だから外食で揚げ物を食べてはいけない…アルツハイマー病を引き起こす「変質した油」の危険性
プレジデントオンライン / 2023年6月3日 9時15分
※本稿は、マックス・ルガヴェア、ポール・グレワル『脳が強くなる食事 GENIUS FOODS』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■食事は脳に影響を与える
90年代半ばに、ある発見がなされ、それが脳に関する科学者や医者の常識をくつ返した。
その発見とは、人間が生きているかぎり、新しい脳細胞が永続的に生成される、というものだ。ダーウィンが提唱した進化の偉大なる産物、つまり脳を受け継ぐ人類にとって、それは確かに歓迎すべきニュースだった。その前までは脳細胞の新生、いわゆる「神経発生」は、成長過程でのみ起きると考えられていたからだ。
それから20年以上が過ぎた今、徐々に解明される新たな知見のおかげで、あなたは今の生活をすっかり方向転換できる――つまり脳を守り、強化することができるのだ。
アルツハイマー病の研究を例に取ろう。アルツハイマー病は、神経細胞がどんどん死んでいく神経変性疾患で、アメリカでは500万人以上がこの病気を発症している(その数は、今後数年のうちに3倍になると予想されている)。そして食事が、この病気に何かしら影響を与えていると考えられるようになったのは、ごく最近のことだ。事実、この病気は1906年にドイツ人医師、アロイス・アルツハイマーが初めて記録したのだが、今、症状として知られているものの9割は、ここ15年ほどでわかってきたものだ。
今回は、脳に欠かせない重要な成分である多価不飽和脂肪酸について解説しよう。
食事から摂取する多価不飽和脂肪酸は、脳をはじめ体内のいたるところに存在している。最もよく知られる多価不飽和脂肪酸は、オメガ3系脂肪酸とオメガ6系脂肪酸だ。この2つは身体にとって必須の成分だが、体内で合成できない。そのため食品から摂らなければならない。
「よい脂肪」であるオメガ3系脂肪酸と同様、オメガ6系脂肪酸も脳を正常に働かせるための必須の成分だが、現代のアメリカ人は、これをリノール酸という形で過剰に摂取している。
このオメガ6系脂肪酸は、もともと自然食品を通して、わずかな量しか摂られていなかったが、ほんの数十年のあいだに、アメリカ人のカロリー摂取量への多大な貢献者となってしまった。オメガ6系脂肪酸は、主に穀物油や種子油に含まれている脂肪酸で、今や摂りすぎの傾向にある。
具体的にいうとベニバナ油、ヒマワリ油、キャノーラ油、コーン油、大豆油だ。
■脳に不可欠な「多価不飽和脂肪酸」が有害になる理由
多価不飽和脂肪酸は、脳に欠かせない重要な成分だが、化学的に不安定なため非常に「酸化」しやすい。
酸化とは、酸素が特定の分子と化学的に反応して、ダメージを受けた「ゾンビ」分子を新たにつくる現象だ。このゾンビ分子は「フリーラジカル」といわれ、きわめて反応性の高い電子を持っている。「きわめて反応性の高い」というのは、どんな反応なのか? このラジカルは、たとえるなら『ゲーム・オブ・スローンズ』のホワイトウォーカーの軍団を、反戦主義を掲げて行進するヒッピーのように見せかけるのだ。
フリーラジカルの電子は1つしかないため、すぐ近くにある分子から電子を奮ってペアを組む。本来、分子のなかの電子は2つあってペアを組んでいるため、そこからいつまでも終わらない連鎖反応が始まり、通った道筋に破壊的な大混乱を残していく。まさにゾンビが行進する終末世界のようなありさまで、1つの分子が隣の分子に噛みついて感染させるごとに、ゾンビ分子がどんどん増えていくのだ。
傷んでいない(これを「新鮮な」と呼ぼう)多価不飽和脂肪酸は酸化に弱いが、自然食品の場合は内部で、ビタミンEのような脂肪を守る抗酸化物質とひとまとめにされている。だが、加熱され化学的に処理された油に含まれる多価不飽和脂肪酸に、このような抗酸化作用はない。こうした油が抽出されて加工食品に使われると、食品供給においては主要な有害物の1つとなる。
こうした油は、市販のドレッシングやマーガリンなどに使われている場合がある。また、それよりも目立たない場所に隠れていることもある。クッキーやケーキ、グラノーラバー、ポテトチップス、ピッツァ、パスタ料理、パン、アイスクリームなど、穀物を原料とする菓子やスナック類には、酸化した油が特に多く含まれているという。朝食のシリアルをコーティングして、「ニス」の役目を果たしているものもある。「ローストされた」ナッツ類も、この油にまみれている(から煎り〔ドライロースト〕されていると明示されていないかぎり)。
■酸化した油脂の副産物「アルデヒド」の危険性
またレストランでは、このような油が加工されて不適切な形で保管され(たとえば、何カ月も気温の高い厨房(ちゅうぼう)に放置される)、それが料理のたびに出されて何度も加熱されるため、こうした傷みやすい油脂は酸化してしまう。今、ほとんどのレストランが、そんな油で食材を揚げたり炒めたりしており、同じ油を繰り返し使って、さらに劣化させている。それが胃袋に入って消化されると、あなたの身体にダメージが及ぶ。
では、フライドポテトはどうなのか? 天ぷらは? ビール入りの衣で揚げたチキンフィンガーは? どれもみな、この変質した油や「アルデヒド」という危険な化合物を山ほど口に運ぶものだ。
![フライドポテトを作る様子](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/c/1200wm/img_1cc4203b020bba2152c5dfc1a5e80fab239680.jpg)
