1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

女性宇宙飛行士における女医率の高さは、日本の頭のいい理系女子の生きづらさの象徴である

プレジデントオンライン / 2023年6月1日 11時15分

画像=宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙飛行士候補者募集 特設サイトより

2023年2月、2000倍もの難関を突破して3人目の日本人女性宇宙飛行士が誕生した。3人のうち、2人は女医。麻酔科医の筒井冨美さんは「日本人初の女性宇宙飛行士である向井千秋さん(医師・現東京理科大学副学長)の夫・万起男さんは『米国でもアフリカ系に限定すれば女性宇宙飛行士における女医率が高い、これは国家資格がないとキャリア形成が難しい社会属性の裏返し』という考察を記しています」という――。

■日本人女性宇宙飛行士「3人中2人は女医」の意味

2023年2月末、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は13年ぶりの宇宙飛行士選抜試験の結果、日本赤十字社医療センターの外科医・米田あゆさん(28)と世界銀行専門官の諏訪理さん(46)の合格を発表した。米田さんは向井千秋さん、山崎直子さんに次ぐ3人目の日本人女性宇宙飛行士となる。

JAXA職員として初出勤し、取材に応じる宇宙飛行士候補者の米田あゆさん=2023年4月3日午前、東京都千代田区のJAXA東京事務所
写真=時事通信フォト
JAXA職員として初出勤し、取材に応じる宇宙飛行士候補者の米田あゆさん=2023年4月3日午前、東京都千代田区のJAXA東京事務所 - 写真=時事通信フォト

今回の応募条件で「学歴」が問われなかった影響で過去最大の2000倍を超える倍率を突破した。4127人もの応募者の中から、まず書類選抜で2266人に削られた。次の選抜では、英語能力、理系の知識などが試され、約10分の1の205人に。その後も数度の試験や面接により、今回の2人に絞られたがJAXAはその詳細を明らかにしていない。

これまでには、真っ白なパズルを作成するテスト(集中力や忍耐力を試す)や、1週間ほど集団生活を送るテスト(閉鎖された隔離施設への適応力)などが行われたと言われている。

過去にJAXAが採用した宇宙飛行士は13人だが、そのうち4人が医師であり、女性に限れば3人中2人となる。さらにファイナリスト名が公表されている2009年と2023年の各10人の候補者で医師を検索すれば、2009年の選考では「男性9人中1人(自衛隊医官)、女性1人中1人(産婦人科)」、2023年は「男性8人中1人(脳外科)、女性2人中1人(外科)」と、女性ファイナリストでも3人中2人が女医である。

そういえば、宇宙飛行を扱う人気マンガ『宇宙兄弟』に登場する女性宇宙飛行士のヒロイン伊藤せりかも「女医から宇宙飛行士に転身」というストーリーだった。

女医は宇宙飛行士への近道と言えるのだろうか。

■世界的には女医出身の宇宙飛行士は多くない

世界の女性宇宙飛行士の「前職」は何か調べてみた。

世界初の女性宇宙飛行士は、ソ連(現ロシア)のワレンチナ・テレシコワさんである。織物工場に勤務していたが、スカイダイビングを趣味にしていたことから宇宙飛行士候補生に選ばれた。1963年にボストーク6号による宇宙飛行に成功した際には「私はカモメ」というメッセージとともに世界に報道され、国民的英雄となった。宇宙飛行士引退後は文化・科学・政治団体の幹部として活動していたが、2011年にはロシア下院議員に当選し、86歳の現在も同職にある。

世界2番目かつソ連2番目の女性宇宙飛行士であるスベトラーナ・サビツカヤさんは、ミグ戦闘機に搭乗する元空軍パイロットだった。

一方、米国女性初の宇宙飛行士は、1983年にスペースシャトルに搭乗したサリー・ライドさんである。スタンフォード大学で物理学の博士号を取得した後にNASA公募によって宇宙飛行士に転じた。1984年に二度目の宇宙飛行を達成し、NASA引退後は科学教育に取り組んでいたが、2012年に膵臓がんのため61歳で亡くなった。

