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メタボ健診の「腹囲測定」はアテにならない…そんな健康診断で「本当に注意するべき項目」を医療記者が解説する

プレジデントオンライン / 2023年6月7日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sefa ozel

健康診断で「メタボリックシンドローム」の基準に引っかかったら、どうすればいいのか。医療記者の朽木誠一郎さんは「メタボ健診は『人を健康にする効果に乏しい』という研究結果もあり、あまり気にしなくてもいい。ただし、健康診断そのものは『受けて終わり』にしてはいけない」という――。

※本稿は、朽木誠一郎『健康診断で「運動してますか?」と言われたら最初に読む本 1日3秒から始める、挫折しない20日間プログラム』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■“メタボ疑惑”は、便秘のせい?

なぜ前回の健康診断で、実際には問題なかった私が、メタボリックシンドロームの基準に引っかかってしまったのでしょうか。原因として可能性が高いのは「お通じ」です。

長年ダイエットを繰り返した経験から、お通じ、つまり便秘がバカにできない負のインパクトを与えることを、私はよく知っています。便秘気味のとき、体重が平気で1~2キロ増えてしまう経験に思い当たる人は、だいたい同志です。お通じが滞れば、物理的にお腹がぽっこりしてきます。単純な重量だけでなく、ガスが溜(た)まるなどして、常に「お腹が張っている」状態に。

ここで都合の悪いことに、メタボのチェックでは、腹囲はウエスト周囲計、つまりおへその高さの腹囲を測ることになっています。単純に、お腹が張っていれば、それだけ腹囲が増えてしまうのです。

お通じがよくない状態で、お腹が張っていると、腹囲5センチ増なんてあっという間です。慢性的な便秘が続けば、10センチ増だってあり得ます。

■便秘のせいで脂肪5~10キロ増と同じことに

厚労省の2019年の調査(※1)では、便秘を自覚している人は、人口1000人あたり男性で34.8人、女性で43.7人。健康診断のとき、一部の人は本来の腹囲よりも大きくなっている可能性が高いのです。

単純に脂肪が増えていた場合、太くなった腹囲1センチは、脂肪ほぼ1キロに相当するとされます。お通じが悪いだけで、脂肪5~10キロ増と同じことに。これを「定期的な運動」「適切な食習慣」で解消しようとしたら、本来、そこそこストイックに取り組んでも、半年~1年くらいかかるでしょう。

ちなみに、よくダイエット企画などで「2週間で5キロ」などと華々しくアピールされることがありますが、その中には5キロ分の便秘が解消されただけ、あるいは水分が汗や尿として出ただけ、というケースも多いとみるのが自然です。

便秘のせいで脂肪5~10キロ増と誤解され、メタボと判定、健康診断で引っかかってしまうとしたら、何だかバカバカしいですよね。

でも、今回の私の騒動は、実はメタボ健診そのものの問題と、同じ轍(てつ)を踏んでいるのです。

■「人を健康にしない」メタボ健診の真実

今や「メタボ(リックシンドローム)」という言葉は、不健康の象徴です。

でも、そもそもメタボって、何なのでしょうか。先に答えると、これは肥満の種類です。肥満のうち「a.内臓脂肪が蓄積したもの」に、「b.高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさる」ことで、心筋梗塞(こうそく)や脳卒中などになりやすい状態のことを指します。

これを解消するために、リスクが高い人を発見し、指導につなげるのが、いわゆるメタボ健診(=特定健康診査)です。メタボ健診が始まったのは2008年4月。内臓脂肪の多さが腹囲の大きさに反映されると考えられ、腹囲「男性85センチ以上」「女性90センチ以上」がメタボの1つ目の条件とされました。

しかし、そもそもボディビルダーのように腹囲が大きくても内臓脂肪が少ない人、その逆で、腹囲が小さくても内臓脂肪が多い人もいます。個人差、同じ人でも日によって、時間帯によっても変動するため、腹囲だけで判定するというのは、当てになりません。

■メタボ健診は「人を健康にする効果に乏しい」

そこで、腹囲は必須(ひっす)項目として、2つ目の条件である「血圧」や「血糖」「血中脂質」など血液検査の項目が設けられました。一方で、「腹囲は基準以下だが、血液検査の値は異常」という人が、メタボ健診をすり抜けてしまうことが、長らく問題とされてきました。

私の“メタボ”騒動では逆に、腹囲を1つ目の条件にしていることで、私のように血液検査に問題ない人を捕まえ、血液検査に異常がある人をスルーする構図に。

このように、まず腹囲でチェックすることで起きるトラブルもあるのです。

しかも、15年ほど続くメタボ健診は、近年の研究で、「人を健康にする効果に乏しかった」という衝撃的な指摘がなされています。

これは京都大学の福間真悟(ふくましんご)さんらが2020年に発表した研究(※2)で明らかになったこと。この研究は国内では大規模なもので、メタボ健診を受けた40~74歳の男性約7万5000人が参加しました。

