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これから世界中のマネーが日本に集まる…エミン・ユルマズ氏が「いまこそ日本株が買い」と断言する理由

プレジデントオンライン / 2023年6月7日 9時30分

「リーマンショック級」なら円は買われる(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/SARINYAPINNGAM

日本株はこれからどうなるのか。エコノミストのエミン・ユルマズさんは「日本の対外純資産は世界最大で、GDPの約1割を投資で得ているため、円の暴落は考えにくい。そのうえ日本株は相対的に魅力が増しており、世界の投資マネーは今後さらに日本に集中するだろう」という――。(後編/全2回)

※情報は5月22日時点のもの。

■「有事の円買い」は起きるのか

(前編から続く)

日本円はスイスフランと並んで「安全資産」とされています。

市場の危機感が高まり、リスク志向が低下、つまりリスクオフになると、こうした安全資産に資金が集まります。いわゆる「有事の円買い」です。

いま市場の緊張感は少しずつ高まってきています。昨年よりFRBによる利上げが始まった結果、アメリカ国債の価格が下落、保有している金融機関に多額の含み損が発生しています。

これが原因で一部の金融機関では大規模な預金流出が発生、シリコンバレー銀行やファーストリパブリック銀行が破綻しています。

■「リーマンショック級」なら円は買われる

ただ、足元のドル円相場は130円台後半と、円安水準で推移しており、今のところ「有事の円買い」は起きていません。

なぜか。アメリカ市場がまだ「リスクオフ」になっていないからです。むしろまだ「リスクオン」で、株などのリスク資産を買いに行っている状態です。

前回の記事でも少し触れましたが、アメリカ経済はまだ「バブル」です。

GAFAMの決算がイマイチだったにもかかわらず、GAFAM株を中心にハイテク銘柄が買われています。「AIの登場でハイテク銘柄はますます上がる」と思われているからです。

このような状態はまだリスクオフではありませんし、「有事の円買い」は起きません。

逆に、リーマンショックのような本当のリスクオフイベントが発生した場合、円が買われる可能性は高いと思います。

実際、リーマンショック時には大きく円高になりました。リーマンブラザーズ破綻前の2008年8月の時点では、ドル円相場は1ドル=110円程度でした。しかし9月にリーマンブラザーズが破綻すると、ドル円は下落し、08年12月には1ドル=87円まで円高になりました。

■かつてほど極端な円高にはならない

ただ、世界経済の現状を見ると、もし今後リスクオフ局面を迎えたとしても、リーマンショック時ほどの極端な円高にはならないと思います。

私の新刊『世界インフレ時代の経済指標』(かんき出版)でも取り上げましたが、世界経済のデカップリングが進めば、ドルの需要がむしろ高まっていくと見ています。

世界では米中の対立、欧米諸国と中国・ロシアの対立が深まっています。

その中で、中国に対して先端半導体を販売しないなど、経済のデカップリングがさらに進んでいます。

その結果、企業はこれまでのように中国で製造できなくなるのです。

■「デカップリング」はドル高要因

中国はこれまで安く製造するための拠点、つまり「世界の工場」として、ある意味でデフレを輸出してきました。

その中国と切り離されるということは、製造コストの上昇が避けられないということです。これはさまざまなモノの値段を押し上げます。

つまり、デカップリングが続く限り、今後も世界のインフレ傾向は続くのです。

インフレが続く以上、アメリカの金融当局は当然利上げ方向に動かざるを得ません。

FRBの政策金利が高止まりすれば、世界の資金がドルに集まりやすくなるので、ドルが買われやすい状況が続きます。

ベースにこのような状況があるため、リーマンショックのような暴落が発生した場合でも、そこまで極端な円高にはならないと考えています。

米国と中国国旗
写真=iStock.com/ffikretow
「デカップリング」はドル高要因(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/ffikretow

