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この20年で100万円が4億円超に化けた…半導体大手「エヌビディア」が史上8社目の1兆ドル企業になった背景

プレジデントオンライン / 2023年6月5日 9時15分

台北国際コンピュータ見本市(Computex Taipei 2023)で基調講演を行うエヌビディアのジェンスン・フアンCEO=2023年5月29日 - 写真=Sipa USA/時事通信フォト

■「一兆ドル企業」の仲間入りを果たした

5月24日、米半導体大手エヌビディアは、2023年2~4月期決算を発表した。売上高は前年同期比13%減の71億9200万ドル(1ドル=140円換算で約1兆円)。純利益は同26%増、20億4300万ドル(約2860億円)だった。

増益の主要因は、“チャットGPT”に代表される、マイクロソフトなどが実用を急ぐ生成型AIの需要増加だ。

足許、AIを活用してごく短期間で人々が専門技能に習熟することなどが目指され始めた。中期的に、生産、事務などの自動化は加速するだろう。それは、企業の事業運営の効率性向上に大きく影響する。頭(脳)でイメージした通りに、クレーンや建設機器を自分の腕のように動かす日も実現するかもしれない。そのためにAI供給の増加は欠かせない。

決算発表後、そうした期待からエヌビディアの株価は上昇した。5月30日には419ドルまで上昇し、上場来高値を更新した。時価総額は一時1兆ドル(約140億円)を超え、巨大IT企業に並ぶ史上8社目の1兆ドル企業となった。

20年前、エヌビディアの株価は1ドル前後だったことを考えると、直近の株価は400倍超に高騰している。20年前に100万円分のエヌビディア株を購入した人は、4億円の価値を手にしたことになる。

■半導体業界は総崩れ状態だが…

2月~4月期、エヌビディアの利益は大方のアナリスト予想を上回った。業績は徐々に底を打ちつつある。ポイントは、生成型AI開発体制の急速な強化だ。同社はゲーム機用の半導体製造ラインの一部を生成型AIに振り向け、需要を取り込んだ。

足許、世界の半導体は総崩れだ。主たる要因として、スマホ、パソコン、巣ごもり需要の反動減などは大きい。メモリ分野では、韓国のサムスン電子とSKハイニックスの業績は悪化した。

ロジック半導体の分野では、微細化(半導体の回路線幅をより細くする技術)に遅れた米インテルの収益悪化が鮮明だ。製造技術の向上が遅れた分、インテルはプロダクト・ポートフォリオ全体で利益率を引き上げることが難しくなっている。スマホなどの需要減によって、世界最大のファウンドリ(半導体の受託製造に特化した企業)である、台湾積体電路製造(TSMC)の業績拡大ペースも鈍化した。

■ビッグデータに必要なチップの需要が急増

アナログ半導体セクターでは、米テキサス・インスツルメンツなどの業績懸念が高まった。民生用の電子機器、BtoB分野でのデータセンタ向けチップの需要減少が響いた。世界的に顧客は過剰在庫を抱え、発注の遅延、キャンセルも増えた。

2022年2月~4月期以降、エヌビディアの収益拡大ペースも鈍化した。データセンタ、ゲーム機向け半導体需要の減少は大きかった。だが2022年11月以降、同社の業績に底入れの兆しが出始めた。主たる要因は、チャットGPTなど生成型AIの利用急増だ。

チャットGPTが文書を作成したりするためには、膨大なデータを学習(深層学習という)しなければならない。膨大なビッグデータを扱うチップの設計・開発においてエヌビディアの比較優位性は高い。

昨年後半以降、エヌビディアはマイクロソフトなどが必要とする生成型AIに対応した“H100”の供給体制を強化した。競合相手が少ない最先端の分野であるため、利益率は高い。その結果、エヌビディアが発表した2月~4月期の利益、今後の業績予想ともに予想を上回った。

■フアンCEOの「誰もがプログラマーになれる」の真意

今回のエヌビディア決算は、生成型AI利用の急増を確認するために重要だ。自動運転、工場運営の効率化、タクシーやライドシェア時の最適なルート設計など、同社のチップ需要は増えている。省人化、自動化の加速を目指し、エヌビディアと提携する企業も世界的に増加している。

