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「おもしろいこと言わはる」は「理解できない」という意味…京都人が「正反対の意味」で言葉を使う納得の理由

プレジデントオンライン / 2023年6月23日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/itakayuki

京都人のコミュニケーションは独特だ。脳科学者の中野信子さんは「京都では直接的な言い回しをさけ、自分の気持ちを遠回しに伝える伝統がある。これはコミュニケーションで角を立てないための知恵なのだろう」という――。(第3回)

※本稿は、中野信子『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術』(日経BP)の一部を再編集したものです。

■京都人の戦略的にあいまいなコミュニケーション

「深淵(しんえん)をのぞくとき、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」とは、有名なドイツの哲学者、フリードリヒ・ニーチェの言葉です(『善悪の彼岸』)が、あえてこの格調高いフレーズを、このようにもじって言い換えてみたいと思うのです。

「京都をのぞくとき、京都もまたこちらをのぞいているのだ」

京都では、本当に上手なイケズは、棺桶(かんおけ)に入ったときに相手が言われたことを気づくくらいのレベルですよ、と言われたことがあります。この、気づくまでの長さをどれくらいに設定するかは、人によって違うのかもしれませんし、自分は京都の人間だけれどもそんな風には言わない、という人もおいでかもしれません。また、同じ人であっても、相手との関係性によってその匙加減(さじかげん)は変わってきて「どうしても気づいてほしい」と本当に思ったならば、表現はどんどん直接的になるとも聞きます。

こうした柔軟性と申しますか、巧(たく)みな“戦略的あいまいさ”とでもいうべき何物かを、縦横無尽に使いこなし、コミュニケーションを高解像度でこなすことのできるすごい人たち――それが、ずっと私が京都人に抱いているイメージでした。

■江戸のコミュニケーションには“含み”がない

私自身は少なく見積もっても5世代は江戸に住んでいる家の人間で、遠回しなコミュニケーションというものに慣れる機会もまったくなく、そういったやり方を学べるような先生もおらず、ここまで育ってきてしまいました。

中野信子『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術』(日経BP)
中野信子『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術』(日経BP)

ストレートで四角四面な物言いにしか触れてきていないということは、傷つき傷つけ合いながらの人間関係を生きてくるということでもあり、それはそれでしんどいものです。また、どうしてもごつごつと不格好なやり取りになりますから、どう見てもあまりエレガントではありません。どうにかして含みのあるコミュニケーションを身につけることができまいかと悩みました。

そんな折、初めて京都の人の言い回しはこうだよということを微(び)に入(い)り細(さい)にわたり解説して教えてもらい、それはたしかに、いわゆるイケズというものではあったのですが、むしろ、ああ自分に足りなかったものはこれだと、感動するような思いにもなったのです。

深淵をのぞくような気持ちになるのは、これが、人間の深淵をのぞくことと同じだからなのかもしれません。京都のコミュニケーションは、人間の深淵をのぞき続けて、なお、人間と対峙(たいじ)し続けなければならなかった土地に住まう人々が生み出してきた知恵の結晶でもあるのだと思います。

■イヤな京都人ならどう答えるか

本稿では、こんなとき、京都の人ならどうするか? を見ていきます。

京都市在住の(できれば中京区や祇園に代々お住まいか、そういった方から直接このように言われた、などの経験を持つ)複数の方にお願いして、京都人が考える適切な言い回しをお聞きしたものをまとめました。

着物を着た日本人女性着物を着た日本人女性
写真=iStock.com/mokuden-photos
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mokuden-photos

ありがちだけど、毎回困ってしまう、できれば遭遇したくはない、イヤなシチュエーションをピックアップしています。拡散されたりして巷によく出回っているような典型的な言い回しの返答とどう違うのか、ぜひ比べてみてくださいね。

クイズ形式にしてある項目では、「京都の人が話しそう」というイメージのあるフレーズだけれども実際にはそんなことを京都の人は言わないよとか、よく使われてしまっているけれども京都の人の基準からするとこれはよくないといった選択肢を、間違いとして混ぜています。対比してぜひ、京都人のエレガンスを一緒に感じていきましょう。

さっそく見てみましょう。

■「ちょっと」がついたら基本的に拒否されている

Q1
関係がそれほど深くない人から、無理な依頼をされて断りたい。
どのように返す?

