力のフタコブラクダ化
出所=『学校がウソくさい』より

■大量採用の反動で30代、40代の中堅が不足している

現在も、教員の指導力は下がり、全学習活動に対する学校の支配力も下がり続けている。

理由を2つ述べる。

1つは、教員の年齢構成からくるものだ。一言で言えば、学習指導でも生活指導でも、ノウハウを熟知したベテランがいなくなる現実を指している。

図表2のように、自治体によっては4割を占めていた50代の教員が、2020年代中には現場から姿を消すからだ。

小学校教員の年齢構成の変化
出所=『学校がウソくさい』より

なぜ、教員の年齢構成がこんなふうに歪んだワイングラス型、というよりシャンパングラスに近く、上の厚みが過剰で真ん中がくびれてしまうのか。

原因は、採用の仕方である。50代以上、60代やその上の団塊世代にわたるかつての大量採用の反動で、現在の30代、40代を十分に採用できない時代があった。ゆえに50代の多くが退職する今、慌てて20代の教員、つまり大量の新卒を募集している状況なのだ。

人手が足りないなら中途採用で補充すればいいじゃないか、と指摘する人がいるかもしれない。だが、それができるのはビジネスパーソンの場合だ。教員の採用ではそうはいかない。30代、40代の仕事盛りの時期に、しかも成功している人の場合はとくに、別の職種から教職に転じることに経済的な魅力はない。仮に転職を考えたとしても、大学に入り直して教員免許を取ってまで学校現場を目指す志のある人材は少ない。

逆に、ビジネスの競争に敗れ、教員免許は学生のときに取っておいたから先生でもやるかと20代後半から教職を目指す人材はいるが、配置後に児童生徒にリスペクトされうるかどうかは、人間力次第だ。東京都は一時期中途採用に力を入れていたが、なかなか難しかったようだ。

■年齢層に断層があるとノウハウが共有されにくい

私企業でもそうだが、年齢層にこうした断層がある場合、ノウハウが共有されづらくなるのはよく知られた事実だ。ノウハウとは、研修会で学んだり、マニュアルに書けば伝承される、というものではない。一緒に学ぶ組織風土の中で、先輩から後輩に「ナナメの関係」で伝染・感染される性質のものである。自分のすぐ上に先輩がいればオン・ザ・ジョブ・トレーニングがなされ、英語の教授法も、いじめの対処法も引き継がれていく。

しかし断層がある場合は、容易には引き継がれない。だから、学習指導のノウハウはもちろんのこと、学校でのトラブルの解決についても、ますます難しくなっていく。

ちなみに、この世代間の断層のせいでノウハウが引き継がれなくなる現象は、警察組織でも同様に起きていた。20年も前に警視庁の中枢にいた人物から聞いたのだが、これからの捜査と検挙は、今日でいう警察のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化にかかっていると看破していた。その頃からだろうか、防犯カメラやNシステム(自動車ナンバー自動読取装置)の映像をつないでいく捜査や、スマホでの振る舞いを証拠に検挙されるケースが増えてきたように思う。

■小学校教員の倍率は「12~13倍→2倍」に低下

ベテランの教員が辞めていく一方で、新卒採用者が増え、教育現場が若返るのは一見、良いことのように見える。もちろん、小学校などでは一緒に走り回って遊んでくれる若手の教員は人気がある。エネルギーレベルが高いから、参観日に行っても教室全体に活発なムードが漂っているかもしれない。

しかしその一方で静かに進行しているのは、応募採用倍率の低下による“質の低下”なのだ。

教員の指導力が下がる理由の2つ目がこれだ。人気職種に優秀な人材が集まり、不人気な職種のレベルが次第に落ちていくのは、いつの世も変わらない。

一時期、小学校教員であれば12~13倍あったものが、今や東京都では2倍程度になってしまった。要するに、目の前に2人の応募者がいたら、どちらかを採用しなければいけないのだ。リクルート出身者として私企業の常識を言えば、応募採用倍率が7倍を切ったら、質が低下するとされていた。10人採用するなら70人、100人採用するなら700人、東京都のように2000~4000人規模の採用をするなら2万人近い応募者が必要だということだ(実際には応募者7911人、受験倍率2.1倍で、5年前より半減している/東京都教育委員会の発表資料より)。