参加者の体重と腹囲は1年後、それぞれマイナス0.29キロ、マイナス0.34センチとわずかに減少したものの、血圧、血糖値、血中脂質などは改善されませんでした。さらに1~4年間、追跡をすると、体重と腹囲は3~4年後に差がなくなる、つまり、メタボ健診をやってもやらなくても変わらなかったことが明らかになったのです。

■健康診断は、実は結構いい加減なもの

また、福間さんらは、2022年に発表された研究(※3)でも界隈(かいわい)をザワつかせました。というのも、メタボ健診が今のように国を挙げて推進されるのは、生活習慣病を防ぐことで、医療機関の受診が減り、医療費の削減につながると期待されたから。

その効果を検証するため、約5万人を調査。その結果、メタボ健診により受診率は低下したものの、医療費抑制効果は認められませんでした。福間さんらは「費用が高額(年間約160億円)であることを考慮し、そのシステムを再評価する必要がある」としています。

もともと、いわゆる生活習慣病や、心臓病や脳卒中を防ぐために始まったメタボ健診。認知度が高いわりに、実は効果に乏しいとはっきりしたことは驚きでした。

メタボ健診の例からわかるのは、健康診断というのが、実は結構いい加減なものであるということ。

他にもつい最近(2022年11月)、国内の栄養学のトップである国立医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN)らが有名誌『Science』で発表した研究(※4)では、こんなことが明らかになっています。実は、成人では1日で体の全水分の10%が失われており、最低でも1日1.8リットルの水分が必要。失われる水分量を正確に突き止めた世界でも珍しい研究でした。

■それでも健康診断は受けたほうがいいワケ

ここで、私の体重などの条件で4リットル=4キロだとすると、健康診断を朝に受けた場合と午後に受けた場合で、水分量の違いだけで体重に数キロの差が生じ得ることに。1年に1回というスパンなのに、このように、一発勝負なのも頭が痛いところです。

では、健康診断はただ面倒で、結構いい加減な、意味のないイベントなのかと言えば、それは違います。

考えてみてください。こんなにもポジティブな要素がないのに、1年に一度、面倒でも健康診断を受けるという習慣は、国民的に根づいているのです。他の何が続かない人でも、年に1回以上の健康診断は受けている、これはすごいことだと思いませんか。

患者は、医師の診察室の待合室でソファで順番を待っています。
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

私は、このほど上梓した『健康診断で「運動してますか?」と言われたら最初に読む本 1日3秒から始める、挫折しない20日間プログラム』(KADOKAWA)のまえがきで、健康になるにはルーティン、すなわち習慣が必要だと強調しています。だとすると、健康診断はある意味で、すでに最強のルーティンなのです。

■一番やってはいけないのは「受けて終わり」

では、健康診断で本当に健康になるには、どうすればいいのでしょうか。

1つには、「一喜一憂しなくていい項目」と「注意するべき項目」を把握することがあります。腹囲や体重といった項目は、実はそこまで気にする必要はありません。逆に、血圧、血糖値、血中脂質などは、前述したように心筋梗塞や脳卒中などのリスクになるため、気にする方がいいでしょう。これもまた、健康診断についての正しい知識です。

もう1つは、健康診断を「受けて終わり」にしないことです。健康診断の結果に応じて、行動を起こすことが、健康になるためには不可欠です。

それなのに、リーフレットが手渡されるだけ、メールが来るだけというのが、今の健康診断の最大の問題とも言えます。ここで「定期的な運動」「適切な食習慣」と言われたとて、それがさまざまな理由でできない私たちには漠然としすぎていて、手を出せません。

まずは、必要な行動を具体的なルーティンまでとことん落とし込むこと、そして、そのルーティンが生活に組み込まれるまでサポートすること、この2つができれば、人は健康診断で本当に健康になれるのです。

■ダイエットの前にまずお通じを良くしよう

そこで、私はまず、お通じの問題に取り組むことにしました。正しい知識を持ち、実践し、習慣にするというサイクルを、ひとまず身近な便秘の解消に回してみるのです。

電子座席自動フラッシュ、日本様式便器、高技術衛生陶器トイレ。
写真=iStock.com/Ratchat
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ratchat

私はダイエットに成功した後も、いわゆるぽっこりお腹で、お通じが出たり出なかったりと不規則。出ない日はどうしても不快感がつきまといます。増加してしまった脂肪の減量は後に回すとして、まず、ルーティンの効果を自分で検証するという狙いでした。