その他、米国女性初の船外活動を行ったキャサリン・サリバンさんは元海洋学者、スペースシャトル・チャレンジャー号の爆発事故で世界初の(公式)女性殉職宇宙飛行士となったクリスタ・マコーリフさんは元高校教師、米国女性初の宇宙船船長となったアイリーン・コリンズさんは元空軍パイロットである。韓国人唯一の宇宙飛行士かつ女性飛行士の李素妍(イ・ソヨン)さんは元生命工学系の大学院生である。

元女医の宇宙飛行士は、米国初のアフリカ系女性飛行士として知られる内科医のメイ・ジェミソンさんなどが知られている。

このように世界的にみれば、女性宇宙飛行士の前職は「理系専門職」が最も多く、次いで「軍および航空関係者」である。そして女医は存在するが、多数派というわけではない。そう考えると、日本における女医が宇宙飛行士になる率の高さは際立っている。

JAXA 宇宙飛行士候補者募集 特設サイト Hello! EXPLORES PROJECTより
画像=JAXA 宇宙飛行士候補者募集 特設サイト Hello! EXPLORES PROJECTより

現在、日本社会で女性が生涯就業可能な理系専門職の筆頭格は、医師だろう。実際、昨今の医学部受験では、手に職を求めて成績優秀な理系女子学生の受験者数が増えている。高いレベルの学力も求められる宇宙飛行士の選考で女医が残りやすいのは当然なのかもしれない。ただ同時に、他の先進国のような医師以外の理系キャリアパスが、日本では乏しいとも言えるだろう。

■向井万起男さんによる女性宇宙飛行士研究

向井万起男『続・君について行こう 女房が宇宙を飛んだ』(講談社+α文庫)
向井万起男『続・君について行こう 女房が宇宙を飛んだ』(講談社+α文庫)

日本人初の女性宇宙飛行士である向井千秋さん(医師・現東京理科大学副学長)は、世界では26番目の女性宇宙飛行士だ。彼女の夫である向井万起男さんが出版した『続・君について行こう 女房が宇宙を飛んだ』(講談社+α文庫)によると、千秋さんを含む26人の女性宇宙飛行士の中で女医は6人だった(23%)のに対し、同時期の男性飛行士の医師率は約10%だったそうだ。

万起男さんは「社会的に差別されやすい属性の候補者でも、(医師のような)国家資格があるとチャンスを得やすいから」と分析している。同時に「米国でもアフリカ系に限定すれば女性宇宙飛行士の女医率は高い」とも指摘し、「女性宇宙飛行士における女医率の高さ」は、「資格がないとキャリア形成が難しい社会属性の裏返し」という考察を記している。

■活動内容はイマイチの日本人女性宇宙飛行士

今回、筆者はJAXAで宇宙飛行を経験した11人の宇宙旅行日数について、男女別に平均値を求めてみた。宇宙滞在日数は「男性平均186日に比べて女性19日」で明らかに女性が見劣りする結果となっている。

男性宇宙飛行士9人のうち7人はロシア(カザフスタン)の宇宙基地からソユーズ宇宙船に乗ったミッションを経験しているが、女性2人の合計3回の打ち上げは全て米国のスペースシャトルによるものである。また、男性4人は船外活動を経験しているが女性はゼロである。

「最もハイリスクな仕事は女性にやらせるべきではない」という紳士的配慮かもしれないが、重要な役どころは女性には任せられないとの判断とも言える。これは、内閣の組閣時において、世論を意識して「ひとまず女性を飾っとくか」といった配慮で環境大臣に女性政治家が任命されるのと似ている気がする。ちょっぴり残念である。

2010年、山崎直子さんが宇宙飛行を達成してから13年が過ぎた。米田あゆさんのような優秀な女性が頭角を現せるなら、日本もまだ捨てたものではない。願わくば、彼女にはサブの役割ではなく真に重要なポジションを任せられる宇宙飛行士に成長して、宇宙飛行士における性差を小さくしてほしいものだ。

----------

筒井 冨美(つつい・ふみ)
フリーランス麻酔科医、医学博士
地方の非医師家庭に生まれ、国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、12年から「ドクターX~外科医・大門未知子~」など医療ドラマの制作協力や執筆活動も行う。近著に「フリーランス女医が教える「名医」と「迷医」の見分け方」(宝島社)、「フリーランス女医は見た 医者の稼ぎ方」(光文社新書)

----------

(フリーランス麻酔科医、医学博士 筒井 冨美)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください