だから日本人の平均身長が縮んでしまった…「スマホで夜更かし」と子どもの身長の深い関係
プレジデントオンライン / 2023年6月7日 8時15分
※本稿は、小林正子『子どもの異変は「成長曲線」でわかる』(小学館新書)の一部を再編集したものです。
■日本人の身長が伸びなくなった理由
そもそも子どもの体格は遺伝的な影響も大きいですが、大柄な子でも小柄な子でも、からだのバランス(プロポーション)は、育つ環境に左右されて形成されます。つまり生活環境で大きく変わるのです。
歴史を振り返ってみてもわかりますが、第二次世界大戦までの日本人の畳に座る生活様式は、足の発育にはマイナスでした。戦後、テーブルと椅子の生活になり、栄養事情もよくなったことから、日本の子どもの身長は目覚ましい伸びを示し、その大部分は足の伸びが寄与していました。そのためプロポーションも足長に変化しました。
ところが、平均身長は1998年〜2000年を境にだんだんと低下しています。身長は、身長スパートが始まると、まず足がぐんと伸びて、座高が伸び、さらにもう一度足が伸びる、という順序が一般的ですが、身長が伸びなくなった時期から下肢長(足の長さ)も低下しています。これは発育段階で最後に伸びるはずの足が十分に伸び切らず、身長スパートが終了してしまったためと考えられます。
なぜ1998年頃から身長が伸びなくなってしまったのか。何か健康問題が発生して伸びなくなってしまったのではないか――。
これについては拙著(『子どもの足はもっと伸びる! 健康でスタイルのよい子が育つ「成長曲線」による新・子育てメソッド』女子栄養大学出版部、2021)に記載しましたが、その原因の一つとして考えられるのが、インターネットの普及によるパソコンや携帯電話やスマートフォン、ゲーム機といった電子機器の登場です。ちょうどその頃から、それらの電子機器が家庭に入り込み、大人だけでなく子どもも夜遅くまで使っていた可能性があります。
■スマートフォンがライフスタイルを変えた
近年は、スマートフォンの存在が、私たちのライフスタイルを大きく変えました。
2017年に行った、中高一貫校の生徒約2000名を対象とした私達の調査では、スマートフォンを小学生の時から持っていたと答えたのは全体の1割以下で、ほとんどが中学生になってから。その所持率は95%程度で、高校生になると98%くらいでした。そして中高とも女子の方がやや高い所持率でした。夜間使用率については、中学生が平均76%前後だったのに対し、高校生は94%と高く、中高ともやはり女子が高い傾向でした。
![【図表1】スマートフォン夜間使用率](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/3/1200wm/img_c3c2f3e8507fc48fe163aee7089e10a9227868.jpg)
![【図表2】スマートフォン夜間使用時間](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/5/1200wm/img_45b71088c8e74f6fdd9ea392a9b74748217670.jpg)
睡眠時間は、中1から高2までは、スマートフォンの夜間使用が短い方が長い傾向が見られました。睡眠時間は中学生で平均7時間半程度、高校生で6時間半程度でした。高3では差が見られませんでしたが、これは受験勉強などの影響と考えられます。
*いずれも、東京都内私立中高一貫校に2017年5月に在籍した中学1年生から高校3年生の男女1948名を対象に調査。
しかしその後、スマートフォンの所持率はあっという間に増加して、現在では小学生でもかなりの子どもが所持していると考えられます。
今や私達の生活になくてはならない電子機器、特にスマートフォンですが、夜間使用が長時間に及ぶと、その強い光が子どもの脳に大きな影響を及ぼします。日本の子どもの身長が近年伸びなくなってきたのは、思春期後半に足が伸びなくなったせいであり、これはデータから明らかです。こうしたスマートフォンをはじめとする電子機器の使用について、私達は今後の生活全般にわたって、もっと真剣に考えなければなりません。
■睡眠の質が成長を左右する
