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口角を上げて「うれしいわぁ」と言ったら要注意…京都人がひそかに投げ合う「イケズ」という言葉のカミソリ

プレジデントオンライン / 2023年6月22日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

京都には「イケズ」と呼ばれる遠まわしなコミュニケーションが根付いている。脳科学者の中野信子さんは「会話をしていて違和感があれば、イケズを言われている可能性がある。京都人同士のやり取りはスポーツに似ている」という――。(第2回)

※本稿は、中野信子『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術』(日経BP)の一部を再編集したものです。

■無理やり距離を詰めてくる人にどう対処したらいいか

レッスン1 「依存」「下心」「利用してくる人」を撃退するには

褒められたとき、罠みたいなものが用意されていて、うっかりそれに乗りすぎるとちょっとイタい、という現象は少なくありません。そのリスクは、「うっかり褒め言葉に乗ってしまうと笑われる」ということと、「あやしい好意の餌食(えじき)になってしまう」ということの2つがあり得ます。

褒める以外には、やたらと傷を開示してきて、「あなたには分かるはずです、あなただけに話すんです」などと、距離を縮めてこようとする人もいます。皆さんが寄せてくださったアンケートの中には、こうした声も実は、少なからずありました。

このタイプの人は、あなたと仲良くなろうとしてそのような行動に出るのですが、うっかりすると「ああ、こっちの傷も聞き出そうとしている」という流れに乗らされてしまいます。適切な距離感を持っていい関係を築くには、ちょっと近すぎてしまう。

そういうとき、京都人たちはどうしているのでしょう。

歴史的にもあったはずです。京都人に対して、ほかの地域の人が、近寄ってくる。うかうかと言質を与えるわけにはいかない。けれども怒らせて首をはねられては元も子もない。現代でも、女性に対して、男性がそういう風に近づいてくることも結構ありますし、逆パターンで、お金のある男性に下心のある女性が近づいていく場合もそうかもしれません。弱さをあえて開示して、相手の好意を引き出そうとするやり方です。

このやり方はかなり強力で、見抜こうとしていても、頼られる快感に抗あらがえず、気づいたときには利用されてしまっている、ということになりかねません。

■切るに切れない人間関係の難しさ

この、女でも男でも一定数いる「自分の傷を見せて誘惑しようとするタイプ」は、なかなか対処が大変です。突き放すわけにもいかないし、かといって、一緒に泥沼に入るわけにもいかない。突き放したら、あの人は冷たい人、ひどい人としてみなされてしまう。また、後ろめたさも感じるでしょう。

不倫男のよく使う言い回しで、「奥さんとうまくいってないんだよね。寂しいんだ」「奥さんは俺より仕事のほうが大事なんだ」「子どもが第一だから俺の存在は空気みたいで」などというものがあります。「いや寂しいならどうぞ奥さんに言ってくださいよ」というところではありますし、職場はそれを埋めるところではありません。

ほかにも「トラウマがあって」とか、「親とうまくいかなくて」とか、「女性に対して、ちょっと壁があるんだ」とか「こんなことを話せるのはあなただけだ、話を聞いてくれるから、僕はほっとするんだ」とか、バリエーションは豊富です。

本当にただのクズであれば、ここで関係を切ってもいいような気もしないでもないのですが、なかなかそうはいかない場合もあります。それが職場の人だったり、取引先であったり、仲間だったり。その職能については信頼できるものがあって、仕事は一緒にしたいなどもあるでしょう。実際問題、にわかに関係を切ることができない。

こういう場合に、どうサッと身をかわすか、というのは、実はかなり多くの人が頭を悩ませているのではないかと思います。

■「私から奥さまに言うたげまひょか?」と華麗に撃退

もちろんストレートに言ってもいいのです。今風にストレートに言うのだったら、「自分は推しのことで頭がいっぱいで、それどころじゃない」などというのもありかもしれません。「今のはセクハラですね!」と強めに笑い飛ばしていくというのもキャラによってはありかもしれません。

でも、上司からやられているのだとしたら、「これで昇進チャンスが逃げていくことになっちゃうんじゃないか」という不安も生まれるでしょう。「重要な仕事が回ってこなくなるんじゃないか」「見えないところで不利な立場に立たされてしまうんじゃないか」という心配もあると思います。

こうした状況で自分だけ妙に手間のかかる仕事が回ってきたりすると、いらぬ勘繰りをして精神的に疲れてしまったりするということもあるでしょう。できれば、エレガントに退けたい。なおかつ、それ以降は黙っていてもらいたいですよね。

コワーキングスペースで働く若い日本人ビジネスマン
写真=iStock.com/monzenmachi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monzenmachi

では、実際には京都人ならどう対応するのか。お聞きしてみました。

「言いにくおしたら、私から奥さまに言うたげまひょか?」
「ウチは頼られるほど、丈夫にできてまへんので、一緒にこけてしまいますー」
「私は強い男さんが好きどすし、そんなん言われたら嫌いになってしまいますえ」
「そんな頼れる強いお方を一緒に探しましょか」

■違和感があったらイケズを言われている可能性がある

どれもやさしい語り口ですが、二度と言ってこられない理由づけがはっきりとされており、「食い下がってこられるスキをつくるものか」という明確な意志を感じるしなやかな強さのあるお答えではないかと思います。

クズ男、ダメ女に付け入られないよう、この例を参考に工夫してエレガントに撃退していきましょう。

台所でお茶を飲む若い日本のカップル
写真=iStock.com/itakayuki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/itakayuki

