医師は「子どもはもういいですか」と聞いた…45歳で初産の妻が吐露した「10センチの子宮筋腫と妊娠前の苦悩」
プレジデントオンライン / 2023年6月11日 11時15分
※本稿は、中本裕己『56歳で初めて父に、45歳で初めて母になりました 生死をさまよった出産とシニア子育て奮闘記』(ワニ・プラス)の一部を再編集したものです。
■育児をしつつ考えてしまう自分たちの介護問題
2歳になった。成長が日を追うごとに早くなっている。
息子のオムツを替えるのも、だんだん手馴れてきた。うんちをしたときは近寄ってきて、「ウンシ……」と小声でオムツ替えをせがむようになった。間もなくトイレトレーニングが始まるだろう。
哺乳瓶が、いつの間にか乳児用のコップに替わった。泣き声でミルクを欲しがっていたのが、「チャ!」と言葉に出して、麦茶を求めるようになった。
![息子にとって生まれて初めての節分。](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/f/1200wm/img_8f8cd90cae2ced7ffb65cac71e62c856511378.jpg)
離乳食が始まったときは、スプーンで口に運んであげた。少しずつ手づかみで食べることを覚えた。やがて、スプーンやフォークが使えるようになり、幼児用の補助イスを固定するベルトを外しても危なげなく食べられるようになった。
赤ちゃんのときは、一生懸命ハイハイをしていた。やがて防護柵につかまり立ち。そして手を離して自立歩行ができるようになって、防護柵の意味もなくなりつつある。
毎朝、着替えを担当してきたが、オムツ、肌着、ズボン、Tシャツ……と、着せ替え人形のように、されるがままだった。それが、「お首は?」と言えば自分から頭を出し、「たっちして」と指示すればズボンに片方ずつ足を通せるようになっている。
赤ちゃんのときは、空気でふくらませた小さい沐浴用のプールにそおっと体を浮かべて洗っていた。目にお湯が入っただけでギャアギャア泣いていたのが、シャワーで頭を丸洗いしても平気になり、湯舟でバシャバシャはしゃぐほど風呂が大好きになっている。
ヒトより寿命が短い動物は、産まれてすぐ4本足で立つ。そうしないと、弱肉強食の世界で生きてはいけない。ヒトは、ある程度の年齢まで親が見守ってやらなければ、外敵から身を守れない。進化しているようでほかの動物よりもの覚えは遅い。それでも2歳にもなると、かなりのことが自分でできるようになる。
子を持つ親は、みんなそうだと思うが、毎日、ダーウィンの進化論を見ているような楽しみがある。
■こんなに育児が面白いとは
育児書では、困ったときの対処法ばかりが強調して書かれている。また、世間一般に、「育児って大変なのよ」「子育ては、苦労の連続だ」ということばかりが広まっている。
もちろん、大変なことも多く、苦労も尽きない。これからもっと大変だろうが、それらを補ってあまりある楽しい発見が日々、たくさんある。
「こんなに育児が面白いとは。早く言ってよ! という感じだよね」
妻とよく、そう言い合って笑うことがある。これは50代と40代(まもなく、60代と50代)という人生経験を経てきてしまったパパとママだからということもあるだろう。
しかし、もっともっと、子育ての楽しさとかやりがいが世間に広まらないと、理屈ばかりが先行する少子化対策は、前に進まないだろうと実感している。
ウチは大変な思いをして子どもが産まれたから、余計にそう思うのかもしれないが、もっともっと大変な家庭はいくらでもある。肝心なのは、そうして子どもが産まれたことの尊さ、かけがえのなさであり、日々の暮らしがいい意味で一変するということをもっともっと知ってほしい。
■育児と介護は似たところがある
そして、子どもの“進化”を見ながら、常にもう1つのことが頭をよぎる。
育児と介護は似たところがあるなあ、と思うのである。特に還暦が迫る私にとっては、育児と老後がそう遠くないところにある。
この項の冒頭で書いた、オムツ、飲食、歩行、着替え、入浴などに助けが必要なのは、育児と介護の共通項だ。