スマートフォンやゲーム機を子どもが夜遅くまで使うと、睡眠時間が減るだけでなく、電子機器が発する強い光で脳が覚醒し、睡眠の質が悪くなってしまいます。深い睡眠が得られなければ、成長ホルモンは分泌されませんから、当然身長も伸びません。つまり身長が伸びる時期に、スマートフォンやゲーム機を夜遅くまでいじる生活をしていると、身長の伸びが妨げられるのです。
また、よく眠れなければ朝起きるのが遅くなり、そうすると朝食を摂らない。朝食を摂らなければ、学校に行っても集中できず、頭痛やめまいなど不定愁訴を訴えるなど、身長だけではない、さまざまな問題を引き起こします。
スマートフォンを与えるときは、夜は使わない、1日30分あるいは1時間だけなど、使用時間のルールを決めることが大切です。使い方を間違えると、いろいろよくないことにつながり、身長も伸びなくなるということも、子ども達にぜひ伝えてほしいと思います。
■中高生は12時までに、小学生は9時には寝る
とにかく身長を伸ばすには、ぐっすり眠って成長ホルモンをしっかり分泌させることが絶対条件です。日中はよく光を浴び、夜はできるだけ強い光を避けるようにしましょう。
家庭では夜は照明を煌々(こうこう)とつけてテレビはつけっぱなしなどという環境にしないで、落ち着いた環境の下、できるだけ余分な光を浴びないようにすることが発育にはプラスになるのです。
成長ホルモンは眠ってから1時間後、それも夜中の12時~1時頃に最も分泌されますので、中学生や高校生でも、遅くても12時前には寝るようにしたいものです。
小学生は、そもそも9~10時間の睡眠をとらなければ、からだの機能は十分に発達しません。9時頃には寝かせるのが理想です。
■成長に良い環境をどうつくるか
思春期の身長スパートは早熟と晩熟があり、晩熟の方が身長の伸びる期間が長くなるため、できることなら身長スパートは遅らせた方がよいと考える方もいらっしゃると思います。
そんなことができるのか? と思われるかもしれませんが、家庭でできる取り組みとしては、まず子どもを早く寝かせること。これが大切です。夜、テレビやスマートフォン、ゲーム機の光を長時間浴び続けていると、その刺激で第二次性徴がどんどん進んでしまうという報告もあります。
そうした意味でも身長が伸びるうちは夜更かしせず、夜は部屋を暗くして休む。身長は遺伝の影響を避けられないと諦めずに、家庭ではなるべくよい環境をつくってあげてほしいものですね。ご自身の身長が低いと思われている保護者の方でも、もしかすると環境の影響で伸びが抑えられてしまったのかもしれません。
私は決して身長は高い方がよいと言っているわけではありません。ご存じのように、スポーツの世界でも、種目によって、高い方が有利であったり、逆に低い方が有利であったりします。また小さくなりたいと思っている大柄な人もいます。
要は、その子どもの持って生まれた資質を十分に発揮できるようにすることが大事であると考えています。そのためには、育つ環境をできるだけよいものにしてあげることが、保護者としてできることではないかと思うのです。
身長をしっかり伸ばすには、よい睡眠のほかにも、適度な運動やバランスのとれた食事が必要です。運動については、バランス感覚や持久力、筋力をつける最適な時期があります。そして、やりすぎは注意。骨に負担がかかり、伸びる身長も伸びなくなってしまいます。
■夏休みの肥満は要注意
小学生で高度肥満の子は、すでに乳幼児期から肥満です。子どもが肥満の場合、親も肥満のことが多く、これは家庭の生活習慣が「太る生活習慣」になっている可能性があるかもしれません。
太っている子は、とにかく食事の回数が多いものです。学校から帰ってきて、おやつを食べて、夕食を食べて、夜食を食べる。家にはスナック菓子やカップ麺、ジュースなどの買いおきがある。子どもがいつでも何でも好きなものを食べていいという生活習慣が身に付いてしまうと、直すのは相当困難になりますし、高い確率で肥満になります。
子どもには発育の季節変動があります。体重は秋冬に増加するのが正常なリズムです。
夏に増加するのは異常なリズムであり、肥満の引き金になるので要注意です。子どもが夏休み中に太り、それが毎年繰り返されるようであれば、そのまま肥満になりかねません。夏休みは学校のある期間と違って、どうしても生活リズムが崩れてしまいがちです。しかし、大幅に崩れるのは避けなければなりません。
■夏に増えた分は蓄積されてしまう