■円が暴落しにくい通貨である理由

このように、ドルが買われやすい相場環境ではあるものの、長期的に見て、1ドル=140円、150円は、やはり円安に振れすぎていると思います。

なぜか。円という通貨はそもそも暴落しにくい通貨です。なぜなら日本は「対外純債権国」なのです。

日本が海外に持つ資産額から負債額を差し引いた「対外純資産」は、22年末の時点で約418兆円と過去最高になりました。

このため日本の投資収益はGDPの約1割、50兆円にも達します。いま「日本人はもっと投資しなければならない」と言われていますが、そもそも日本という国は「投資国家」です。世界の隅々までジャパンマネーであふれているのです。

日本円記号
写真=iStock.com/spawns
円は暴落しにくい通貨(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/spawns

■何かが起これば円は買い戻される

もしリスクオフイベントが発生したら、世界中のリスク資産に投資されていた日本人のお金が、より安全な資産、つまり「円」に向かいます。

だから、世界経済になにかが起きた場合でも、円が暴落することはないのです。むしろ円が安全資産と見なされ、大きく買い戻されることになります。

2011年に発生した東日本大震災のあとも、円が大きく買い戻されました。

「大地震があったため、日本が海外に持っている資金が復興のため国内に戻る」という思惑が広がり、円が買われたのです。

このときはあくまで一時的な動きでしたが、日本円の強さを示す一つの材料だと思います。

■日本政府はインフレ大歓迎

今後円高になりうる要因がもう一つあります。日銀の政策変更です。

円安は日本企業の業績を押し上げています。実際、自動車など輸出企業の決算はおおむね好調でした。脱コロナでインバウンド消費も戻ってきています。

しかし、円安になると輸入物価が上がりますので、国民の暮らしにはマイナスです。

ただ今のところ、日本の物価高は一時的なもので、持続的な物価上昇ではないと政府・日銀は考えています。植田総裁も、国内の物価は今年半ば以降に縮小する見込みだと発言しています。

政府から見ればインフレ傾向は大歓迎です。なぜなら政府の借金が目減りするからです。

消費税をあと5%上げるとなると、国民の大反発は避けられません。しかし、インフレ率5%なら、国民の大反発は回避できますし、国の借金を減らす効果もより高いのです。

■国民の不満が高まれば日銀は政策変更する

ただ、もし物価高が一時的でなく、今後ずっと上昇し続けると分かった場合、日銀が政策修正に動く可能性が出てきます。

日本銀行
写真=iStock.com/show999
国民の不満が高まれば日銀は政策変更する(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/show999

「物価が3%後半から4%くらい上昇」とは、中には毎年10%程度値上がりする商品もある、という状況です。

これくらい物価が上昇すると生活はけっこうきついと思います。物価高に対する国民の不満がもっと高くなれば、政府は無視できず、日銀に物価対策を要求するでしょう。

■「バフェット氏が日本買い」の理由

先日、「投資の神様」とも称されるウォーレン・バフェット氏が来日し、日本株の追加購入に積極的な姿勢を見せたことが話題になりました。

なぜバフェット氏は日本株を買ったのか。その理由は、やはり世界の中で相対的に日本株に上昇余地があり、逆にアメリカ株には下落余地があるからだと私は思います。

■金利1%で借りたお金で買った株が、2倍、3倍に

バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイは、日本で円建て社債を発行し、その資金で日本の五大商社の株を買っています。

バークシャー・ハサウェイの円建て社債の利率は1%と言われています。

ただ、バフェット氏は50年間にわたって毎年20%以上のリターンを得ていると言われています。実際、五大商社株はバフェット氏の購入後大きく値上がりし、三井物産、三菱商事の株価は約2倍、丸紅の株価は約3倍となっています。

