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ジムでの長時間の筋トレはむしろ寿命を縮める…筋トレは「1日1回3秒からで十分」といえる科学的理由

プレジデントオンライン / 2023年6月8日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

ダイエットや筋トレが続かない人は、どこに問題があるのか。医療記者の朽木誠一郎さんは「筋トレに対して『キツい』『長時間』といった思い込みを捨てること。最近の研究では、筋トレは『1日1回3秒』からでも効果が得られることが分かっている」という――。

※本稿は、朽木誠一郎『健康診断で「運動してますか?」と言われたら最初に読む本 1日3秒から始める、挫折しない20日間プログラム』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■7割の人は筋トレを全くしていない

「筋トレがブーム」と一時期よくメディアで紹介されました。でも、本当に?

全国の男女10万人(各5万人)を対象にした調査(※1)によると、週1回以上筋トレをする習慣がある人は全体の13.5%でした。そして、直近1年間で筋トレを「全くしなかった」と回答した人は77.1%でした。

あんなに盛り上がっているように見えたのに、実際には筋トレをしている人は、かなりの少数派だったのです。

でも、これって当たり前ですよね。だって、私たちには時間と気力がないのです。それなのに、世の中の筋トレへの精神的なハードルは、筋トレブームによって、かえって上がってしまったと言えます。

ゴールドジムのような有名ジムで、鍛え上げられたマッチョの方々が、歯を食いしばりながらストイックに己を追い込む――筋トレにはすっかりそんなイメージがつきました。自己啓発を絡めた筋トレの情報発信が人気になる一方で、それを「脳筋(「脳みそまで筋肉」の略)」と揶揄(やゆ)する向きも現れました。ただ、いずれにせよ、ほとんどの人は筋トレをしていません。

■「キツい」「長時間」という思い込みが運動を遠ざけている

もちろん、ハードな筋トレを愛することは尊いのですが、仕事や子育てで忙しくする中で、「ああはなれない」と諦(あきら)めてしまった人の方が多いのではないでしょうか。

「筋トレね、いいよね」とわかってる感を出しながら、やらない。私自身、仕事や子育てが忙しく、+5キロしてしまったこの3カ月、そんな状況でした。

しかし、です。人間とは強(したた)かな生き物で、ピンチの時に思わぬ活路を見つけることがあります。それがコロナ禍で、多くの人が時間や気力を奪われ、運動不足になった中で進んだ、医学研究の数々です。

僕はこれまで、運動は「キツいことを」あるいは「長時間」しなければいけないというのが思い込みだと繰り返し、述べてきました。こうした思い込みは、筋トレブーム然(しか)り、人を運動から遠ざけてしまいます。

筋トレも、健康のためなら実は、「超手軽」でよかった。それを裏づける研究が、この数年、次々に発表されています。

■なんと「1日1回3秒」から効果が得られる

その1つが、「筋トレは想像よりもはるかに低コストで始められる」というもの。

2022年2月、地方のある医療系大学が発表したある研究(※2)が、国内ばかりか世界を騒がせました。そのセンセーショナルな内容によれば「筋力トレーニングは1日3秒でも効果がある」ということでした。

新潟医療福祉大講師の中村雅俊(なかむらまさとし)さん、大学院生の佐藤成(さとうしげる)さんらによるもので、スポーツ医学の国際誌に掲載されました。コロナ禍で運動不足が指摘される中、「時間がない」など筋トレを継続する上でありがちな壁に対し「どこまで手軽でいいのか」を探るものでした。

コロナ禍以前、運動と健康の関連を調べるものでは、「何をすると健康にいいのか」といった、いわば“足し算”の研究がほとんどでした。こうして“引き算”でミニマムを探るような研究が現れたのは、コロナ禍を経たからでしょう。

誤解を恐れずに言えば、執筆グループや掲載雑誌、研究規模のインパクトは、そこまで大きくありません。しかし、この研究はThe New York Timesにも取り上げられ、多くの人の知るところになった、珍しい事例です。

■500mlのペットボトルを3秒上げ下げするだけでOK

まずは、どんな研究だったのか、簡単に紹介します。この研究に参加したのは39人の大学生でした。「肘(ひじ)の角度を固定して上腕に力を入れる(等尺性収縮)」「ダンベルを持ち上げるように肘を曲げていく(短縮性収縮)」「重いものをゆっくり下ろすように、負荷に逆らって肘を開いていく(伸張性収縮)」の3種類の動作を、マシンを使って全力で、「平日1日1回」「3秒間」「4週間」行いました。

