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商品をつくる前に売ってみる…スタンフォード人気教授が教える「逆転の発想」でビジネスを急成長させる方法

プレジデントオンライン / 2023年6月5日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Choreograph

新しいビジネスを始めるうえでは何が重要なのだろうか。スタンフォード大学dスクールで教えるジェレミー・アトリー氏とペリー・クレバーン氏は、効率的に需要を把握するためには実験が重要であるとし、例えば、商品をつくる前にウェブサイトで販売を始めることで、顧客に「なぜ注文してくれたのか」を直接ヒアリングする方法で成功した企業もあるという――。

※本稿は、ジェレミー・アトリー、ペリー・クレバーン、小金輝彦(訳)『スタンフォードの人気教授が教える 「使える」アイデアを「無限に」生み出す方法』(KADOKAWA)を再編集したものです。

■男性向けギフトは難しい市場

「父は毎年、父の日に同じネクタイを手に入れる」という古いジョークがあるのには、それなりの理由がある。男性のためにギフトを買うのは、女性にとっても男性にとっても難しい。

スタンフォード大学ビジネス・スクールの学生だったジョン・ビークマンは、この問題を解決するために、私たち(編集注:著者のジェレミーとペリー)のローンチパッド・プログラムに参加した。ビークマンはすでに、男性へのギフトというのは難しい市場だと聞かされていた。

だが彼は、この前提を疑っていた。バレンタインデー、父の日、誕生日、卒業といったお決まりの機会以外にも、男友達や同僚や部下にギフトを贈る機会は少なくない。そんなときに何を買えばいいかわかっていない人たちに、迅速で簡単で楽しいギフト選びのプロセスを提供するには、どうすればいいだろうか?

■最大の課題は「需要の測定」

ビークマンは、選りすぐりのアイテムが入ったギフトボックス事業があちこちに出現していることに気づいていた。こうしたボックスはほとんどが明らかに女性向けで、さまざまな価格帯のアイテムをテーマ別に詰め合わせたものだった。雑誌『コスモポリタン』のギフトガイドの現物を思い浮かべてほしい。気軽に楽しめる本、リップスティック、よい香りのするチューブ入り保湿クリーム。

こうしたコンセプトは人気があるにもかかわらず、『GQ』や『エスクァイア』の読者向けのギフトボックスの発売は、誰も試みたことがない。これらの男性向けの雑誌はギフトガイドよりも発行部数が多いというのに。ビークマンには、ここに男性用ギフトの問題を解決する糸口があるように思えた。

そしてギフトボックスに関する調査によって、需要の測定が課題であることがわかった。多くの異なる製品を在庫にもつ場合、なかには傷みやすいものがある。各ギフトボックスに対する需要を測る効果的な方法がないと、少なく買いすぎて収益を上げる機会を逃すか、多く買いすぎて倉庫いっぱいの雑多な品々を抱えるかのどちらかだ。なかには腐ってしまうものも出てくるだろう。ビークマンが考えた事業のアイデアは、たとえコンセプトは顧客の心を捉えたとしても、物流面で問題を抱える可能性があった。

■商品をつくる前に売ってみる

私たちのアクセラレーター・プログラムにおいて、ビークマンは、調査に頼らなくても、実験によって各ボックスの有用性を測定できることに気がついた。そしてこのテストを実施するために、頑丈な木箱(とそれ用のバール)を試作品として準備した。それから、ボックスのコンセプトを6つ考案した。そのうちの3つは、アルコールの出荷がとてつもなく難しいことがわかって除外し、残った3つの箱は大規模小売店で購入できた菓子やキャンディーがメインのものになった。

ビークマンは、もしその箱とブランドが、どこでも買えるアイテムを詰めただけで売れるなら、簡単には入手できない高級ギフトならばさらに成功するはずだと考えていた。時間をおいて、アイデアの推進力を失うのは避けたかった。製品のあらゆる面が完璧になるのを待ってから発売したのでは遅すぎる。

ビークマンは、箱のコンセプトを決めると、各アイテムを1つずつ購入し、同じ試作品の箱の前に3組のアイテムを並べて、1日かけて写真を撮影した。倉庫もサプライヤーもディストリビューターも、予備の箱さえもなかったが、写真を撮影して最初のカタログを作成した。