私達の調査によると、夏休み中に太った子は、起きる時間と寝る時間に、授業期間の通常のリズムから2~3時間のずれがありました。3時間ずれている子は、9月に体重が大幅に増加していたのです。朝寝坊して、エアコンのきいた涼しい部屋で、アイスクリームなど甘いものを好きなだけ食べて、夜更かしすれば当然太ります。夏はあまり運動もせず筋肉がつかないので、増えた分はすべて脂肪です。それが秋に蓄積されてしまうということを毎年繰り返すうちに必ず肥満になっていきます。
私は1970年代から調査をしていますが、小学校入学時から夏に太るリズムを持っている子は、たとえ小学1~2年生のときは肥満でなくても、3年生あたりから肥満度が上がり始め、6年生では明らかな肥満になって卒業していきます。最初から肥満でなくても夏休みを重ねるうちに肥満になるということです。これは今の時代でも変わりません。
さらに、コロナ禍の期間は、子どもの肥満が明らかに増えました。これも生活が不規則になったということでしょう。わが子の肥満が気になっている保護者の方も多いと思いますから、次のような取り組みを参考にしてください。
■「起きる時間」「寝る時間」「食事の時間」を決める
子どもの肥満改善は、家庭の生活習慣を見直すことがスタートです。正しい生活習慣は「朝起きる時間」「夜寝る時間」「食事の時間」といった定点を決めると、自然に身に付きます。ぜひ3歳までに身に付けてほしいものです。
![小林正子『子どもの異変は「成長曲線」でわかる』(小学館新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/a/1200wm/img_4a9927d8011e0b82891b040f09b458ce308005.jpg)
具体的に実践してほしいのは、早寝、早起き、朝ごはんです。昔からよく聞かれる標語ですが、理にかなっているのでぜひ心がけてほしいですね。
まず早寝です。早く寝れば、自然に早く起きることができて、朝ごはんも食べられます。朝ごはんを食べれば、頭が活性化されて、元気に動けて、すべてがよい循環に入っていくでしょう。
それが乱れるのは、たいていは寝る時間が原因です。遅寝になると、早く起きられず、早く起きられなければ、朝ごはんもゆっくり食べられない。食べられないと一日ボーッとした活力のない生活になってしまう。頭に栄養がいかないから、学習能力が落ちてしまい勉強する意欲も湧かないなど、すべてが悪循環になってしまいます。まずは早寝することから始めて、早起き、朝ごはんの習慣を心がけてみましょう。
食事は色々な栄養素をバランスよく、あまり食べすぎないように。さらに適度な運動をすること。縄跳びでもジョギングでも何でもよいので体を動そうという心がけが大事です。運動が好きな子なら、自分からどんどんやるでしょうが、嫌いな子には親が誘って一緒に歩いたり、一日5分だけでもよいので外に出てエネルギーを発散させることが大切です。続けることで気分も変わります。
ここでのポイントは、夏休みに不規則な生活を送ると太りますが、反対に規則的な生活にすれば、むしろやせるチャンスであるということ。元来、夏は体重が増えにくい季節なのです。肥満が気になる子は、ぜひ夏休みに生活習慣を整えることを意識しましょう。
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発育研究者
1950年栃木県生まれ。学位:博士(教育学)。1972年お茶の水女子大学理学部化学科卒業後、会社員、高校教員を経て東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。東京大学助手、国立公衆衛生院(現 国立保健医療科学院)室長を務めた後、2007年より女子栄養大学教授。2020年から女子栄養大学客員教授。発育の基礎研究のほか「発育グラフソフト」を開発し、成長曲線の活用を促進。著書に『子どもの足はもっと伸びる! 健康でスタイルのよい子が育つ「成長曲線」による新・子育てメソッド』『子どもの異変は「成長曲線」でわかる』。
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(発育研究者 小林 正子)
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