街中を見回すと、保育園や幼稚園などの保育施設と、高齢者の通所リハビリテーション(デイケア)施設や老人ホームが、同じぐらいの規模と数で地域ごとに点在している。
最近では、保育施設と高齢者施設を同じ法人が管理していて、棟続きになっているケースも珍しくなくなってきた。
普通、若いパパママは、育児をしながら自分の老後のことなど考えないだろうが、介護する、介護されるときのことを考えてしまうのは、この年ならではだろう。
もちろん、小さい子と、老人の世話をするのとでは、日々のルーティンワークに要する体力的な負担の差はかなりあって想像を絶する苦労なのだと思うが、老後が迫る中で育児に参加することで、人間にとって大切なことを学べているような気がするのだ。
■妻が、そんな大変な思いをしていたとは
夢中で育児に追われ息子の寝かしつけにも慣れてきた。
息子が1歳になってしばらく経ったある日の深夜、妻から出産に至るまでの迷いを根掘り葉掘り聞いてみると、驚くべき事実を知った。
![1歳の誕生日。](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/5/1200wm/img_7580110e8ee75e22234c56540166d4ae471627.jpg)
というか夫婦に会話がなかったわけではないので、断片的には聞いていたのだが、「そんな大変な思いをしていたとは」と、わが鈍感力を呪い、まったく夫というのはなんの役にも立たないなあと痛感したのである。
これから書くことは、大げさに言えば、「息子が産まれることで母体が危険にさらされたことが、じつは母親の命を救っていた」という話である。
■徐々に膨張していた子宮筋腫
妻は、今から15年ぐらい前、30代の頃から子宮筋腫があったのだという。
「子宮筋腫があること自体は女性にとって珍しくないんだけど、私の場合はそれが大きくて、徐々に膨張していたのよ。(10年前の)結婚したあたりで6センチはあったかな。年に1回は経過観察をしてくださいと主治医に言われていたの」
なかなか男性には実感が湧かないが、女性全体の約3割には子宮筋腫があると言われる。
子宮筋腫は良性の腫瘍なので、それ自体が悪さをすることはなく、健康上問題ない人も多い。また、年を重ねると閉経とともに筋腫は縮んでいく場合が多いそうだ。
ただ、大きいという事実は問題だった。普通に考えてお腹の中に6センチ大のものがあったら、相当、周囲の臓器を圧迫するだろうなあと想像する。
ちなみに、私は30代のときに胆石に悩まされ胆のう摘出の手術を受けたところ、3センチほどの石がコロンと出てきた。これが出るまでは七転八倒の痛みで、よく「出産と同じぐらいの痛み」とたとえられる。妻はそうした痛みはなかったそうだが、腫瘍が大きくなっていく不安は想像がつかない。
■6センチの筋腫が10センチに
で、この子宮筋腫というのは、そのものは良性と書いたものの、女性の体への影響は少なくない。2、3センチ大の筋腫でも、場所によっては重い生理痛や生理不順などの症状をもたらすという。さらに筋腫が大きくなると、「妊娠しにくくなる」ケースもあるという。
そんなわけで、結婚当初から「私は、子どもができないかもしれない。それでもいいですか」と言われ、「もちろん、まったく問題ないよ」というような会話をした記憶もうっすらと蘇(よみがえ)った(うっすらで、すみません)。
妻の場合、筋腫の数が多いのも心配ごとだったという。
「大きいのが1つあるうえに、私の場合は“多発性”で、ほかに小さいのも2つ3つ育ってた。女性ホルモンで育ってしまうんですって」
経過観察を続けるうちに、6センチだった大きい筋腫が5年前には10センチにまで育っていた。
■まさか子どもが産める体だと思わなかった
「婦人科の先生が、『ちょっと大きくなってきましたね。どうしますか?』って。生理痛が重いことはあったけど、ほかに体に不調はなかったので、すぐにどうこうしようということにはならなかった。ただ、『人によっては生理不順や痛みとか、ほかの臓器への圧迫で、社会生活に影響が出ることもありますよ』と警告はされていたのよ」