そして、間に合わせのウェブサイトをつくると、「マン・クレイツ」と名前をつけて、そこに製品の写真をアップロードした。それぞれの箱には、採算がとれる値段をつけた。それから、トラフィックをサイトに呼びこむために、フェイスブックに広告を載せた。

■「なぜ注文してくれたのか」をヒアリングする

徐々にサイトへの訪問者が現れはじめた。誰かがまだ実在しない箱を購入するたびに、ビークマンは即座にその取引を無効にした。それから顧客に電話をかけて、会社がまだたった1人で運営しているスタートアップであることを説明したうえで、製品やサイトや購入プロセスについて意見を求めた。

電話
写真=iStock.com/anyaberkut
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/anyaberkut

ビークマンが電話した相手は、最初はいらだちを感じたに違いないが、このめったにできない経験を面白がった。ほとんどが技術系のスタートアップとかかわったことがなく、あとで重要になるかもしれないフィードバックを進んで共有してくれたのだ。ビークマンは電話を終える際に、将来の購入時に適用できる50パーセント割引を提供した。

もし調査が需要を測定する効果的な方法でないのなら、なぜビークマンはこの段階でフィードバックを集めたのか、と不思議に思う人もいるかもしれない。この場合は、相手のマン・クレイツを購入しようという意思を正当に確認したのだ。彼らは購入ボタンをクリックして、クレジットカード情報を入力した。その時点で、そのインプットは非常に重要なものとなった。これらの人たちは本当の意味で、ビークマンの最初の顧客だった。

ほとんどのリーダーは、顧客がまだ購入できない製品を売り出して、相手を失望させるなど、リスクが高すぎて試すわけにはいかないと考える。だが、それは違う。ビークマンのデータベースに残っている、初期の「失望させられた」顧客を数年後に追跡してみると、その多くがいまも顧客のままだとわかったのだ。この試作品のサイトは、売れるか売れないかわからない品で倉庫がいっぱいになる前に仮説を検証できる、理想的な研究所の役割を果たしつづけた。

■実験で判明した最も効果的なキャッチフレーズ

「誰もが成功の種を探していますが、失敗の種が見つかる場合がほとんどです」と、ビークマンは私たちに語った。「たしかに、何が成功するかを知るほうが重要ですが、失敗することを知るのも、次に何を試すかについての判断と直感を形成するのに役立ちます」

ビークマンは、マーケティングに関するさまざまなやりとりをしながら、どれが最も消費者の心を捉えるかを把握しようと努め、やがて「蝶結びなし、リボンなし、ボンボン飾りなし」というキャッチフレーズにたどりついた。彼の考えでは、それは「正解」ではなかったが、データには逆らえなかった。

ビークマンは、販売のあらゆる面に自信がもてるようになるまで、来る日も来る日も、広告コピーや価格の微調整を続けた。自分が一番よくわかっているとは思わずに、何を望んでいるかを市場にみずから語らせたのだ。

驚いたことに、実験によってわかったのは、競合品を揶揄するのが非常に効果的であるということだった。この会社の「お見舞いバスケット」に関する、ランディングページに載せる最も効果的なキャッチフレーズは、「彼にギフトバスケットを贈ってはいけない。彼はすでに具合が悪いのだから」というものだった。

■2016年に最も急成長している企業51位

ビークマンは、どれだけの数の箱をいくらで売れるかがわかっていて事業を始めたので、必要な在庫量は簡単に計算できた。だが、そこでやめる必要があるだろうか? ビークマンはいまでも折に触れて、新製品を「ゴースト・クレイツ」として発売している。

顧客はそれをショッピングカートに入れるたびに、不都合の埋め合わせとしてディスカウントを提供された(取引を成立させてから、取り消す必要はもはやなかった。ビークマンは、箱をカートに入れることが、データを集めるための購入と密接に相関していることを実験で確認していたからだ。ただしそれは、すべての事業にあてはまるわけではない)。