①「今、忙しいのでごめんなさい」
②「いえ、うれしいですけどちょっと。もっと合っている方を探しましょうか」
③「けったいな人やなぁ」

中野(代々東京在住)だったらこう返しそう……
「待たせている人がたくさんいるから、ごめんなさい」

おすすめの返し方
②「いえ、うれしいですけどちょっと。もっと合っている方を探しましょうか」

京都市に代々お住まいの女性に聞きました

京都式の回答例
「いや、うれしおすけど、うちにはちょっと。もっと上手にしはる方、探しまひょか?」

京都市在住の80代女性に聞きました

京都式の回答例2
「ちょっと考えさせてもろうて、かましまへんか。ちょうど今さっき、恩義のあるお人からお願いごとをされてしもてな。今、それで頭がいっぱいで考えられへん。お時間いただきたいんやわ。すんまへんなぁ」

京都式では「ちょっと」で濁した場合は基本、拒否を意味する。さらに、自分より適任者がいることを伝えて、相手からの依頼に応えるつもりがないことを伝える。イケズ度をより高くする場合には、「京都式の回答例2」のように、相手が自分にとって「恩義を感じるレベルの人ではない」ということも暗に遠回しに伝えられる言い方で。

「京都式の回答例2」は、言っていること自体は中野の回答とほとんど同じだが、言い回しに「考えさせて」が入っていて、相手に希望を持たせつつ、お時間をいただくというソフトランディングに持っていっているのがポイント。

手で制止する
写真=iStock.com/Alikaj2582
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Alikaj2582

■「けったいな」は最大限の拒絶アピール

Q そこであきらめずにさらに踏み込まれたら?

京都式の回答例
「いや、かなんわぁ。けったいな人やなぁ。堪忍しとくれやす」

これは怒り・拒絶の最大限のアピール。「けったいな」は本来、「ちょっと変わった」くらいの意味ではあるが、ここでは「察しが悪い=頭が悪い、失礼な人」くらいの最大級の侮蔑。ここで引かないと出禁レベル。

Q 依頼内容があまりにも理不尽な場合は?

「よう言わんわ」と一言だけ言って、無視するケースもある。

■「おおきに」と伝えたうえで二度と連絡しない

Q2
来てほしくないお客さんから予約の電話が入り、断りたい。どう返す?

①「すみません、その日はあいにく予約でいっぱいで……」
②「責任者がいないので、分かりません」
③「ありがとうございます。また空いたときに、お電話しますね」

営業職Aさん(神奈川県出身)だったらこう断りそう……
「すみません、その日はもう埋まっていて」

おすすめの返し方
③「ありがとうございます。また空いたときに、お電話しますね」

京都市在住、かつご先祖もたどれる京都人の女性に聞きました

京都式の回答例
「おおきに。またええときにお電話させてもらいます」(と言って、電話は一生かけてこない)

①「すみません、その日はあいにく予約でいっぱいで……」と返した場合、再度予約をとろうとされる恐れがある。「こちらから電話する」と伝えることで、相手からの次のアクションを封じているのがポイント。

Q 一度は予約を受けたお客さんだが、もう二度と来てほしくない。それなのに支払いの段階で次の予約をしようとしてきたら?

京都式の回答例
「いや、かなわんわぁ。しっかりしたはるわ。堪忍しとくれやす」

これは怒り・拒絶の最大限のアピール。ここで引かないと出禁レベル。

女性マネージャーは、電話で顧客と話します
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

■「おもしろい」と言われたときは「変だ」という意味

Q3
使えない/使いたくないアイデアを提案されたので却下したい。どう返す?

①「ちょっといまいちですね」
②「おもしろいですねえ」
③「よさげやけど、うちには合わんね」

30代事務職Bさん(北海道出身)だったらこう言いそう……
「いい感じのアイデアですね。でも、ちょっと今回は合わないかもしれません」

おすすめの返し方
②「おもしろいですねえ」

祇園で代々商売をされている50代男性に聞きました

京都式の回答例
「それ、おもしろおすなあ」

特に理由も説明もなく「おもしろい」と言われたときは、「理解できない」「変だ」「頭が悪い」といったニュアンスが込められていることに気がつきたい。つまり、「おもしろいこと言わはる」=「こちらとしては全く受け入れ難いことをおっしゃいますね」ということ。類似の言葉としては「けったい」なども使われる。

これらの言葉は、本当におもしろいとき、大笑いするときにも使われるのが、実は重要なポイント。

■「しばらく休ませてもらいます」はやめたいという意味

Q 理不尽な文句を言ってこられたときには?