このときの医師の「どうしますか?」は、近い将来に手術を検討すべきだという意味だった。手術には、「子宮全摘術」と、筋腫だけを取る「筋腫核出術」がある。また、筋腫を小さくする治療などもあるようだ。
妻が続ける。
「たまたま筋腫のあった場所が、子宮のうしろ側で腸などを圧迫せず、自覚症状があまりないまま成長していたの。それで、結果的に赤ちゃんができたときも、赤ちゃんを圧迫せずに済んだんだけど。その頃は、まさか子どもが産める体だとは思わなかったの」
子宮筋腫の肥大化でもやもやする一方で、妻の心配ごとはさらに増えていった。
年に1回受けていた女性健診で、2019年9月に、子宮頸ガンの疑いが発覚したのだ。妻が明かす。
■子宮頸ガンの疑いで精密検査
「『子宮頸ガン疑い』の中でもいちばん軽い状態で、『子宮の入り口の細胞に変形が見られる軽度異形成』という検査結果だったの。それでも、『ガン疑い』という言葉は怖かった。それで、文京区内のクリニックでさらに精密検査を受けることになって……」
![中本裕己『56歳で初めて父に、45歳で初めて母になりました 生死をさまよった出産とシニア子育て奮闘記』(ワニ・プラス)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/0/1200wm/img_1030b5cf5e00a16f2d95314a95adb75c181824.jpg)
精密検査は、子宮頸部の一部を削り取る「組織診」と呼ばれるもので、「痛くて、出血もかなりあった」そうだ。精密検査の結果は、やはり、「子宮頸ガン疑い」の軽度のもので、「半年に一度、経過観察が必要」という診断結果だった。
加えて、内診とエコー検査の結果、「子宮筋腫がこれだけ大きいと、手術をしたほうがいい。筋腫が血管を圧迫して血栓ができる可能性もある。そうなれば命に関わります」と、心配に追い打ちをかける警告もあった。
それで妻は、さらに別のクリニックで子宮のMRI検査を受けることになった。寝ている状態で大きなトンネル状の形をした機械が通過し、体の中や臓器が磁気の共鳴によって撮影され、輪切りや任意の断面が映し出される、あの装置である。
その結果は――。
「子宮筋腫は大きすぎるので、腹腔鏡などで筋腫だけを取るのは困難。開腹で筋腫だけを取るのはリスクが大きく、子宮全摘を考えてもいい時期だ」というのが医師の見解だった。
■医師が投げかけた「子ども、もういいですか?」の意味
妻が振り返る。
「カルテにある私の年齢を見て、『子ども、もういいですか?』って言われて……。そのとき44歳になってたから。そうか、『もういいですよね』と言われる年かと。そういう年になったのかって、このとき現実に直面したのよね」
妻は、9月に精密検査して、10月にそう宣告されていた。
この間、私はいったいなにをしていたのか。
LINEの妻とのやりとりで振り返っても、熱海に1泊旅行をしたり、浅草の「まつり湯」という日帰り温泉に行ったりして、妻とは飲んだくれていた記録しか残っていない。
なんてことだ!
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産経新聞社 夕刊フジ編集長
1963年、東京生まれ。関西大学社会学部卒。日本レコード大賞審査委員。浅草芸能大賞専門審査委員。産経新聞社に入社以来、「夕刊フジ」一筋で、関西総局、芸能デスク、編集局次長などを経て現職。広く薄く、さまざまな分野の取材・編集を担当。芸能担当が長く、連載担当を通じて、芸能リポーターの梨元勝さん、武藤まき子さん、音楽プロデューサー・酒井政利さんらの薫陶を受ける。健康・医療を特集した新聞、健康新聞「健活手帖」の編集長も兼ねる。48歳で再婚し、56歳で初めて父親になる。
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(産経新聞社 夕刊フジ編集長 中本 裕己)
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