レッスン上級 相手のイケズを正しく読み取る

イケズは見抜かなくてもいいんですよ、見抜けない人は見抜けない人として扱いますから、と京都人たちは言います。けれどもやはり、できれば、恥ずかしい思いは、しなくて済むならしたくはないもの。そこで、京都人に、イケズを見抜くポイントについて、うかがってみました。

にこやかに「いやぁ、うれしいわぁ」と言われているのに何か引っかかる。その違和感をうまくキャッチすることに尽きるそうです。もし「あれっ?」と少しでも思うのなら、それは、イケズかもしれないですね……とのこと。

皆さんはどれだけキャッチできるでしょうか。違和感をうまくとらえるためのポイントについて、お聞きしたことを次にまとめてみました。

■イケズを見抜く「3つの違和感ポイント」

違和感ポイント1 タイミングがおかしい

しばらく会話をしたあとに、急に「お若いですね」など文脈にない褒め言葉が出てくるとき。

違和感ポイント2 表情がおかしい

口角を上げて、穏やかにほほ笑みながら話している。どことなく、本気っぽさを感じない。にこやかな表情で、やわらかに言われる。ものすごくおもしろい、と言っているのに、顔はそこそこのおもしろさだと思っているような、言葉とのズレがあるとき。

違和感ポイント3 言い方がおかしい

褒める言葉をたくさん使うのに、肝心の、一番フォーカスしてほしいところには触れない。そこはスルーされてしまう。すてきねえ、かわいいわねえと言うのに、仕事ぶりについては一切触れないなど。

基本的にイケズを言うときは、ほぼ口角が上がり、ほほ笑んでいるといわれます。穏やかにほほ笑みながら話すのがイケズの王道。対照的に、本気で喜んだり、褒める場合は、ぐっと表情が豊かになるそうです。「いやぁ」とか「まぁ」とは言わず、「いやー!」「まー!」「えー!」と感嘆符のつくような言い方です。

■京都人同士のやり取りはスポーツに似ている

イケズのような言葉のやり取りはちょっとスポーツにも似ているのかもしれません。京都人同士で、一見ほのぼのとやわらかに見えるけれども、実は中にカミソリが仕込んであるボールを投げ合って遊んでいる。手だれの京都人同士なら、これが成立します。

けれども、慣れていないよその人は、これを打ち返すことも難しいし、うっかり素手で取ったりしたら血まみれになってしまう。だから最初に京都人は、イケズが分かる人かどうかを試すようなことをするのでしょう。この人は打ち返せない人だから手加減しないと、ということを知るために。

なので、打ち返せなくても、まったく問題はないし、京都人が「ぷっ」と思うだけ。よその人は「あらあら、この人はぶさいくやねえ」と思われるだけです。

反対に、もしもともと勘がよくて、打ち返すことができると、「なかなかやらはるやん」と尊敬してもらえるかもしれませんね。そして、もっとすごいボールが来るかも……。

ただ、たまに京都人にも下手な人がいて、打ち返そうとしたのに取りこぼしてしまったりだとか、相手にぶつけてしまったということになるような人もいるそうです。時には、そういうぶさいくな京都人が東京人をはじめ、ほかの土地の人に何か言ってきたりすることも。

でも、それはお互いさま。そのときは、よその人であるこっちが「クスッ」とすればいいのであって、別にどうということはないのです。相手が自滅したなぁというような感じで、「ひそかに楽しめばいい」のだそうです。

■イケズにも「反射神経」が重要

ここで、言葉のやり取りをスポーツにたとえましたが、実は脳の中で言語の運用をつかさどる言語野の一部は、運動野と一部共有される領域にあります。さらに、「暗喩の理解(まさに京都らしい感じですね)」など、より高次の言語の運用を担う領域は、空間認知や道具の使用をつかさどっている領域でもあります。

中野信子『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術』(日経BP)
中野信子『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術』(日経BP)

また、鋭い言葉を言われたときに切られたり、殴られたりしたような身体感覚を覚えることもありますよね。この高次な言語理解の領域は、体性感覚野の近傍にあるので、言語による痛みが身体感覚としてとらえられるというのも不自然な話とはいえないのではないかと考えられます。

これらのことを考え合わせると、イケズを理解するのはこの高次な言語の運用を担う部分である可能性があります。イケズを言い合っているときの京都人の脳を撮像することができれば、この領域が活性化していることがひょっとしたら見えるかもしれません。

実際、言葉によるやり取りが当意即妙で上手な人のことを、しばしば「反射神経がいい」という言い方をします。これは、運動野と言語野の関係などが知られる前から、感覚的、慣用的に、私たちが使ってきた言い回しだろうと思います。

このように、イケズの感覚と、スポーツで使う感覚とは、脳機能から見ても類似であるのではないかと考えることができるのです。イケズを会話の中で上手に使える人は、スポーツでも、それなりのトレーニングを積めば結構なレベルまでいくんだろうな、としばしば妄想してしまいます。

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中野 信子(なかの・のぶこ)
脳科学者、医学博士、認知科学者
東日本国際大学特任教授。京都芸術大学客員教授。1975年、東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2008年から10年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書に『サイコパス』『不倫』、ヤマザキマリとの共著『パンデミックの文明論』(すべて文春新書)、『ペルソナ』、熊澤弘との共著『脳から見るミュージアム』(ともに講談社現代新書)、『脳の闇』(新潮新書)などがある。

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(脳科学者、医学博士、認知科学者 中野 信子)

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