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以前なら即アウトの人材にもホイホイ内定…マザコンや自己チュー学生さえチヤホヤする企業の言い分

プレジデントオンライン / 2023年6月5日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

2023年の新卒の就職戦線も終盤。売り手市場の中、よりよい人材を獲得すべく採用担当者は必死だ。人事ジャーナリストの溝上憲文さんは「多様性こそがイノベーションを引き起こすと言われる今、就活生がマザコンだから、協調性がないから、自己チューだから、と人間性に問題があることを理由にして受け入れられない企業の将来は逆に危うい」という――。

■ぶしつけでマナー違反の就活生も落とさない企業の論理

就活戦線も早くも終盤といってもよいかもしれない。政府が決めた就活ルールでは6月1日から選考開始のはずだが、すでに5月1日時点の就職内定率は前年比6.7ポイント増の65.1%。関東地区に至っては71.6%で、前年比11.3ポイント増だ(リクルート調査)。

若者人口の減少や人手不足を背景にそれだけ企業が採用に必死になっているということだろう。そのせいか 最近の学生の中にはマナーがなっていない者や、企業があまり聞かれたくない質問を平気する者も珍しくないが、受けて立つ人事部は嫌な顔をせずに対応するなど気を使うことも多い。

昔以上にコンプライアンスを重視することになったことに加え、ちょっとでも学生を不快な気分にさせたら、SNSで拡散されて会社の評判や信用を傷つける、いわゆるレピュテーションリスクを恐れていることもある。

たとえば、一時期に横行した学生いじめの「オワハラ」(就活終われハラスメント)もその1つだ。

内定を出すから他社の面接を受けるなと企業が圧力をかけることだが、2015年に経団連が加盟企業に採用・選考時期を8月に後ろ倒しにしたことで、その前に内定を出す企業が内定者を確保するためにオワハラが横行した。

当時、IT系の創業経営者の中には「選考の過程でうちを理解したんでしょ。自分の人生なのに何で決められないのか」と、内定受諾を強要する人もいた。

2015年7月の文部科学省の調査では5.9%の学生が被害に遭ったと答えるなど世間の批判も強まり、多くの企業はオワハラにあたる発言をしないように指導した。

しかし、今もなくなっていないようだ。

政府の「2024年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請等」では、「就職をしたいという学生の弱みに付け込んだ、学生の職業選択の自由を妨げる行為(いわゆる「オワハラ」)が確認されています」とし、「正式な内定前に他社への就職活動の終了を迫ったり、誓約書等を要求したりすること……」を行わないようにと要請している。

これを見るとオワハラは必ずしも発言だけではない。「誓約書」を書かせることも含まれるという。実は公式の選考解禁日の6月1日に内々定を約束されている学生を一堂に集めて、“内々定式”を実施している大手企業も少なくないだろう。

その際に「誓約書」や「内定承諾書」を書かせる企業もある。ただし「貴社に入社します」とサインしても、法的拘束力はないが、まだ就活を続けたい学生にとっては不快な思いを抱くかもしれない。政府はそれも「職業選択の自由を妨げる行為」(オワハラ)だとしている。

■昔なら即アウトだった学生も今では許容される

いくら企業が人手不足で新卒を採用したいと思っても、もちろん新卒なら誰でもよいというわけではない。自社の人材像に合致する優秀な学生を採るために、面接で厳格に見極めようとしている。

しかし、昔なら即アウトだった学生も今では許容されていることもある。

例えば家族に関連する事柄だ。10年前はマザコンを嫌う採用担当者も少なくなかった。精密機械メーカーの人事担当者はこう言っていた。

「両親のことを『うちのお父さん、お母さん』と呼ぶ学生がいるが、年齢が上の面接官はちょっと引っかかる人もいる。親離れしていないのに、入社して大丈夫かなと思ってしまう。とくに気になるのは、緊急連絡先として母親の名前を書く学生が多いこと。通常は世帯主である父親の名前を書きそうなものだが、別に離婚しているわけではない。『お父さんは仕事が忙しくて連絡が取りづらいのでお母さんの名前にしました』と言う。別に悪いとは思わないが、組織に入ったときに微妙な軋轢が生まれたときにストレスに耐えられるのかと思い、落とす採用担当者もいる」

精神的に自立してない人材などいらない、ヨソへ行ってくれ。そんなスタンスだったが、これも今は昔。近年は親に内定を承諾することを確認する「オヤカク」を行う企業は決して珍しくない。