アルデヒドは酸化した油脂の副産物で、アルツハイマー病に侵された脳にたくさん見つかっている。このアルデヒドは脳内のタンパク質と反応しやすく、アルツハイマー病の特徴である粘着質のプラークの形成に関わっているという説がある。アルデヒドは、脳と脊髄のエネルギーを生みだすミトコンドリアにとっても、強力な有害物質となる。
アルデヒドの曝露(ばくろ)(=変質した油を摂取することで起きる)は、エネルギーをつくる細胞の力に直接ダメージを与える。これは、体内でエネルギーを大量に消費している脳にとっては、非常に悪いニュースだ。
多価不飽和脂肪酸の油がたっぷり使われた料理を一度食べただけでも、脂質酸化マーカーが、若い人でおよそ50パーセント跳ね上がるが、劣化した油を摂取した高齢の被験者の場合、マーカーが15倍も上がることが観察されている。
別の研究では、同じような食事をとったのちに動脈がたちまち硬化し、運動ができなくなるという記録もある。このような本来の姿とはかけ離れた油は、慢性疾患のメカニズムに拍車をかけ、DNAを傷つけ、血管の炎症を起こし、いくつかのガンのリスクを高める。
■注意すべき不吉な油の種類
次に挙げるのは、注意すべき不吉な油だ。
![【図表1】注意すべき油](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/1/1200wm/img_c1dfe664ab2652cc5a7ca1a0cf4834cb93204.jpg)
食品業界が探し求めた安価な油が国民に販売されたが、それは多くの人に悲惨な結果をもたらすものだった。
確かに、今では私たちはトランス脂肪酸が本物のバターより身体に悪いと知っている。それでも、未だに無知というベールによって、「硬化油不使用」や「遺伝子組み換えではない」、そしてもちろん「オーガニック」などと表示されたバターイエローの容器に騙されつづけている。こういった健康的であることをアピールする謳い文句も、実のところは変質し、劣化し、熱で傷んだ安価なフランケンフードであることを覆い隠すためのものでしかない。そんなものが容器に詰められて、スーパーマーケットの高級な健康食品の売り場に並べられ、500~600円で売られているのだ。
![マックス・ルガヴェア、ポール・グレワル『脳が強くなる食事 GENIUS FOODS』(かんき出版)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/7/1200wm/img_87c751d7d16ad89f671b69ecb6aa3693285988.jpg)
綿実油、キャノーラ油、ベニバナ油、ヒマワリ油、大豆油――製造業者がこうした油を詰め込んだあらゆるところに、この悪いニュースが隠れている。
1965年から2011年までにアメリカ国内の成人が摂取した脂肪の総量は11パーセント減少しているのに、こうした油の使用量は、ここ100年で200~1000倍に跳ねあがっている(後者の数字は大豆油の使用量)。この種の油は、今やアメリカ人の総カロリー摂取量の8~10パーセント――世紀の変わり目には、ほぼゼロだった――を占めている。ひと握りのヒマワリの種やピーナッツ、トウモロコシの粒なら、まったく無害で健康的な食品かもしれないが、そこから工業的に絞り取られて高温で加熱された油に、安全な摂取量というものはない。
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映画製作者。「メドスケープ」「ヴァイス」「ファスト・カンパニー」「デイリー・ビースト」などのメディアに寄稿し、「NBCナイトリーニュース」や「ドクター・オズ・ショー」「ザ・ドクターズ」などのテレビ番組に出演、「ウォールストリートジャーナル」紙で紹介されるなど幅広く活動している。講演者としても人気を博し、ニューヨーク科学アカデミーや、ワイルコーネル医療センターなど権威ある学術機関に講師として招かれた。また、スウェーデンのストックホルムで開催されたバイオハッカーサミットでも講演を行った。2005年から2011年まで、アル・ゴアの「カレントTV」のジャーナリストを務める。主にニューヨークとロサンゼルスを拠点に活動を続けている。
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食生活とライフスタイルという視点から減量や代謝機能、不老長寿のための医療を実践し、講演も行っている内科医。彼自身45キロ近い減量に成功し、その体重を維持している。大きな誇りと情熱を持ちながら、患者が健康に生きるために楽しく続けられる、万人に適用できる療法を探る。ジョンズ・ホプキンズ大学で細胞・分子神経科学の学士号を取得。ラトガース大学メディカル・スクールで医学を学び、ノース・ショア・ロング・アイランド・ジューイッシュ・ホスピタルで研修課程を修了。MyMDメディカルグループを創設し、ニューヨークシティで開業、金融会社や健康管理会社のメディカルアドバイザーを務めている。
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(健康・科学専門ジャーナリスト マックス・ルガヴェア、内科医 ポール・グレワル)
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