京都式の回答例
「いやぁ、おもろいこと言わはるわぁ。けったいなひとやなぁ。なるほどそうどすか、そらえらいすんまへん。私ら不調法(ぶちょうほう)ですさかいによう分かりまへんけど、ええ勉強させてもらいました」

「おもしろい」と言ったあとに「でも私ら不調法でそんな高度なことは分からへんのですわ」といった言い回しで、ちょっと謙遜している風を装ってさらに突き放すことで、怒りがエレガントに表現されている。

無表情で静かに「けったいなことを言わはるな」というときには、相当怒っているので、言われたほうはそれを受け止めなければならない。

「お断り」の類似例
Q 寄付・慈善活動・入るつもりのない宗教に勧誘されて困っているときは?

京都式の回答例
「考えときます」
「3代前がそれで家をつぶしかけてまして」
「うちにはもったいないお話で」

Q 習い事をやめたい、サークルを脱退したいときは?

京都式の回答例
「しばらく休ませてもらいます」

京都人にこれを言われたら、「いつまでですか?」「いつから来られますか?」などと聞いてはいけない。

■パシリ扱いされたらどう答えればいいか

Q「これ買ってきて」「これやっといて」「これ送って」とパシリ扱いされそうにな
ったら?

京都式の回答例
「おねだり上手やなあ、○○かと思たわ」(※○○のところはお姫様、お嬢様イメ
ージの具体名を入れる。例:パリス・ヒルトンなど)
「そんな体、ふたつもみっつもあらへんわ」
「この仕事(現在進行中の分)がお留守になりますわ」
「かえって遅なりますえ」
「今からでしたら明日になりますえ」

Q 教えてあげる筋合いのない人から、「この情報をくれ」と要求されたら?

京都式の回答例
「そんなややこしこと、よう知りませんわ」
「聞いたこと、あらしませんなぁ」
Q4
忙しいのに、訪問客が長居して帰ってくれない。どう伝える?

①「このあと、用事があるんですよ」
②「さ、長いこと付き合わせちゃってすみません。お忙しいのにありがとう」
③「あんた、今日はぶぶ漬け狙ってはるんか?」

編集者Cさん(長野県出身)だったらこう言いそう……
「次があるので、そろそろ……」

おすすめの伝え方
②「さ、長いこと付き合わせちゃってすみません。お忙しいのにありがとう」

■「さ!」「ほな」は話を切り上げたい合図

京都出身の祖父母を持つ都内在住40代男性に聞きました

京都式の回答例
「さ! 長いこと引っ張ってすんまへん。お忙しいのにおおきに。ほな!」

「さ!」と空気を一変させて、腰を上げるきっかけをつくる。あくまで相手へのおわびと感謝で、思いを伝える。これを言われたら「ずいぶん長居してもた、すんまへん帰りますわ」と腰を上げましょう。LINEやチャットでも同様に使えます。

Q 長電話をそろそろ切りたい。

京都式の回答例
「ほな、そういうことで」
「ほな、そうしまひょ」
「ほな、よろしゅうに」

「ほな」で会話を遮る。会話で「ほな」と言われたら、「話が長い」「もう話は結構」と言われていると考えていい。

■一見褒めているような表現で距離を取るべき

Q5
マウンティングされて困っています。どう伝える?

①「どこをとってもすごいですね。もう仙人みたいです」
②「そういうの、ウザがられません?」
③「ところでこのお茶はおいしいですね」(話題を変える)

事務職Dさん(福岡県出身)ならこう言いそう……
「ところで、○○の件はどうでした?」(話題を変える。が、結局マウンティングされる)

おすすめの伝え方
①「どこをとってもすごいですね。もう仙人みたいです」

京都市に代々お住まいで、自身も左京区出身の50代女性に聞きました

京都式の回答例
「○○さん、ほんまどこをとってもテッペンどすなぁ。ほぼ仙人どすわ」

不快な気持ちを伝えてはいるが、一見褒めているようにも感じられ、かつユーモアまじりなため、言われたほうは反論したり否定したりしづらい。それでもマウンティングし続けてくる猛者には、こちらも何度もこの対応を繰り出し続けましょう。

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中野 信子(なかの・のぶこ)
脳科学者、医学博士、認知科学者
東日本国際大学特任教授。京都芸術大学客員教授。1975年、東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2008年から10年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書に『サイコパス』『不倫』、ヤマザキマリとの共著『パンデミックの文明論』(すべて文春新書)、『ペルソナ』、熊澤弘との共著『脳から見るミュージアム』(ともに講談社現代新書)、『脳の闇』(新潮新書)などがある。

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(脳科学者、医学博士、認知科学者 中野 信子)

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