やわらかい表情で面接する二人の面接官
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

学生の会社選びに親が積極的に関与する“親子就活”が当たり前の風景になっており、会社説明会に親子同伴で参加したり、親御さん向けの説明会を実施したりする企業もある。企業もそこまでしないと“親ブロック”で内定辞退されることを恐れている。

マザコンどころか、現在の就活生とその親の関係は、一心同体。企業はそのような認識にならざるをえないのだ。

実際に親の影響力は大きい。昨年、東京大学工学部のある建築系大学院生が上場企業のイベント会社の最終役員面接に進んだ。東大生が本当にうちに入る気があるのか半信半疑だった役員が「あなたが行くべきなのは大手ゼネコンなんじゃないの。どうしてうちなの」と嫌みな質問をしても「御社の仕事が好きです、ぜひ入りたい」と熱心に力説するので、その場で内々定を出した。

終了後、役員は「彼は8割の確率でうちにくるよ」と自信たっぷりだったそうだ。ところがふたを開けたら内定辞退の連絡。その理由について人事部長は「母親にもっと良い会社に行きなさいと言われ、それでもうちに行きたいと強く言い張ったら、最後には泣かれてしまいましたと言っていた」と語る。

同社だけではない。一部上場のインターネットサービス業の人事部長はここ数年の傾向として次のような事例を語った。

「選考過程ではネット業界で活躍したいという入社意欲満々だったのに、結果的に地元の信用金庫などの企業に行くことにしました、と答える学生が毎年3~4人いる。自分で決めたのですかと聞くと、母親に言われたからと答える」

■「どれだけ子どもに投資してきたと思っているんだ」

とりわけ就活で母親の存在は絶大だ。企業がオヤカクにこだわるのもよくわかる。母親が会社選びに介入し、子も逆らえず母親に依存する母子一体となった“パラサイト就活”の背景にはもちろん少子化の影響もある。

食品会社の採用担当者もこう語る。

「学生を見ていて優秀な学生ほど親に依存している感じだ。その理由について有名大学のキャリアセンターの担当者に聞いたところ、『どれだけ子どもに投資してきたと思っているんですか。小さい時から塾に通わせて多大な費用をかけて大学まで行かせた。名のある企業に就職してほしいというのは当然ですよ』と言われた。関西の有名大学に呼ばれて企業説明会に出かけた時も、学生の後ろに親がズラリと立っていたのに驚いたが、今では驚かなくなった」

親にとって、大事な息子・娘は、いわば20年間超に及ぶ教育投資の成果物であり、就活(大企業への内定)はその仕上げの作業ということなのだろう。

書類を胸にしっかりと抱えているリクルートスーツの女性
写真=iStock.com/byryo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

以前は、内定にほど遠い人材であっても今はチャンスがあるケースはほかにもある。

昔はどんなに優秀でも協調性のない自己チュータイプは特に大企業では嫌われたものだ。例えば2015年当時、消費財メーカーの人事部長はこう語っていた。

「ベンチャー企業は別にして、日本の大企業では人間としては最低でもイノベーターの可能性を秘めた人材を受容できる風土のある会社はない。人間としては最低だが、マーケターとしては天才的な片鱗を持つ人を生かすような仕組みを人工的に作らないと無理だろう。せっかく採用しても、教育担当や組織運営の担当者に渡したとたんにおかしくなってしまう。どうしようもないやつだというレッテルを貼られて各部門をたらい回しにされて、結局辞めることになる」

しかし8年後の今、デジタル人材やデータサイエンティストなどのIT人材はどこの企業でも喉から手が出るほど欲しい。そうした人材の中には、協調性に欠ける部分や世間の常識が通用しない人間性に問題がある者もいるが、それでも内定を出す企業が増えている。電機メーカーの人事担当者はこう語る。

「以前は何か光るものを持っている異能・異才タイプは、組織になじめないし、浮いてしまうということで敬遠されていたのは確かだ。採用しても入社後に辞めてしまうこともあった。会社の問題だが、受け入れる組織ができていないために弾き出されてしまうケースがあった。でも、人間的にはとんでもなくふざけたやつでも、デジタル人材など特定の能力に優れた人がイノベーションを起こしてくれるという考え方に変わった。ジョブ型人事制度を導入し、専門分野で活躍できるコースも設けており、そういう人材を積極的に採用している」

デジタル化やビジネスモデルの変化のスピードが早く、10年先のビジネスの行方も読めない時代だ。多様性こそがイノベーションを引き起こすと言われる今、マザコンだから、協調性がないから、自己チューだから、と人間性に問題があることを理由にして受け入れられないようでは、逆に会社の将来は危ういといえる。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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