5月29日、台湾での講演でジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は「AIにより、コンピュータに話しかけるだけで誰もがプログラマーになれる」と述べた。その真意は、AIがわたしたちの生活やビジネスを劇的に変化させる可能性が高いということだ。

現在、日常生活の中でAIは家電などの操作をするために用いられることが多い。アップルのiPhoneを使う人であれば「ヘイ、シリ(Siri)」、グーグルであれば「OK、グーグル」、アマゾンなら「アレクサ」と呼びかける。次に「3分測って」と具体的な指示を出す。Siriなどに複雑な計算をするよう指示すると、「わかりません」と答えることも多い。リモコンの延長線、が現在のAI利用の実態といえる。

■目指しているのは“ドラえもん”の世界?

フアンCEOがチャットGPT、その先に見据えるものは異なる。わたしたちは生成型などより演算能力の高いAIを搭載したデバイスに話しかける。質問やリクエストにデバイスが自律的に対応し、文書の作成、学習支援などを行う。ユーザーの声のトーンなどをAIが分析し、心理状況に配慮した情報の提供、行動を共にすることが実現するかもしれない。

フアンCEOは漫画の“ドラえもん”が現実になる世界を目指していると考えられる。自律的に演算し、移動する装置がわたしたちと共に行動する。困ったときに、デバイスに話しかける。デバイスはユーザーのニーズを理解し、シミュレーションなどを行う。

VRゴーグルをかけた女性のイメージ画像
写真=iStock.com/ASKA
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ASKA

それが実現すれば、わたしたちの生き方は劇的に変わるだろう。量子コンピューティング技術の向上も加わり、最適な生産プロセスの確立、より高い成果が期待できる学習方法などを実践する可能性は高まる。そうした期待の高まりが、決算発表後のエヌビディアの株価上昇を支えた。

■エヌビディアが期待するのは日本企業の“強み”

今後の展開として、エヌビディアは生成型AI、さらに高性能なAI利用の増加を目指すだろう。そのために、同社は本邦企業との連携を強化する可能性が高い。2016年、エヌビディアは産業用ロボットメーカーのファナックとの協業を発表した。狙いは、わが国企業の強みである“すり合わせ技術”を活用し、最新のAIが搭載される高付加価値製品の創造につなげることだった。

エヌビディアは主にチップの設計、開発(ソフトウエア)に選択と集中を進めた。その上で同社は生成型AI向けのチップなど新規分野への参入を強化した。台湾のTSMCや聯發科技(メディアテック)はチップの製造を受託する。チップが収益を生むには、それが搭載される最終製品(ハードウエア)が欠かせない。

足許、わが国ではTSMCやサムスン電子、米インテルやマイクロンテクノロジーなどが直接投資を積み増した。地政学リスクへの対応に加え、超精密な半導体製造装置、極めて純度の高い半導体部材を製造する技術への要請も高まっている。エヌビディアが事業領域を拡大して需要を生み出すために、本邦企業の製造技術の重要性は高まるだろう。

■IT後進国から脱する成長機会でもある

なお、生成型AIに関して、“ディープフェイク”、偽情報の拡散による社会心理の不安定化、著作権侵害など懸念は多い。その反面、AIは生産性向上など、わたしたちにプラスの価値ももたらす。

4月に全米経済研究所(NBER)の研究者は、業務における生成型AIの利用可能性に関する論文を発表した。ソフトウエア企業の顧客サービスに生成型AIを用いた結果、短期間で初心者でも顧客の問題を解決する説明が可能になった。生産性は向上した。

わが国にはエヌビディアに匹敵する半導体企業はない。わが国全体が生成型AIの利用に対応して経済成長を目指すために、AIを搭載し、安心、安全に利用できるデバイス創出は急務といえる。

そうした取り組みを進める企業の増加は、わが国がIT後進国から脱却できるか否かに大きく影響するだろう。世界経済の先行きは楽観できないが、わが国の企業は潜在的な成長機会を確実に収益につなげなければならない。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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