出所=『学校がウソくさい』より

■この10年で教員は不人気職種になってしまった

教員という職業に人気があればいいのだが、この10年でその大変さがことごとく周知され、不人気の職種になってしまった。

小学生に聞くと、将来のイメージとして「先生になりたい」という子はまだ多いし、中学でも塾の先生は人気の職なのに、実際の職業選択過程では必ずしも優先されない。

これには、学校がウソくさくなってしまったことも影響しているだろう。18歳までにその正体に気づいてしまうのだ。

杉並区立和田中学校を退任した私が5年ほど客員教授を務めた東京学芸大学は、教師になりたい学生が学ぶ現代の師範学校だ。早稲田大学の教育学部と張り合い、多くの校長を日本に輩出してきた。その本丸の教育学部は、卒業生1000人前後。

「そのうち何人が教師になると思いますか?」

答えは、およそ半分。教授時代、講演で問いかけるたび、聴衆を驚かせていた問答だが、この数字が現実を如実に物語っている(国立大学がそれではまずいだろうと文科省からも指導が入り、現在は6割近くに)。

■不人気なのに大勢採用すれば質は下がる

断っておくが、これは教員を目指す学生がサボっているからではない。努力が足りないのでもない。若手の先生の志が低いという批判も当たらない。もっぱら、構造的な問題なのだ。

不人気なのに大勢採用すれば、応募採用倍率が下がって、新卒採用教員の質が下がる。

これは当たり前の原理だ。この構造を改めるには、①再び人気職種に復活させて応募者を増やすか(分母を増やす)、②もっと少ない教員で学校を回せるシステムを導入し、採用数を絞る(分子を減らす)しか方法はない。

質が下がっているという現実を認めたくない人が多いかもしれない。プライドが許さないという体制内の人もいるだろう。だったら一度、ベテランの教員に実態を聞いてみることをお勧めする。彼らは言うだろう。「若手の教員はすぐに正解を求めてくる」と。

つまり、トラブったときにどうしたらいいか、と常に正解を訊いてくる若手が多く、“彼らは答え一発で指示が欲しい”のだ。トラブル解決とは答え合わせではない。ましてやマニュアルなんて存在しない。教育とは正解不正解の次元とは異なることを知らない若手が続々と教員になっている。

■新卒採用教員の学力レベルも下がっている

保護者の対応に戸惑って、教員のほうが入学式の直後に不登校になってしまったケースも聞く。ある自治体の教育長から聞いたケースは、本当に事実かと耳を疑いたくなった。こんなハナシだ。学校に登校した初日に下駄箱の汚さに呆れて帰ってしまい、あとで親からクレームの電話があったという。それが児童生徒の保護者ではなく、新採教員の親だった、というオチである。

藤原和博『学校がウソくさい』(朝日新書)
藤原和博『学校がウソくさい』(朝日新書)

蛇足だとは思うが、新採教員の学力レベルも下がっていることに、もう一度触れておく。

先述の通り、ある自治体では、新採教員の出身大学の偏差値が50を切っている事実を知らされた。私としても意外だった。もちろん、入学時の偏差値でひとくくりに比較するのは乱暴だし、大学で学んだ成果を評価しているわけでもない。ただし、「先生というのは、少なくとも普通以上の学力を有する人のことだ」という常識はとっくに崩れているらしい。その事実をタブー扱いにすることは、その現実を踏まえて対処する態度より、よっぽど不誠実でウソくさい!

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藤原 和博(ふじはら・かずひろ)
「朝礼だけの学校」校長
1955年、東京都生まれ。教育改革実践家。78年東京大学経済学部卒業後、リクルート入社。96年同社フェローとなる。2003~08年杉並区和田中学校校長、16~18年奈良市立一条高等学校校長を務める。21年オンライン寺子屋「朝礼だけの学校」開校。主著に『藤原和博の必ず食える1%の人になる方法』『10年後、君に仕事はあるのか?』など。

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(「朝礼だけの学校」校長 藤原 和博)

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