金利1%で借りたお金で買った株が、2倍、3倍になっているわけです。

為替も「日本買い」に有利に働きます。

円が今後大きく売られて円安になるなら、円で得た利益も目減りしてしまいます。しかし、円高になればドルに対する円資産の価値が高まります。

金利がまだまだ低いものの、日銀の政策変更など、どちらかというと円高に振れる可能性が高いといういまの状況は、「日本買い」に非常に有利な状況なのです。

バフェット氏から見れば、株価が上がるだけでなく、為替メリットも享受できるわけです。非常に魅力的な取引だと見ているでしょう。

日本株の上昇イメージ
写真=iStock.com/atakan
「日本買い」に有利な状況(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/atakan

■円キャリートレードより「日本買い」の理由

かつて円キャリートレードという取引が一世を風靡(ふうび)しました。

円キャリートレードとは、相対的に金利の低い日本円で資金を借り入れて、金利の高い外国で運用する取引のことです。

日本円を売ってドルなどの外貨を買うので、円キャリートレードが増えると円安要因になります。

ただバフェット氏の場合、借りた円を日本株に投資しているわけですから、いわゆる円キャリートレードではありません。こうした「日本買い」によって世界のマネーが日本に流入する可能性が高くなっています。

■相対的に日本の魅力が高まっている

いま世界的に見て日本株の魅力が高まっています。日経平均はバブル後初めて3万円の大台を突破し、突出して良い動きを見せています。

一方でアメリカ株の見通しは不透明感を増しています。

株価や個々のアメリカ企業の業績だけでなく、アメリカ社会全体がいま深刻な課題に直面し、難しい対応を迫られています。

アメリカは貧富の格差が大きい国です。しかも、コロナ禍で格差はさらに拡大しています。

AIの登場で無人化が進むと、低所得層の仕事が奪われ、失業率が上昇することになります。構造的に無人化のデメリットが現れやすいのです。

こうした中、フロリダ州知事のデサンティス氏が、不法移民に厳しい姿勢を見せています。

ただ、いまアメリカのサービス産業を支えているのは、低賃金で働くヒスパニック系などの移民たちです。彼らを追放すればアメリカは立ち行かなくなるでしょう。

本当に重要な仕事をしている人ほど、低賃金で働いている。アメリカはその矛盾と向き合う必要に迫られています。

さらにアメリカは高いインフレに苦しんでいます。富裕層にとって大した問題ではありませんが、低所得層にとってインフレは死活問題です。

格差の問題をどうにかしなければ、アメリカという国は立ち行かなくなると思います。

■少子高齢化の日本は「無人化」で恩恵を受けやすい

一方、日本は少子高齢化で人口が減少していますから、AIやロボットの普及で無人化が進んでも、社会が効率化するメリットのほうが大きくなります。

そもそも日本はアメリカに比べて貧富の格差が小さい国です。また企業が雇用を守り、少々コストが上がっても積極的に価格転嫁しないなど、ステークホルダー重視の姿勢が強い風土があります。それも「世界インフレ時代」にはプラスに働くでしょう。

そうしたことを考えると、日本株の見通しは明るく、世界の投資マネーはもっと日本に集中すると思います。

そもそも、バフェット氏が日本株を買ったこと自体が、世界中の投資家に多大な影響を及ぼしています。日本株にとってはかりしれない大きな後押しとなるでしょう。

私は数年前からずっと「いずれ日本株が復活する」と言い続けてきました。それがいよいよ現実になってきたように思っています。

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エミン・ユルマズ(えみん・ゆるまず)
エコノミスト
トルコ・イスタンブール出身。2004年に東京大学工学部を卒業。2006年に同大学新領域創成科学研究科修士課程を修了し、生命科学修士を取得。2006年野村證券に入社。2016年から2024年まで複眼経済塾の取締役・塾頭を務めた。2024年にレディーバードキャピタルを設立。著書に『夢をお金で諦めたくないと思ったら 一生使える投資脳のつくり方』(扶桑社)、『世界インフレ時代の経済指標』(かんき出版)、『大インフレ時代! 日本株が強い』(ビジネス社)、『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)『米中新冷戦のはざまで日本経済は必ず浮上する 令和時代に日経平均は30万円になる!』(かや書房)などがある。

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(エコノミスト エミン・ユルマズ)

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