医師も治療のときに参照する『慢性便秘症診療ガイドライン 2017』では、便秘の解消に有効なのは食事と運動です。例えば食事について「1日3食きちんと摂取する」ことは目新しさがありませんが、朝食が体内リズムを整え、胃や腸を刺激し、排せつの反射を促しやすくすることがわかっています。

また、特に朝、食後にトイレに「とりあえず座ってみる」ことで、排せつのリズムが整えられやすくなることが、専門家らによって勧められています。

そして、よく言われるものの、意外と実践できていないのが、水分をしっかり摂取すること。便が柔らかくなり、排せつしやすくなることが知られています。

そこで私が朝のルーティンにしたのが、以下の3つの習慣です。

■3つのルーティンだけでも1週間で効果アリ

▼朝食をとる(プロテインを流し込むだけでいいとする)
▼トイレにとりあえず座ってみる(出ても出なくてもとにかく座ることが大事)
▼水を意識して飲む(午前・午後・夜で500ml1本ずつが目標)

便秘を解消する3つのルーティン
出典=『健康診断で「運動してますか?」と言われたら最初に読む本 1日3秒から始める、挫折しない20日間プログラム』(イラスト:安賀裕子)
朽木誠一郎『健康診断で「運動してますか?」と言われたら最初に読む本 1日3秒から始める、挫折しない20日間プログラム』(KADOKAWA)
朽木誠一郎『健康診断で「運動してますか?」と言われたら最初に読む本 1日3秒から始める、挫折しない20日間プログラム』(KADOKAWA)

さて、このルーティンを実践してみたところ、私は1週間ほどでお通じがよくなりました。もともと出るときは出るタイプなので、体にリズムがついた印象です。なお、これは拍子抜けするほどラクにできたケースなので、もともとしつこい便秘に悩んでいる方がいたら、医師や近所の薬局の薬剤師さんに、お薬について相談してみるのもいいでしょう。専門家の指導の下で服用すれば、効果は抜群です。

とはいえ、中長期的に便秘を解消するのは「定期的な運動」「適切な食習慣」です。ぐるぐるしてしまうというか、健康的な生活ができないと、どんどん不健康になる負のスパイラルがあることが見えてきて、ツラいですね。脂肪がついたなら、その減量もしなければなりません。そのための運動と食事については本書で手厚く説明します。

ここでは、ただ「便秘を解消せよ」と言われるより、3つのルーティンまでブレークダウンする方が、具体的な行動のイメージがつきやすいことが伝わったのではないかと思います。

※1:『2019年 国民生活基礎調査』厚生労働省により2019年に実施。訪問・回収方式(一部は郵送)で30万世帯、72万人を対象にした。
※2:Fukuma, S., et al., Association of the National Health Guidance Intervention for Obesity and Cardiovascular Risks With Health Outcomes Among Japanese Men - JAMA Intern Med. 2020 Dec 1;180(12):1630-1637.
京都大・福間らにより2020年に発表された研究。メタボ健診を受けた40~74歳の男性約7万5000人が参加した。メタボ健診をしてもしなくても、3~4年後までには体重や血液検査の値に有意差がなくなることを明らかにした。
※3:Fukuma, S., et al., Impact of the national health guidance intervention for obesity
and cardiovascular risks on healthcare utilisation and healthcare spending in working-age Japanese cohort: regression discontinuity design - BMJ Open. 2022 Jul 29;12(7):e056996.
京都大・福間らにより2022年に発表された研究。メタボ健診を受けた男女約5万人が参加した。メタボ健診により受診率は低下したものの、医療費抑制効果は認められなかった。
※4:Yamada, Y., et al., Variation in human water turnover associated with environmental and lifestyle factors - Science. 2022 Nov 25;378(6622):909-915.
国立医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN)らにより2022年に発表された研究。成人が1日に失う水分量を正確に導く計算式を明らかにした世界でも珍しい研究。

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朽木 誠一郎(くちき・せいいちろう)
ライター・編集者
地方の国立大学医学部医学科を卒業後、新卒でメディア運営企業に入社。その後、編集プロダクション・有限会社ノオトで基礎からライティング・編集を学び直し、BuzzFeed Japan Medicalの立ち上げに従事。現在は大手報道機関に勤務しながら、個人としても雑誌『Mac Fan』や『Domani』公式サイトなどで執筆中。主著に『健康を食い物にするメディアたち』(ディスカヴァー携書)。近著に『医療記者のダイエット 最新科学を武器に40キロやせた』、『健康診断で「運動してますか?」と言われたら最初に読む本 1日3秒から始める、挫折しない20日間プログラム』(KADOKAWA)がある。

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(ライター・編集者 朽木 誠一郎)

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