実施中の実験は、マン・クレイツが、商品化の決定においてはめったに失敗しないことを請け合っている。マン・クレイツは顧客重視の学習手法を使って急速に成長し、2016年の「最も急成長している企業500社」の51番目の企業となった。ビークマンは現在、別の領域で新しいスタートアップを立ち上げている。彼がどんなふうに取りかかっているかは、おそらくあなたにも想像がつくことだろう。

■トレーニングに複雑なマシンが加わることの危険性

安全性は、健康産業における主要な関心事だ。皮肉なことに、寿命を延ばし、健康を改善するための習慣が、けがにつながるケースが非常に多い。朝のランニングで足にまめができたり、心臓麻痺を起こしたりすることもある。

ウェイトトレーニングに複雑なマシンが加わると、その危険性は増大する。2021年には、当時破竹の勢いだったペロトンが、新しいトレッドミル(ランニングマシン)のリコールを余儀なくされた。その独特なデザインが、1人の子どもの死と多くの負傷事例を引き起こしたと考えられたためだ。

フィットネス装置は、新しいアイデアを安全に開発するために、より頻繁に実験を繰り返すことが非常に重要な分野の1つだ。慣れないマシンに乗った人が何をするかは予測がつかないし、毎回マニュアルを読むとも思えない。

フィットネスジム
写真=iStock.com/nd3000
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nd3000

■トレッドミルのデザインをどう変更すべきか

ビル・パチェコは、サイベックスでプロダクトデザインのシニアディレクターに任命されたばかりのときに新しい任務を与えられた。年末までにトレッドミル部門で現在の6位から1位になることをCEOが望んだのだ。

トレッドミルは最も普及しているフィットネス装置なので、順位を3つ上げるだけでも、サイベックスの損益に劇的な効果をもたらすはずだ。パチェコは、デザインをどう変更すれば需要にそれほど大きな影響を与えられるのかを考えた。dスクール(編集注:著者らが講座をもつスタンフォードのデザイン思考研究所)で学んだことを活かす、またとない機会だった。

■慣れないトレーニング装置にはリスクが伴う

たいていのジムでは、監視されていない大人は、とくに年配で鍛えていない人の場合、いままで使ったことのないメーカーのトレッドミルに乗ると、動きの速いベルトコンベヤーの上をがむしゃらに走る傾向がある。それは大惨事を招きかねない行動だ。

インターネットには、トレッドミルで走っているときに、うつぶせに倒れたり、それ以外のけがをしたりする人たちの映像があふれている。とくにスピードが速いときは、わき見をするだけでもバランスを崩してしまう(ありがたいことに、ジムではあらゆる場所にテレビがついている)。

一方で、ペロトンの問題が示すように、トレッドミルのデザインに何らかの変更を加えると、予期せぬ新しい危険を招くリスクが大いに高まる。慣れないトレーニング装置を使うときに、使い方を尋ねたり、指示を仰いだりする人は少ない。装置の一部を変更する際に、最初に頭に浮かぶ疑問は「もし誰かが、適切な監視がついていない状態で間違った使い方をしたら、最悪の場合どんなことが起こりうるだろうか?」というものだ。

■ランナーは必死でコンソールにしがみついていた

パチェコは、トレッドミルがもたらす危険を知っていた。実際、多くの潜在的な利用者がトレッドミルを避けていたのは、そのリスクを認識しているからだ。トレッドミルの使い方を誤ってけがをする無知な新米ユーザーがいるために、はるかに多くの人が恐れをなして、試してみようとさえしないのだ。

こうした人たちにトレッドミルを進んで使ってもらうには、サイベックスはどんなことをすればいいのだろうか? その質問に答えることが、CEOが求める需要の喚起につながるかもしれない。

このことを念頭に、パチェコはさまざまなジムで人がサイベックスのトレッドミルを使う様子を観察した。目の前で必死に頑張っている利用者たちに深く共感していなかったら、その姿を滑稽に思ったに違いない。自信満々に走っている人たちも、そのほとんどが、結局は必死にコンソールにしがみついていたからだ。

コンソールは運動中の支えになるためではなく、制御盤と持ち物の保管場所として設計されていた。サイベックスは、人が舗道を走るときとまったく同じように、腕を自由に振って走ることを想定していたのだ。だが相手の身になって観察していると、利用者はバランスを失うのを恐れているのがわかった。不自然な角度で運動の妨げになるにもかかわらず、ランナーたちは必死でコンソールにしがみついていたのだ。