その結果、伸張性収縮を続けた場合は平均11.5%、それ以外を続けても約4.5%ほど上腕二頭筋の筋力が向上した、という結果が得られたのです。

「○○収縮」と聞くと難しく感じられるかもしれませんが、例えば自宅の一角で、500mlのペットボトルを片手で持ち上げ、たった3秒、全力で重さに逆らって、ゆっくり下ろしていく(伸張性収縮)のと同じことです。

1日1回3秒からで効果がある
出典=『健康診断で「運動してますか?」と言われたら最初に読む本 1日3秒から始める、挫折しない20日間プログラム』(イラスト:安賀裕子)

これだけで、実際に効果が得られるなら、筋トレという行為への精神的なハードルは、ずいぶんと下がるのではないでしょうか。ジムに行く時間と気力がなくても、これなら今すぐやってはい終わり、です。

私は、前回記事〈メタボ健診の「腹囲測定」はアテにならない…そんな健康診断で「本当に注意するべき項目」を医療記者が解説する〉で、コストの低い習慣は身につきやすいと述べました。こうした最新の科学的な知識は、必要以上に大きく見積もったコストを引き下げてくれるのです。

■出力は高めても“筋肉量“が増加したわけではない

さて、地方の医療系大学の研究が世界的な話題になったことには、もう1つの要因があります。それが伸張性収縮の世界的な権威であり、この研究を指導したエディスコーワン大学教授の野坂和則(のさかかずのり)さんの存在です。

The New York Timesの記事の中では、この研究の“限界”も指摘されています。

まず、被験者は数十人の規模で、かつ若年者。研究結果が誰にでも当てはまるわけではありません。また、腕の筋肉についての研究であり、その他の筋肉が同じように変化するかはわかりません。

そして、重要なのは、この研究で“筋肉量”が増加したわけではない、ということ。

「体が小さい(筋肉量が少ない)のに力が強い(筋力が強い)人」を想像するとわかりやすいのですが、この研究では、実験前後の筋肉量の変化については検討されていません。つまり、この結果は、すでにある筋肉の出力を高めた一方で、筋肉の総量を増やしたわけではない可能性があります。一方、人が健康になるのを助けるのは、筋肉の量であることが知られています。

晴れた日に代々木公園でエクササイズをしている2人の先輩女性は、1人はストレッチで、もう一人は水を飲んでいます。
写真=iStock.com/xavierarnau
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/xavierarnau

■大事なのは「キツさ」よりも「続けやすさ」

ただし、です。力が強くなれば、例えば同じメニューで筋トレをするとき、主観的にはラクになることは明らかです。同じ筋トレをしてもキツくないのですから、筋トレを続けるハードルは下がります。また、別のメニューに取り組むモチベーションも上がるはずです。

野坂さんはThe New York Timesの取材に対し、今後は「3秒間の伸張性収縮を複数回、繰り返すことで、筋肉量と筋力が増加するかどうかを研究する予定」「このアプローチを脚や他の筋肉に適応する方法を模索している」と答えています。

野坂さんの言葉を借りれば、「少なくとも、何もしないより、1日1回3秒でも筋トレをした方が、間違いなくいい」と言えます。

「多くの人は筋トレをしていません」「非常に短いトレーニングから始めることは、そうした人たちが筋トレを始めるための効果的な方法かもしれない」

この研究結果が示すのは「始めさえすれば、続けやすくなる」という筋トレの特性。そして、筋トレは続ければ続けるほど効果が得られます。私はこうしたキツくない、つまり低強度=LI(Low Intensity)で短時間=ST(Short Time)のLISTトレーニングを、運動を習慣化させるものとしておすすめしています。

■筋トレは長時間だとむしろ寿命が縮む

逆に、最新の医学研究(※3)では「筋トレはむしろ長時間だと寿命が縮む」可能性が指摘されました。どうでしょう、みなさんの思い込みが揺らいできたのでは。

これは、東北大学大学院運動学分野講師の門間陽樹(もんまはるき)さんらが、2022年に発表したもの。あわせて、適度な筋トレによりあらゆる病気による死亡リスクが下がることもわかったのです。