■主観的印象について議論しても意味がない

顧客の多くが、ある製品をあなたの意図とは違う方法で使っているのを目にしたら、それはあなたの意図を見直す必要がある証拠だ。パチェコは、トレッドミルに目立つ安全ハンドルをつけたら、ユーザーの望む安全性を提供できるのではと考えた。

もしハンドルバーが、目の前の手が届くところに――だが走る邪魔にならない角度で――ついていたら、ランナーは緊張やストレスを感じずに、ずっとそれにつかまって走っていられるはずだ。不安定な姿勢でコンソールにしがみつくより安全なだけでなく、慎重すぎて普通のトレッドミルには乗らないような新しいユーザーを引きつけることもできるだろう。

ジェレミー・アトリー/ペリー・クレバーン『スタンフォードの人気教授が教える 「使える」アイデアを「無限に」生み出す方法』(KADOKAWA)
ジェレミー・アトリー、ペリー・クレバーン、小金輝彦(訳)『スタンフォードの人気教授が教える 「使える」アイデアを「無限に」生み出す方法』(KADOKAWA)

パチェコは、この専用ハンドルバーのアイデアをサイベックスに持ち帰ったが、まったく受け入れてはもらえなかった。製造コストにハンドルバー分の40ドル以上を加算するまでもなく、利益が十分に低かったからだ。さらに、ハンドルバーは見た目が悪い。サイベックスのモデルは、市場に出まわっているほかのすべてのトレッドミルのなかで浮いてしまうだろう。

「このプレゼンにはいいところがまったくない」と、R&Dの責任者はパチェコにいった。「何か別の提案をしてくれ」パチェコは、顧客の主観的印象に対する自分たちの主観的印象について議論しても意味がないと思い、その代わりにdスクールで学んだ断片的な手法を使ってみようと決めた。実験は、どんなパワーポイントのスライドよりも彼のコンセプトの有用性を効果的に証明してくれるはずだ。

■否定的な意見も実験結果の前にはなすすべなし

パチェコは近所にあるホテルのジムに行くと、そのジムに置かれているサイベックスのトレッドミルのうちの2台に、試作品のハンドルバーをつける許可を求めた。ホテルの支配人は、その潜在的な用途を即座に理解した。訴訟を避けるためなら、ハンドルの見た目の悪さなど誰が気にするだろうか? 許可を得たパチェコは、急ごしらえのハンドルバーを、ホテルにある10台のトレッドミルのうちの2台に取りつけて、様子を観察することにした。

毎朝、ジムのゲストはどのトレッドミルに乗るかで意思表示をした。試作品のハンドルバーをつけたトレッドミルが空いているときは、10人中8人が、ハンドルバーのついていない8台よりもこの2台のほうを選んだ。その理由を尋ねると、明確な答えが返ってきた。「こっちのほうが安全に見えたし、実際にそうだったから」。

パチェコはデータを手に、この変更を実施するようサイベックスを説得した。年末までに、サイベックスのトレッドミル事業は、この安全ハンドルによって、2年連続で20パーセント成長を達成した。

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ジェレミー・アトリー スタンフォード大学dスクール エグゼクティブ・エデュケーション・ディレクター
スタンフォード大学ハッソ・プラットナー・デザイン研究所(通称dスクール)のエグゼクティブ・エデュケーション・ディレクターで、同大学工学部の非常勤教授。幅広い人気を博す講座「スタンフォード大学マスター・オブ・クリエイティビティ」の主催者でもある。

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ペリー・クレバーン スタンフォード大学dスクール エグゼクティブ・エデュケーション・ディレクター
スタンフォード大学dスクールの共同創設者の一人。現在はdスクールのエグゼクティブ・エデュケーション・ディレクター兼非常勤教授。パタゴニアのCOOおよびティンバックツーのCEOを歴任した。

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(スタンフォード大学dスクール エグゼクティブ・エデュケーション・ディレクター ジェレミー・アトリー、スタンフォード大学dスクール エグゼクティブ・エデュケーション・ディレクター ペリー・クレバーン)

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