まずは、どんな研究だったのか、簡単に紹介します。この研究は、国内外の研究論文1252本を集計・整理した(システマチックレビュー)もの。その中から信頼度の高い論文16本を選び、筋トレの時間と病気・死亡リスクとの関連を調べました(メタ解析)。

こうした、いわば「研究の研究」は、医学において信頼度が高いものとされます。

筋トレをまったく実施していないグループと比べて、筋トレを実施しているグループでは、死亡、心血管疾患、あらゆるがん、糖尿病のリスクが10~17%、低いことが示されました。また、時間についてみると、死亡、心血管疾患、あらゆるがんのリスクは、週に約30~60分の筋トレを実施した場合に最も低くなりました。そして逆に、週に130~140分を超えると、これらのリスクが上昇に転じたのです。

■健康のためなら長くても10分程度で十分

「筋トレが長時間に及ぶと、むしろリスクが上がる」というのは、まさに従来の筋トレ観へのカウンターです。ただし糖尿病だけは、時間が長くなってもリスクは減り続けました。門間さんらは「筋トレの長期的な健康増進効果が示された一方、やり過ぎるとかえって心血管疾患やがん、死亡に対する健康効果が得られなくなってしまう可能性が示唆された」としています。

朽木誠一郎『健康診断で「運動してますか?」と言われたら最初に読む本 1日3秒から始める、挫折しない20日間プログラム』(KADOKAWA)
朽木誠一郎『健康診断で「運動してますか?」と言われたら最初に読む本 1日3秒から始める、挫折しない20日間プログラム』(KADOKAWA)

「筋トレのやり過ぎは危険」とSNSでも話題になり、見かけたことがある人もいるかもしれません。ここで注目したいのは、もっともリスクの低くなった、「週に約30~60分」という時間です。運動が週に3回だったとして、1回分10~20分の筋トレで病気のリスクが下がり、寿命が延びた可能性があります。「1日1回3秒」は短すぎると感じた方がいるかもしれませんが、健康のための筋トレは長くても10分程度で十分なのです。

ただし、あらゆる研究がそうであるように、この研究にも限界があります。絞り込まれた論文16本の研究対象には、高血圧などの基礎疾患を抱えた人も含まれます。健康な人と基礎疾患のある人とで結果に違いがあるかは、この研究結果からはわかりません。また、65歳以上・未満など、年齢による違いもわかりません。

ただし、ここでも結論は同じで、病気や死亡リスクを下げるために「筋トレはやらないよりやった方がいい」と門間さんも結論づけています。「ただ、ガツガツとやり過ぎることには注意した方がいいかもしれない」ともコメントしています。

※1:『ココロの体力測定2021』一般社団法人日本リカバリー協会らが2021年に実施。インターネットアンケート方式で、全国の男女10万人(男女各5万人)を対象にした。
※2:Sato, S., et al., Effect of daily 3-s maximum voluntary isometric, concentric, or eccentric contraction on elbow flexor strength - Scand J Med Sci Sports. 2022 May;32(5):833-843.
新潟医療福祉大・中村、佐藤らにより2022年に発表された研究。学生39人を対象に、1日1回3秒間のレジスタンス運動を4週間継続することで、上腕二頭筋の筋力が向上することを明らかにした。
※3:11 Momma, H., et al., Muscle-strengthening activities are associated with lower risk and mortality in major non-communicable diseases: a systematic review and meta-analysis of cohort studies - Br J Sports Med. 2022 Jul;56(13):755-763.
東北大・門間らにより2022年に発表された研究。国内外の研究論文1252本をシステマチックレビューし、その中から16本をメタ解析することで、筋トレの時間と病気・死亡リスクとの関連を明らかにした。

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朽木 誠一郎(くちき・せいいちろう)
ライター・編集者
地方の国立大学医学部医学科を卒業後、新卒でメディア運営企業に入社。その後、編集プロダクション・有限会社ノオトで基礎からライティング・編集を学び直し、BuzzFeed Japan Medicalの立ち上げに従事。現在は大手報道機関に勤務しながら、個人としても雑誌『Mac Fan』や『Domani』公式サイトなどで執筆中。主著に『健康を食い物にするメディアたち』(ディスカヴァー携書)。近著に『医療記者のダイエット 最新科学を武器に40キロやせた』、『健康診断で「運動してますか?」と言われたら最初に読む本 1日3秒から始める、挫折しない20日間プログラム』(KADOKAWA)がある。

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(ライター・編集者 朽木 誠一郎)

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